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飲食倒産地獄真っただ中の船出…「びっくりドンキー」新業態はファンを掴めるか

プレジデントオンライン / 2020年8月18日 11時15分

撮影=プレジデント編集部

■フルカスタマイズメニューとスタイリッシュなデザイン

2020年6月、びっくりドンキーを運営する株式会社アレフが新業態“Dishers”(ディッシャーズ)をオープン。その特徴は、顧客自身でタブレット端末を使い、一つのお皿を自由にフルカスタマイズできることです。ボリューム重視の男性から健康志向の女性まで幅広く楽しむことができます。

店内オペレーションは、人との接触を最小限に抑えたコロナ時代にマッチしたものとなっており、「さっと入って、さっと出る」ことができる設計です。各席にはタブレット端末が備え付けされており、ハンバーグの種類、トッピング、ソース、ライス、サラダを自由に組み合わせることができ、具材の量、栄養を顧客自身でカスタマイズ。食べ終わった後の支払いは、セルフレジ決済で業務オペレーションの省人化を実現しています。

店舗デザインも、従来のびっくりドンキーとは一線を画したオシャレな雰囲気となっています。イエローを基調とした鮮やかな店内には、カウンター席とテーブル席が配置。ハンバーグの他にもカフェのようなドリンクメニューやモーニングメニューも用意し、多様な利用シーンを想定した設計となっています。ハンバーグセットは780円からと、安価な価格も、通勤通学の帰りなどに気軽に立ち寄ってもらうことを意識したものでしょう。

しかし、コロナ禍で外食産業全体が厳しい状況となっている現在、なぜびっくりドンキーが、こうした新業態にチャレンジを行っているのか、その背景にはファミレス業界が置かれた厳しい市場環境があります。

■コロナ以前から厳しいファミレス市場

コロナ禍で深刻な影響を受けている外食産業ですが、それ以前からファミレス業界を取り巻く環境は徐々に厳しいものとなっています。

日本フードサービス協会によると、ファミリーレストランの店舗数は景気低迷の影響で2009年以降大きく減少。2012年に入って徐々に回復しますが、2016年以降はほぼ横ばいで推移しており、成長が鈍化している状況です。

食堂・レストランの市場規模推移
出典:日本フードサービス協会

その背景には、コンビニエンスストアやスーパーの総菜、加工済食品などの中食産業の拡大、世帯構成の変化があります。ファミリーレストランは、外食産業の中でも、比較的ファミリー層を主要顧客としていますが、単独世帯と夫婦のみの世帯が80年代後半以降急速に増加。特に児童がいる世帯が著しく減少しています(厚生労働省「国民生活基礎調査」)。

ファミレス業界にさらに追い打ちとなっているのが今回のコロナ禍です。非常事態宣言解除後の6月、ファミレス大手の客数は、前年同期比で約3割減となっており、閉店も相次いでいます。例えば、ロイヤルホストを展開するロイヤルホールディングスは70店、九州を中心に展開するジョイフルでは200店規模の閉店計画を発表。外出自粛生活により、外食から中食・内食へ消費転換が進んでいます。

■びっくりドンキーでもターゲット顧客が減少

びっくりドンキーは、大型駐車場を備えたロードサイドに多く出店、主に子供のいるファミリー層をターゲットに展開しています。びっくりドンキーは、おいしさに強いこだわりを持っており、厳しい自社基準を満たした契約農家・生産者からのみ食材を調達、生産工程から提供に至るまで徹底的な品質管理を行っています。

また、ファミリー層をターゲットにしたイベント、店舗作りにも注力しています。例えば、ロウソクの灯だけで家族とゆっくり食事するスローナイトといったイベントの開催、店内には子供向け絵本を設置し、家族で楽しめる店内空間を提供しています。その結果、2018年度日本版顧客満足度指数(JCSI)の飲食カテゴリでは、他の大手企業を抑えて顧客満足度で3位を獲得しています。

しかしながら、その店舗数は、2015年の335店をピークに微減をはじめ、2019年3月時点で329店となっています。びっくりドンキーのターゲットである18歳未満の子供がいるファミリー世帯は、1990年代には1500万世帯ありましたが、2018年時点で1127万世帯へ減少。その結果、業績も2019年3月期の売り上げ約380億円に対して、最終損益は約14億円のマイナスとなっています。

びっくりドンキー店舗数推移
出典:株式会社アレフHP

このように成長に苦慮する市場環境の中、ターゲットをこれまでのファミリー層から、新たな顧客層へシフトした新たな施策がディッシャーズです。

■ファストカジュアルで高単価×高回転率

ファミレス市場と対照的に、好調な業態がファストフード市場です。消費税増税などを理由とした消費低迷下において、他の業態の成長率が鈍化している中、ファストフードは、103.4%の成長で外食産業全体の市場規模を底上げ。コロナ禍においても、テイクアウト需要に対応、ファストフードは売り上げの減少を1割程度に抑えています。従って、今後の外食市場において、ファストフードにおける顧客層のニーズをいかに取り込めるかが、多店舗展開を推進するにあたり重要となります。

そこで、新業態ディッシャーズは、ファミレスとファストフードの中間に位置するファストカジュアルを意識した戦略となっています。ファストカジュアルは、オーダーから商品提供までは素早くファストフードに近いものとなっていますが、食材品質や価格はレストランに近く、客単価が高めなことが特徴です。この概念は20年以上前からあり、新しいものではありませんが、肥満が社会問題となっていたアメリカでは、ファストフードより少し高くても、安心して食べられるヘルシーな食事へのニーズが高まり、注目されるようになった食文化です。日本においても、フレッシュネスバーガーやサラダストップ!などがファストカジュアルに区分されています。

ディッシャーズにおいては、ファストを追求するためさまざまな施策が織り込まれています。例えば、注文は各席のタブレット端末から行えるため、注文待ちの時間はありません。配膳もあえてセルフサービスではなく、店員が運んで来てくれる方式を採用、カウンター前での待ち時間を無くし、スピーディな料理提供を可能としています。会計もキャッシュレス対応のセルフレジでスピーディに完結します。

一方で、価格は従来のびっくりドンキーとほぼ同水準に設定されています。レギュラーハンバーグディッシュは、びっくりドンキー新宿靖国通り店で(税抜)738円、ディッシャーズ新宿住友ビル店では(税抜)780円となっています。ハンバーガーなどの一般的なファストフードよりも少し割高ですが、ファミレスで提供している高品質の商品と同じものを提供しています。

■女性客の取り込みが今後のカギ

ディッシャーズは、びっくりドンキーで培ったブランド力・品質を武器としつつ、ファストフードの顧客層取り込みにチャレンジした新業態と言えます。これまでのびっくりドンキーは、都市部にはあまり出店していませんでしたが、ディッシャーズは新宿・江の島のオフィスビル街や複合商業施設内に出店、ビジネスマンや若者をターゲットとしています。省スペース・省人化によるコンパクトな店舗は、都市部への進出を可能とし、既存のびっくりドンキーと競合することなくビジネスの拡大が可能です。

日本におけるファストフードは、ハンバーガーに限らず、牛丼チェーン、ラーメンチェーンなどさまざまありますが、女性が気軽に一人で入りやすい業態はそれほど多くはありません。従って、今後のディッシャーズの成否は、サラダなど健康志向を強調したメニュー、一人でも気軽に入れる店舗の雰囲気を、いかに女性に訴求できるかがポイントになるのではないでしょうか。

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鳥山 慶(とりやま・けい)
鳥山総合公認会計士事務所(KT Total A&C)代表
1985年生まれ。公認会計士、行政書士。慶應義塾大学卒業。Big4(大手会計士事務所)で、法定監査、IPO支援、ターンアラウンド、事業承継等を経験。その後、外資系戦略コンサルティング会社でM&A戦略、費用削減戦略、新規事業立案等に従事。

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(鳥山総合公認会計士事務所(KT Total A&C)代表 鳥山 慶)

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