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コロナで休校になった自粛期間、10代女学生の妊娠相談が激増! その根本原因は

プレジデントオンライン / 2020年8月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tantake

■「親が外で働いている時間帯に自宅で性交渉をした」

新型コロナウイルスの影響で各地で学校が休校になった期間、「自身が妊娠しているのではないか」という10代からの相談が増えたという。若者の性の問題に取り組むNPO法人ピルコンに寄せられた「妊娠・避妊に関する10代からの相談件数」は、3月には40件、4月には40件、5月には30件、6月には31件と、2月以前の約2倍に増加した。

「学校が休校になり、外出自粛で外にも遊びに行けず、親が外で働いている時間帯に自宅で性交渉をしたというケースが見受けられました。また、学校では年度末の3月に性教育の講演会が行われることが多いのですが、コロナウイルスでキャンセルになったということも一因だと思います。夏休みシーズンに入ったことによって、不安に悩まされる10代が引き続き出てくるのではないでしょうか」(ピルコン理事長・染矢明日香さん)

妊娠不安に関する相談のうち、適切な避妊をしなかったとわかるケースは3割弱。コンドームなどで避妊をしたが、妊娠が不安と訴えるケースが3割あり、「オーラルセックスのみ」「下着を身につけたまま抱き合った」といった、性器同士の接触がない状況での相談も2割弱あるのだという。「それだけ日本で性教育が行きわたっていないという証拠です」と染矢さんは話す。

■10代で妊娠した際に約6割が中絶を選択

また、災害時には社会不安によって女性や子どもへの暴力が増加傾向になるというデータもある。例えば「彼氏に体を求められ、断れずに性交渉をした」「彼氏がコンドームを付けてくれない」「父親や兄弟など同居家族から性暴力を受けた」という事例もあるそうだ。「若者の性の乱れだ、不謹慎だ」と批判する大人もいるが、自宅が安全ではない子どももいる。一瞬でも安心したいという心理から、恋人に体を預けたくなる心理は責められるものではない。自分がされている・していることが性暴力だと自覚できていない場合もある。このように、コロナ禍で10代の妊娠・中絶相談が増えたことにはさまざまな要因が絡み合っているのだ。

平成29年度に厚生労働省が発表したデータによると、10代の出産は約1万件に対して中絶は約1万4000件で、10代で妊娠した際に約6割が中絶を選択している。全年齢の中絶選択率が15%であることに比べて圧倒的に高い数字だ。

「中絶=悪」という単純な話ではない。染矢さんによると、10代で出産する子も約4割いるが、学業と妊娠継続・育児を両立できず学校の中退を余儀なくされたり、パートナーとの生活に不安を覚えて離婚し貧困に陥るケースも少なくないという。孤立し、追い詰められて子どもを虐待してしまう場合もある。

■義務教育で性交渉について触れない学校が多い

なぜ10代の妊娠・中絶が起こるのか。それは日本の不十分な性教育に問題がある。

文部科学省による学習指導要領で、保健体育の授業で最低限教えるべき性教育の内容が定められている。小学校4年時に第二次性徴や月経・精通、中学校1年次に思春期の体の変化や生殖機能の成熟、中学校3年時にエイズをはじめとした性感染症の予防について教えることになっている。ただ、「小・中学校の時点で性交渉について深く取り扱うのは不適切だ」という論調があり、学習指導要領には「受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする」と記載されている。そのため性交渉については触れない学校が多い。

2018年に東京都の公立中学校で、中学3年生に避妊や中絶について踏み込んで教えたという事例があり都議会で問題視された。だが、正しい知識に基づく性教育が必要だという世論の高まりに応える形で、2019年3月に改訂された東京都教育委員会作成の「性教育の手引~中学校編~」では、文部科学省の指定した学習指導要領を超える内容については保護者の理解を得られた場合に限るなど、一定の条件のもと容認されるという方向性に変わった。保守的だった性教育が一歩前進したといえるが、性教育の実施は学校の裁量に任され、保護者の理解が得られなかった生徒との教育格差につながるという問題がある。

■「寝た子を起こすな」という理屈で十分な性教育が阻まれている

「性教育に消極的な人たちには、『寝た子を起こすな』という意見が多いです。性教育をすることによって、それまで性に関心がなかった子どもが目覚めてしまうということです。しかし、国際的な性教育の指針となっているユネスコ等による『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』の中では、幼い頃から段階に応じた性教育を行うことによってむしろ子ども・若者の性行動が慎重化し、望まない妊娠のリスクが減ったと報告されています。日本は先進国にもかかわらず、この国際指針に準じた性教育が行われていないということに関して、世界で大きく後れをとってしまっている状況です」(染矢さん)

そもそも、たとえ性に興味がなかったとしてもインターネットには性情報があふれている。ピルコンの調査によると、今の34歳以下の人が初めて「セックス」という言葉を知った年齢は「12歳未満」が65%なのだそうだ。

「小学生が初めて目にする性情報は、インターネットにある大人向けの偏ったものではなく、安心できる科学的な情報であるべきだと思います。相談メールに『AVで膣外射精していたから、それで避妊できるんじゃないの?』と返信をくれた子もいます。科学や人権に基づく性教育を受ける前にフィクションの性行為に触れてしまえば、それを実際にしてよいと勘違いする子がいるのも無理のない話です」と染矢さんは話す。

■コンドーム装着でも一般的な使用法では1年間で18%程度が失敗する

避妊具としてよく用いられるコンドームは、一般的な使用法では年間避妊失敗率は18%程度と言われている。染矢さんによると、より効果的だと言われているのが低用量ピルとコンドームの併用だ。また、日本ではあまり浸透していないが、出産経験のある女性はIUD(子宮内避妊用具)を医師の手で子宮内に取り付ければ数年にわたって避妊ができるという。

「初めて日本で認可されたときの『高用量ピル』は、ホルモン量が多く強い副作用がありました。このときのイメージを引きずり、一部ではピルに良くない印象を抱いている方もいらっしゃるかもしれませんが、1999年、欧米に30年遅れて副作用の少ない低用量ピルが日本でも認可されました。そして、避妊目的だけでなく月経不順や生理痛緩和の治療目的でも保険適用でよく利用されるようになりました。さらに2010年には超低用量ピルも認可され、幅広い選択が可能になっています。一方、学生にはまだ価格的なハードルは高く、また世界の多くの国では薬局で販売されている緊急避妊薬を日本で手に入れるには医師の診療と処方箋が必要で高額など、未だ課題は多くあります」(染矢さん)

最後に染矢さんはこう締めくくる。「予期せぬ妊娠は誰にでも起こりうるもの。身近な大人は、打ち明けられたときにその子の不安な気持ちをしっかり受け止め、ベストな選択を一緒に考えてあげることが大切です。また、中絶を選択する場合は妊娠22週未満というリミットがあります。早期に相談してもらえるよう、親は日頃から妊娠や中絶に対して『許さない』となどとする抑圧的な言動は避けたほうがよいでしょう。『性行為は双方の安心や意思が尊重されて初めて素晴らしい経験になりうるもの』ということを大人から教えてあげる機会を、コロナウイルスの影響が続くこの夏休みにぜひ作ってほしいです」

(ライター 万亀 すぱえ)

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