即答できて当たり前「謙虚、ハングリー、スマート」会社員に最重要の能力はどれか
プレジデントオンライン / 2020年8月27日 9時15分
※本稿は、パトリック・レンシオーニ『理想のチームプレーヤー 成功する組織のメンバーに欠かせない要素を知り、成長・採用・育成に活かす方法』(樋口武志[訳]/サンガ)の一部を再編集したものです。
■成功のために必要な資質「チームプレーヤーになること」
ビジネスの世界において――さらに言えば、人生において――成功するために育てるべき大切な資質のリストを作れと言われたら、私は「チームプレーヤーになること」をトップに挙げる。
他人とうまく仕事をし、グループの活動に価値を加える能力は、この流動的な現代社会でかつてなく重要なものになっている。この力を抜きに、職場や、家庭や、社会生活で成功をおさめている人はほとんどいない。
この意見には多くの人が賛成してくれるだろう。だからこそ、優れたチームプレーヤーがなぜか非常に少ないのは少し驚きだ。おそらく問題は、チームプレーヤーになるのに必要な要素を言語化できていないことだ。それゆえ「チームプレーヤー」という概念がどこか漠然とした、不確かなものとなっている。
「チームワーク」についても状況は似ていて、実践的な定義に目を向けるよりも口先だけで重要性が語られることの方が多い。自著『あなたのチームは、機能してますか?』(翔泳社)のなかで、私は真のチームワークに求められる行動を明確かつ具体的に説明した。
その行動とは、弱みを見せて信頼を築き、健全に衝突し合い、進んで責任感を持ち、互いの説明責任を追求し、結果を重視することだ。さいわいにも、十分なコーチングと、忍耐力と、時間があれば、多くの人がこうした行動を習得することができる。
■3つの美徳はこうして見つかった
しかしながら、周りよりも優れたチームプレーヤーで、5つの行動をうまく実践できる人がいることも認めざるを得ない。そういう人たちは生まれつきではなく、人生や、仕事や、熱心な鍛錬を通して、理想のチームプレーヤーに必要な3つの美徳を身に付けてきたのだ。
その3つの美徳とは、謙虚であること、ハングリーであること、スマートであることだ。
さかのぼること1997年、チームのメンバーと私は経営コンサルティング会社「テーブル・グループ」を設立した。前職で私が率いていた部門のメンバーたちだったので、会社の核となる価値観は簡単に決まった。それが「謙虚、ハングリー、スマート」だ。
前職の部門を導いてくれた指針であり、新しい会社でも引き継ぎたいと考えたのだった。私たちはこれらの指針を体現した人のみを雇い、この指針に抵触するような社内外の決断は避けるよう尽力した。
そのコンサルティング事業では、リーダーたちがより良いチームを築けるよう力を貸しただけでなく、リーダーたちが自社の事業計画や、経営戦略、役割、責任、会議内容、そして本書の文脈において最も重要な、自社の価値観を明確にする手助けもしてきた。
価値観について話し合っていると、クライアントは必ずと言っていいほどテーブル・グループの価値観についても尋ねてきた。
■企業理念を顧客に真似される奇病な現象
私たちは「謙虚、ハングリー、スマート」という価値観を表立って宣伝したことはなかった。会社のウェブサイトにも、どんな関連資料にも載せていなかった。自分たちが理解し、それに忠実でありさえすれば、それ以外の人に理解してもらう必要はないと考えていたのだ。
とはいえ、クライアントに聞かれたら、答えないわけにはいかない。それで「謙虚、ハングリー、スマート」について説明すると、奇妙なことが起きるのだった。自分たちもその価値観を取り入れたいというのだ。
もちろん、すぐに反論して、組織の価値観というのは他社からコピーしたり拝借したりできるものではないと説明する。その組織ならではの歴史と文化を真に反映したものであるべきだと。
クライアントが私たちの価値観に関心を持つのは急場しのぎだとか、怠慢だとすら思っていた――最初に耳に入ってきた良さそうな言葉に飛びついて、価値観の模索はこれでおしまいと宣言したいのだろうと思っていた。
しかし、やがてわかったのは、私たちがクライアントの気持ちを誤解していたということ、そしてクライアントが謙虚、ハングリー、スマートのモデルを欲するのには論理的な理由があるということだった。
■「謙虚、ハングリー、スマート」に含まれる普遍的な価値
まず、私たちの会社のカルチャーは何よりチームワークを大切にするものだった。クライアントとの作業においても、社内においてもだ。私たちはいつも、言ったことは徹底して実践してきた。さらに、私たちと接点を持つ企業は実質的にすべてチームワークに関心を持っていた。
わが社が『あなたのチームは、機能してますか?』の本でよく知られていたことを考えると、それは自然なことだった。だから、当時は気づかなかったけれども、わが社の採用基準や核となる価値観を、まさにチームプレーヤーの定義にかなうものだと考えたとしても、それほど驚きではなかったのである。
それに気づいてからは、他の組織にとって謙虚、ハングリー、スマートがどんな意味を持つかを改めて考え始めた。それらの言葉は会社の核となる価値観に据える必要はなかったが、チームワークを中心にして動くことを目指すどんな会社にとっても、採用および育成における重要な指針となるものだった。
■謙虚、ハングリー、スマート――いちばん重要な要素はどれか
ジム・コリンズの古典的名著『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』(日経BP社)では、企業が成功するにあたって「適切な人をバスに乗せる」ことの重要性が説かれている。
会社のカルチャーに合う社員を雇って確保することのたとえだ。これはとてもシンプルかつ腑に落ちる考え方だが、なぜかしばしば見過ごされており、多くのリーダーが主に能力や実務のスキルをもとに採用をおこなっている。
本気でチームワークを自社のカルチャーにしようと試みる組織にとって、その「適切な人」とは、謙虚、ハングリー、スマートの3つの美徳を持った人だ。これら3つを「美徳」と呼んでいるのは、その言葉が「資質」や「美点」といった言葉に近いだけでなく、高潔さやモラルといったニュアンスも含むからだ。
謙虚さは、3つのうちで最も重要であり、まさに美しい徳である。ハングリーさと対人関係におけるスマートさは、どちらかと言えば「資質」や「美点」のカテゴリーに入る。そんなわけで、美徳という言葉がこの3つをくくるには適している。
もちろん、謙虚でハングリーでスマートなチームメンバーを見分けて育てたり、自分自身がそれを実践したりするためには、まずこれらの一見シンプルな言葉の意味を知っておく必要がある。
チームワークという文脈で言えば、謙虚さは基本的に想像している意味に近い。優れたチームプレーヤーには、過剰なエゴや上下関係のこだわりがない。周りの貢献はすぐに気づいて称え、自分へ注目を集めることには腰が重い。成果は分かち合い、自分よりチームを強調し、個人ではなく全体の成功と考える。そのため、謙虚さはチームプレーヤーにとって欠かせない最大の要素であることに驚きはない。
ハングリーな人は、常にいま以上を求めている。もっとたくさんのことをしたい。もっと学びたい。もっと責任を負いたい。ハングリーな人は、もっと働けとマネージャーに急せき立てられる必要がない。自分のなかに動機があり、勤勉だからだ。常に次のステップや次の機会のことを考えている。そして怠け者に見られる可能性を嫌う。
3つの美徳のうち、一番説明が必要な美徳だ。言葉から連想される意味とは異なるからである。これは、知的能力を意味するものではない。チームという文脈において、「スマート」という言葉はシンプルに、常識的に人と接することを指す。相手に気を払って適切に振る舞うためのあらゆる能力が含まれている。スマートな人はグループに起きている事態を把握し、最も効果的な方法で周りと接する方法を知っている。良い問いかけをし、相手の発言に耳を傾け、会話にしっかりと集中したままでいる。
■最も優れているのは「謙虚さ」の美徳
この3つの美徳を見て、なんだかありきたりだと思っているなら、私も大いに同感だ。個別に見ると、その1つひとつの美徳を「目新しく新鮮なものだ」と提示することはためらわれる。
しかし「謙虚、ハングリー、スマート」のモデルを強力で独自のものにしているのは、それぞれの要素ではなく、むしろこの「3つを必要とする」という点だ。1つでも要素が欠けると、チームワークの達成はぐっと難しいものとなり、不可能になることさえある。
また、20年以上取り組むうちに、謙虚、ハングリー、スマートというモデルは職場の外にも適用可能だと思うようになった。謙虚で、ハングリーで、スマートな配偶者、親、友人、そして隣人は、有能で、刺激がもらえ、魅力的な人物だろう――人を惹きつけ、人により良く貢献する。
しかし他の2つに比べて、謙虚さの美徳が際立っていることは認めざるを得ない。事実、あらゆる美徳のなかで、最も優れたものであり、聖書ではすべての罪の根源とされる高慢の対極をなすものだ。
本書の読者が、この本から何かを得て、人生に活かしてくれることを願う。
樋口 武志(ひぐち・たけし)
1985年、福岡県生まれ。訳書に『insight(インサイト)』『異文化理解力』『優れたリーダーは、なぜ「立ち止まる」のか』(以上、英治出版)、『無敗の王者 評伝ロッキー・マルシアノ』(早川書房)、共訳書に『ノー・ディレクション・ホーム―ボブ・ディランの日々と音楽』(ポプラ社)、字幕翻訳に『ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影〈シャドウズ〉』などがある。
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経営チームの強化育成と組織の健全性を専門とする経営コンサルティング会社「テーブル・グループ」の創業者および社長。コンサルタントや講演を通して、フォーチュン500に名を連ねる企業から、ITベンチャー、大学、非営利組織に至るまで数々の経営陣やチームと仕事をしてきた。著書にはベストセラーになった『あなたのチームは、機能してますか?』や『ザ・アドバンテージ―なぜあの会社はブレないのか?』(以上、翔泳社)などがある。写真=Gina Marie Casey
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(経営コンサルタント パトリック・レンシオーニ)
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