参加者の多くが「内職」をしている会議は、なぜなくならないのか
プレジデントオンライン / 2020年9月2日 9時15分
※本稿は、沢渡あまね『職場の科学』(文藝春秋)の一部を再編集したものです。
■21人以上の会議は帰属意識を低下させる
「21人以上の会議」に参加する機会が多い人は帰属意識が低くなる。加えて、イノベーションは起こりにくく、組織力も弱いと感じているというデータがあります(図表1)。各人がどの会議に参加したのかや、その会議の参加人数は自動的に算出されます。
この調査は「あなたはこの会社にあと何年いたいですか?」「同じ待遇で誘われたら、よその会社へ行きますか?」などさまざまなアンケート結果を踏まえ、分析された内容です。
ちなみに、日本マイクロソフトはグローバルのマイクロソフトの平均に比べ、会議にかけている時間が17%多く、参加人数も11%多いとのデータがあります。そのほかにも1週間におけるミーティングにかける時間が長い組織ほど、会議中の内職(マルチタスク)が多いというデータもあるようです(図表2)。直感的になるほどと思える内容ですが、データ化されるとムダな会議を減らす必要性が理解できますね。
この結果を踏まえて、日本マイクロソフトでは、昨年夏の「週勤4日週休3日」のチャレンジにおいて、「会議は基本30分以内」「人数は多くて5人」とする取り組みを進めました。
結果、前年同月比で「30分会議」の実施比率の46%アップに成功しました。
■「30分会議」はなぜ効果的なのか
これらのデータを見ると、「大人数」「長時間」「繰り返し」(定例会議のようなもの)の会議は、おしなべて社員のモチベーションを下げ、組織に対する信頼感を失わせているようです。
「30分会議」は効果的です。
1時間「1ユニット」でとらえ、会議も「1時間単位」を前提としている企業は少なくないでしょう。「確実に1時間で終わる」ならいいのですが、会議の準備をしたり、遅れてくる人がいたり、アイスブレイクをしたり、ちょっと話が長引いたりして、気がつけば1時間20分、トータル1時間半になっているケースもザラです。
30分と決まっていれば、開始のモタモタを減らす心理的効果もありますし、多少の延長があったとしても40~45分で完了します。これが日常となれば、時間管理はしやすくなります。
日本マイクロソフトのように、いきなり「会議は30分」とはいかなくても、「1時間を超えない」「1時間のなかですべてを完了させる」から始めてみましょうか。1時間を超えないタイムマネジメント。そこから、30分にステップアップしていってください。
また、会議そのものの時間だけでなく、会議を開催するため、多くの人に連絡をしなくてはならないスケジュール調整も社員のモチベーションを大きく下げます。マイクロソフトでは社員のスケジュール(予定)表が公開・共有されており、会議開催の調整がしやすいです。ITを活用し、調整や準備の手間を省いていきましょう。
■その会議、必要? 見極める5つの要素
会議には「5つの要素」があります。
まずは「目的」。「決める会議」なのか、「意見を出し合う会議」なのか、「情報共有の会議」なのか。目的がクリアになると、「情報共有だけだったら、わざわざ集まらなくてもいいよね」と会議自体をなくせるかもしれません。
いかなる会議も、まず目的を確認しましょう。
2つ目は「インプット」。仕事とは、インプットを「成果物」「アウトプット」に変える行為です。会議も同じで、まず何をインプットするのか。ここをクリアにする必要があります。「議題」ももちろんインプットですし、事前に共有しておく資料や情報、当日みんなで共有した方がいい記事があるなら、それらもすべてインプットです。
この会議のインプットは何か。
これがあいまいなまま始まると、リードタイムすなわち「認識合わせ」に時間がかかります。「30分会議」や「1時間を超えないマネジメント」をする上で、インプットの整備は非常に重要です。
リモート会議を嫌がる人のなかには、「インプットが十分に与えられてない」状況がよく見られます。逆に言えば、十分なインプットが与えられ、その会議でどんな話し合いがなされるのかがきちんと想定されていれば、「リモートでも大丈夫だよね」「電話で十分だよね」となりやすい。
また「目的」と同じように、インプットが十分なら「あとはそれぞれが意見をチャットに書き込めばいい」なんてこともよく起こります。
■最も大事なのは「成果物」に対する到達度
3つ目は「成果物」。その会議が終了したときに「参加者がどういう状態になっているのか」、その終了状態、完了状態を決めておきます。漠然と「予算案についての会議」ではなく、「予算案の2つのオプション案を決める」などのように、具体化しておきたいです。
マイクロソフトでは、大規模な会議や勉強会では、効果測定や次回に向けた改善のためのアンケートを採っていますが、その際もっとも大事なのが「成果物」に対する到達度ではないでしょうか。
4つ目は「関係者」です。成果物を出すために必要な参加者は誰か。あるいは、有効なインプットを与えてくれる人は誰か。その視点で「関係者」を決めていく。関係者の選別の意識を持つと、何より、不要な人を排除できます。「大人数の会議」はモチベーションを落とし、生産性も悪い。会議から不要な人を除くのは重要、かつ効果的です。
5つ目は「効率」です。所要時間のセット、時間内に終わらせるための工夫、「わかりやすい発言ができているか」など、効率化につながる要素はたくさんあります。議事録を定型化するのも一つの方法です。こうした部分をあらかじめ決めて、共有しておく。それだけでも会議の効率は上がります。
まずは部署内の定例会議など、「身内」で日常的に行っている会議から、この5つの視点で見直してみてください。そして、できるところから改善していってください。
■「人数×時間」を見える化してコストを減らす
会議の面積を減らす。これは私が言い続けている表現ですが、「会議の面積」とは「人数×時間」。多くの人が参加している会議が、長時間続けば、それだけ面積は大きくなります。日本マイクロソフトでも「負荷の高い会議」との表現で、同じ視点のデータを取っています。
図表3では、組織ごとに「1回あたりの会議時間」「会議の参加人数」「繰り返し会議の割合」を示しています。
たとえば「組織A」では、1時間以上の会議が30%行われており、19人以上が参加する会議は40%近く。他部門と比較して「会議の面積」がいかに大きいかがわかります。
こうしたデータをはっきり見せられると「ウチは2時間以上の会議がこんなに多いのか……」「参加人数を減らした方がいいかもな……」などと感じるでしょう。
さらに図表4は製造業事例のデータですが、「会議に何時間(年)かかっているのか」と「人件費がいくらになるのか」を調べたものです。
会議が1年に30万時間、人件費は34億円かかっている事実がわかります。数字だけを見てあれこれ評価してもあまり意味はありませんが、膨大な時間とコストがかかっているのは明らかです。
コスト削減の観点からも、「会議の面積」の削減は有効なアプローチの一つです。
■役員会議こそリモートに切り替えるべき理由
業務を改善する際、私はよく「主観と客観の両方を持ちましょう」と言います。
「会議時間が月に20時間におよぶ」「20人が会議に参加している」のは客観的な事実です。それが「良い」「悪い」などの判断はデータが示してくれるわけではありません。
なぜ、会議時間が月に20時間におよぶのが問題なのか。
どうして、20人が会議に参加しているとマズイのか。
こうした問いに答える「主観」も必要です。
たとえば、私は常々、「役員会議こそ会議の面積を減らした方がいい」「リモートに切り替えた方がいい」と主張しています。それは、その場にいない部下たちの時間をも消費するからです。
役員会議を開催する場合、部長クラスが同席する場合も多く、どうしても人数が増えがちです。会議のコストもさることながら、役員や部長クラスが会議室に閉じこもり、何時間も音信不通になると、部下たちの「待ち時間」が発生します。
部長の承認を得なければ営業先に答えられない案件があったり、突発的に起こった問題に対して判断を仰ぎたい場面など、意思決定者の不在はそれだけで部下の時間を奪います。これがせめてリモート会議なら、会議中でも「ちょっと緊急の案件なんですが」と部下も声をかけやすくなります。
■主観に対して客観的なデータを付ければ議論しやすい
「上司の不在を生んでいる会議」は、こうした多くの弊害を同時に発生させているからこそ改善が必要で、改善した際の影響も大きいのです。
こうした一つの「主観」に対して、「役員会議の総時間」「参加人数」など具体的なデータが付加されると、問題が見える化され、議題としてテーブルにのせやすくなります。
これが「主観」と「客観」の両輪です。
「仕事の見える化」に対して「言える化」と私は表現していますが、客観性を持たせることで、起こっている問題をきちんと言えるようになるのです。
「こんな問題が起こっている」「これは問題だから改善したい」は主観です。それを裏付けし、組織を動かすために必要なのが「客観」です。「主観なき客観」は弱いですし、「客観なき主観」もまた説得力がありません。
まずはマイクロソフトのように会議を定量的に見える化をし、「負荷の高い会議」を洗い出すのもよいのではないでしょうか。問題の「言える化」につながるはずです。
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あまねキャリア工房 代表
1975年生まれ。あまねキャリア工房 代表(フリーランス)兼 株式会社なないろのはな 取締役。作家、業務プロセス/オフィスコミュニケーション改善士。日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社を経て2014年秋より現業。現役時代、残業だらけのシステム運用チームを定時帰りの職場に変えた経験あり。人事経験ゼロの働き方改革パートナー。現在は企業や自治体で働き方改革、社内コミュニケーション活性、マネジメント改革、業務プロセス改善の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。著書に『仕事ごっこ』『仕事は「徒然草」でうまくいく』『業務デザインの発想法』『職場の問題かるた』『職場の問題地図』『マネージャーの問題地図』『働き方の問題地図』『仕事の問題地図』『システムの問題地図』(技術評論社)、『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『働く人改革』(インプレス)、『新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!』『ドラクエに学ぶ チームマネジメント』(C&R研究所)など。
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(あまねキャリア工房 代表 沢渡 あまね)
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