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「日本はコロナ対策に失敗した」そう思っている人の根本的な間違い

プレジデントオンライン / 2020年9月23日 15時15分

東京都は23区内の飲食店などに求めていた営業時間の短縮要請を終了。感染者数が減少傾向にあることを踏まえ、4段階で評価する感染状況は、最も深刻な「感染が拡大している」から「再拡大に警戒が必要」に1段階引き下げた=2020年9月18日、東京都新宿区 - 写真=時事通信フォト

■新型コロナをめぐる2つの不安な動き

現在、日本での新型コロナウイルス感染者数は徐々に減少しています。一方で、国民にとっては不安な動きが2つあります。

1つは政府が近々、指定感染症の中で危険度が5段階で2番目に高い「2類相当」の分類を見直すかもしれないというニュースです。

新型コロナウイルスは2類に分類されているため、感染者の隔離・入院が必要で、医療費も公費負担となっています。これがもし3類以下の分類に変更されることになれば、感染者の隔離・入院が必要ではなくなります。その結果、無症状感染者を隔離できなくなったら、ますます感染拡大するのではないかという懸念が起きています。

もう1つは、GoToキャンペーンの対象に東京発着が追加されたことです。

GoToキャンペーンは、コロナ禍で瀕死の状態にある観光業界をサポートするために始まりましたが、7月22日のスタート時に東京を除外したことで混乱が起きました。

地方在住の人にとって、一番人気の旅行先である東京に出かけても最大1泊2万円の補助が受けられない。また、東京在住の人は同じ税金を払っているのに恩恵を得られない。東京のホテルや旅館、土産物店は業績が悪化しているのに国から放置されたことで、当初期待していたほどの経済効果が出ていませんでした。

さらに人口あたりの感染者は東京を凌ぐ都府県も多数あるにもかかわらず、それらの都府県については除外される様子がない。要するに東京だけ除外するのはちぐはぐなので、東京の除外を見直したというわけです。ただ、国民から見ればむしろGoTo自体を止めたほうが感染は収まるのではないかという懸念が起きています。

■自粛を止めて経済を優先させるべきか

この2つの動き、つまり指定感染症の分類を緩和することもGoToキャンペーンに東京を加えるのも、どちらも根底にあるのは「経済か、医療か」という問題です。

もともと日本では、最悪の場合、死者42万人という試算がありました。ところが現在ではそこまでの被害は起きないと考えられています。一方、日本経済は瀕死の状態です。だから自粛を止めて経済を優先させるべきではないか。それがこの2つの動きの背景にある考え方です。

とはいえ、相手は未知の病原体です。本当に経済優先でいいのでしょうか。世界中が今、同じようなジレンマを抱え、さまざまな政策をとっています。そこで今回は主にヨーロッパの先進国を事例として、日本がこの冬、どっちに向かうのがよさそうなのかを考えてみたいと思います。

■厳しい外出制限の末に第2波招いたイタリア

最初にイタリアを見てみましょう。イタリア政府の対応は日本にとても似ています。異なるのは被害が日本よりもはるかに大きかったことです。

そもそも初動で失敗したところからイタリアと日本は似ています。コロナが問題視された当初、イタリア政府は外国人の受け入れを中止しませんでした。これは、オリンピックに悪影響がないように春節の観光客を受け入れていた日本と同じ感覚です。

特にイタリアで初期に感染が広まった地域は中国系の居住者が多かったため、ヨーロッパ諸国で最初にパンデミックで苦しむ国になってしまいました。

そこでイタリアでは日本よりも厳しい外出制限が行われます。感染クラスターが起きた州や都市ではロックダウンが行われ、地域や町だけでなく、場所によっては通りを越えた移動さえも警察のチェックが入る形で制限されました。3カ月の間、企業やレストランなどが休業を命じられ、観光業は完全に停止したことになります。

例年イタリア人はバカンスで2週間から1カ月の休暇を取るのですが、今年の夏は国民の93%がイタリア国内にとどまって休暇を楽しむそうです。

そこでイタリア政府は所得が年収4万ユーロ(約500万円)以下の家庭、つまり大半の家庭を対象に最大500ユーロ(日本円で約6万2500円)を配布しました。日本のGoToに相当する政策です。国内でバカンス消費をしようという具合でしょうか。

しかし結果的にイタリアは、8月に第2波の感染拡大を招いています。そこで8月中旬、イタリア政府はディスコとナイトクラブを閉鎖することにしました。

このなんとなく日本に似ているイタリア政策は、4~6月のGDPは年率でマイナス41.0%とEU諸国の中では悪いほうです。ちなみに100万人あたり死者数は586人。これらイタリアの数値を基準に、他のヨーロッパ諸国を比較してみましょう。

■50歳未満の国民をローリスクとしたイギリス

2番目のケースはイギリスです。イギリスはイタリアを上回る最悪な状況で、4~6月のGDPは年率でマイナス59.8%とヨーロッパ諸国の中でも突出しています。

イギリスのGDPがなぜこんなに悪くなったのか。それは他の欧米諸国よりもロックダウンを徹底して広範かつ長期にわたって経済を閉ざしたからです。実際、人気の観光スポットである大英博物館も再オープンしたのはつい先日の8月27日でした。コロナが拡大してから実に163日間も閉鎖が続いていたことになります。

ただイギリスはロックダウンにあたり給与の8割を最大3カ月助成するというように、補償には力を入れていました。さすがはポピュリズムで誕生したボリス・ジョンソン政権と言えるでしょう。一方、日本は新型コロナだけでなく消費税の増税で構造的に経済が傷んでいるわけです。

イギリス経済が大きく傾いている理由はもう1つ、ブレグジットの悪影響もありそうです。EUから離脱した直後にコロナが直撃し、英ドーバーと仏カレー間の物流に関税が発生するようになりました。

トラックなどの貨物が長蛇の待ち行列となり、結果的に物流の量は3カ月間で45%減少してしまいました。イギリスを含めEU諸国はお互いに分業しています。医薬品はドーバー海峡を渡って大陸からくるものが多いので、病院関係者は「なんでこのタイミングでブレグジットしたかなあ」とため息をついている様子です。

イギリスでは経済を元に戻すために、この先は国民を50歳未満のローリスクグループと、50歳以上のハイリスクグループに分けて、ローリスクグループの外出振興策を練っているといわれています。要するにリスクがほとんどない50歳未満のグループには普段通りの生活を送ってもらって経済を再開させ、50歳以上のリスクグループは外出禁止令で閉じ込めようということです。

経済活動を再開させる一方で、コロナ対策としてはハイリスクグループ限定の外出禁止令とクラスターが発生しやすい特定業種の営業停止、感染が広がり始めている地域の封鎖を組み合わせる予定です。ちなみにイギリスは経済が悪いだけでなく、100万人あたり死者数も610人とイタリアを上回っています。

■消費税減税に踏み切ったドイツ

さて、イタリアとイギリスを反面教師だと考えた場合、優秀な教師に見えるのがドイツのアンゲラ・メルケル首相でしょう。結果として100万人あたりの死者数は111人で、欧米では死者数を比較的抑えられています。

ドイツの特徴はとにかく経済支援が早かったことです。自営業の方々に即時支援として5000ユーロ(約62万5000円)が支給されたのですが、その申請から振り込みまでわずか2日だったといいます。

もともとドイツは財政の健全化路線に力を入れていて、政府の方針としてはお金を出し渋る傾向にあるのですが、今回のコロナでは「非常事態には特別な対応が必要だ」と宣言して大胆な政策をとりました。このあたり、メルケル首相の政治家としての手腕を感じさせます。

実際ドイツではコロナをきっかけに消費税の減税に踏み切りました。コロナ対策として企業には労働者の首切りではなく労働時間を減らすことを推奨し、政府がその減った時間分の収入を補填するという形で、企業にも国民にも双方に即効性がある政策が打ち出されています。

この制度はリーマンショックのときに一度機能しています。今回も過去に成功した政策だったことで対応が迅速だったようです。日本はリーマンショックのときに当時の麻生首相が国民全員に1万2000円の助成金を配布した失敗体験から、今回の助成金政策が二転三転し時間がかかったのとは真逆な状況でした。

■マスクをつけない自由を求めるデモも

メルケル首相の政策が日本と違うもう1つの点は、「すべての人を救う」という方針です。これは新型コロナ直後、国民に向けた演説で強調していました。

象徴的なのはセックスワーカーを手厚い保護の対象にしていることです。たとえばドイツには東欧などから来て性風俗産業に従事している人たちがいるのですが、ドイツの連邦家族省は、この危機的状況に際し、売春保護法の「性風俗施設での宿泊を禁止する」という一節を一時的に廃止し、施設に寝泊まりすることを許可しています。

日本のように風営法の対象業者を助成から外し、夜の街を名指しで糾弾し、このタイミングでソープランドを警察が摘発するのとは正反対の政府の姿勢です。

一方、興味深いのはドイツでも政府に対する抗議がたくさん起きていることです。これはヨーロッパ全体で言えることですが、自由を勝ち取ってきた歴史があることから権利に関する主張や法律に関する訴訟は多くなる。ドイツでも多数の政府に対する訴訟が起きているようです。

なかでも興味深いのがマスクを強制する政府に対する反対運動です。ドイツでは1万7000人のデモ隊がマスクをつけない自由を求めて行進しました。メディアの報道映像で「空気を吸う自由」を求めたプラカードを見つけましたが、そのような自由を求めて政府と対立するのがヨーロッパらしいと思います。

ちなみにある調査では4月中頃の段階で日本やイタリアでは80%、アメリカで50%のマスク着用率だったのに対し、ドイツとイギリスはマスクの着用率が極端に低く、だいたい20%の水準になっていたようです。

これらの結果を見るとドイツの100万人あたりの死者数は111人とヨーロッパ諸国の中では低い一方で、GDPは年率でマイナス34.7%。経済を犠牲にしながら医療を優先している状況ですが、政治家が国民を守ろうとする姿勢は各国の中で抜きん出ているようです。

■自粛を打ち出さなかったスウェーデンの成否

最後に新型コロナを比較的放置していると言われているスウェーデンの状況を見てみましょう。スウェーデンは欧米諸国の中で唯一といっていいぐらい新型コロナを特別視せずに国民が日常生活を送っている国だといわれています。

そうした情報と実態は少し違うようです。政府が強い自粛を打ち出していない一方で、実際には個々人の判断で自主的に引きこもるというゆるやかなロックダウンが起きていたといいます。また重症化や死亡が高齢者に集中していることを当初から意識して、高齢者施設には訪問禁止を打ち出すなど要所要所の規制は行っていたようです。

スウェーデンが新型コロナに直面する中で自粛政策を重視しなかったことは事実です。これは政治家が集団免疫獲得理論を信じていたからではないかといわれてきました。公式にはスウェーデン政府はそうではなく、医療機関が機能するレベルでウイルス感染のスピードを抑える政策をとってきたと主張しています。

ただ、報道記者が情報公開を求めたところ、やはり感染症対策の責任者が「集団免疫を迅速に獲得するための1つのポイントとしては、学校を休校にしないことだ」といった進言をしていたというメールが公開され、集団免役を優先していたことが明らかになりました。日本で専門家委員会の議事録が黒塗りになっているのと比較すると、情報公開姿勢においてスウェーデンは進んでいるようです。

■日本のコロナ対応は優れていたのか

結果としてスウェーデンでは4割の集団免疫を獲得したとみられ国民の過半数がこの政策を支持している一方で、「実際は子供が高齢者に新型コロナを広げているのは明らかだ」と政府に反対する専門家もいるようです。

特筆すべきポイントは、スウェーデンの4~6月のGDPは年率でマイナス8.6%と明らかに周辺諸国よりもよい経済を維持する一方で、100万人あたりの死者数も575人とイタリア、イギリスとそれほど変わらないレベルで済んでいることです。スウェーデンは経済を優先した成功例と言えるかもしれません。

さて、日本の4~6月のGDPは年率でマイナス27.8%でした。100万人あたり死者数は10人です。この数字を踏まえると、この秋冬に日本が目指すべき方向性はスウェーデン的でいいようにも感じられます。新型コロナの分類を緩め、経済活性化の方向に力点を置く。これが日本の最適解ではないかと思えるのです。

ヨーロッパと比較する限り、政治家や官僚の姿勢は見劣りするものの、日本がやってきたコロナ対策は間違っていないように思えます。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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