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「10兆円企業TikTok」トランプ大統領が制裁に踏み切った本当の理由

プレジデントオンライン / 2020年10月26日 9時15分

TikTokとWeChat、米当局が新規DL禁止を発表。トランプ政権はなぜ両アプリを運営するバイトダンス社を狙い撃ちにすのだろうか。 - 写真=ロイター/アフロ

中国発の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を巡り、米連邦地裁は9月27日、トランプ政権による配信禁止措置の一時差し止めを命じる判断を示した。ただし、トランプ政権が11月12日に予定されているTikTokの全面禁止措置については一時差し止めを認めなかった。つまり11月12日までにTikTokが米国企業へ売却されない場合、TikTokは閉鎖されてしまう。

■「ファーウェイ」の二の舞を避けようとしていたが…

今回のTikTokに対する制裁の理由は、中国の通信機器大手「ファーウェイ」を締め出したのと同じ、「国家安全保障上の懸念」だ。しかし、TikTokを運営するバイトダンスは、そうした「懸念」に配慮し、アメリカの法律とビジネス慣習に歩調を合わせてきた。

たとえば米国のビジネスにおいて、社長を含む同社のトップマネジメント、ミドルマネジメントは米国人だ。またサーバーは米国にあり、米国のユーザーのデータも米国のデータセンターに置いてある。運用チームもローカライズされ、1500人のアメリカ人従業員を雇用し、今後1万人の雇用を創出することを約束している。

また、フランスのセキュリティ関係の研究者Elliot Alderson氏は、TikTokが疑わしい動作はしておらず、特別なデータの流出もしていないと結論をつけている(※1)。制裁の根拠となる中国政府へ情報流出の疑惑は、確固たる証拠があるとはいえない。それにもかかわらず、なぜトランプ大統領は禁止措置に踏み切っただろうか。

(※1)TikTok:Logs, Logs, Logs

■TikTokが人気を博する3つの理由

TikTokは2017年9月に米国市場に参入し、以来、アメリカはもとより世界中の若者の間で人気が爆発した。現在月間アクティブユーザー数は8億人を突破し、世界150カ国以上で利用されている。

TikTok人気の理由は3つに整理できる。

①「リップシンク」。舞台、生放送などで、あらかじめ収録された音声入りの楽曲に対して歌っているように見せることができる。
②「フォロワーが付きやすい」。TwitterやInstagramなど他のSNSではフォロワーの少なかった投稿者が、TikTokを始めた途端にいきなり数千のフォロワーを獲得すると言われている。
③「投稿のハードルが低い」。操作が簡単で若い人だけではなく、やる気があればだれでも作品を作成できる。

TikTokを運営するバイトダンスは、2012年3月に設立され、モバイル向けアプリにいち早く人工知能を適用したテクノロジー企業だ。コンシューマ向けサービスにAIの応用シーンを研究し、7個のアプリを運営している。

創始者の張一鳴氏はAIのアルゴリズム(計算方法)に注力しており、各アプリに適用しているAIのアルゴリズムは、バイトダンスのコアコンピテンシーだ。ユーザーは必要な情報を時間をかけて探さなくても、AIがユーザーの需要をキャッチし、推薦してくれる。そしてAIの学習機能によってどんどん推薦の内容は最適化されていく。「フォロワーが付きやすい」というのも、そのテクノロジーの成果だ。

バイトダンスの企業文化は独特だ。社内は非常に平等で、職務上の区別はない。CEO、張一鳴氏をはじめとするすべての管理職は自分の個室はない。従業員番号はランダムに発行しており、先輩と後輩がわからないようにしている。上下関係に余計なエネルギーを使わないことが狙いだ。

■バイトダンスのTikTok売却益獲得が狙い

トランプ政権は中国とのデカップッリング(サプライチェーンの切り離し)を目ざし、最近、魔女狩りのように多くの中国のハイテク企業をエンティティリスト(輸出規制対象リスト)に入れた。しかし、TikTokだけはリストに載らず特別扱いを受けていた。

バイトダンスはまだ上場前の会社だが、未公開株取引で企業価値が1000億ドル(約10兆円)を超えると報じられている(※2)。トランプ大統領はバイトダンスの企業価値の獲得を狙って、特別扱いをしてきたのではないかと、筆者は考えている。異例な圧力をかけることで、米国企業に有利な条件で事業を譲渡させる。買収が成立すれば、トランプ大統領はバイトダンスが得る売却益のかなりの部分を米国財務省に収めさせることができる。

※編集部註:初出時、バイトダンスの企業価値を「1000億ドル(100兆円)」としていましたが、正しくは「1000億ドル(10兆円)」でした。確認不足でした。記事タイトルも訂正します。(10月26日21時30分追記)

当初マイクロソフトと見られていたTikTokの買収先は、なぜオラクルに変わったのだろうか
写真=iStock.com/Andrei Stanescu
当初マイクロソフトと見られていたTikTokの買収先は、なぜオラクルに変わったのだろうか - 写真=iStock.com/Andrei Stanescu

TikTokの買収先は当初マイクロソフトだったと伝われたが、その後、オラクルになったと報道された。実はオラクル創業者のラリー・エリソン氏はトランプ氏への大口献金者で、同社CEOのサフラ・キャッツ氏も4年前にトランプ氏の政権移行チームを支援している。トランプ大統領は、売却先もコントロールしているのではないだろうか。

■Facebookを脅かす存在は潰しておきたい

SNSのユーザー数は今年、全世界で38億人を突破した。ソーシャルメディアは、もはや人のコミニケーションツールとして欠かせなくなっている。そして、利用者数は成長を続けている。

【図表】SNS上位6社の月間アクティブ利用ユーザー数

SNSの世界では圧倒的に米国企業が強い。その中、Facebookは3つのSNSサービス(Facebook、WhatApp、Instagram)を全世界に展開している。これに対し、WeChatとTikTokという中国企業が追い上げている。特にTikTokの人気は絶好調だ。2018年の第1四半期では、TikTokはFacebook、Instagram、Youtubeのダウンロード数を抜いて世界1位の人気iOSアプリとなっていた。

(※2)TikTok運営のバイトダンス、未公開株取引で企業価値1000億ドル超

つまりTikTokに対して、もっとも脅威を感じたのは、Facebookなのだ。TikTokのアクティブユーザー数はFacebookの「Instagram」に2億人の差で、いまの人気ぶりで追い越すのは、それほど時間が掛からないはずだ。

実は、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOは昨年の秋からTikTokの脅威について警鐘を鳴らしている。首都ワシントンで表現の自由に関する講演を行った際、ザッカーバーグ氏は「TikTokはフェイスブックの表現の自由に対するコミットメントを共有しておらず、米国の価値観と技術的優位性に対するリスクとなっている」と語った。

さらに7月30日、米下院独占禁止法小委員会でこう述べている。

「Facebookは誇り高い米国企業だ。(中略)だが、われわれの価値観が勝利する保証はない。例えば、中国は独自のアイデアでサービスを構築しており、そのビジョンを他国に輸出している」(※3)

ザッカーバーグ氏の再三の催促が功を奏したのか、トランプ大統領は、2020年8月6日、TikTokを傘下に置く中国のバイトダンス社に関わる取引を禁止する大統領令に署名した。

■何よりも重要なのは蓄積された膨大な「データ」

SNSプラットフォームは莫大な収益を得られることはよく知られている。2004年の創業当時、Facebookはハーバード大学生向けのサービスにすぎなかった。しかし16年後のいま、世界最大のSNSプラットフォームに成長し、25億のユーザーを持つバーチャル王国となった。プラットフォーマーはユーザー数に比例して収入を得ることができる。Facebookの時価総額は8000億ドルを超えて、時価総額の世界ランキングにおいて、常に第5位、6位前後をキープしている。

さらにSNSプラットフォームには、属人的な情報及び非属人的な情報を膨大なデータとして蓄積してある。最近、個人データの保護において、GoogleやFacebookなどがEU諸国と訴訟沙汰をかかえている。EU諸国はプライバシー保護を理由にしているが、背後にあるのはデータをだれが握るのかという争いだ。

将来テクノロジーの覇権は、まずAI(人口知能)の分野で繰り広げられるものだ。そもそもAIは、脳をモデルとして知的活動を行うプログラムである。経験と学びから自らの力で作業タスクを実行することができ、自動的に課題解決の方法を見つけ出している。学習のためには大量のデータが必要で、AIのアルゴリズムだけでは何の意味もない。25億人のSNSプラットフォームは25億人分のデータをもつことを意味する。

TikTokはいまの人気ぶりからすれば、これからますますユーザーを集めるだろう。世界的に影響力のあるプラットフォームになる可能性がある。出る杭は大きくなってしまう前に打つ。つまり、米国が最も競争力を持つ企業や産業を、政府の介入によって保護する。これこそFacebookおよびトランプ政権がTikTokを狙い撃ちにする本当の理由だと筆者は判断している。

■強引な手法は米国経済の衰退を加速させることになる

今年8月に発表された世界ユニコーン・ランキング(Hurun Global Unicorn Index 2020)では、バイトダンスは第2位にランクインした。今回のトランプ大統領の一連の制裁がなければ、近々上場の企画をしていた。いまは上場どころか、大統領令への対応に追われている。とくにバイトダンスの最も優良な資産とみられるTikTokが、今後アメリカで事業を行うことはほぼ不可能だ。これから制裁がエスカレーションするリスクもあり、そうなればバイダンスの企業価値はさらに落ちる。

しかし、バイトダンスに対して会社の資産(この場合はTikTok)を略奪するようなトランプ大統領の一連の制裁は、他の中国企業に警鐘を鳴らした。これから米国に進出しようとしている中国企業は、計画を凍結し、既存の中国企業も米国市場から撤退するだろう。また、中国以外の国の企業にも、米国への投資や進出に大きなリスクを感じさせるものになった。

トランプ大統領の強引なやり方は、短期的には米国企業や米国経済にプラスになるように見えるが、長期的に見ると200年にわたって培った自由、平等、公平競争の価値観に傷つけ、米国経済の衰退を加速させることになるだろう。

(※3)TikTokの新CEO、「われわれは連邦法に従う米コミュニティの一員」と主張

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魏 向虹(ウェイ・シャンホン)
アジア連合大学院機構 主任研究員
アジア連合大学院機構 主任研究員。1988年に北京から来日し、早稲田大学で経営経済を専攻し、修士学位を取得。日本の大手IT企業に就職、以来28年間デジタルテクノロジーの分野に身を置いて、多数のグローバルプロジェクトに携る。2019年10月から現職。デジタル先端技術、デジタル通貨、中国新興企業を研究し精力的に執筆中

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(アジア連合大学院機構 主任研究員 魏 向虹)

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