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スペインの超名門サッカークラブが選手の親に必ず守らせる2つのルール

プレジデントオンライン / 2020年11月1日 11時15分

写真提供=東洋館出版社

世界で活躍する、世界を変えるサッカー選手を育成するにはどうすればいいのか。強豪国の事情に詳しいサッカー指導者の稲若健志さんは「サッカー強豪国にはお父さんコーチはいない。親は基本的に子どもにサッカーの話をしてはいけないし、教えてはいけない」という――。

※本稿は、稲若健志『世界を変えてやれ! プロサッカー選手を夢見る子どもたちのために僕ができること』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。

■「1年生には雑用」という日本だけに残る異常な文化

スペインのクラブは7歳、8歳からカテゴリーが1年毎に分かれています。7歳から始まり、日本で高校3年生に当たるフベニールAにいくまで12カテゴリーあります。

日本では、サッカーも学校と同じシステムを採用し、6年、3年、3年。一度チームに加入してしまえばクビになることは、3年間はありません。

しかし、その3年間で問題点が浮き彫りになります。それは、中学1年生や高校1年生のときに、サッカー選手として一番大事な時間を走りや雑用などで過ごさなくてはならないということです。1年生は苦労しないといけない、というこの国の文化的なルールが未だに存在します。このシステムは絶対に見直す必要があると思います。

1年生のときにやっている雑用は世界では当たり前ではなく、日本だけに残る異常な文化です。ましてや、その子どもや大人をフォローしてくれるスタッフも当然ながらいません。

■親を喜ばせるためにサッカーをやるように変わってしまう

これは一例ですが、レアル・マドリードの場合、クラブに心理カウンセラーが3人います。日本のお父さん、お母さんは息子に対してアドバイスも多々していると思いますが、カウンセラーは必ず親に二つアドバイスをします。

①まず家に帰ってからサッカーの話をしてはいけない。
②サッカーは親が教えてはいけない。

これはレアル・マドリードなどトップクラブに限った話になりますが、親が子どもに対してどう関わればいいのか、ということを詳細に伝えます。親は子どもにどう声をかけたらいいのか、どうすればプレッシャーを与えずに子どもが育つのか。子どもが迷子になってしまうことが多々あるからです。

これは例え話ですが、親が子どもにあれこれ聞き過ぎるとどうなるか。

親「今日はどうだった?」
子ども「今日は活躍した」
親「良かったね」

次の日にまた、

親「どうだった?」
子ども「今日は点を決めたよ」
親「良かったね」

それを繰り返すことによって、子どもが自分のサッカーへの喜びではなく、親を喜ばせるためにサッカーをやるように変わってしまうのです。

■サッカー強豪国には「お父さんコーチ」はいない

親は基本的に子どもに対してサッカーの話をしてはいけないし、教えてはいけません。海外ではその点で区別されていることが多く、指導者はサッカーを教える人、親は子どもを見守る人。子どもに無用なプレッシャーを与えないために、あまり話をしないのが暗黙の了解になっています。

サッカー
写真提供=東洋館出版社

そこまで根掘り葉掘り聞かないということです。たとえば、ああしたほうがいい、という親がいますよね。そこまで介入するのはよくありません。指導者がいて、教わっている人がいるのなら、その人を信頼して親は見守ってあげてほしいです。

日本の小学生年代のサッカーでは、昔から少年団が溢れています。その少年団では、指導者の数が足りておらず、お父さんがボランティアコーチとしてチームの指導に関わるケースがほとんどです。お父さんコーチの中にも、サッカーを経験している方もいれば、サッカーを経験したことのない方もいます。一方、他国では指導者は指導者という明確な括りがあります。アマチュアだろうがプロだろうが指導者は指導者。ライセンスを持っているし、しっかり教えられる人が教えています。

日本の欠点は指導者に競争力がないことです。サッカーを教える人がそれほどいないので現場にすぐ入れてしまう現実があります。日本の指導者の70%は未だにボランティアコーチという数字もあるほどです。

■試合では「がんばれよ!」という抽象的な言葉が野放し

一方、サッカー強豪国は指導者が余っているほどなので、指導力のある指導者がどんどん下のカテゴリーまで落ちてくる状況があります。そうなると底辺まで質のある指導者たちで埋まっていきます。

日本でお父さんコーチが子どもたちに適当にリフティングをさせて、シュートをどんどん打たせて、試合では「がんばれよ!」などという抽象的な言葉の数々が野放しになっている状況は海外にはありません。

今は日本にもスクールがたくさんありますが、スクールでさえも若いコーチが指導していて、楽しむことがメインになっていることがほとんどでしょう。結果として、子どもたちにはサッカーを学ぶところがありません。その後、中学校、高校で学校の先生にサッカーを習い、やがてサッカーを辞めていくのです。

この流れをどこかで断ち切らない限り、日本は変わらない気がします。もちろん正解はわからないのですが……。

■プロの指導者は「大人が偉い、子どもは従え」とは考えない

少年団のお父さんコーチたちを見ていてよく感じるのは、子どもに言い過ぎてしまうコーチが多いことです。

稲若健志『世界を変えてやれ! プロサッカー選手を夢見る子どもたちのために僕ができること』(東洋館出版社 )
稲若健志『世界を変えてやれ! プロサッカー選手を夢見る子どもたちのために僕ができること』(東洋館出版社)

やたらと「俺は指導者なんだぞ!」という雰囲気を出し過ぎてしまうのです。仕事は対大人ですが、サッカーは対子どもなので、そこは考えなければいけない部分だと思います。

プロの指導者は「大人が偉い、子どもは従え」という考えはありません。子どもに対してもリスペクトを持って指導に当たります。

子どもたちはあまりにも言われ過ぎると、だんだんと「この人の言っていることは正しい」と思いながらサッカーをするようになります。しかし、それが本当に正しいかはわかりません。一つ言えることは、子どもに対してリスペクトを持たない関係などあり得ないということです。

さらに、この少年団制度の欠点として言えることは、選手の移籍が非常にしにくく、引き抜きがほとんどないことです。海外のクラブでは「あいつはいいぞ」という噂が回りに回り、必ずどこかのチームが引き抜きます。子どもからすれば、どこにいても活躍すれば上に行けるので頑張れるというわけです。

しかし、日本の場合は、どんなに少年団で頑張っても、いきなりJリーグのクラブから「君、うちのクラブに入らないか?」という声が届くことはまずありません。Jクラブと当該クラブの関係性、親との関係性、移籍をするに当たり乗り越えないといけないハードルがあるからです。

■「このチームで優勝するんだ!」が美学になるのはおかしい

本来であれば、力のある子どもは移籍を繰り返しながらステップアップしていくのがベストです。「あの子は良い選手だから移籍したんだよ」「だからみんなも頑張ろうね」、そんな会話がそこかしこで生まれるような、いい流れをつくるべきだと思います。

それから、親同士がしがらみを捨てることです。親同士が色々と噂をする中で移籍の障壁となってしまうというのは、いったい誰のためでしょうか。

実力のある子どものためにも移籍させなければいけません。子どもが成長するために「この指導者が必要だ」と思ったときには移籍するべきです。そこにしがらみは関係ありません。

夢を実現するためには、それまでの周りとの関係は捨てるしかないのです。海外では友達に夢があるのであれば「お前、行けよ!」と送り出すのが当たり前です。日本のように「このチームで優勝するんだ!」というのが美学として語られるとしたら、それはおかしなことです。サッカー選手になりたいのならば、自分が上を目指せない環境にいつまでもいることは、一日一日を捨てていると思ったほうがいいかもしれません。それくらい、その場に留まることは意味を成しません。

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稲若 健志(いなわか・たけし)
サッカー指導者
株式会社ワカタケ代表。1979年生まれ。神奈川県出身。藤嶺学園藤沢高校卒業後、ディエゴ・マラドーナに憧れアルゼンチンに渡航しプロ契約を結ぶ。愛媛FCや栃木SCなどでプレーしたのち引退。26歳のときに株式会社ワカタケを設立。全国で立ち上げたサッカースクールで小学生など年間5000人近くを指導している。また、2012年に日本で初めて行われたレアル・マドリード選手発掘事業で通訳を務め、中井卓大選手の挑戦を支援した。年間1000人以上にサッカー留学の機会を作っている。著書に『親子で学ぶアルゼンチンサッカースピリット』『十年後の君たちへ輝かしい未来へのエール』(ともに随想舎)がある。

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(サッカー指導者 稲若 健志)

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