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「都構想が否決された最大の理由」なぜ最強の大阪創価学会は動かなかったのか

プレジデントオンライン / 2020年11月18日 11時15分

公明党と日本維新の会の「大阪都構想」合同街頭演説で発言する(左から)公明党の山口那津男代表と松井一郎大阪市長、吉村洋文大阪府知事=2020年10月18日、大阪市中央区 - 写真=時事通信フォト

大阪市を廃止して4つの特別区に再編するいわゆる「大阪都構想」は、11月1日の住民投票で、5年前に続いて再び否決された。2度目の住民投票という後のない状況で、なぜ反対多数に終わったのか。ライターの片山一樹氏は「公明党の支持母体である創価学会が動かなかったことが最大の原因だろう。そこには3つの理由がある」という——。

■公明党の意向が公明党支持層に届いていない

大阪市を廃止して4つの特別区に再編するいわゆる「大阪都構想」は、11月1日の住民投票で、5年前に続いて再び否決された。

住民投票の結果は、「反対」69万2996票、「賛成」67万5829票で、その差は1万7167票とギリギリの勝負だった。2度目の住民投票という後のない状況で、なぜ反対多数に終わったのか。その大きな要因として、「賛成」にまわったはずの公明党が真っ二つに割れたことが挙げられる。

毎日新聞の出口調査によると、今回の住民投票において公明支持層の賛否は「48対52」となっており、全体の結果とほとんど同じだった。

一方、公明党が反対の立場で臨んだ2015年の住民投票では、産経新聞の出口調査によると賛否は「13対87」で反対が約9割だった。つまり、今回の住民投票では公明党の意向が公明党支持層に届いていないのだ。僅差で反対多数となったことを考えれば、公明党の動き次第では都構想は可決されていた可能性が高い。

なぜ公明党の意向は支持層に届かなかったのか。そこを読み解くためには、公明党の支持母体である創価学会の動きを理解する必要がある。なぜ都構想で創価学会は動かなかったのか。以下、時系列を追いながら解説していきたい。

■半年ぶりの集会で配られた3枚の資料

まず、本題に入る前にコロナ禍において創価学会がどのように活動していたのかを確認したい。実は今年の2月18日から、創価学会は対面での集会を一切禁止にしていた。

この頃は、2月3日に感染者を乗せたダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に入港し、2月13日には国内で初めての感染者の死亡例が確認されていたこともあり、組織内での感染症拡大を避けるための措置だったと考えられる。

いわゆる「座談会」などの小単位での集会も禁止され、信者たちが実際に集まることは一切なくなったという。

そのような状況のなか、8月30日に約半年ぶりの集会が、大阪各地の創価学会関連施設で行われた。特に集会の目的は告げられず、日時と場所だけが伝えられる形だった。

取材した現役信者が参加した集会では、感染症対策のため座席の間隔は空けられていたが、施設には300人ほどが集まったという。参加者のなかには「コロナなのにこんな人数で集まっていいのか」と不安をもらす人もいたそうだ。

その集会で配られたのが大阪都構想に関する資料だった。

大阪都構想に関する資料

B5サイズで3枚にわたる資料には大阪都構想の詳細や、実現した際のメリット、公明党が都構想実現に向けて行ってきた取り組みなどが記されていた。ただ、壇上の幹部は「みなさんで読んでおいてください」と説明するだけで、具体的に内容を説明することはなかった。資料を受け取った信者も一様にキョトンとしていたという。

■都構想推進を妨げた「2つのイベント」

8月30日の集会で中心になったのは、都構想ではなく、別の話題だった。このとき創価学会は9月27日の「世界青年部総会」というイベントに向けて動いていた。これは創価学会の創立90周年を記念するもので、今年の目玉ともいえるものである。

イベントでは、世界各国の信者たちがYouTubeのLIVE配信で信仰体験を語る。コロナ禍で実際に集まるイベントを開けないため、リモート集会で会員のモチベーションを高める狙いがあったとみられている。

さらに、「世界青年部総会」の話題が終わると、11月中旬の「財務」の話題になった。「財務」とは、いわゆるお布施の集金活動だ。その場では、コロナ禍にどうやって幹部から一般信者に振込用紙を渡すのか、といったことが議論されたという。

つまり今回の11月1日の投票日は、「世界青年部総会」と「財務」という創価学会の2大イベントに挟まれていたのである。

実際に、8月30日の集会から9月27日の世界青年部総会まで、大阪の創価学会では都構想に関する動きはまったく見られなかったという。そもそも創価学会の選挙活動というのは綿密なスケジュールが練られており、国政選挙や地方選挙などの規模に関わらず、1年以上前から準備を進めるのが通例となっている。

創価学会の選挙活動では、時間をかけて信者に政策の説明をし、友人に公明党の実績を語れるようにしてから投票依頼を進めていくという”選挙の流れ”が出来上がっているのだ。

そのような創価学会における選挙の手法が使えず、しかも2つの大きなイベントに挟まれて活動期間が1カ月しかないという状況では、組織を動かすのは難しい。言い換えれば、現場の創価学会員にとっては、都構想にかかわっている時間はなかったのだ。

■リモート集会を開くも士気は上がらず

世界青年部総会も終わり、10月に入ったころから徐々に都構想に関する動きが出てきた。

創価学会の組織のなかで“活動の現場”と位置づけられている「地区(丁目を2分割、または3分割した範囲)」という単位の責任者には、上層部から「都構想に関して不満を持っている人がいれば説得してもらいたい」という指示があったという。

今回の都構想をめぐる住民投票では、公明党としては賛成の立場にあるが創価学会としてはあくまでも「自主投票」という立場を取っていた。しかし、実際にはこの頃から創価学会は信者に対して賛成を促す方向で現場は動いていたのだ。

地区の責任者たちは感染症対策をしたうえで信者の自宅を訪問することや、電話などで都構想のメリットや実現する意義などを伝えて説得することになっていた。しかし、実際には表立って反対を表明する信者は少なく、反対者を説得するという場面はあまり見られなかったという。

他にも、大阪選出の衆議議員の活動報告会という名目でZoomを使ったリモート集会を開催し、そのなかで都構想への賛成を呼び掛けていた。取材した現役信者の地域では、このリモート集会に500人以上が参加したという。

ただ、それなりに人が集まったと言ってもリモート集会では信者の士気を高めることは難しい。普段の選挙活動であれば大人数で会館に集まり、お互いに友人への投票依頼に関する成功エピソードを共有するなど、相互にモチベーションを高めることができる。

しかし、リモート集会では一方的に話を聞く程度のことしかできず、参加していた信者たちもなかばひとごとのような雰囲気で話を聞いていたという。

■自主投票に混乱する「常勝関西」

10月下旬に入り住民投票に向けた動きが最終盤に入ってくると、都構想賛成への雰囲気が少しずつ強くなっていった。取材した現役信者の友人である公明党職員は「公明党大阪本部の雰囲気はピリピリしていた。職員はみな“絶対に勝ちたい”という気持ちで動いている」と語っていたという。

10月29日には、「現場徹底を宜しくお願いします」という前置きをした上で次のようなメッセージがLINEで上層部から現場の責任者に届いた。

「我々が信頼する公明党が全力で頑張っているので、公明党の意見を良く聞いて必ず投票に行って下さい。最前線までお伝え下さい」

このLINEには10月18日に公明党の山口那津男代表が大阪の中央区で街頭演説している動画も添えられていた。この演説のなかで山口代表は、公明党が一貫して大都市制度改革に賛成してきたことや、都構想に関する4つの改善点を大阪維新の会へ提案したことなどを挙げ、「どうか、11月1日の投票日、賛成と票を入れていただきたい」と訴えた。

この山口代表の演説動画も、結果からすれば効果は限定的だった。今回の住民投票において、創価学会はあくまでも「自主投票」という立場を取っていた。そのため、さきほどのLINEでも「公明党の意見を良く聞いて必ず投票に行ってください」という表現にとどめられている。

また、創価学会の信者は、このような「自分で投票先を決める」という経験がほとんどない。これまでの選挙活動においても、応援する候補者が明確に決まっており、その候補者を勝たせるために投票依頼を行っていくという、結論ありきの選挙活動を行ってきた。

そのため、投票先を組織から明言されなければ、どうしたらいいか分からなくなってしまう人が多いという。

「常勝関西」と呼ばれる大阪の創価学会においてもその事情は変わらない。

■創価学会員の背中を押した“なっちゃん”の演説

毎日新聞の出口調査によると、無党派層で「分からない・無回答」と回答したのが19.8%だったのに対し、公明支持層の「分からない・無回答」という回答が27.8%と、約3分の1が態度を決めかねていた。公明党が賛成の立場を取っているにもかかわらず、「分からない・無回答」と答えた割合が無党派層より10ポイント近く多いのだ。

建前としては自主投票だが、現場の活動においては賛成という、“中ぶらりん”の状態では創価学会員が困惑してしても不思議ではない。そんな状況のなかで、さきほどの山口代表の演説動画がさらなる混乱を広げてしまった。

創価学会員が賛成と反対のどちらに投票すればいいか悩んでいるなかで、山口代表の演説動画は賛成への“公認”を与えることになった。しかし、都構想反対の創価学会員にとってこの演説動画は、自主投票であるにもかかわらず公明党から自らの考え方を真っ向から否定されたと感じるものだったという。

建前では自主投票、実際には賛成という中途半端な状況が、支持者の決まっている選挙しか経験したことのない創価学会員を混乱させてしまった。このしこりは今後も残りそうだ。

■「対応がブレブレ」で離れる友人票

以前から熱心に公明党を応援していた創価学会員の男性は、いままで100人以上の友人に公明党への投票依頼を行い、その友人のほとんどが自律的にまた別の友人に公明党への投票依頼をしているという。

このような、非信者であるにもかかわらず自主的に投票依頼をしてくれる友人のことを、大阪の創価学会では「○外さん(まるがいさん)」と呼ぶ。

自民党とともに大阪維新の会と対決した2019年の大阪市長選挙、大阪府知事選挙が行われた際にも、それらの○外さんに声をかけて公明党への支援を呼びかけていた。しかし、今回の住民投票ではほとんどの○外さんに「去年は維新とやりあっていたのに対応がブレブレで信用できない。今後は公明党の応援はしない」と言われてしまったという。

公明党は大阪維新の会への態度を二転三転させているが、このような公明党の対応に信者たちは振り回され、肝心の票田を失っている可能性が高い。今回の住民投票で賛否が真っ二つに割れたことを考えると、創価学会員は賛成派、反対派の双方から「対応がブレブレだ」と非難される可能性がある。

創価学会員は今後、投票依頼する際にさきほどの男性のような経験をすることも少なくないだろう。

■“しこり”を残した公明党=創価学会

今回の住民投票で「常勝関西」と呼ばれる大阪の創価学会は本来の力を発揮できなかった。

最終盤になって「公明党の意見を良く聞いて必ず投票に行って下さい。」というメッセージとともに山口代表の動画を送ったことや、公明党大阪本部のピリピリした雰囲気など、公明党=創価学会の上層部は都構想実現のために奔走していたに違いない。

しかし、世界青年部総会と財務という2大イベントの影響で準備期間が十分に取れなかったことや、コロナ禍という創価学会にとっても未経験の状況のせいでいつも通りの政治活動ができなかったことなど、現場には都構想賛成に向けて普段通りの政治活動を行う余裕はなかった。

そして、建前は自主投票、実際には賛成という中途半端な状況が、支持者の決まっている選挙しか経験したことのない創価学会員に混乱を広げた。その混乱は、時間をかけて築いてきた「○外さん」を失うという形でダメージを残した恐れがある。

11月14日に公明党大阪本部代表を辞任した佐藤茂樹氏は、都構想の否決の受けて開かれた記者会見において「賛成票を投じた人も、反対票を投じた人も、これから大事なのは“しこり”を残さないようにすること」と発言した。この発言は、今回の混乱によってしこりが生まれたことを認めたとも受け取れる。

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片山 一樹(かたやま・いつき)
ライター
1992年生まれ。出版社勤務を経てライターに。

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(ライター 片山 一樹)

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