「むしろ女性から誘われた」 性行為による冤罪が増えるという懸念への根本的な疑問
プレジデントオンライン / 2020年12月3日 9時15分
■思わぬ刑事訴追は誘う側の意識改革で防止できる
内閣府の調査では、無理やり性交をされた経験のある人は、約20人に1人、そのうち女性は約13人に1人が無理やりに性交等された経験があると回答しています。そのうち警察に相談に行くのは約4%にすぎません。性犯罪が報道されるのは氷山の一角にすぎず、社会には広く無理やり性交をするという被害が広がっていることになります。
そうすると、「性行為で後から訴えられない」ためにどうしたらいいか心配しているあなたは、「無理やり性行為」をしていないだろうか、とわが身を振り返ってほしいと思います。
確信犯で「無理やり性行為」をしている方もいるかもしれませんが、自分は意図しないけれど相手からみれば意に反する性行為であった、ということもあるかもしれません。そうした可能性をひとつひとつ摘み取って、相手の意に反する性行為をしない、ということが最大の防衛策になるでしょう。
思わぬ刑事訴追を受けないためには、性行為を誘う側、したい側の根本的な意識改革と行動変容が求められます。
■「事前確認」は欧米では常識になりつつある
まず、「いやよいやよもすきのうち」はもはや通用しないということを肝に銘じる必要があります。
事前に確認をとること、相手が嫌だと言ったらそこで止めることです。
このことはすでに欧米では常識になりつつあり、若い男の子は性行為の際に「いいの?」「ほんとうにいいの?」などと確認します。そして相手から「No」という言葉が一言でも出るとピクッと行為をやめます。フリーズしたようになるのです。繰り返し、教育を受けているからです。その時、もし女性の側が「本当はしたかったんだけど」と思っていれば、次は積極的に意思を表明するでしょう。
誘われる側にも主体性が生まれ、本当にしたいのかどうか、自分で判断するようになります。すでに欧米の多くの地域で、こうしたやり取りがごく自然に定着し、洗練された形で行われている模様です。何ら無粋でもなく、長期的に見てもポジティブな関係になるでしょう。
本当は性行為をしたくなさそうな相手を「不承不承応じる」ような状況に追い込んだり、「酔ってガードが緩くなっているのを狙って性行為する」「唐突に言い寄って性交を迫る」ということもすべきではありません。
相手が熟慮して、本当に積極的に性行為をしてもいいと自発的になるようにすべきです。
■「予期せぬ人に迫られる」こと自体が恐ろしい
唐突に迫られると相手がフリーズしてしまい、ノーと言えないことがしばしばです。男女の間には体力差や力の差がありますし、予期せぬ人が唐突に性行為を迫ってくるというのはそれだけで恐ろしいのです。
それが深夜や密室だったりすれば恐怖はさらに募り、上司など権力関係があれば万事休すとなります。
いきなり迫られたとき「殺されると思った」「恐怖のあまり体がすくんで動けなくなった」という感想は性被害の被害者からしばしば聞くことです。
ですので突然迫るということはやめるべきだし、仮に拒絶していないとしても、性行為に応じる意思が明確でない人とは性行為をすべきではありません。
また、女性から同意してもいないのに勝手に「同意のサインがあった」と誤解して行為に及ぶこともあってはなりません。以前NHKのアンケートで、「性行為の同意があったと思われても仕方のない女性の行為」として「一緒に食事」「一緒に酒を飲む」「一緒に車に乗る」「露出の高い服を着ている」「泥酔している」をかなり多くの男性があげていたことに女性たちから大ブーイングが起きました。女性にとって、これらの行為は性行為の同意を意味しません。こうした誤解は迷惑を通り越して社会的非難に相当するものです。
ですので、女性が酒食をともにしたり、一緒に車に乗ったとしても、あなたを誘っているとか、性行為OKのサインだと勝手に誤解して行動に出ることは現に慎むべきです。女性がセクシーな服でデートに来て夜道を一緒に歩いてくれたり、仮にキスに応じたとしても、それは性行為OKということを意味しません。単に会話とキスを楽しみたいだけなのかもしれません。
■「性交がOKならフェラチオもOK」ではない
眼鏡をかけて高級スーツを着こなしている知的なあなたを好ましいと思ってデートにOKした女性がいるとします。その女性が、眼鏡をはずして全裸のあなたを好ましいと思うかは全く別問題であり、まして性行為をしたいかというと、大きな飛躍がそこにはあります。まして上司としてあなたを尊敬しているだけの女性や、本心では嫌なオジサン上司だと思っても職務上接する機会を持たざるをえない女性であればなおさらです。そのことを重々自覚してもらいたいものです。
勘違いして痛い目に遭わないためにも、性行為を誘う側は、行為ごとに段階的に同意をとった方がよいでしょう。その方が女性は、仮に好意を抱いていたとしても尊重されると感じるでしょうし、嫌なら逃げ出すことも可能になります。
また、女性が飲酒している場合、記憶がブラックアウトして全く覚えていなかったり、酩酊して正常な判断ができなかったりすることが少なくありません。つまり、イエス・ノーを正常に判断できない状況に置かれていることが多いと言えます。飲酒した女性と初めての性行為をすることは仮に女性がその気を見せていても避けるべきです。それは「同意をかすめ取る」ことになりがちだからです。
また、性行為の最初で女性が応じたとしても、その後のすべての行為に包括的に同意していない、ということも肝に銘じてほしいです。キスをOKしても、性交に合意しているわけではありません。性交はOKだとしても、フェラチオを嫌がっているのに強要した場合、それは別個の性犯罪になります。段階ごとに承諾を得るべきです。
また、近年トラブルが多いのは、相手の承諾なく性行為を録画することです。女性にとっては非常に恐怖であり、警察に相談して「録画されるなら同意しなかった」と訴える事件は今も少なくありません。
■「事前に契約さえ結べばOK」でもない
また、途中から興奮して、暴力的だったり、女性の尊厳を傷つけたりする行為があれば、途中からでも相手にとっては意に反する性行為だという判断になるでしょう。
仮にあなたが変わった性癖をお持ちであれば、事前に説明して、納得してもらうべきであり、説明したうえで相手がいやがる行為はすべきではありません。女性の人権を尊重した性行為をすればトラブルは減ります。
では契約を結べば問題はないでしょうか?「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」という小説・映画が話題になりました。大富豪のSMプレイの好きな男性と恋に落ちた女性がプレイについて事前に契約を結んでSM的な性関係に入るというストーリーです。
ただ、今のNo Means Noの世界の法改正の流れから見れば、仮に契約があったとしても包括的な同意ということはあり得ず、その都度、行為ごとに同意を求める必要があります。これは訴追されないというだけでなく長期的に良い関係を築くためにも大切です。その作品でも、契約後に実際に関係を持った結果、やっていけないと考えてラストで破局してしまいます。
■よく知りもしない相手と性行為をすることがトラブルのもとになる
内閣府の統計によれば、無理やり性行為をされた経験のある女性に加害者を聞くと多くの場合、交際相手、元交際相手が約3割を占めると言います。交際しているからと言って、性行為がいつでもどこでもOKではありません。
彼女が嫌と言えない、暴力的であったり支配的な関係になっていたりしないかを見直していくべきでしょう。
最後に、日本学術会議で同意のない性交を犯罪化する提言がなされたと聞いて、冤罪の被害にあうのを恐れている男性が少なくないと聞きました。自分が性行為をした相手が自分を裏切って警察に告発することを恐れているということでしょう。
仮に、ここまで書いてきたような配慮や注意を尽くし、あなたとの性行為に積極的な意思を明示した相手があなたを裏切って告発するという事例はどういう事例でしょうか? とても信用ならざる表裏のある相手と性行為をしてしまったということになるでしょう。
しかし、よく考えてみれば、そもそもそのように信用できない女性と、なぜ性行為のような最も親密でプライベートな行為をするのか? という根本的疑問があります。
性行為というのは極めて親密でプライベートなものであり、相手の身体への侵襲を伴い、男女間では妊娠可能な責任を伴う行為です。そのような行為をなぜ信頼できない人とするのでしょうか?
刹那的に、一度きりの楽しみとして、よく知りもしない相手と性行為をする、ということがトラブルのもとを作るのではないでしょうか?
■冤罪を防ぐことは、長期的で素晴らしい恋愛関係の構築につながる
実際、男性は刹那的な関係を楽しんでいるけれど、女性はそれによって傷ついてきた、だからこそ無理やり性行為をされた経験のある女性が多くいるのではないでしょうか。男女間の認識のギャップに向き合ってほしいと思います。
心から愛し、信頼している相手と、ひとつひとつ丁寧に意向を確認しあいながら性行為をするようにすれば冤罪の被害を防ぐこともできるでしょうし、何より長期的に素晴らしい恋愛関係を育てていくことができるでしょう。
性行為の同意を要求する法改正がなされたら、日本の恋愛や性をめぐるカルチャーがアップデートされ、よりお互いを尊重しあった関係が築けると思います。法改正の流れをポジティブに受けとめ、ぜひ自分の行動を変えていただきたいと願います。
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弁護士・国際人権NGOヒューマンライツナウ理事・事務局長
1994年弁護士登録、以後、女性、子どもの権利、えん罪事件、環境訴訟など、国内外の人権問題に関わって活動。2004年に日弁連の推薦で、ニューヨーク大学ロースクールに客員研究員として留学。帰国後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に対処する日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウ(Human Rights Now)の発足に関わり、以後事務局長として国内外の深刻な人権問題の解決を求め、日々活動している。同団体の主な活動範囲は、女性や子どもの権利擁護、ビジネスと人権に関する問題、アジア地域の人々の自由と尊厳の擁護、紛争下の人権問題など。弁護士活動でも人権、特に女性の権利を焦点に置いて活動。日弁連両性の平等に関する委員会委員長、東京弁護士会両性の平等に関する委員会委員長を歴任。
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(弁護士・国際人権NGOヒューマンライツナウ理事・事務局長 伊藤 和子)
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