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コロナ第3波の今考える、同じ公立小なのにオンライン活用が進まない学校があるのはなぜか

プレジデントオンライン / 2020年12月24日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/x-reflexnaja

春休み前に突然の一斉休校が始まり、新年度になっても都心部では休校が続いた。他の先進国ではオンライン教育が進められた一方、日本で同時・双方向型のオンライン指導をしていたのは公立小学校の8%、公立中学校の10%にとどまり、多くは大量のプリント配布で授業をカバーしていた。混乱の中、学校現場では何が起こっていたのか、東京都内の公立小学校教員、庄子寛之さんに話を聞いた――。

■突然の一斉休校、学校現場の戸惑い

私は当時、都内の公立小学校で5年生の担任をしていたのですが、2月27日木曜日の夜の報道を受けて、「週末から一斉休校」ということを知りました。全国の教員、校長、教育委員会も同様だったと思います。事前に何も知らされていない状況での突然の発表でした。

その時は、「2週間くらい後には再開されるだろう」「遅くとも4月には通常に戻るだろう」と考えていました。3月は教員にとって最も忙しい時期です。当初は、休校中に通知表や指導要録、次年度計画などを作成することができて、通年より業務がはかどったという声もあったくらいです。

「春休みが少し早まった」と受け取った保護者や子どもたちも多かったようですが、私は「子どもたちが1カ月も学習の機会を失う」という状況をなんとかしなければと思いました。模索する中で、ICT活用やプログラミング教育などで先進的な取り組みをしている、都内の別の公立小学校の蓑手章吾先生にお願いして、クラスの様子を見学させてもらいました。Zoomを使って子どもたちをつなぎ、「朝の会」をしていたんです。

■大量のプリントを授業の代替に

すぐにでも子どもたちとオンラインでつながりたい気持ちがありましたが、私は研究主任なので、まずは校内の教員同士をオンラインでつないでZoomの研修を進めました。先生同士でZoomの使い方を練習したわけです。それまでは「オンラインでつなぐなんて難しくて無理だ」という雰囲気だったのが、みんな、実際やってみると簡単だということが体験からわかりました。

オンラインでインタビューに答える庄子寛之さん
オンラインでインタビューに答える庄子寛之さん

とはいえ、当時の世論はまだ、「子どもの学びをどうするか」よりも、「(保護者の)仕事をどうテレワークに移行させるか」や「親が仕事を休めない家庭の子どもの預け先をどうするか」という議論の方が多かったように思います。

当初、春休みが終わるまでとされていた一斉休校でしたが、感染の拡大は収まらず、4月に入っても休校が続くことになりました。4月7日には東京都や大阪府などに緊急事態宣言が出され、16日には対象地域が全国に拡大。少なくともゴールデンウィークまでは休校することが明らかになりました(最終的に、私の学校が再開されたのは6月に入ってからでした)。

4月初めの段階でオンライン授業を行うことができたのはごく限られた学校だったと思います。ほとんどの学校では、家庭学習の時間割を作り、プリントを大量配布して授業を補完することになりました。

■「勉強は苦行」と刷り込むことになってしまう!

しかし、その内容は新学年の全く習ったことのない単元です。

教える人がいない中で、自分で学習できる子ばかりではありません。保護者の負担も大きい。テレワークで在宅していても仕事をしているわけですから、子どもの学習をつきっきりで見ることはできないと思います。ただでさえコロナでストレスが増大している家庭に、もう一つ大きなストレスを加えることになる。社会問題として虐待の増加も心配されていました。

学力が高い子は塾でオンライン学習をしていますから、「なんで学校の課題をわざわざやらなきゃいけないんだ」という気持ちにもなるでしょう。「勉強=プリントの課題の答えを教科書から見つけて写すこと」になってしまう。これは、勉強が苦行であることを刷り込むことにしかなりません。

「『学ぶことはそもそも楽しいんだ』と伝えるのが教員の仕事なのに」と葛藤しました。多くの教員が「これでは子どもに学ぶ楽しさは伝えられない」「このままではいけない」という思いを抱えていたはずです。

今思えば、そこから動きが加速したのかもしれません。「なんとかしてオンラインで授業ができるように進めなければならない」という思いを持つ教員が増えていきました。オンラインを使えば、双方向のコミュニケーションができるからです。

■危機感持つ教員ら2000人がオンラインイベントに参加

私は、女子ラクロスU19日本代表監督をしていたこともあって、海外の友人がたくさんいます。海外の学校ではどうしているのかと情報を集めているときに、ニューヨーク育英学園ではすでにオンラインで授業をしていると知り驚きました。香港やシンガポールの日本人学校もそうでした。日本では、実践研究協力校として一足先にオンライン教育に取り組んでいた宝仙学園小学校(東京都中野区)、新渡戸文化小学校(同)、東京都小金井市立前原小学校などもありました。そこで、それぞれの実践を、危機感を持っている現場の教員に共有していただこうと思いついたのです。

企画した1回目のオンラインイベントには200人くらい集まりました。イベントは4回開催し、最終回の5月には1933人が申し込みました。4回で延べ2700人くらいが参加しました。

取材記事などから、私がオンラインやICTに詳しいとよく思われるのですが、実は全く詳しくはないのです。海外や日本の先進的な取り組みを知って、参考にしたいと思い、困っている教師の代表として皆さんに広くお伝えしただけなんです。

■それぞれの立場でできることを

そのイベントに参加してくださった教員の皆さんには「まず校長先生に提案してみましょう」、校長先生には「教育委員会に提案しましょう」、そして教育委員会の人には「教育長にぜひ伝えてください」とお伝えしました。議員の方には、「メディアにぜひ伝えてください」、メディアの方には「世論にしていきましょう」とお伝えしました。オンラインで子どもたちをつなぐことを、それぞれの立場であなたにしかできないことをやっていきましょうと伝えました。

こうしてお話ししている私も一教員です。自分一人では新しい取り組みはできません。もちろん校長にはその都度相談し、提案し、できるところからやっていきました。

イベントで学んだオンラインのノウハウを生かして実践しようと、4月27日には校長に文書でZoom活用の提案をしました。デバイスがない家庭はどうするか、学校のパソコンで可能なのか、Zoomを使うことで個人情報は漏れないのかなど検討事項はたくさんありましたが、既にZoomを使って職員会議をしていたこともありましたし、コロナ禍前の1月から2カ月間、国のGIGAスクール構想の先進的事例の検討のためにiPadを私のクラスの授業で使用していたことも大きかったと思います。5月8日には、学年でオンライン検証授業の許可が下りました。

■「一律でなくてもいい」文科省会見で風向きが変わった

強い追い風になったのは、5月11日の文部科学省の会見でした。「学校の情報環境整備に関する説明会」で、文部科学省の担当課長が「すべての児童・生徒の家庭にオンライン環境が整っていなくても、一律にやる必要はない。できるところからどんどん推進してほしい」と言ってくれた。

教育の現場は、全員に同じ環境が整わないと一歩を踏み出さないところがあって、通常であればオンライン教育も、1人でも家庭に端末がない子、Wi-Fi環境がない子がいれば、「やめよう」となります。そこを、「緊急時なので、一律にそろわなくてもいい」と文科省が明言したことは、非常に大きかったのです。

YouTube、文部科学省「GIGAスクール」ch、「2020年5月11日 学校の情報環境整備に関する説明会」より
YouTube、文部科学省「GIGAスクール」ch、「2020年5月11日 学校の情報環境整備に関する説明会」より

また、通常は、文科省からの通達は現場の教員にはなかなか届きません。ホームページには掲載されますが、それをまめにチェックする教員はあまりおらず、文部科学省から都道府県の教育委員会、市区町村の教育委員会、各学校長に伝わって現場にという流れですから、1カ月くらいのタイムラグが出ます。しかしこの時の会見はYouTubeで公開され、情報は文部科学省から現場にダイレクトに伝わりました。そうすると、「文科省がこう言っていますよ」と現場から声を上げることができます。上からと下からの挟み撃ちで、各地の教育委員会の動きが加速したのだと思います。これもオンラインの効果ですよね。ここから世論が一気に変わってきました。

■やってみてわかったオンラインの良さ

私の学校では5月15日からZoomで朝の会を始めることができるようになりました。最初の朝の会は参加率が95%で、欠席した人は「忘れていた」という理由でしたから、ほぼ100%の参加と言ってよいと思います。長時間だと難しいでしょうが、朝の40分間だったので、何とか参加できたのでしょう。

庄子さんが、休校期間中に実施したZoomの朝の会で、子どもたちと共有した「きまり」(写真=本人提供)
庄子さんが、休校期間中に実施したZoomの朝の会で、子どもたちと共有した「きまり」(写真=本人提供)

やってよかったことは、一番は子どもたちの笑顔に会えたこと。そして、子どもたちの良いところを見つけられるということも新たな発見でした。対面の授業では1日に一度も発言しない子がいることもありますが、オンラインの方が話しやすいという子もいます。チャット機能を使えば、子どもたち全員を認めることができます。

オンライン朝の会の後はそのまま「オンライン自習室」にしました。希望する子どもはつないだままで課題に取り組んだりします。特に何かを教えたりはせず、私もほかの作業をしたりしていましたが、質問があればすぐに声を掛けてもらえる状態にしました。それだけで、前向きに課題に取り組めるようになる子もいます。

もちろんオンラインが得意な先生と苦手な先生がいますので、得意な先生がサポートに入りました。そうすると、他のクラスの様子を見ることができました。これも大きなメリットでした。教員を何十年もやっている人でも、他の教員が朝の会をどのようにしているかは見たことがないと思います。

結果的には、子どもも教員も予想していた以上に楽しく使うことができました。この12月にはまた感染者数が増加してきたので、保護者会を中止にしている学校もあるようですが、私の学校ではオンラインで保護者会を行いました。

■オンライン活用が進まない学校があるのはなぜか

公立学校の教育は、もちろん国が基準を定めて方向性を示しますが、それをどのように実施するかは、各自治体の教育委員会や学校の判断に任せられる部分が非常に大きい。もちろん、自治体や学校によって地域性もありますし、家庭や子どもたちのニーズも異なりますから、それがプラスに機能する部分もたくさんあります。

ただ、コロナ禍でのオンライン活用については、それが地域や学校による取り組みのバラつきにつながった部分があるように思います。文科省がオンライン推進の旗振りをしても、どのように実行されるかは、各自治体や学校によって異なるわけです。

私の場合は幸い、非常に理解のある校長や教育委員会に恵まれて、Zoomによる朝の会なども早い段階で実施することができました。教育委員会では、私のクラスの取り組みを他の学校と共有してくれたりもしています。ただ、すべての学校・自治体がそうであるとは限りません。

オンラインの朝の会や授業などは、本来、学校単位の判断で実施できるはずですが、実際は校長の理解があっても市区町村の教育委員会の許可がないと難しいのです。また、「隣の学校がやっているのに、なぜうちの学校ではやらないんだ」という保護者からの苦情が入ることもあるため、ほかの学校がやっていないことを率先してやりにくいという雰囲気もあります。よく「横並び意識が強い」と言われるゆえんです。

文科省から「一律でなくてもよい」と言われてはいましたが、それでも「接続環境がない家庭がある」「一律でないのは不公平ではないか」という声は教育関係者だけでなく保護者の間でも根強い。こうした認識が壁になって、オンライン化を推進しようと思ってもできなかった学校・教員は多かったのではないかと思います。

緊急事態の中で、新しい取り組みにチャレンジできたことは大きな収穫ですが、オンライン化することだけが教育の目標ではありません。誰もが「教育とはこういうもの」という固定観念を捨て、より良い教育をするための可能性を広げるツールとして活用できればと思っています。

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庄子 寛之(しょうじ・ひろゆき)
東京都公立小学校教諭
元女子ラクロス19歳以下日本代表監督(2019世界大会日本史上最高タイ5位入賞)。学研道徳教科書作成委員。みずほフィナンシャルグループ金融教育プロジェクトメンバー。文部科学省がん教育教材作成ワーキンググループ委員。コロナ休校中は、オンライン教育に関心を持つ教員らをつないだオンラインイベントを5回にわたって実施し、約2000人が参加した。『学級担任のための残業ゼロの仕事のルール』『教師のための叱らない技術』(共著)、『withコロナ時代の授業のあり方』など著書多数。

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(東京都公立小学校教諭 庄子 寛之 構成=太田美由紀)

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