「インドで爆売れ」ホンダの新型GB350にバイク乗りが熱狂する理由
プレジデントオンライン / 2021年4月22日 11時15分
■インド市場に投入した「ハイネスCB350」の日本仕様版
3月30日、ホンダの新型バイク「GB350」が発表された。排気量は350ccで、見た目はオーソドックスかつシンプルだ。だがこの何の変哲もないバイクが、「ベストセラー間違いなし」と業界を騒がせている。
GB350誕生の背景について、発売をいち早くスクープしたバイク誌『ヤングマシン』の編集長、松田大樹氏はこう語る。
「そもそもGB350は、ホンダがインド市場攻略のために投入した『ハイネスCB350』の日本仕様版なんです」
インドは現在、年間約2000万台の販売規模を持つ世界最大のバイクマーケットだ。その中・大排気量帯では、350~650ccクラスの機種を持つ地元メーカー『ロイヤルエンフィールド』が2019年に約70万台を生産しており、そのほとんどをインド国内で販売している。
同じく大排気量を得意とする米ハーレーダビッドソンの“世界”販売台数が年間約25万台、独BMWのそれが約18万台だと言えば、ロイヤルエンフィールドのインドにおける存在感がわかるだろう。
■インドで爆売れ…発売から4カ月で販売台数1万突破
「ハイネスCB350は、その巨人のシェアを切り崩すべく、ホンダがインド市場に投入した戦略車種です。ロイヤルエンフィールドの主力ゾーンである350ccという排気量、空冷ロングストローク単気筒というエンジン形式、丸目ライトやリヤの2本サスペンションを核とするクラシカルなデザインなど、インド国内ユーザーの嗜好に沿った……というか、もろにロイヤルエンフィールドにぶつけた構成になっているのが特徴です」(松田氏)
ホンダのもくろみはズバリ当たり、ハイネスCB350は発売からわずか4カ月で1万台を売り上げる驚異のスタートダッシュを記録した。
そのハイネスCB350を日本にも導入するにあたり、若干の仕様変更とともに、インド向けとは異なるカラーリングと名称が与えられたのが、GB350なのである。
では本来インド市場向けに作られたGB350が、なぜ日本でも大ヒット確実と目されているのだろう。
「ひとつは、古風なルックスにあります。同じような特徴を持つカワサキ『Z900RS』の大ヒットや、ヤマハ『SR400』の根強い人気からもわかるように、なんだかんだ言って年代問わず日本のユーザーの大半に好まれるのは、バイクらしいスタイルのバイクなんですよ」(松田氏)
■いわば「テイスト系」モデル
さらに、走行性能を突き詰めたスポーツ系のモデルではないことが、逆にGB350の強みとなっているという。『アンダー400』『タンデムスタイル』といったバイク専門誌の編集長を歴任してきた経歴を持つフリーライター、谷田貝洋暁氏が語る。
「ライダーは必ずしも全員が絶対性能の高さを求めているわけではありません。バイクに乗っても飛ばさず、エンジンの音やフィーリング、ゆったりとしたハンドリングなどを大切にする人もかなりいます。GB350はそうした層が求めている、いわば“テイスト系”のモデルなんです」
現代のライダーの大多数は、寝ても覚めてもバイクのことしか考えられないというタイプではなく、いろいろな趣味を持っていてそのひとつがバイクだという、“バイクも乗る”的なライトユーザー。そうした層はライフスタイルの一部としてバイクを取り入れているので、普段着で乗っても違和感のないバイクを選ぶ傾向にある。
「テイスト系で久々のニューモデルとなるGB350は、そうしたニーズにもピッタリ合致するので、バイク初乗り層、ビギナー層、女性層から年配層までが受け入れられる間口の広さを持っています。中排気量クラスでのテイスト系バイクは長年、ヤマハSR400の一人勝ち状態だったのですが、同車は排ガス規制や安全装備の義務化などの影響で、今年限りの生産終了が決まっています。偶然にもその空白を埋めるタイミングでの登場になったGB350は、SR400なき後の格好の受け皿としても機能するでしょう」(谷田貝氏)
■マニアやベテラン勢もうならせる性能と価格
その一方でGB350はライト層だけでなく、マニアや経験豊富なベテランをもうならせる要素を備えている。
「クラシックな形式の空冷単気筒エンジンというだけでなく、ピストンがシリンダー内部で長く上下動するロングストロークの設計になっているので、独特のドコドコドコ……という強い鼓動を堪能できます」(谷田貝氏)
「実車を目の当たりにすると、いかにも機械然としたエンジンの確かな存在感に加え、大柄な車格を持っているので、350ccながら全然チャチに見えない。うるさ方のおじさんライダーでも納得して乗れる押し出しと雰囲気があるんですよ」(松田氏)
そしてGB350の商品力を語る上で何より欠かすことができないのが、値付けだ。
「税込で55万円。現在、400ccクラスで最も安い車両がSR400の60万5000円、250ccクラスでもスズキ『ジクサー250』の44万8000円ですから、絶対的にも相対的にも非常に安いと言えます」(松田氏)
クラス内で最もリーズナブルだったSR400が、40年以上続くロングセラーモデルでありながら消滅してしまうのは、排ガス規制対策を施したり、装着が義務化されたABS(アンチロックブレーキシステム)を新規で追加するには、コスト面で見合わなくなったことが理由だった。
■「排気量のヒエラルキーを覆す」
「ところがGB350は最新の排ガス規制に対応し、ABS付きなのはもちろん、電子制御でスリップを防ぐトラクションコントロール、フルLEDの灯火類と装備も充実しているのですから、その点を考えればより割安感が増します。また同じホンダ内で比較しても、昨年250ccクラスのベストセラーになった『レブル250』が59万9500円~、125ccクラスで大ヒットした『CT125ハンターカブ』が44万円ですから、排気量のヒエラルキーを覆すGB350のコスパの高さがわかっていただけるのではないでしょうか。しかもホンダは9月30日まで、39歳以下の成約者に5万円分のクーポンを配布しているので、対象者は50万円ジャストで購入することができます」(松田氏)
「今は250ccクラスですら50万円で収まらないモデルの方が多数派で、買えるとすればせいぜい150ccクラス。年齢層や期間が限定されるとはいえ、350ccの本格バイクを50万円で手にできるのは、もうそれだけでニュースと言えます」(谷田貝氏)
もちろんGB350のバーゲンプライスは、インド製を中心とした部品やユニットを日本で最終組み立てすることで可能になっているのだが、そこは世界のホンダ、クオリティーコントロールに抜かりはないと見ていいだろう。
「GB350のようにトラディショナルなルックスのバイクは、日本では常に一定の需要があります。だからカタログにラインナップされていれば確実にある程度は売れるのですが、近年は日本専用に開発するための予算が取れ、手頃な価格設定ができるほどの販売台数までは見込めないというジレンマがあります。そんな中、世界最大の市場であるインド向けに作ったモデルが、日本人の好みにもど真ん中な『バイクらしい格好のバイク』だったのは、日本のライダーにとってラッキーだったのではないでしょうか」(松田氏)
■「GB350」に込めたホンダの戦略
松田氏率いるヤングマシンのWeb版では、インド市場投入前の段階からハイネスCB350の情報と日本発売の可能性を取り上げてきたが、その度に圧倒的なページビュー数を叩き出していて、読者からの関心も並々ならぬものがあるという。
ハイネスCB350をGB350としてわが国に導入するにあたり、販売数拡大という経営上の判断はもちろんあっただろう。
だが同時にもうひとつ、バイクのリーディングカンパニーとしてのホンダの責任感も抜きには語れない。
「国内二輪メーカーの中でマーケットの活性化を最も真剣に考えているのがホンダだと、常々私は感じています。トップシェアのメーカーが特徴ある商品を出せば、ユーザーが増え、パーツやアパレル業界もにぎわい、ライバル他社も対抗機種を出してくる。そうやって日本のバイクシーンを盛り上げるため、車両価格が年々高騰する中、誰もが購入できる価格のモデルを提供して市場の裾野を広げたい――というのもGB350発売の大きな理由だと思いますね」(松田氏)
単なるそろばん勘定だけではなく、ホンダの漢気(おとこぎ)も詰まった戦略的ニューモデルが、果たして周囲の予想通り快進撃を見せるのか。GB350の発売日は4月22日だ。
(プレジデントオンライン編集部)
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