1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「40歳までに退職が当たり前」リクルートこそが世界に通用する希有な日本企業である

プレジデントオンライン / 2021年4月18日 11時15分

リクルートホールディングスが登記上の本社を置くリクルートGINZA8ビル=2021年2月8日、東京都中央区 - 写真=時事通信フォト

世界に通用する企業にはどんな特徴があるか。経営共創基盤グループ会長の冨山和彦氏は「どんな時代も生き残っていける企業は“両利きの経営”ができている。日本における代表例はリクルートだ」という――。(第5回/全5回)

※本稿は、冨山和彦、田原総一朗『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』(角川新書)の一部を再編集したものです。

■新卒一括採用と終身雇用を廃止すべき

【田原】それで冨山さんは、ずっと日本型システムの外部から見てきた。いま、日本的経営を根底から変えなくちゃいけない時期に、冨山さんのサラリーマン社会の論理から離れた物の見方はとても大事だと思う。

冨山さんは根底から変えるためにはいわば憲法改正ぐらいの変革が会社にも必要で、憲法のレトリックにのっとった形で古い会社をしばる「旧憲法」と、これからの経営の指針となる「新憲法」を提示している。日本型企業の骨子を具体的に説明してほしい。

コーポレートトランスフォーメーション 新旧憲法比較
出所=『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』

【冨山】まずG型の大企業に対する私の主張は、終身雇用を前提とした雇用制度の見直しです。新卒を一括で採用し、一度雇った人は基本的に終身年功制で定年までというのをやめましょう。これは特に大企業ですね。

L型産業はだいぶ前からかなりジョブ型、技能職型で、転職は当たり前のことです。ある意味でL型のほうがすでに時代に適合していて、バスの運転手ならばバス会社やトラック物流会社を何社か渡り歩くというのは、特別驚くべきことではありません。

問題はそうした技能職が非正規雇用に結びつき、低い待遇になりがちであるという点です。経営側の側面から見ると、終身雇用は会社の新陳代謝、事業のイノベーションを阻害する一因になっています。

■生き残れる企業に共通する「両利き経営」

現在、世界的には「両利きの経営」というのが一つのトレンドになっています。スタンフォード大学のチャールズ・A・オライリー教授らが書いた同じタイトルの本(『両利きの経営』東洋経済新報社)が出て、彼の長年の友人として私も解説を寄せていますが、かいつまんで説明すると、次のような内容になります。

この先も何度もイノベーションの波がやってくる。かつてIBMがマイクロソフトに覇権を奪われ、そのマイクロソフトも携帯端末の世界ではアップルに敗北し、いまはGAFAの時代になっている。イノベーションというのは、時代のチャンピオンへの挑戦ですから、ある時に隆盛を極めた企業が没落するということは往々にしてある。

オライリーたちは時代の波に飲まれずに変化しながらも生き残っている企業、組織に目をつけ、イノベーションの波に飲まれるところと、そうではない企業で何が違うのかを調べあげました。

その結論が「両利き」が大事だというもので、「探索(自社の既存の認知の範囲を超えて、遠くに認知を広げていこうという行為)と深化(探索を通じて試したことの中から成功しそうなものを見極めて、磨き込んでいく活動)のバランスが高い次元で取れていること」を意味します。

■深化は得意でも探索を避けてきた日本企業

つまり自社の強みを磨き深めていくことと、自分たちにはできていない新しいこと、新しい能力を探して取り込んでいくこととのバランスを取っていないといけない。

日本型企業は探索はやらずに閉じられた世界で深化することにばかりこだわって、イノベーションの機会を逸してきました。そして事業としての寿命が終わっている既存事業を引っ張って稼ぐ力を失い、リスクの大きな未来投資能力、イノベーション能力を失った結果、破壊的イノベーションの時代に入ったこの30年間、長期停滞に陥っています。

その原因は同質性と連続性にあります。要はみんな同じメンバーで、社内の出世ばかりを目指すから、探索もろくにしないで、変化も嫌う。あるいは探索と言っても野球しかやったことのない人間がにわか勉強でサッカーやテニスなどの新領域の探索を行うので、判断を誤るし、探し当てても一流の事業に昇華できない。イノベーションの波が起きる、あるいは起こすためには、組織構成員も常に変化していないといけないんです。

まれにカネボウの化粧品事業やダイエーのコンビニエンスストア事業(ローソン事業)のように探索に大成功しても、従来の本業が苦しくなると、カネボウの場合は化粧品事業が古い繊維事業の赤字補塡(ほてん)で疲弊し、ダイエーでは翳(かげ)りが見えているGMS事業を救うために将来性のあるコンビニエンスストア事業を売却してしまった。

ローソン食料品店
写真=iStock.com/tupungato
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tupungato

同質的で連続的な集団はどうしてもそういう意思決定に傾くんです。

■「両利き経営」の代表例としてのリクルート

創業経営者がいてもやはり愛着があるのは自分たちが最初に成功させた祖業ですからそういうバイアスがかかる。もしあるべき「両利き経営」ができていたら、どちらも産業再生機構案件にはなっていません。

本当にグローバルで戦える会社を目指すなら、新卒一括採用生え抜きの同じ人材で回すより、経営層はもちろん、多くの人材が周期的に入れ替わりながら、その時々の状況に合わせて最適メンバーで戦えるようにすべきです。

【田原】冨山さんのいうことはよくわかるけど、もうちょっと実例がほしい。そんなモデルでうまくやってきた日本企業はあるのかな。

【冨山】やはり代表例はリクルートでしょうね。創業者の江副浩正(えぞえひろまさ)さんは光と影がある人ですが、彼の光の部分に関して言えば、日本的経営モデルというのをほぼまったく採用しないで、リクルートという会社をつくった偉大な起業家です。

【田原】終身雇用を採用しなかった。

【冨山】そうです、ほとんどの社員は40歳までに辞めています。別に解雇するんじゃないけど、昔は30歳まで、いまだと40歳までに独立できない社員はダメだという風潮が社内にある。だからリクルートからは様々な起業家が生まれています。

【田原】僕も江副は面白いと思っていて、ずっと付き合ってきた。彼が面白いのは、学生時代、2020年に100周年を迎えた東京大学新聞(東大の学生新聞)の広告担当だったことにある。

採用広告を企業に出させるというアイデアを発明して広告をかき集めて、だいぶ儲(もう)けた。その資金をもとに起業したリクルートも、最初は出版・広告業だった。

【冨山】出版業として出発しながら、紙の出版がダメだとなると、あっという間に跡形もなくやめちゃうんです。気がついたら全部ネットベースに変わっていました。出版業のなかで、あれだけのデジタルシフトを短期間でやったのは、リクルートだけでしょう。

■人材を囲わず“リクルート出身者”のエコシステムを作る

とにかく変わり身が早い。既存の事業をやめる勇気もすごいんですが、創業時の事業にこだわらずに、新しい事業をどんどん立ち上げているところがすごいんです。アントレプレナーシップが社員レベルにまで共有されて、現在まで続いている。こんな会社は日本だとリクルートくらいだと思います。

【田原】新しい事業をどんどん作るんだね。

【冨山】結局リクルートにおいて評価されるのは、儲かる事業を新しく作ることなんです。儲かる事業を新しく作ることが評価されるし、作った事業は、独立して続けてもらってもかまわない。だから社員はどんどんチャレンジする。

ベンチャーのタネを徹底的に探していくというモデルをつくり、長期に循環させていくというモデルは日本的経営とは相反するものです。そして、リクルートが持っている事業ポートフォリオはガンガン入れ替えていく。さらに日本的経営と真逆で、人材も囲わない。

だから、どんどん元リクルートだらけの世の中になって、会社員をやめて独立しましたというベンチャー企業の経営者に会うと、半分くらいはリクルートという状況になります。

彼らがリクルートの大きな意味でのエコシステムの中で、恩返しをしてくれるので、リクルート本体のブランド価値はどんどん上がり、それがビジネスにも好影響を与えて、リクルート自体がさらに発展して、そうなるとまた変な若者が集まってきて、おもしろいビジネスを立ち上げて……と循環するんですね。

何をやっているか分からない、何をこれからやるか分からない会社だから魅力的なんです。

■企業の持続的な成長力の源泉は新陳代謝力

私が社外取締役を務めているパナソニックも時に昭和な経営評論家やOBから「何をやっているのか分からない会社になってけしからん」と批判されます。

冨山和彦、田原総一朗『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』(角川新書)
冨山和彦、田原総一朗『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』(角川新書)

しかし、GAFAやマイクロソフトが何をやっている会社かスパッと言えますか?

今、ソニーや日立もテレビやウォークマンといった、モノで会社を分かりやすく語れなくなってから復活を遂げています。グローバル化とデジタル革命の破壊的イノベーションの時代、むしろ何をやっているかモノで語れる会社は危ない。社名もそういう名前はやめたほうがいいでしょう。

しかし、リクルートにしてもマイクロソフトにしても世の中に訴求している根本価値、コアコンピタンス(企業の中核となる強み)は揺らいでいない。松下幸之助によるパナソニックの経営理念「綱領」「信条」「私たちの遵奉すべき精神」には一言も「家電」も「メーカー」も出てきません。

それはある時代環境でその会社が世の中に役立つためのビジネス上の表現手段に過ぎない。時代が変われば新陳代謝するのは当たり前です。「両利き経営」の時代、企業の持続的な成長力の源泉は何と言っても新陳代謝力です。破壊的イノベーションの時代、日本的経営はその新陳代謝力において致命的に劣っている。だからG型産業では決別すべしと言っているんです。

【田原】人材が外に出ることが価値になっていって、それが人材流出じゃなくて、むしろリクルートにはプラスに働くのか。そういう発想は僕にはなかったな。

----------

冨山 和彦(とやま・かずひこ)
日本共創プラットフォーム代表取締役社長
1960年生まれ。東京大学法学部卒、在学中に司法試験合格。スタンフォード大学でMBA取得。2003年から4年間、産業再生機構COOとして三井鉱山やカネボウなどの再生に取り組む。機構解散後、2007年に経営共創基盤(IGPI)を設立し代表取締役CEO就任。2020年12月より現職。パナソニック社外取締役。

----------

----------

田原 総一朗(たはら・そういちろう)
ジャーナリスト
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所へ入社。テレビ東京を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。著書に『起業家のように考える。』ほか。

----------

(日本共創プラットフォーム代表取締役社長 冨山 和彦、ジャーナリスト 田原 総一朗)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください