「毎月赤字で老後は真っ暗」家計の4分の1を高額な"哲学サロン"につぎこむ44歳専業主婦の過去
プレジデントオンライン / 2021年5月22日 11時15分
■赤字家計の原因は大きすぎる「妻費」にあった
「このままでは老後資金が足りないので、なんとか貯められるようになりたいんです」
東北地方に住んでいる高崎美和さん(仮名・44歳)。コロナ禍のため、オンラインで家計相談を受けました。
美和さんは会社員の夫、健司さん(46歳)と二人暮らしです。20年前に結婚し、子どもを望んではいたのですが、美和さんが手術を要する病気にかかりました。今では完治しているのですが、そのような事情で子どもをあきらめ、夫婦二人で暮らしてきました。妻の病気がよくなってきても体力的な不安があり、パートをしても継続できないため、妻はずっと専業主婦。夫の収入だけで暮らしてきました。
老後資金が足りない、と不安に思う理由は、現在の貯金がたった20万円で“ほぼゼロ”と言えるから。夫は毎月33万円を超える手取り収入があります。加えて70歳半ばに差し掛かろうかという妻の70代の両親は、娘を不憫に思ってか、健司さんに申し訳なく思ってか、美和さんから生活費が不足すると聞いて毎月3万円を仕送りしてくれています。
収入はトータル36万円を超えるほどあり、十分にやりくり可能に思えるのですが、家計は毎月1万~2万円の赤字になりがち。この赤字が影響し、年間100万円ほど出る夫のボーナスも全然残りません。「このままではいけない」と思い、支出の見直しを始めました。まだ赤字は残っているのですが、以前よりはその赤字額が減っていると話します。
毎月の支出内容を聞くと、食費、水道光熱費、日用品代など、支出はそこそこコントロールされているように思えます。では、なぜ赤字なのか。いったい何が総支出を多くしているのか。それは、大きすぎる「妻費」に原因があることがわかりました。
■月9万円近い「妻費」は、遠方の哲学サロンに通うための費用
月9万円近くに達している妻費の内訳は、主に哲学系の学問を学ぶための費用。哲学者が説く「人生とは」「生きがいを持って生きるとは」といったことを学ぶため、師事する“先生”が開く教室に隔週で通っています。その教室は隣県だけでなく関東地方にもあるため、交通費もかなりかかります。
子どもをあきらめ、仕事もできず、人生どうしたらよいかと思ったときに読んだ本に影響され、ずっとこの教室通いを続けてきたそうです。徐々にその費用がかさんでいたのです。
この教室は、美和さんの「心のよりどころ」。しかし、現状を放置すると2人の老後資金が貯まらないことは明らかです。「お金が貯まったら、できれば大学に入りなおして哲学を学びたい」とも言いますが、そうしたプランも実現しづらい状況です。
今回、家計を相談しようと思ったことをきっかけに、美和さんの学問との向き合い方も考えていかなければいけないでしょう。
まず、将来の暮らしのために第一に優先すべきことは何か。人生や生き方について学んでいる美和さんに改めて問いました。すると、回答は「お金が不足しないように貯めること」と。
理由はお金がないと自分が思うような暮らしも、やりたいこともできないからということでした。「では、いま継続している学問とどちらかを諦めるなら?」と問いかけると、しばらく時間はかかりましたが「夫と暮らすためのお金を貯めること」と。
美和さんの中での優先順位は決まっているようです。そのため、次に支出が明らかに多い、美和さんの学問への支出について考えました。毎月9万円近くということは、月の支出の25%以上のコスト。支出の割合が大きいと感じていなければならないのですが、長年続けてきたせいでしょうか。「当たり前」という感覚になっていたようです。
教室に通うのを「やめられる・やめられない」など何度も考えが前後しながら、美和さんはしばらく葛藤しました。そして、最終的に関東の教室通いを断念することにしました。理由は2つ。コロナ禍であること、関東圏までは交通費を含めると費用が高くつくこと。節約と感染予防の目的をはっきりさせることで自分自身でも納得できたようです。
これだけで月5万6000円の支出減。そしてプランの見直しをしていないスマートフォンの契約内容の見直し(1万7000円減)、サブスクの見直し(2000円減)、無駄になりがちな食材の見直し(5000円減)などをし、月計8万円の支出削減に成功しました。その結果、月6万円を超える黒字家計によみがえったのです。
■月6万円の黒字になって始めた老後資金作りの作戦とは
もう妻の両親からの仕送りがなくても生活はできるので、仕送りを断る連絡を入れたのですが、妻の両親は「わずかだけれど、相続の意味もかねて」と継続すると頑として譲らなかったそうで、引き続き受け取ることにしたそうです。
そのため、毎月6万円を超える余剰金が確実に。まずは生活防衛資金作りを目的に貯金をすることにしました。目標額は、削減後の生活費の1年分となる約300万円。そして、老後資金作りも併走させていくため、まずは夫が私のところで投資教育を受けながら、iDeCoを月2万3000円で始めていくことにしました。残る月4万3000円と、年約100万円のボーナスを貯金していきます。
これらが順調に進んでいけば、美和さんが哲学系の通信大学に通うことを検討してみることも可能です。卒業後の働き方やどのように学びを暮らしに役立てるかは未検討。現状は美和さん自身の純粋な学びの楽しみですが、今後、将来の自分像を明らかにでき、さらにお金を貯める意欲につながるのならより有意義なものになるでしょう。
ところで、以前陥っていた赤字家計の実態を、夫の健司さんはiDeCoの話を聞きに来るまで知りませんでした。ただ、病気になった時の憔悴(しょうすい)した美和さんの様子をよく知っていたため、理解を示し、今後はお金の使い方を改善するという前提の下、将来の通信大学入学について理解を示してくれました。
とてもやさしい夫です。目標が見つかったので、お金を貯めることを頑張れそうだと美和さんは話し、現在も継続して頑張っています。
今回は少し特殊なケースの家計事例でしたが、知らないうちにあることに大きなお金をかけてしまうことがあります。本人にとって、それは心のよりどころであったり、将来目指すものであったりとさまざまな意味がある場合があり、「浪費」と切って捨てることはできません。ただ、だらだらと支出を続けているのであれば、時期を見てその必要性を再確認することも必要です。
人生には年代に応じたステージがあり、若いうちは自分の将来に向けて自己投資をしていくことも良いでしょうが、仕事をして収入を得られる期間には限りがあります。それが見える年代になると、老後の生活も視野に入れて家計をやりくりしなければなりません。
その取り組み内容は、各家庭の収入や貯蓄額、考え方などにより異なるため断言はできませんが、「今のままではいけない」と思えた時が行動を変える絶好のタイミングです。気付きをそのままにしてしまわず、立ち止まって今すべきことを考えてみましょう。
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家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表
お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の確実な再生をめざし、個別の相談・指導に高い評価を受けている。これまでの相談件数は2万3000件を突破。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。著書は60万部を超える『はじめての人のための3000円投資生活』(アスコム)や『年収200万円からの貯金生活宣言』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を代表作とし、著作は143冊、累計330万部となる。オンラインサロン「横山光昭のFPコンサル研究所」を主宰。
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(家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表 横山 光昭)
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