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「コロナ禍だからゴメンね」とリストラを実行する経営者にSDGsバッジをつける資格はない

プレジデントオンライン / 2021年7月8日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shironagasukujira

コロナ禍で企業のリストラの動きが加速している。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「かつてはリストラすることを恥に思う経営者が多く、やむなく実施する場合も転籍・出向先を探した。90年代以降、資質に欠けた経営者が増え、人員削減で延命を図る企業が増えた」。そこで溝上氏が考えた「不幸を生まないリストラ」の5つの条件とは――。

■「社外でのご活躍を」止まらない企業のリストラの作法がひどい

コロナ禍で拡大した企業のリストラが今も収まる気配がない。上場企業の希望退職の募集企業・人数は2020年に93社、1万8635人だったが、21年6月3日時点で50社、1万225人と1万人を超えている(東京商工リサーチ調査)。筆者の調査ではその後も5社増え、7月3日時点で計55社、1万685人に達している。

どんな企業がリストラをするのか。

もちろん、コロナの影響で赤字決算に陥った企業も多いが、製造業を中心に3分の1の企業は黒字企業だ。ワクチン接種でコロナ収束の兆しが見えてきたとはいえ、今後も昨年を上回る勢いで実施される可能性が高い。

希望退職者募集という名の本格的なリストラが始まったのは1990年代のバブル崩壊以降だ。90年代後半の平成不況に続き、2000年代のITバブル不況、リーマンショックと断続的に大型リストラが繰り返されてきた。

その間のリストラの現場を長年にわたって取材してきた。最初は「奥さんと子どもはいるか」という家族の状況を考慮しながら腫れ物に触るようにおっかなびっくりの姿勢で対象者を選定してきたが、そのうち株主の支持を得られると、年齢を基準に大胆かつ大規模にバッサリと切る姿勢に転じ、やがて常態化していったという印象だ。

■再就職先を探すのは難しいのは百も承知で首切り

そもそも、なぜリストラを実施するのか。

言うまでもなく業績悪化などの要因で企業が生き残るために事業の縮小や新規事業による再建を図るために余剰となる人員を削減する必要があるからだ。

しかし、それは会社の理屈であり、社員にとってはたまったものではない。

希望退職募集の個人面談で突然「社外でのご活躍をお祈りします」などと言われたら誰もがショックを受け、怒りがわいてくるだろう。なぜなら、日本では中高年がターゲットにされるため再就職先を探すのは難しく、それは不況期ではなおさらだということを、言う側は百も承知だからだ。

運良く見つかっても減収は避けられず、住宅ローンや子どもの学費も払えず、家族が路頭に迷ってしまうことになりかねない。

■業績が悪化する前に経営者は何かひとつでも手を打ったのか

過日、人事コンサルティング会社フォー・ノーツの西尾太社長と対談する機会があった。その時の話の中で出てきたテーマのひとつが「不幸を生まないリストラ」だった。

リストラありきの時代に、西尾氏は不幸を生まない方法とは何かを熟考しており、いろいろと考えさせられた。

筆者も、これまで取材したリストラ案件の記事を振り返り、リストラに至る経緯や経営者の姿勢、社員の思いを検証し、自分なりに不幸を生まないリストラについて考えてみた。

解雇予告通知書
写真=iStock.com/shironagasukujira
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shironagasukujira

そもそもリストラの原因が業績悪化であるとすれば、業績悪化を招く前にやるべきことは次の2つだ。

① 市場の動向を見据えて事業の縮小や新規事業領域への投資など構造改革に着手する
② 事業縮小で余剰となった人員を新規事業要員として職種転換教育の実施や不足する部門への配置を行う

これは経営のイロハであり経営者の責務であるが、これを怠り、業績悪化を引き起こせば明らかに経営者の責任である。ましてや社員のクビを切ることがあってはならないというのが1990年代初頭までの日本企業の不文律であった。

■トヨタ自動車元会長奥田碩氏「経営者よ、クビ切りするなら切腹せよ」

ところが責任を感じて辞任する経営者は少なくなり、社員をリストラすることで責任回避しようという経営者が現れ始めた。

それに警鐘を鳴らしたのが、トヨタ自動車会長の奥田碩経団連会長(当時)だった。『文藝春秋』の1999年10月号で「経営者よ、クビ切りするなら切腹せよ」という論文を発表。その中で、奥田氏はこう書いている。

「人が余って仕方がないほど仕事が少なくなり、会社を小さくしたのは誰ですか、といえばこれはすべて経営者の責任です」
「仮に現在、人が余っているというのなら、その人材を使って新しいビジネスに生かす努力をしてこそ経営者というものです。それもできないようでは、経営者の名に値しません」

構造改革もしないで事業縮小を余儀なくされ、その結果、人員削減に踏み切るのは経営者失格というのは、奥田氏だけではなく、旧来の経営者が持ち合わせていた経営哲学であり倫理観だった。

■構造改革をやらずにさっさと人員削減に踏み切る経営者の言い分

だが、その後、構造改革などやるべきことをやらずに人員削減に踏み切る経営者が増えていく。なぜ業績が悪化する前に構造改革をしなかったのか。2000年代に大規模リストラを実施した従業員5万人超の大手メーカーの元人事担当役員は後にこう述懐している。

「市場競争に敗れて赤字になることを会社としてなぜ止められなかったのかという思いがある。本来は経営が安定している時に構造改革をするべきだろうが、先が見えている経営者はそんなにいなかった。逆に先を見越して改革しようとすれば反発を招く。周囲の信頼や人望のある経営者であれば支持するかもしれないが、反発を恐れて改革に躊躇する経営者も多かった。結局、手を打たないままに業績が悪化し、リストラにつながった」

経営者の資質に欠け、さらに覚悟が不足していたことが“失われた20年”を招き、人員削減で延命を図る企業が増えたのだろう。

夕暮れの東京
写真=iStock.com/voyata
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/voyata

もちろん今でも長期雇用を重視している企業もある。その多くは「人を基軸」とする経営を掲げ、危機的状況に陥っても雇用を守ることを最優先する企業である。

■今の大企業の考え方「雇用を守る」派vs「株主価値の増大重視」派

前出の元人事担当役員は今の大手企業の考え方は以下の2つに分かれていると指摘する。

① 雇用を守ることを前提に企業の成長を目指して改革を推進する企業
② 株主価値の増大など企業活力を重視した成長を目指して改革を推進する企業

この目的によって改革の中身は違ってくる。

当然、②の企業は人員削減も改革の重要な柱となる。①と②の企業を見分けるのは難しいかもしれないが、少なくとも2000年以降、2回以上のリストラを実施している企業は②のタイプと見て間違いないだろう。

しかし①の企業であっても雇用を守ろうとして改革を徐々に進めてきたが、最後は間に合わなくなってリストラに至った企業もある。

■社員を路頭に迷わせない「不幸を生まないリストラ」5カ条

それでは今後何らかのリストラが避けられない場合、会社や経営者がやるべき「不幸を生まないリストラ」の方法もある。以下の5つだ。

① 年功的賃金や年功的昇格・昇進制度からの脱却
② 厳格な人事評価制度の確立と運用による緊張感と意欲の醸成
③ 自社以外でも通用する知識・スキルの修得と「キャリア自立」などの意識改革の推進
④ 職種・キャリア転換教育と常設の早期退職優遇制度(独立・転職支援制度)の制度化
⑤ 「雇用シェア」を活用した在籍出向・転籍出向を促す

なぜ日本のリストラでは中高年社員がターゲットになるのか。希望退職者募集の対象者はほとんどが45歳ないし40歳以上となっているが、理由の一つは給与が高いからである。

年功的賃金制度は、若いときは働きぶりに対して低い賃金を支払い、その分を40代以降に支払う(賃金の後払い)という構造になっている。しかしそれが機能しなくなった結果が高額給与者の中高年の削減というリストラだ。

そうしないためには①のように若いときからスキルと成果に基づいた賃金を支払い、年齢に関係のない昇格・昇進を行う。同時に会社が求めるスキルレベルに達しない、成果を出せない場合は降格や管理職から降りてもらう仕組みを構築するべきだろう。

スキル・成果と賃金が一致していれば仮にリストラする場合、ターゲットが中高年になることは少ないだろう。逆に一定のスキルレベルに達するのに時間を要する若い世代がターゲットになりやすいともいえる。

■欧米企業には後から雇った人が先に解雇されるという原則

ちなみに欧米企業には「先任権」(セニョリティ)と呼ぶ、後から雇い入れられた人が先に解雇されるという原則がある。アメリカでもフォードなどの自動車メーカーのレイオフでは労働組合と結んだ労働協約で先任権原則が適用されている。後から雇い入れられた若い人も対象になることによって、労働市場が脆弱(ぜいじゃく)な日本で中高年だけがリストラされて路頭に迷うという悲劇を回避できる。

スキル・成果と賃金の一致を十全に機能させるには②の厳格な人事評価制度の確立が不可欠だ。企業によっては上司が部下を厳しく評価するのを嫌がり、5段階評価(S、A、B、C、D)の真ん中のB評価をつけてしまう“中心化”傾向が蔓延しているところがある。

五つ星の評価をする女性の手元
写真=iStock.com/Prostock-Studio
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一般的にリストラの際に「辞めてほしい」人は人事評価がベースになるが、評価が低い社員が少なければB評価もターゲットにされる。

ところが本人は「B評価で会社に貢献しているのになぜ俺が辞めなければいけないのか」とショックを受ける。上司がよかれと思ってつけた評価があだとなり、結果的に「今のままではリストラされるかもしれない」という予見可能性を失わせてしまうのだ。

そのためにも厳格な人事評価制度を確立し、「あなたの今の働きぶりが続けば降格され、給与が下がりますよ」と、イエローカードを突きつけ、緊張感を持たせることで仕事への奮起を促すことが重要だ。

企業の人材育成やスキル教育の多くは自社の業務を習熟させるために行うのが一般的だ。しかし自社のみに通じる特殊スキルに焦点が当てられ、③のように他社でも活用できる普遍的スキルの修得には無頓着だった。その揚げ句に会社を退出させるのは、泳げない社員を大海に放り出すようなものである。

たとえば大企業の人事部員は一定の人事業務には精通していても、同じ管理部門の経理・財務に通じている人は少ない。人事の仕事以外に財務・経理や総務の仕事も知っていれば、拾ってくれる企業はいくらでもある。

そのためにも若いときから個人としてどういうキャリアを築きたいのかを自ら考えさせ、それに向けたスキルや知識の修得を支援するプログラムを用意し、「キャリア自立」を促すことが重要だ。

会社の寿命は20年と言われるが、仮に倒産しても社員が路頭に迷わずに外でも“泳げる”スキルを提供することはCSR(企業の社会的責任)の観点からも企業の責務であるべきだ。

■会社が早期に「キャリア自立」を支援すれば“不幸”は生まれない

企業が生き残るためには業態の転換や新規事業への進出は避けられない。だからといって古いスキルを持つ人材を外に放出するのは経営者の責任放棄である。

④のように新規事業に必要なスキルを修得させる職種転換研修を実施し、活躍の場を提供していくべきだろう。それでも「今の年齢で新しいスキルを覚えるのはきつい」と言う社員もいるだろう。そんな人を使ってくれる部署やグループ企業があれば再配置すればよいが、それでも難しい場合は、緊急避難的なリストラの希望退職者募集ではなく常設の「早期退職優遇制度」によって自発的に応募できる仕組みを用意しておくことも必要だ。

この仕組みの効用について建設関連会社の人事部長はこう語る。

「一時的に大量の社員を退職させる希望退職はリスクが大きい。引き留めても優秀社員の流出は避けられないし、残った社員のモチベーションも悪化させる。対象になった社員も『半年以内に辞めるか、辞めないか決めろ』と言われても困る。恒常的な早期退職優遇制度があれば、辞めたいと思ったときに辞められる。実際に在籍中に転職の準備をして転職する人もいれば、長年計画していた起業にチャレンジする人もいる。あるいは故郷に戻って知人の会社で働くという人もいる」

会社が早期に「キャリア自立」を支援すれば、個々の社員が人生の生き方を自ら選択するきっかけにもなるだろう。

じつは1990年代のリストラでは、希望退職募集を実施する前に、グループ会社や関連会社にお願いし、転籍出向先を探すのが一般的だった。当時の人事部員は極力解雇する人を少なくするために駆け回ったものだが、そのグループ会社や関連会社も引き取る余裕がなくなり、いつの間にかそういうこともしなくなった。

■社員を放り出す経営者にSDGsのバッジをつける資格はない

一方、コロナ禍で「雇用シェア」という新しい動きも出ている。人員過剰な企業の社員を人手不足の企業に一時的にレンタルする「在籍出向」が中心であるが、メディアでもJALやANAの雇用シェアが注目を浴びている。

じつは取材してわかったことは、異業種への出向ということで、当初はノウハウもなく企業間のマッチングが難しいことだった。

しかし、徐々にノウハウが蓄積されつつあり、政府系の産業雇用安定センターを中心に民間の人材サービス会社も雇用シェアに乗り出している。

このノウハウは当然「転籍出向」にも活かせるはずだ。やむをえず離職を余儀なくされる社員が発生した場合、転籍出向という形で新しい企業で1年間働き、そこでの給与を出向元が6割支払い、2年目に転籍する。これによって失業なき労働移動を実現する道もあるのではないか。

以上がこれまでのリストラの歴史を振り返ったとき、筆者が考える「不幸を生まないリストラ」の5カ条だ。

リストラしないことに越したことはないが、少なくともこのすべてをやりきることが企業に今、求められているのではないか。

SDGsポスター
出典=国際連合広報センター

ブームとなっている企業に社会的役割を求める国連のSDGs(持続可能な開発目標)の8番目は「すべての人のための生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の推進」を目指すことである。

突然、社員を放り出すような企業の経営者にSDGsのバッジをつける資格はないだろう。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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