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対中政策に集中するはずが…アフガン撤退で逆に中国有利になったバイデン政権の大誤算

プレジデントオンライン / 2021年9月6日 10時15分

ジョー・バイデン米国大統領=2021年9月2日、ホワイトハウス - 写真=CNP/時事通信フォト

■「アフガニスタン戦争」は米国の敗北に終わった

8月30日、米軍はアフガニスタンからの撤退を完了した。これによって、20年間続いた米国史上最長のアフガニスタン戦争はひとまず終結した。バイデン政権は、今後、外交主導でイスラム勢力との新しい関係を目指すとしている。ただ、その実態は米国の敗北といえるものだろう。

アフガニスタンからの撤退の背景には、最長の戦争に米国自身がもう耐えられなくなったことがある。バイデン政権としてはアフガニスタンから手を引き、台頭著しい中国への対策に勢力を集中する意図があるとみられる。

今回の米国の撤退は、これから世界情勢に重要な影響を与えるはずだ。中東地域における米国の影響力は低下し、テロのリスクは高まるだろう。見逃せないのは、バイデン政権の撤退作戦には大きな誤算があったことだ。米国軍撤退後、タリバンがこれほど早く首都カブールを制圧すると予測できていなかった。そのため、国外に脱出できずアフガニスタン国内に取り残された人は多く、米国内外でバイデン政権への批判が増えている。アフガニスタン撤退は、バイデン政権の求心力低下につながる可能性がある。

■撤退した最大の理由は「対中政策への集中」

アフガニスタンから撤退した最大の理由は、バイデン政権が政治、経済、安全保障面での対中政策に集中して取り組むためだ。人工知能(AI)などIT先端分野を中心に、中国の脅威は増している。

台湾海峡やインド太平洋地域における中国の影響力拡大は世界情勢を不安定化させる要因だ。人権問題や脱炭素に関する取り組みでも、対中政策の重要性は増している。米国が中国の脅威に対抗し、基軸国家としての地位を守るためには、中東地域に分散してきた力を一つにまとめ、対中政策に専心しなければならない。

それに加えて、米国の世論は過去最長のアフガニスタン戦争のコストに耐えられなくなっている。そのため、多くの世論調査において、アフガニスタンからの撤退を支持する割合が50%を上回っている。

■“敵の敵は味方”で中ロがタリバンと組む可能性も

米国がアフガニスタンから撤退したことによって最も大きな影響が出るのが、世界情勢だ。まず懸念されるのが、テロのリスクだ。米国は対中政策に全集中する。その結果として、アフガニスタンおよび中東地域における米国の影響力は弱まり、イスラム勢力が台頭する展開が懸念される。

カブール街の眺め、アフガニスタン
※写真はイメージです。(写真=iStock.com/christophe_cerisier)

アフガニスタンがイスラム国やアルカイダなど、テロの温床となる可能性も高まっている。アフガニスタンから逃れようとする難民に紛れ込んでテロリストが他国に入り、攻撃が行われれば世界の安全保障体制には大きなマイナスだ。

2つ目に、“敵の敵は味方”のロジックにもとづいて、タリバンが米国と対立する中国、ロシアとの関係を強める可能性も高まっている。それは、国際社会における中国とロシアの発言力が増す要因であり、世界の政治情勢にとっては大きな変化になりえる。すでに中国共産党政権はタリバンとの会談を実施し、テロを非難する一方で、アフガニスタンの復興に協力する姿勢を示し、欧米との違いを鮮明にしている。その背景の一つには、アフガニスタンから中国にイスラム過激派が入り込むことを防ぐ狙いがあるだろう。

■支援してきた政府軍の実力も把握できていなかったのか

世界情勢への影響を考えた時、特に懸念されるのが、バイデン政権が実行したアフガニスタンからの撤退作戦だ。撤退作戦に関して、バイデン政権には誤算があった。

バイデン政権は、タリバンがこれほど早期にカブールを制圧し、アフガニスタンを掌握することを想定していなかった。米国の報道では、6月下旬の時点で米国の安全保障の関係者らは、8月末に米軍がアフガニスタンから撤退してから6カ月以内にカブールが陥落する可能性があると予想していた。

その後、8月11日までに米国では、政府内で90日以内にカブールが制圧されるとの予測があるとの報道がなされた。その時点で、米国は、タリバン勢力が首都を包囲したとしても、米国が装備を提供し訓練を施したアフガニスタン政府軍には数カ月は持ちこたえる力があると判断していたわけだ。

しかし、一連のバイデン政権の予測が間違っていたことが明らかになった。8月15日には、米国の想定よりもかなり早くカブールはタリバンに制圧された。同日、ガニ大統領が国外に脱出し、後にアラブ首長国連邦に滞在していることが判明している。米国はタリバンの攻勢力だけでなく、自ら支援してきたアフガニスタン政府の実力も正確に理解できていなかったということになる。

■撤退作戦そのものに重大な瑕疵があった

それにもかかわらず、バイデン大統領は撤退期限を延長しなかった。その結果、誤った判断にもとづいた撤退作戦の不備が表面化した。まず、タリバンの圧政から逃れようと国外への脱出を求める人が空港に殺到した。その中で8月26日にはカブール空港で自爆テロが発生し、米軍をはじめ多数の犠牲者が出たことは世界に衝撃を与えた。

8月30日の米軍撤退後もアフガニスタンから脱出できない人が多くいる。米軍への協力者の安全や、女性の人権への懸念も日増しに高まっている。想定よりも早くタリバンがアフガニスタンを掌握したこと、脱出を望むすべての人が脱出できなかったということは、米国の撤退作戦そのものに重大な瑕疵(かし)があったということだ。

■世界各国は「米国の力が弱まっている」と懸念

米国内外からバイデン政権の撤退作戦への批判が強まっている。バイデン大統領は、撤退は正しかったと主張しているが、民主・共和両党に加え、米世論からも撤退作戦が混乱を深刻化させていると批判が相次いでいる。

ホワイトハウスでの反戦抗議者
※写真はイメージです。(写真=iStock.com/E4C)

米国外からも、バイデン政権への懸念が増えている。各国主要紙を確認すると、米軍のアフガニスタン撤退は米国の敗北と位置づけられ、政治、経済、安全保障の基軸国家としての役割を果たしてきた米国の力が弱まっているとの認識が増している。

今回の撤退作戦の実行は、もし自国の安全保障が脅かされた場合に米国は守ってくれるだろうか、という米国の同盟国をはじめ国際世論の不安を高めている。欧州連合(EU)のボレル外務・安全保障政策上級代表はEUの利益を守るために独自の部隊を創設する考えを示した。

また、シンガポールのリー・シェンロン首相はカマラ・ハリス米副大統領との記者会見にて「インド太平洋地域で米国が自国をどう位置づけるかによって、各国の米国に対する評価が決まる」と述べた。そうした発言からは、安全保障面での米国への信頼感は一段と低下したとの各国の認識が読み取れる。

■「対中政策に全集中」のはずが、中国を利する結果に

その一方で、アフガニスタンがタリバンに掌握されたのち、中国の国営メディアは国際世論における米国の信頼感は低下したとして台湾を揺さぶろうとする論評を出した。一党独裁体制を維持し、国内での求心力を維持したい習近平国家主席をはじめ共産党指導部にとって、アフガニスタン戦争における米国の敗北は大きな追い風だろう。

バイデン政権は、アフガニスタンからの撤退計画を入念に準備し、さまざまな展開に確実に対応して作戦を実行し、国際世論の安心を保つことができなかった。その意味で、今回の撤退作戦はバイデン政権の失策であり、求心力を低下させる要因だ。今後、アフガニスタン国内情勢が一段と不安定化し、それが中東地域にも広がればバイデン政権への批判はさらに増す。それは、対中政策への集中を目指すバイデン政権にとって足かせとなるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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