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気休めにしては危険すぎる…現役医師が「空間除菌グッズは使うな」と断言する理由【2021上半期BEST5】

プレジデントオンライン / 2021年9月25日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

2021年上半期(1月~6月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。健康部門の第3位は――。(初公開日:2021年4月23日)
「空間除菌」をうたう商品がたくさん販売されている。しかしダマされてはいけない。内科医の名取宏氏は「空間除菌グッズは限定された環境下でしか効果を発揮できず、除菌能力は低い。むしろ咳や呼吸困難などの健康被害も出ている。気休めとして使うものとしては危険すぎる」という――。

■「空間除菌」グッズの位置付けは医薬品ではなく雑貨

新型コロナウイルス感染症が流行してすでに1年以上が経ちました。この原稿を書いている2021年4月上旬の時点では、緊急事態宣言は解除されたものの、各地で感染者の増加が見られます。ワクチンの接種もはじまっていますが、接種者の割合は人口の1%にも達していません。手洗い、マスク着用、三密の回避、会食の自粛といった感染対策を続けることが必要です。

なかには、ちょっと怪しい感染対策もあります。空中に消毒薬を拡散させることで空気を消毒すると称する、いわゆる「空間除菌」は、しきりと宣伝されています。据え置きタイプ、首から下げるタイプ、スプレータイプなどさまざまな商品が販売されていますが、空間除菌によって新型コロナウイルスの感染を予防できるという臨床的証拠はありません。海外も含め、空間除菌を推奨している公的機関もありません。厚生労働省のサイトには、

「消毒剤や、その他ウイルスの量を減少させる物質について、人の眼や皮膚に付着したり、吸い込むおそれのある場所での空間噴霧をおすすめしていません」
「これまで、消毒剤の有効かつ安全な空間噴霧方法について、科学的に確認が行われた例はありません。また、現時点では、薬機法に基づいて品質・有効性・安全性が確認され、「空間噴霧用の消毒剤」として承認が得られた医薬品・医薬部外品も、ありません」(※1)

と書かれています。

ではいったい、空間除菌グッズは、医薬品や医薬部外品でなければ何なのでしょうか。それは「雑貨」です。大手メーカーの宣伝文句をよく見ると「新型コロナの感染予防に効果がある」とは一言も書かれていません。

(※1)新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)

■「ウイルスを99%除去できる」は本当か

雑貨なのに感染予防の効果効能をうたうと法律違反になるからです。新型コロナの流行以前から、空間除菌グッズを販売する会社は、景品表示法に基づいて消費者庁からしばしば措置命令を受けています。消費者にはあたかも感染予防効果があると誤認させる一方で、消費者庁からはギリギリ怒られないように、広告表現が工夫されていてある意味感心します。

メーカーのサイトには「ウイルスを99%除去できる」などといった宣伝文句が書いてあります。空間除菌グッズに空気中を漂うウイルスや細菌を不活化させる一定の働きがあるのは本当です。

しかし、実験室の条件下でウイルスを除去できても、実際に使用される環境下で性能を発揮できなければ意味がありません。冬の屋内を想定した気温23度、相対湿度30%の環境下で、「クレベリンG(大幸薬品)」を用いた実験では、空中浮遊インフルエンザウイルスの不活化の効果は確認されませんでした(※2)

顕微鏡でみたコロナウイルスと、マスク姿の女性
写真=iStock.com/imtmphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imtmphoto

「ウイルスを99%除去できるから新型コロナの感染予防にも役に立つのだろう」と誤解するのは消費者の勝手というわけでしょう。

(※2)西村秀一、ウイルス不活化効果を標榜する二酸化塩素ガス放散製剤の実用性の有無の検証―冬季室内相当の温湿度での空中浮遊インフルエンザウイルスの不活化について―、日本環境感染学会誌/31巻(2016)5号

■効果や安全性を厳密に検証していない空間除菌グッズ

新しい薬やワクチンの開発では、試験管内や動物実験で有望でも、実際に使ってみるとまるで効果がなかったり、害が大きかったりすることは、よくあります。

なので、必ず臨床試験で効果や安全性を確認します。空間除菌については建物内でインフルエンザ様疾患や児童の欠席を評価した研究はあるのはありますが、どちらも小規模で、臨床研究計画が事前登録されているかどうか論文に記載がなく、ランダム化もされていません(※3)

これらの研究は10年以上前に発表され、結論部分で今後の検証が必要だと書かれています。もし私が空間除菌製剤を製造・販売するメーカーの責任者で、空間除菌に感染予防効果があると信じているとしたら、次はより質の高い研究を計画・実施します。具体的には臨床研究計画を公的な第三者機関に事前に登録し、ランダム化比較試験を行い、国際的な医学雑誌に発表します。

事前登録をする理由はインチキの防止です。事前登録なしの研究成果を発表しても、小規模な研究をたくさん行い、自社商品に都合の悪い結果が出た研究は発表せず、偶然でもよいから有意差が出た研究だけを選んで発表したと疑われます。

ランダム化の理由は介入群と対象群の背景の差によるバイアスを防ぐためです。インチキやバイアスの可能性を排除した質の高い研究で効果を証明できれば大手を振って効果を謳えますし、商品も売れて会社の利益にもなります。何よりも世界中の人たちを感染症から守ることができます。

(※3)三村敬司ほか、二酸化塩素放出薬のインフルエンザ様疾患に対する予防効果、日本環境感染学会誌/25巻(2010)5号
※Norio Ogata and Takashi Shibata, Effect of chlorine dioxide gas of extremely low concentration on absenteeism of schoolchildren, International Journal of Medicine and Medical Sciences Vol. 1(7)pp. 288-289, July, 2009

■効果がないだけでなく人体に有害な可能性も

一方、もし空間除菌の感染予防効果を信じていなければ、わざわざ金をかけてランダム化比較試験なんかやりません。効果がないことがヤブヘビでばれてしまうリスクすらあります。

これまで通り、「効果がありそう」という誤解を維持させ続けたまま「雑貨」で売り続けます。小規模な先行研究から10年以上経っていますが、私の知る限りでは、空間除菌の感染予防効果を検証するランダム化比較試験は発表されていませんし、計画すらされていません。

それでも感染を予防する可能性を否定できない以上、空間除菌をやることはやらないよりはましだと思う読者もいらっしゃるかもしれません。ただ、それは空間除菌に害がなければの話です。ウイルスに影響を及ぼすのに人体にはまったくの安全という化学物質は存在しません。

短時間で空気中のウイルスを不活化できる濃度の化学物質は、同時に人に有害である可能性があります。安全性を優先して濃度を薄くすると今度は効果が期待できません。販売されている商品がそれぞれの使用条件下で、ウイルスを不活化できるが人体に害のない適正な濃度を維持できるとは限りません。そもそもそんな適正な濃度があるのかどうかも疑問です。

■咳や化学熱傷などの健康被害が続出している

空間除菌で使われている化学物質が、水道水の消毒や食物添加物として使用されているから安全であるかのような主張もありますが、論点がすり替わっています。

空間に散布・拡散され、気道の粘膜に触れても安全であるかどうかが論点です。作用場所が変われば人体に対する影響も変わります。たとえばアルコールによる手指消毒はおおむね安全ですが、それは皮膚が角質に守られているからで、空中に散布し吸い込めば有害です。

個人差も心配です。アルコールによる手指消毒はおおむね安全だと書きましたが、人によっては皮膚にトラブルが起きます。アルコール消毒なら個人が気をつけていれば避けられますが、空間除菌はそうはいきません。

小児科医と少女
写真=iStock.com/Vasyl Dolmatov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vasyl Dolmatov

99人には大丈夫である濃度でも残りの1人には有害かもしれません。臨床試験を経て承認された薬剤なら、有害事象の情報は集められますし、市販後も調査は続けられ、副作用の起きる頻度はだいたいわかります。しかし、「雑貨」にはそのような調査義務はありません。

メーカーが把握しているかどうかはともかくとして、空間除菌製剤による健康被害は起きています。咳、呼吸器、悪心のほか、重症度の高いものとして首からぶら下げるタイプの空間除菌製剤によって化学熱傷が起きたという事例が複数あります(※4)

(※4)次亜塩素酸ナトリウムを含むとの表示がある「ウイルスプロテクター」をお持ちの方は直ちに使用を中止してください。(消費者庁)

■「雑貨」にしては危険性が高すぎる

据え置きタイプについても、インフルエンザの感染予防効果を期待して購入された製品に添付されていたゲル化剤を、1歳9か月の幼児が誤飲しメトヘモグロビン血症を起こして気管挿管までされた症例が日本小児科学会雑誌に報告されています。空間除菌に使用される化学物質の分解生成物が血中のヘモグロビンを酸化させ、異常なヘモグロビン(メトヘモグロビン)を生じさせます(※5)

成人についても事故の報告があります。38歳男性が呼吸困難のため近医を受診し、酸素飽和度が70%と低下を認め救急病院に搬送されました。呼吸困難発症の数時間前に自宅で空間除菌製剤を使用していたことが判明し、中毒性メトヘモグロビン血症と診断され、輸血や10日間の入院を要しました。この症例でも「新型コロナ感染予防目的のため」空間除菌製剤が使用されています。

適切に使用すればこうした事故は起こらないとメーカーは主張するかもしれません。しかし、感染予防効果が明確ならばともかく、効能があるのかどうかもわからないのに、使い方を間違えれば入院するほどの事故が起きうる製品を使うのは非合理的です。

お守りや気休めにしては危険すぎます。また、これらの事故の被害に遭った消費者が、空間除菌製品は感染予防効果が証明されていない「雑貨」であることを知っていたとしたら、これらの事故は起こっていたでしょうか。このような事故の再発を予防するために、製品に感染予防効果が証明されていないことを周知する道義的責任がメーカーにあると私は考えます。

(※5)Injury Alert(傷害速報)、No. 40 ウイルス除去と称されている製品による中毒(日本小児科学会雑誌2013年5月号)
(※6)上月美穂ほか、COVID-19感染予防目的に二酸化塩素空間除菌剤の使用により中毒性メトヘモグロビン血症を来した1例、日本救急医学会雑誌(0915-924X)31巻11号 Page.1036(2020.11)

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名取 宏(なとり・ひろむ)
内科医
医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』(内外出版社)。

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(内科医 名取 宏)

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