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「ほぼ100%の人が目を覚ます」タクシー運転手が酔った客を起こすときに使う"奥の手"

プレジデントオンライン / 2021年9月25日 11時15分

※写真はイメージです。(写真=iStock.com/mbbirdy)

タクシー運転手が泥酔した客を起こすときに使う方法がある。15年にわたってタクシー運転手として働いた内田正治さんは「ほぼ100%の乗客が起きるのは、携帯電話の着信音を耳元で鳴らすこと。タクシー運転手は乗客に触ってはいけないので、この方法を使えば乗客に触れることなく確実に起こすことができる」という――。(第1回)

※本稿は、内田正治『タクシードライバーぐるぐる日記』(三五館シンシャ)の一部を再編集したものです。

■詭弁で4000円を踏み倒す客

タクシードライバーは、基本的にどこの誰かもわからない人物を乗せる。私が乗せた中でもっとも嫌なお客と、もっともアヤシイお客の話である。

酔っぱらいやその筋の人はタクシードライバーなら誰もが関わりたくない。しかし、見た目では判断できないことも多い。流しで秋葉原から乗った男性客だった。30代のこざっぱりしたジャケット姿で身なりもふつうである。「松戸まで3000円で行ってください」と言う。

秋葉原から松戸となると、とてもその料金では行けない。エントツ(メーターを正しく操作せずに、料金をドライバーが着服する不正行為)はできないシステムになっているし、やるつもりもなかったので、「メーター料金どおりになります」と答えた。

無言でなんの返答もない。そのまま目的地に向かう。1時間ほどで到着。メーターは7000円を超えている。するとお客は「3000円の約束だったよね」と言って、それだけ置いて降りようとする。

「その料金を承知したことはありません」
「でもそのまま走り出したよね。私が料金を伝えて、あなたが走り出したということは了解したということだよね」
「メーターどおりとお伝えしました」
「私はその話を承諾していない。私が提示した料金を理解して走り出したのだと思っていたんだけど」

完全に詭弁(きべん)ではあるが、ああいえばこういうで、埒(らち)が明かない。そのうちに「それでは裁判になってもいいので白黒つけよう」などと言い出す。ドライバーは反論できないと思って強引に自分の主張を押し付けてくる。

この調子で10分以上口論しているうちに、もう面倒になってきた。「裁判で白黒つけてやろう」と迎え撃つだけの覚悟もなかった。悔しさをこらえて、そのお客を降ろした。

■「10分後に着きます。モノはありますので」

お客が置いていった千円札3枚を見ていると怒りが込みあげてきた。近くの4階建てのアパートに入っていくのを見て、あとを追って「お客さん、タクシー代払ってください」と大声でドアを叩(たた)いて、嫌がらせをしてやろうかとも思った。

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※写真はイメージです。(写真=iStock.com/minianne)

しかし、私にはその度胸もなかった。私にできたのは、その男の後ろ姿に「こんな理不尽な言動はいずれ自分に返ってくるぞ」と呪詛(じゅそ)の言葉を投げかけることだけだった。悔しさを噛(か)みしめながら、泣く泣く帰庫した。

続いて、もっともアヤシイお客の話である。無線からの指示で、蔵前駅前で配車を待っているお客がいるという。行ってみると、40代後半と思われる、肩まで髪を伸ばしたサーファー風の男性がひとりで乗り込んできた。

「秋葉原」とだけ言うと、携帯電話でどこかに電話をした。「今から10分後に着きます。モノはありますので、その場で交換でお願いします。ええ、黒のタクシーです」指定されたバス停に到着すると、そこではお客よりもひと回りほど年輩(ねんぱい)の男性が人待ち顔で立っている。

するとお客は、「あの人の前で停まって。降りないから、いいって言うまで停まったままでいて」と指示してきた。指示のとおり、男性の前でクルマをいったん停車する。するとお客はウインドウを開け、何かを手渡し、交換に何かを受け取った。それが終わると、そこからワンメーターほど離れた場所を指定して、そこで降りていった。

■確定的な証拠は何もないが…

じつはこのお客を、それから数週間後にもう一度乗せた。同じく蔵前駅前から乗ってきて、今度は別の場所に向かい同じように何かを交換していた。確定的な証拠は何もない。

しかし、違法薬物か何か、とにかく法に触れるようなブツの取引だと疑うのがふつうだろう。私もそう思った。そう疑いながらも、もし違ったら、お客にも会社にも迷惑をかけることになるのではないかという迷いも生じてきた。

このことは会社にも伝えず、自分で考えた末、もう一度、同じお客が乗ってきて、同じような取引をしたら、そのときは警察に通報しようと決めた。

そう決めて以降、再びそのお客を乗せることはなかった。何度も同じタクシー会社ではヤバイと思って他社に切り替えたか、もしくはすでに逮捕されたのか。いや、それとも私の思いすごしで、なんでもないものの受け渡しをしただけだったのか。

これまでも犯罪行為に加担などしたことのない私は、どうか後者であってほしいと願っている。

■怒鳴り散らす乗客の正体

深夜0時、浅草だった。30代の酔客が乗ってきていきなり「まっすぐ行け!」ときた。

クルマは蔵前方面に向いていて、指示どおりにまっすぐ走らせた。200メートルほど走り、「この方向でよろしいですか」と確認すると、「日暮里」とだけ言う。日暮里なら、反対方向だ。

「日暮里だと逆方向です。どこかでUターンします」と言うと、「なんで逆に行ってんだよ!」と怒鳴られた。この手のお客に弁解しても無駄なので、素直にお詫(わ)びする。日暮里に着いて支払いの際、お客の財布から名刺が落ちた。

権威の乱用
※写真はイメージです。(写真=iStock.com/kuppa_rock)

お客は気づかないので私が拾って渡そうとしたとき、チラッと名刺の会社名が目に入った。大手の広告代理店の名前が見えた。思わず「こんな立派な会社にお勤めの方がタクシー運転手を困らせるようなことをしてはいけませんよ」と言ってしまった。

会社がバレたお客は小声で「ごめんなさい」とだけ言い残し、逃げるように立ち去った。密室の中で傍若無人(ぼうじゃくぶじん)にふるまうお客も、身元が知られることを嫌がる。一流会社のサラリーマンならなおさらだろう。

■乗客を起こすときは大声を出してはいけない

夜の11時すぎ、新小岩。ロシア人美女2人に両脇を支えられ、タクシーに押し込まれるようにして乗ってきた酔客は「牛久(うしく)まで。着く少し前に起こして」とだけ言って、ゴロンと横になった。茨城県の牛久とは魅力的だ。

ここから牛久までなら2万円超になるだろう。牛久に向かう道中、後部座席からはいびきが聞こえてくる。牛久に到着する手前で「お客さん、もうすぐですよ」と声をかけたが、起きない。何度か声をかけるが、一向にいびきがやむ気配がない。

爆睡客の起こし方は、じつは子どものころに覚えた。夜中におねしょをしてしまい、隣で寝ていたおばあちゃんを大声で呼んだら、飛び起きて「心臓が止まるかと思った」と怒られた。それ以来、初めは小さな声で、だんだん大きな声にして起こす技を身につけた。

ふつうの酔っぱらいならこれで目を覚ます。ところが、このお客はそれでも目を覚まさない。ドライバーはお客の身体(からだ)に触れてはならないので、もうどうしようもない。牛久に到着して、ようやくお客が目を覚ました。

すると「どうしてもっと前に起こしてくれなかったんだ」と怒り出した。「何度もお声をかけたんですよ」と言っても収まらない。通行人が見ていて「警察呼びましょうか」と言ってくれ、なんとか騒ぎは収まった。

■爆睡している乗客を確実に起こす方法

お客は数枚の万札を投げつけ、私の無線番号を独り言のように復唱しながら勝手に降りていった。お札を拾い集めると5枚ある。料金は2万円強だったので明らかに支払い分が多い。

書影
内田正治『タクシードライバーぐるぐる日記』(三五館シンシャ)

私はすぐに会社の無線室に状況を伝えた。無線室からは、とりあえずそのまま持ち帰り、営業所に提出するようにとの指示があった。その後、その客から会社にクレームの電話が来た。「メーターより多く支払ってしまったので、返金してほしい」という。

あのとき、すぐに会社に連絡していなければ、私は横領犯にされていたかもしれない。会社が精査したところ、私に落ち度はなく、もらいすぎた金額分を会社側が返金することになり、それで済んだ。降車時の独り言は無線番号を忘れないための復唱だったのだ。

それにしても恐ろしい策略である。

辞める間際、もっとも効果的な起こし方を同僚に教わった。携帯電話の着信音である。この音を鳴らしてお客の耳にあてると、ほぼ100%の確率で自然に目を覚ました。これをお客で試して実証したときは、あと何年か早く知りたかったとうなったほどだ。

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内田 正治(うちだ・しょうじ)
元タクシードライバー
1951年埼玉県生まれ。大学卒業後、家業である日用品・雑貨の卸業を継ぐべく専務として勤めるものの会社が倒産。両親と息子を養うため、50歳のとき、タクシードライバーに。以来、65歳で退職するまで15年間にわたり1日約300キロを走行。現在はコロナ禍による元同僚たちの苦境に思いを馳せながら、おひとりさま生活の日々。

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(元タクシードライバー 内田 正治)

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