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コロナ禍でも売れているファッションブランドと売れないブランドの決定的な違い

プレジデントオンライン / 2021年10月7日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Peera_Sathawirawong

コロナ禍で多くのファッションブランドが苦戦している。ジャーナリストの川島蓉子さんは「コロナ禍でも売れているブランドはある。その違いは、消費者の変化を敏感にとらえ、業界の古い常識から脱却できたかどうかだ」という——。

※本稿は、川島蓉子『ブランドはもはや不要になったのか』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■「ファッションへの関心は薄まる一方」は本当か?

街を歩いていると、閉店した店に目が行く。路面店だけでなく、ファッションビルやモールの中でも、シャッターを下ろしているショップが目立ち、撤退したのは飲食店だったのかアパレル店だったのか、書店だったのか、思いを馳せることは少なくない。コロナ禍で拍車がかかった現象だ。

またコロナ禍以前より、アパレル業界については、老舗百貨店やセレクトショップ、ファストファッション企業の経営不振が数多く取り上げられている。その文脈の中に、「人はものを買うこと、所有することに意味を感じなくなっている」、「ファッションに対する関心は薄まる一方」、「ブランドに価値を感じるのは限られた人だけ」といったものも含まれているのだが、本当にそうだろうか。外出が減り、ハレの場が減った私たちの物欲は、なくなったのだろうか?

先日、ルームウエアで人気が高い「ジェラート・ピケ」をはじめ、若い女性に人気の「スナイデル」、「フレイアイディー」などを展開しているマッシュホールディングスでこんな話を耳にした。

「以前から抱えていた課題について、コロナ禍を契機に、社内の意識改革と戦略転換を一気に進めた。ECに力を入れてリモート接客を進めたところ、お客からの反応は良好。リアル店舗についても、不採算だから撤退という判断ではなく、過剰だった店舗のあり方を見直した。それも効率が悪いから閉めるという判断でなく、有用と思われるところへは、新規業態の開発や出店を進めている」

■半年ごとに商品総入れ替えが常識だった

都心の商業施設を巡っていても、閑散としているところもあれば、賑わっているところもある。人が入っているショップでは、楽しそうに服を選んでいるお客の姿を見かける。

こういった事実を鑑みると、私たち消費者の物欲はなくなっているのではなく、物欲のあり方が変わっているのだと思った。それに気づかず、あるいは気づきながら対処していないところには、お客が集まらなくなっている。逆に対処策を俊敏に打っているところは成果が出ている。今、ブランドの舵をどう切るかが問われていると言っても過言ではない。

時勢や物欲のあり方の変化に即して企業(ブランド)が変わろうとしたとき、成否を分けるのは何なのか——大きな課題は、商品とお金と価値の“適正な循環”を見直すことだ。アパレルは、半年をワンサイクルとした仕組みが、長年にわたって続けられてきた。春夏物、秋冬物という謳い文句がよく使われるのは、このサイクルに基づいている。

これを牽引しているのは“トレンド=流行”の存在だ。「今シーズンはグリーンが主役」、「この冬はたっぷりしたシルエットのコートで」といった謳い文句のもと、最新の流行ファッションを販売することで、人々の物欲を煽り、産業としての車輪を回してきた。つまり、ほとんどすべての商品を、半年サイクルで入れ替えるのが業界の常識だったのだ。

ファッションマガジン
写真=iStock.com/blackwaterimages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/blackwaterimages

■今の消費者が業界発の“流行”より重視するもの

2018年、「バーバリー」が売れ残りを焼却したことが報じられて物議を醸した。半年ごとに新商品を出し、季節の終わりにセールで半値あるいはそれ以下にする。それでも売れ残った商品は、焼却処分も含めて廃棄する——。こうした業界の裏事情について、消費者が知るところとなり、時代に合ったシステムではないと突きつけたのだ。

買い手である消費者にとって、流行の服を半年で着倒し、次のシーズンにまた新品を身に着けるというバブル期の感覚は既にない。むしろ、気に入ったものを長きにわたって身につけたい——リーマンショックがはじけたあたりから徐々に、そういう意識は広がっていた。少し踏み込んで言えば、業界の都合による半年サイクルに、消費者はもはや意味を感じなくなっている。

■業界の常識から外れたブランドの販売戦略

そんな中にあって、半年という枠組みにとわれずに商品を出すブランドが出てきている。

「foufou(フーフー)」はDtoC(Direct to Consumer)ブランドとして、「健康的な消費のために、最高でなくても最適な服を作る」というテーマのもと、「良い意味での消費が社会の循環を担っていく」という思いをビジネスとして実践してきた。インスタグラムで毎月数点の新商品を発表し、生産や値段の背景も含めて説明をする。店舗や賃料、販売といったところにかけていたコストを、純粋にモノ作りにかける。定価で売り切れる量だけを生産してセールしないという方針を貫き、着実に顧客をとらえている。

あるいは「mina perhonen(ミナ・ペルホネン)」や「YAECA(ヤエカ)」といったブランドは、以前から半年という枠組みに縛られることなく、シーズンを越えた服の販売を続け、ファンがしっかりと付いてきている。作り手が手間暇と愛情を込めて作ったものは、使い手にとっても価値あるものであり、それを伝えていくことがブランドの役割のひとつととらえ、ビジネスとして成立させてきたのだ。

「100% ORGANIC」のタグがついている服
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tero Vesalainen

■消費者がお金を使うハードルは上がっている

このように、サイクルの見直し一つとっても表面的な改変ではなく、ブランドが抱いている志や思いを発信し、消費者の共感や応援を得て、ファンになってもらうことも大切だ。

消費者は、商品そのものだけでなく、その背後にある志や思いといったものに賛同して購入する傾向を強めている。ある人は地球環境に配慮しているかを重視し、ある人は日常を豊かにしてくれるものかどうかを重視する。

手に入れて身につけることで、その姿勢を表現する。そこに確かな物欲は存在する。これからの消費において、そういう意識が芽生えていることを勘案する必要もあると思う。「どのブランドにお金を使うのか」の選別は、むしろ厳しくなってきているのだ。

■値下げしなくても売れる商品を作るためには

先日、ある商業施設のトップと話していて、「取引先のアパレル企業の中で、EC優先に切り替えるところが増え、店頭が品薄になって困っている」と耳にした。緊急事態宣言で客足が落ちている中、お客にとって、リアル店舗を訪れる意味がさらに薄まってしまったというのだ。

川島蓉子『ブランドはもはや不要になったのか』(KADOKAWA)
川島蓉子『ブランドはもはや不要になったのか』(KADOKAWA)

が、さらに聞くと、シーズン初めの生産体制を見直し、売れ残りを積まないために生産量を絞っていて、それが影響しているのだという。逆に言えば、従来はセールすることを前提に、割合と安易に生産し“作り過ぎていた”。その体制を変えていくということだ。これはまた、売り切ることを前提に、生産と物流の体制を見直すということでもある。

コロナ禍で、ファッションデザイナーのドリス・ヴァン・ノッテンらは「ファッション業界への公開書簡」というものを出して話題を集めた。春夏物、秋冬物を出すタイミングやセールの時期を適正なものに是正し、不要な商品作りを見直すことで無駄を減らし、サスティナブルな循環を目指すという内容だ。「すぐに値下げして売ろうとするのは、ファッション業界に長らく蔓延(まんえん)している病のようなもの。値下げをせずに顧客を惹きつける方法はいくらでもある」と付されている。

■「あれもこれも」から「本当に気に入ったものだけ」へ

服に限らず、商品やサービスの送り手が適正な利益を得られ、買い手は気に入った商品を妥当な値段で手に入れられる。ものの価値とお金の適正な循環が行われていく。そういうビジネスのありようと、そこにおける物欲は、これから求められていくもののひとつだと思う。

人々は、ものを買ってあれもこれも所有することに関心を持たなくなくなっている、価値を見出さなくなっているのは確かだ。が、自分が納得したものを手に入れ、愛着を持って使い込んでいくという消費のベクトルは、これからも健在だ。いやむしろ、身近な生活をちょっと豊かにすることや、本当に気に入ったものに囲まれて暮らしたいといった消費者の変化を考えれば、コロナ後に向けてますます注力すべきテーマと言えよう。

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川島 蓉子(かわしま・ようこ)
ジャーナリスト
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。その後、伊藤忠ファッションシステムに入社。伊藤忠ファッションシステム取締役、ifs未来研究所所長などを歴任し、2021年、同社を退社。今後は「創造こそがブランドを強くし、偏愛がそれを支える」という思いをもとに、「偏愛百貨店」というブランドを立ち上げるべく準備中。

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(ジャーナリスト 川島 蓉子)

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