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「390円靴下」の次は「3990円パーカー」…ファミマの「コンビニ服」をアパレルライターが評価する理由

プレジデントオンライン / 2024年4月26日 10時15分

スウェット パーカーくろ - 写真=ファミリーマート提供

ファミリーマートが2023年からトレーナーやパーカーなどの衣料品販売を始めている。この「コンビニウェア」はどこまで広がるのか。ライターの南充浩さんは「ファミマは靴下で成功しており、消費者にも認知されている。またコンビニは一般的な洋服店のような接客がないため、差別化もできる」という――。

■ファミマが23年からパーカーの販売を開始

ファミリーマートが2023年末からスウェットパーカーなどの一般カジュアルウェアを取り扱い始めました。冬物のパーカーは現在終売していますが、コンビニが新たな衣料品販売のチャネルとして定着するかに注目が集まっています。

ファミマは2021年からオリジナルの靴下やTシャツの販売を開始しました。特にライン入りの靴下(税抜き390円、税込み429円)は「ファセッタズム」のデザイナーである落合宏理氏が手掛けており、発売当初からの累計で1600万足売れたと発表されています。

平均すると1年間に500万足以上売れたということになります。年間500万足という販売数量は他のファッションブランドと比べてもかなり多いほうなので、繊維業界はその数量の多さに色めき立ちました。販売数量から考えると好調と言って差し支えありません。

■1店舗に1着なら1万6000着が必要になる

ファミマは靴下の成功を踏まえて、スウェットパーカーやブルゾンなど通常のカジュアルウェアの展開を増やし、23年11月にはファミマの服だけでファッションショーを開催して世間の耳目を集めました。このファミマの「成功」に対してメディアは伊藤忠商事による「ものづくり」によるところが大きいと報道しています。

しかし、筆者は伊藤忠商事でなくとも他の大手商社ならほぼ同様のものづくりが可能だったのではないかと考えています。理由はファミマの店舗数の多さです。

ファミリマートが税抜390円で販売しているラインソックス
ファミリマートが税抜390円で販売しているラインソックス(画像提供=ファミリーマート)

ライン入り靴下の発売当時、ファミマの店舗数は約1万6600店舗と発表されていました。同社の月次速報によると、2024年2月末時点でのプロパー店舗数は1万5343店舗、エリアフランチャイズ店を合わせた店舗数は1万6271店舗と少し減っています。プロパー店は2023年10月以降、閉店により店舗数が減少し続けていますが、エリアフランチャイズ店は安定しており、ほぼ増減がありません。

ファミマ全店に1足ずつ靴下を納入しようとすると、それだけで1万6000足が必要ということになり、最低でも1万6000足の生産数量が必要ということになります。1万6000足というと、現在の国内市場においては相当な生産数量です。

■繊維製品は「数は力」

衣料品・繊維製品は数量が多ければ多いほど1枚あたりの生産コストが引き下げられ、品質も安定します。結果的に低価格・高品質の物が出来上がりやすいというわけです。

実際、店舗を覗いてみると、靴下は平均して5~10足程度並んでいるようにみえます。仮に5足ずつの投入だとすると、生産数量は8万足、10足だと16万足となります。

これは筆者の推測ですが、ファミマは1回あたり10万足くらいの生産数量を持っていると考えられます。10万足の生産数量となると1足あたりの製造コストはかなり引き下げられ、製品の品質は安定します。恐らくユニクロに匹敵する数量で、1足あたりのコストも製品の品質もユニクロに匹敵するものだと考えられます。

ファミリマートが税抜390円で販売しているラインソックス
画像提供=ファミリーマート
ファミリマートが税抜390円で販売しているラインソックス - 画像提供=ファミリーマート

これほどの生産数量があれば、伊藤忠商事でなくとも大手総合商社や大手の繊維専門商社ならどこでも現状品と同等の物が製造できます。それほどに繊維製品において「数は力」なのです。

■「店舗数の多さ」は武器になる

一方、販売に関してもファミマの店舗数の多さは大きな力になっていると考えられます。年間平均500万足の売り上げはユニクロ並み、下手をするとそれ以上の販売数量になります。

一見販売数量としてはとてつもない量に見えますが、ファミマの1万6000店舗を持ってすると不可能ではなくなります。単純計算では、1店舗あたり年間300足を売ると480万足売れることになります。現状でもエリアフランチャイズ店を含めるとファミマの店舗数は1万6000店を越えていますから、1店舗当たりで販売しなければならない足数というのは1店舗あたり年間300足となります。

ファミマの靴下はシーズンレス商品なので12カ月売れるとして、1カ月あたり25足販売すれば事足ります。税込み429円の商品なので、1店舗で毎月25足売るのはそれほど難しいことではないでしょう。人口が多い地域の店なら25足以上売るのはたやすいでしょう。

このように、ファミマの靴下の成功は、ものづくり云々もさることながら、生産にしても販売にしてもすでに国内に整備されている1万6000店舗強の店舗数の多さを巧みに活用した成果だといえます。個人的には、商品のデザインやものづくりの姿勢よりも、この店舗数の多さのメリット部分だけを最大限に生かしたビジネスプランを評価しています。このビジネスプランを組み立てた構想力はすごいものがあると思います。

■靴下があったからパーカーが売れる

なぜファミマはパーカーなどのカジュアルウェアに手を付けたのでしょうか。

ファミマは靴下の成功を周知させた上で、靴下よりも販売のハードルが高いカジュアルウェアに枠を広げることで、消費者に心理的抵抗をあまり感じさせないようにしていると考えられます。もし、順番が逆で先にカジュアルウェアを発売していたら確実に失敗していたでしょう。

ファミマがカジュアルウェアへと手を広げた理由の一つに、客単価の大幅アップが挙げられます。スウェットパーカーは税込み3990円です。コンビニの客単価は数百円~1000円程度なので、1枚売れるだけで大幅な客単価アップが見込めます。1日に5枚売れるだけで2万円弱の売上高が稼げます。また、品質は、価格の割には生地も厚めでしっかりしているという評価があります。

スウェット パーカーくろ
写真=ファミリーマート提供
スウェット パーカーくろ - 写真=ファミリーマート提供

スウェットパーカーは靴下よりも数量は捌けないと思われますが、先に述べたように各店に1枚ずつ納入するだけで1万6000枚強の生産が必要になります。5枚ずつなら8万枚、3枚ずつでも4万8000枚という数量になります。

洋服の縫製のミニマム生産ロットは工場やアイテムによって大小さまざまありますが、概して1型あたり100枚というのが一つの目安になっています。特に国内工場では1型100枚というのが目安になっており、アジア地区での海外生産でも1型300~500枚が目安になっています。

最近の中国では1型100枚という工場も珍しくなくなってきていると言われています。これらのミニマムロットを下回るとアップチャージによって1枚当たりの縫製工賃は高くなり、上回ると1枚当たりの縫製工賃は安くなります。

■1枚当たりの製造コストは相当抑えられるはず

ユニクロやジーユー、しまむらなどは別格として、有名な国内ブランドでも1型100枚から1000枚程度の生産数量は珍しくありません。最低1万6000枚の生産数量が確保できるとなると、スウェットパーカーの縫製工賃がいかに安く抑えられるかは容易に想像できます。

また使われている生地についても同様です。1万6000枚分の生地量というと、ざっくり計算しても3万2000~4万メートルの生地が必要になると考えられます。これだけの生地量であれば1メートルあたりの生地値はかなり安く抑えられます。店頭販売価格を3990円に抑えることは別に伊藤忠商事でなく、他の商社であってもたやすいことでしょう。

今回のカジュアルウェアについて、現時点では販売数量は公表されていません。ただ、靴下がそれなりに売れて、他の衣料品にも波及している事実は、1店舗あたりの販売数量はそれほど多くないとしても、衣料品業界としては大いに考える点があると思っています。

■接客が過剰すぎないユニクロ、ジーユー

衣料品業界、特に小売り部門では「接客」を重視します。もちろん接客は必要不可欠ですが、マス層には洋服店の接客が苦手だという人も少なくありません。個人的にもガツガツ積極的に接客される洋服店は苦手なのでなるべく入店しないようにしています。スーツなどを買おうとする場合はキチンと接客してくれる店を選びますが、特に目的もなく、商品を見るためだけに入りたいときは接客の強い店は敬遠します。

ユニクロ、ジーユー、無印良品など低価格でセルフ販売っぽいブランドがマス層の支持を集める傾向にありますが、その理由の1つに接客の少なさがあると考えています。

これらの店は目的もなく冷やかし程度に見に入ることに抵抗を感じません。理由は接客されないからです。これこそ接客がない店の究極型です。洋服店にあまり行かない人でも必ず利用したことがあるほど馴染み深い店です。コンビニに入店することに対して抵抗を感じる人は皆無でしょう。ユニクロ、無印良品以上に入店しやすい店がコンビニだといえます。

そして、そこそこの安値(429円)で靴下が売られていれば試しに買ってみようかという人は相当数いるでしょう。今回のカジュアルウェアも、恐らくはそういう心持ちで入店して試しに購入してみるという人が少なくないでしょう。

洋服店の接客が不要だとは言いませんし、必要不可欠だとも思っていますが、低価格セルフ販売ブランドの堅調さ、コンビニでの靴下販売の好調さなどを見ると過剰な接客を苦手とする層が一定数いるということがわかります。

■コンビニで展開できる衣料品には限りがある

ただ、コンビニウェアも手放しに明るい未来が待っているとも一概にはいえません。

すでにローソンが後追いでフリークスストアとコラボした服の販売を開始しており、今年1月からコラボ商品として「インスタントニット」を発売しています。この成否によってはコンビニ服の競合は激化するでしょう。

またファミマはコンビニ服の型数をさらに増やしており、すでにショートパンツ類を新規投入しています。品番が増えると、従来の主力商品である食品や飲料水などの陳列スペースが狭まることになります。無限に服の品番数を増やすということはできません。そのあたりのバランスをどう取るのかが課題になります。

スウェットショートパンツ
写真=ファミリーマート提供
スウェットショートパンツ - 写真=ファミリーマート提供
スウェットショートパンツ
写真=ファミリーマート提供
スウェットショートパンツ - 写真=ファミリーマート提供

■ネット通販の流行で「試着なし」にも抵抗がない

現状のコンビニウェアの販売方法はたたんでビニールに包んでラックに吊るすもので、試着室はありません。試着なしでお客に買ってもらうためには、体のラインに沿うようなピッタリサイズの服ではなく、「大は小を兼ねる」で、ある程度大きめのオーバーサイズになります。

試着室
写真=iStock.com/SilvaPinto1985
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SilvaPinto1985

実際に今春に限定店舗で投入されたボタンダウンシャツは「男女兼用」と袋に印字されており、Lサイズで首周りが45センチとなっていました。通常のブランドのメンズシャツはLサイズかLLサイズで首周り43センチですから、ファミマのシャツは大きめに作られていることがわかります。

試着なしでお客に洋服を買ってもらうということは元来非常にハードルが高く、売れない可能性が高いのですが、コンビニ服がある程度順調に売れているのは、ネット通販の普及が理由の一つとして挙げられます。ネット通販では当然ながら試着などできません。この方式に違和感を覚えない人が昔より増えているのでしょう。

一昔前だとコンビニ服は確実に失敗に終わったでしょう。ただ、現在は大きめサイズの流行に加えて、ネット通販の定着により試着なしで服を買うことに慣れた人や、接客のない売り場を好む人への需要が見込めることから、今後定着する可能性は低くないと考えられます。

仮にコンビニ服がひとつのジャンルとして定着するなら、衣料品業界の常識は大きく覆されることになるでしょう。

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南 充浩(みなみ・みつひろ)
ライター
繊維業界新聞記者として、ジーンズ業界を担当。紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下までを取材してきた。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。

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(ライター 南 充浩)

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