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きっかけはマッチングアプリ…「40代女性から1700万円だまし取る」投資詐欺の許せない手口

プレジデントオンライン / 2021年10月2日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

40代の日本人女性は今年6月、暗号資産での投資詐欺に遭い、2週間で1700万円分をだまし取られた。ジャーナリストの多田文明氏は「女性をだましたのはマッチングアプリで出会った犯罪組織の一員と見られる自称韓国人で、LINEの位置情報をたどっていくと、なぜかラオス。犯罪組織の送金アドレス(口座)を調べると総額7億5000万円以上の詐欺をしている疑いがある」という――。

■マッチングアプリで出会った「自称韓国人」と「ラオス」の関係

マッチングアプリなどで出会って仲良くなった“異性”の相手に偽サイトへと誘導され、投資話を持ち掛けられる。その結果、大金をだまし取られる国際ロマンス詐欺の被害報告が増え続けています。

近ごろ、そうした被害を受けた方から「ラオス」という言葉を耳にするようになりました。これまでの被害の聞き取り結果では、犯罪組織は主に中国系の人物で構成されていると思われていますが、中国ではこの9月に暗号資産(仮想通貨)の全面禁止が発表されました。

もしかすると、犯罪組織の一部はいち早くそうなることを見越してビットコインなどの暗号資産での詐欺を引き続き行うために、拠点を隣国の東南アジアなどへ移したのではないかと懸念しています。

筆者の元にも被害報告が寄せられています。

ある40代の日本人女性は今年5月にマッチングアプリで、自称韓国人の男性と出会い「Poo***」という偽の投資サイトを紹介されて、最終的に計1700万円相当を国内の暗号資産交換所から送金しました。その後、男性からの連絡が途絶え、6月に警察署に被害届を出し、送金記録などを基に捜査してもらっていました。先日、その答えが警察からありました。

「犯人のLINEのIPアドレスと電話番号をたどったら、ラオスでした。しかしラオスに関しては、日本の警察では何も打つ手がないので、これ以上捜査はできません」

女性は、「IPアドレスはカムフラージュされて、偽装されているのではないか?」との疑いを持っています。IPアドレスとは、インターネット上の住所にあたるものです。詐欺グループの一番のリスクは警察による逮捕です。それゆえに、詐欺を行っている場所を探られないために、偽装を施すことも考えられます。

不正注文検知など、不正対策のサービス提供を行っている、かっこ株式会社(東京都港区)に、今回のIPアドレスの精度について確認すると「IPアドレスを基に居場所を特定しようとしたときの精度は、これまでの当社の経験でいえば60%程度だろう」とのことでした。

となれば、この女性が言うようにアドレス偽装の可能性もあります。ですが、考えようによっては、60%も精度があるわけで、ラオスなどの東南アジアに拠点があることも否定できません。実は数カ月前にも、ある手法で詐欺師の携帯電話の位置情報を探ってみた被害者がいましたが、やはり「ラオスの緯度と経度が出た」と聞きました。

今、この40代女性はラオスの日本大使館を通じて、現地警察に連絡を取る方法がないかを探っています。

■40代女性「2週間で1700万円分の暗号資産を送って、全てを失った」

筆者の元に寄せられる被害報告の多さから考えるに、暗号資産で送金させる詐欺の手口はかなり横行しているとみています。しかしながら、警察が被害届を受理しないケースもあり、実際にどれぐらいの被害なのか全容解明には至っていません。

ただ、その被害の一端を送金実態から垣間見ることはできます。

40代女性は2つの送金アドレスで暗号資産を送っています。

送金アドレスとは、銀行での振り込みでいえば、銀行コードや振り込み先の口座番号などを合わせたようなもので、これを入力すれば、相手に暗号資産を送ることができます。

暗号資産のイメージ
写真=iStock.com/NicoElNino
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NicoElNino

ただ銀行振り込みと違うのは、誰でもネット上で送金アドレスの現在の残高や入出金の取引状況を知ることができる点です。

筆者も1つ目の送金アドレスAを調べてみました。すると、570回を超える取引(入出金)があり、送金された総額は「110.5***BTC」に上っていました。日本円で約5億2900万円です。

2つ目の送金アドレスBでは、約250回の取引がなされており、総額「48.8***BTC」。日本円で約2億3300万円です。

すでにここに送られた暗号資産は、別な送金アドレスに送られており、現在の残高はゼロになっています。この2つの送金アドレスの金額を合わせると7億5000万円を超えており、どれだけの被害が出ているかがわかります。

40代女性の被害経過をもう少し細かく見ていきましょう。

今年6月頭、彼女は送金アドレスAに11万円分の「イーサリアム(0.33***ETH)」を送金します。その後、その額を超える「同(0.41*ETH)」が戻ってきます。これは、詐欺の常とう手口で、投資で儲かったという体で、利益分をプラスしてお金を戻し、いつでもお金を引き落とせると安心させて、その後、一気に投資金額を引き上げるのです。

数日後、彼女は100万円分を「ビットコイン(0.23***BTC)」で送金します。3日後には500万円分。その後も送金を続けて、最後に600万円の「同(1.34***BTC)」の送金をしてしまい、偽サイトへの投資額は計1700万円に。わずか2週間で多額の被害に遭ったのです。

6月下旬に、自分が口座開設した暗号資産交換所に対しては、すでに警察に詐欺被害の報告をしている旨を伝えています。

■詐欺被害を報告したのになぜ暗号資産交換所は対策を打たないのか

ここで問題となるのは、送金アドレス先の暗号資産交換所(犯罪組織が口座開設した交換所)の対応です。本来なら、詐欺に使われている送金アドレスとわかった時点で、そこへの送金はできないようにするべきと考えますが、実際にはそうなっていません。

筆者が送金アドレスAの履歴をさかのぼって調べてみると、最初に送金されたのは今年5月下旬で、最後の送金は7月下旬です。また、送金アドレスBでの取引開始は今年6月上旬で、最後の送金が8月末日です。

これに前出の40代女性の被害状況を照らし合わせてみます。

女性が国内の暗号資産交換所に、詐欺の被害に遭ったと通報をしたのが6月下旬。そして、誰かによって送金アドレスAへ最後に送金されたのが7月下旬。つまり、40代女性の通報から、約1カ月は、他の詐欺被害者たちが送金できる状況になっていたわけです。

送金アドレスBにおいては、最後の送金が8月末日ですから、約2カ月の間にこのアドレスにお金を送って被害に遭った人がいる可能性があります。

スマホでコードを確認しながらMacに打ち込む手元
写真=iStock.com/Moyo Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Moyo Studio

おそらく詐欺に使われた送金アドレスと確定されたことで、送金アドレスが使えなくなったと思われますが、それまでの時間が遅すぎはしないでしょうか?

もう一人、同様な手口で、今年9月中旬に70万円をビットコインにて国内の暗号資産交換所から送り、総額150万円を超える被害に遭った30代女性の送金アドレスも調べてみました。

30代女性が送った70万円分の「0.13***BTC」は、10分後にはいくつかのアドレスに分けて再び送金されていました。あっという間にお金が移されていることがわかります。この送金アドレスの取引回数は600回を超えており、総額は9月末現在で「38.***BTC」で、日本円で1億8000万円を超えています。

いつからこのアドレスが使われているのか、さかのぼってみました。すると、2021年2月頭の「0.0027*BTC」(約1万3000円)が最初の入金でした。それから9月に彼女が送金するまで、約8カ月も生き続けていたのです。

最初の送金から2カ月後の4月頭には「1.82***BTC」(約873万円)が被害者とみられる誰かによって入金された記録もみられます。この方が警察に被害届を出しているかは定かではありませんが、億を超えるような総額になるのですから、少なからず、ここに送金したうちの何人かは警察や暗号資産交換所にも「詐欺」との通報をしているはずです。

驚くのは、9月下旬に調べてみると、こちらの送金アドレスは今も生きているという事実です。

■銀行口座であれば、すぐに口座は凍結されている

もちろん30代女性は、被害に気づいてすぐに、警察に相談して、自分が開設した国内の暗号資産交換業者にもこの件を伝えています。

ところが取引履歴をみると、その後も、2万、4万円と少額ですが、送金されています。これまでの手口をみても、最初は少額の送金をさせて、多額の送金へと移行させるのが手です。おそらく2人の方が送金していると思われますが、まさに彼らが、詐欺に遭い始め、これから大金を騙し取られる恐れがあるのです。しかし、取引履歴からだけでは、その方が誰かはわからず、彼らにその警告を伝えるすべはありません。

詐欺とは時間との戦いです。対処が遅れれば遅れるほど、被害は拡大していきます。一刻も早く、この送金アドレスを止める策を、通報を受けた警察や暗号資産交換所にはとってもらいたいところです。

今回、筆者に報告を寄せてくれた2人の送金先は億を超える額をだまし取った“実績”があるわけですが、こうした犯罪組織が使う送金アドレスが国内外にどれだけあるのか。想像しただけで恐ろしくなります。

もしこれが銀行口座であれば、詐欺との通報があった時点で口座は凍結されて、振り込めない状況になります。暗号資産においても当然、すぐに不正と思しき送金アドレスを止めるような仕組みが必要ではないかと考えます。

暗号資産の取引をしたこともない前出の40代女性のように、口座を開設して数週間のうちに、1700万円もの大金を送金できてしまう現実もあります。口座開設まではある程度の時間はかかりますが、それさえクリアしてしまえば、詐欺師は短期間に数百万円を繰り返し送金させることができてしまいます。

銀行で口座開設後すぐに多額の送金が繰り返されれば、銀行側もおそらくマネーロンダリングを疑うはずです。その逆もしかりで、開設したばかりの国内の口座に、突然、億単位の金が短期間で次々に送金されれば、不正口座と判断される可能性もあるでしょう。

フードをかぶってモニタ前に座るハッカーのイメージ
写真=iStock.com/Milan_Jovic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Milan_Jovic

今後は、不審な送金パターンから不正を見抜くなど、詐欺を防ぐ最後の砦である暗号資産交換所の監視の目がより強化される必要があります。

口座を開設したばかりで、これまで暗号資産の取引経験のない人は、いわば普段、ATMを使わないがために振り込め詐欺に遭う高齢者と同じ状況だといえます。ATMから高齢者が振り込む際には限度額が設定されていることもあり、「詐欺に注意」との音声も流れます。

今後、暗号資産の口座を開設して間もない人には、送金する前にポップアップ画面を出して詐欺への注意喚起をしたり、事前に送金する金額の「限度額設定」をしたりする対策も求められるのではないでしょうか。

被害者からの報告を受けた警察の縦軸の動きと、暗号資産交換業者の監視・対策強化、同業者間の不正情報の共有の横軸が、しっかりと交差されてこそ、少しでも多くの犯罪収益金の流れを止めることができると考えます。

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多田 文明(ただ・ふみあき)
ルポライター
1965年生まれ。北海道旭川市出身。日本大学法学部卒業。雑誌『ダ・カーポ』にて「誘われてフラフラ」の連載を担当。2週間に一度は勧誘されるという経験を生かしてキャッチセールス評論家になる。これまでに街頭からのキャッチセールス、アポイントメントセールスなどへの潜入は100カ所以上。キャッチセールスのみならず、詐欺・悪質商法、ネットを通じたサイドビジネスに精通する。著書に『ついていったら、こうなった』(彩図社)、『あなたはこうしてだまされる 詐欺・悪徳商法100の手口』(産経新聞出版)、『ワルに学ぶ黒すぎる交渉術』(プレジデント社)、『マンガ ついていったらこうなった』、『迷惑メール、返事をしたらこうなった。』、『あやしい求人広告、応募したらこうなった。』(いずれもイースト・プレス)などがある。

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(ルポライター 多田 文明)

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