「5年間で売上174%」おとなしいチョコだった"ロッテ紗々"が今年に入って攻めまくっているワケ
プレジデントオンライン / 2021年10月15日 12時15分
■紗々の原点は「たった一枚の布」
ロッテの「紗々」は細い線状のチョコレートが幾重にも重なった見た目の美しさや、パリパリほどける食感が特徴のチョコレートだ。1995年の発売以来、市場に二つとない食感や形状が支持されてきた。
独特の商品が生まれた背景について、ロッテで紗々のブランド担当を務める原田万有さんは「当時の担当者が一枚の“布”に着目したことがきっかけになっている」と話す。
「1990年代に入り、他社メーカーから相次いで新商品が生まれてくるなか、ロッテとしては『今までにないチョコレートを世に出したい』と考えていました。当時は板チョコ全盛の時代。どう他社と差別化を図るか、という視点で担当者はアイデアを寄せ合っていました。そんななか、1人の担当者が透き通るような布を持ってきて『この布のような模様のチョコレートを作れないか』と提案したのが紗々の原点になっています」
既定路線の延長から企画だしを行うのではなく、発想や着眼点の広がりを意識した結果、1枚の布をモチーフとする紗々の商品開発が始まったのだ。
■「やるからにはヒットを生み出す」強い姿勢
だが、布が折り重なる様相や独特の食感を具現化するのには相当な苦労を要したという。
「具体的な製造方法は企業秘密ですが、ビターとホワイトの2種類のチョコレートを『折り重ねる→裁断する→冷却する→包装・箱詰めする』という工程に沿って生産ラインを構築しています。実は紗々のためだけに機械を導入し、何度も試作を重ねながら繊細なチョコレートに仕上げていきました」
これまでに前例のないチョコレートゆえ、売れる保証があるわけでもない。
それなのになぜ、紗々の商品開発にこれほどまでにこだわることができたのか。
「紗々ならではの新しさ・味わいに可能性を感じていたのだと思います。上層部を納得して大掛かりな設備投資ができたのも、『やるからには商品を世に出し、ヒットを生み出す』ことを念頭に、開発担当者の思いから生まれた企画を最後まで諦めない姿勢が強かったのも、紗々が生まれた所以だと考えています」
■チョコレートでは少ない「漢字の商品名」
ロングセラー商品として愛される理由として、「他に類を見ない“紗々らしさ”が最大の強みになっている」と原田さんは語る。
「織の美しさ、パリパリとした食感、ビターとホワイトのチョコレートの絶妙なバランスなど、紗々でしか味わうことができないおいしさがあるからこそ、ロングセラーとして支持されていると思っています」
また、紗々というネーミングもブランドの独自性を生み出す要因になっているそうだ。
「当初、商品名を『メッシュチョコ』と銘打つ考えもありましたが、和の繊細さを醸成したいという思いから『紗々』という漢字のネーミングにしました。『紗』は薄く透き通る織物を指す漢字で、『々』は繰り返し重なるという意味が込められています。チョコレートの商品はカタカナのネーミングが多くを占めるなか、漢字で表した商品名のチョコレートはあまりない。これが独自性を生み出し、印象に残る商品として紗々が根強く支持されているのではと考えています」
しかし、他社メーカーも負けじと次々に新商品を投入し、チョコレート市場における熾烈な争いは激化した。
さらに2010年代へ入ると、コンビニやスーパーのチョコレート菓子のみならず、チョコレート専門店に端を発したショコラティエブームが台頭し、チョコレートの多様化が進んだ。
このような状況下で、紗々は次第に他の商品に引けを取る形となり、いつしか販売数は落ち込んでいった。
このままだとロングセラーとしての地位も危ぶまれるなか、「和の世界観に寄せ、繊細で上品なイメージを付与する」ために、2013年にパッケージのリニューアルを行った。
「掲げたのは『つむぐ、織りなす』というキャッチコピーでした。紗々の織物のように重なり合う美しさに加え、上質感や高級感が伝わるようにパッケージデザインを変更したんです」
■通年販売に切り替え、5年間で売上174%に
そして何より、紗々のV字回復に貢献したのは「秋冬の限定品」から「通年販売」に切り替えたことだった。
「紗々は今まで秋と冬のシーズン限定で販売していましたが、2018年からは春夏も加えた販売通年化を行いました。以前まで秋冬限定だった理由は、繊細な商品ゆえ、温度が高くなる季節に販売すれば、食感が悪くなったり見た目が失われたりする懸念があったからです。それだと紗々本来の魅力が伝わらないため、販売を見送っていました。
そこで、季節に関係なくいつでも同じ品質で味わえるようにするためにも、チョコレートの配合を見直し、通年販売できる体制の構築に注力してきました。2018年に販売通年化のめどが立ち、シーズンを通して紗々を楽しめる機会を創出できたのが売り上げを伸ばす要因になったと考えています」
かくして2015年から5年間で売り上げを174%に伸ばし、上昇気流に乗ることができたわけだ。
■ビターとホワイトのバランスを調整、カカオ感を立たせた
右肩上がりで成長してはいるものの、市場を見渡しても紗々のような独自性を貫く商品が少ないことから、「もっと高みを目指すのに必要なことは何か」と追求するようになったと原田さんは説明する。
「紗々は上品で情緒に寄っていた商品だったこともあり、『チョコレートとしてどんな食感や味わいが楽しめるのか』という点を、お客様へ伝えきれていないと思っていました。また、どうしても紗々のイメージを損ねたくないと、攻めた訴求もできておらず、新規層を獲得する足かせとなっていました。次の高みに行くためにも、紗々を知っているけれど、しばらく購入していない層の掘り起こしや話題喚起を行い、さらなる成長へ向けた布石を考えるようになったのです」
そして2021年9月、約17年ぶりに品質を大幅リニューアルし、紗々のおいしさを構成するビターとホワイトチョコレートのバランスを見直した。
「味を変えるレベルではなかったのですが、時代の変遷とともにお客様の嗜好も変わってきたので、そのニーズに応える必要性がありました。特に近年流行している高級チョコレート専門店のチョコレートは、甘さよりもカカオの濃厚さに高級感を見いだしています。そこに着目し、紗々の特徴だった甘さが後を引く味わいから、ビターとホワイトのバランスを調整しました。さらにカカオ感をたたせ、ほろ苦い大人な味わいに仕立てたことで、紗々の新たな魅力を引き出せるのではと考え、品質リニューアルに至ったのです」
■他社とのコラボで認知拡大を強化
さらに消費者との接点を増やすため、商品を通じてだけではなく、他社とのコラボによってブランド認知を高める取り組みも行っているという。
「今年8月にはアパレルのBEAMSとコラボし、紗々の編目のデザインをあしらったビーチタオルを販売しました。また、約17年ぶりの品質リニューアルに合わせて、洋菓子メーカーの銀座コージーコーナーとコラボした『紗々ミルクレープ』を全国の銀座コージーコーナーで販売したのですが、売り切れが続出するなど大きな反響をいただきました。おかげで、『ミルクレープをきっかけに、久しぶりに紗々のチョコレートを購入した』という声も多く頂戴し、紗々を自分事化するお客様が増えたと実感しています。これまで他社とのコラボはあまり実施してこなかったのですが、今後は紗々の認知度拡大やブランドとの接点を作るためにも、いろいろと企画していければと考えています」
■世界観は守りつつも、攻めていきたい
今回のリニューアルで味の改良や話題化を狙うマーケティングを展開し、さらには期間限定品のなかで人気が高かったいちご味を「紗々<芳醇いちご>」として新たにレギュラー商品化した。
2品体制となった“新生・紗々”は、今後どのような成長戦略を描いているのだろうか。
最後に原田さんに聞いた。
「テーマは『守り』と『攻め』です。紗々の持つ繊細な和の世界観を守りつつも、今までとは違う魅力が伝わるような攻めの姿勢で、ブランドを育てる必要性があると強く感じています。ともすると、紗々はおとなしいブランドだったことから、あまり攻めてこなかった歴史があります。期間限定の新商品を出すにしても、和を連想させるお芋や抹茶などの安定したフレーバーが中心で、やや面白みに欠けていました。今回のリニューアルを皮切りに、『どのようなアプローチをすれば、紗々がお客様の琴線に触れるブランドになるのか』ということを常に考えながら、末長く愛されるブランドへと成長させていきたいですね」
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フリーライター
1986年生まれ。ビジネス、ライフスタイル、エンタメ、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。
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(フリーライター 古田島 大介)
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