「いまは第4次ブーム」池袋にある"世界最大のガシャポン売り場"に女性客が殺到するワケ
プレジデントオンライン / 2021年11月12日 10時15分
■ガシャポン3000台が並ぶ専門店が登場
硬貨を入れてハンドルを回すと、カプセルが転がり出る。カプセルトイの世界に今、第4次ブームが訪れている。それを如実に表すのが、専門店の増加だ。
これまでにも複数台のカプセルトイ自販機を並べている場所はあったが、現在の主流は大規模専門店。
象徴的なのは、今年2月、バンダイナムコアミューズメントが全国17店舗目の旗艦店としてオープンした「ガシャポンのデパート 池袋総本店」だろう。ここでは、約1200平方メートル超の売り場に約3000台の自販機がずらりと並ぶ。実際に足を運ぶとわかるが、圧巻の光景だ。
3月には、正式にギネスワールドレコーズ社から「単一会場におけるカプセルトイ機の最多数」として世界記録に認定された。
バンダイナムコアミューズメント ベンダー営業部の佐々木晶士マネージャーは、次のように話す。
「1号店の横浜ワールドポーターズ店と2号店の博多キャナルシティ店のオープンは、昨年8月。くしくもコロナ禍でのオープンになりました。ですが、逆に手軽に遊べるレジャーとして選択され、今では観光スポットのようになっています。売り上げも含め、うれしい誤算でしたね」(佐々木氏)
■カプセルトイに訪れた第4次ブーム
ブームの後押しもあり、現在カプセルトイの市場規模は400億円に達したとされる。その歴史を少しだけ振り返ってみよう。
カプセルトイが日本に登場したのは、1965年。この頃は駄菓子屋の軒先などに置かれるのが一般的で、1回10円だった。
77年にバンダイが参入し、80年代に入って当時大人気だった漫画『キン肉マン』のキャラクター消しゴム=「キンケシ」を100円で発売。累計1.8億個を売り上げるブームとなった。これが第1次カプセルトイブームである。
第2次ブームの訪れは、90年代半ば。ウルトラマンやゴジラ、ドラゴンボールなどのフィギュアが「ガシャポンHG」シリーズとして発売された。この頃から、200円の商品が出はじめる。
第3次ブームを牽引したのは、2012年に発売された「コップのフチ子」シリーズだ。コップにフチ子さんを引っかけて撮った写真をSNSなどにアップするのがはやり、女性や大人のファンを増やすきっかけになったとされる。
そして、20年頃から第4次ブームに突入。現在に至る。
■ファンの男女比は4対6
では、今回のブームにはどのような特徴があるのか。まずはファン層の拡大が挙げられる。
「ガシャポンのデパート1号店で調べたところ、オープン当時の男女比は4対6。相変わらずお子さんやフィギュア好きの大人の男性も多いですが、女性ファンが増えているのが第4次ブームの特徴でしょう。池袋総本店で見ていると、来場者は20代の女性グループが目立ちます」(佐々木氏)
女性ファンが増えた理由はいくつか考えられる。まず、「コップのフチ子」シリーズ以降、カプセルトイの楽しみ方を覚えた女性ファンが固定客になったこと。
その後、女性人気の高いキャラクターが次々にカプセルトイとして登場したこと。先述のバンダイでも、15年頃に『セーラームーン』シリーズというヒットを出している。昨年であれば、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』。特に鬼滅の刃人気はすさまじく、佐々木氏いわく「業界全体の売り上げを押し上げた」ほど。
実は、ここ数年で一気に増えた大型専門店の存在も、女性ファン増加の一因だ。これまでカプセルトイの自販機は、ショッピングセンターのトイレ付近など、どちらかというと人目につかない場所、または駅などの人通りの多い場所に置かれるのが一般的だった。
■女性がハマる「ガシャ撮り」
しかし、前者の場合はかなり遭遇率が低く、あまりイメージもよくない。後者の場合、人目のある中で大人の女性がしゃがみこんでハンドルを回すのは少々勇気がいる。
明るく清潔感のある専門店であれば、まわりの目を気にせず入店でき、買い物と同じ感覚でカプセルトイとの出合いを楽しめるというわけだ。
「女性のお客さまは特に、売り場に設けたフォトスポットでの撮影を楽しんでいます。近年、カプセルトイには非常に精巧なフィギュアが増えています。それを撮ることで、ミニチュアの世界を自分で表現できる。
カプセルトイを提供するだけでなく、その楽しみ方も提案していきたいですね」(佐々木氏)
SNSの投稿を見て購買意欲を刺激され、「これだけたくさん自販機があれば目当てのものを買えるはず」と大型専門店を訪れる人も多いそうだ。
精巧なフィギュアの人気商品としては、『いきもの大図鑑』シリーズが挙げられる。クワガタ、カブトムシ、スズメバチなどの昆虫から、ヒョウモントカゲモドキやミツオビアルマジロなどの動物まで。価格は500~1000円。
■毎月約200種の新商品が誕生
実際に見てみると、小さいながらどれも細部まで忠実に再現されている。虫が苦手なら触るのもはばかられるレベルではないだろうか。佐々木氏も「自販機で数百円で売られているフィギュアも、店舗で売れば数千円レベルの品質」と太鼓判を押す。
このクオリティーの高さが、大人の心をつかむのだ。
人気商品が生まれると、それに他社が続き、良い意味での競争が起きるのもカプセルトイの世界の定石だという。例えば、食べ物などをモチーフにしたユニークな指輪は各社から発売されているが、ファンからは「リング」シリーズと総称され、愛されている。
「肉リング」、「おにぎりん具」、シーチキンなどの「缶詰リング」、野菜の輪切りの「輪切リング」、卵料理の「黄身が好き。」、たこ焼きの「ゆびたこ!」、小鳥の「ことりんぐ」と、毎月のように新たな商品が生まれている。
また、NORITZ給湯器の公式サウンドが聞ける「ガシャポンサウンド NORITZ 給湯器リモコン~おふろがわきました~」といったユニークな商品も根強い人気を誇る。
「毎月200種類ほどの新商品が生まれ、売り切れればそれで終わり。再販はほぼありません。人気が出ればシリーズ化され、第2弾、第3弾と、また違った商品が展開されます。
コアなファンほど、『今買わないと、もう買えないかもしれない』という感覚が強いでしょうね」(佐々木氏)
カプセルトイの一期一会なプレミア感は、間違いなく購入を誘発する要因のひとつだろう。
■最新カプセルトイ事情
「一期一会」と言ったばかりだが、実はそうでもない。現在、一部の自販機には販売情報管理のためのPOSが取り付けられ、どの店舗にどの商品が置かれているのかが簡単に調べられるようになっている。
バンダイの場合は「ガシャどこ?PLUS」というサイトがあり、バンダイ商品に限ってだが、どの店舗で残数がどの程度かまでを調べることができるのだ。自販機にも、確実にテクノロジーによる進化が起きている。
「わかるのはアイテムまで。どのラインナップが残っているかまでは調べられません。そこまでわかってしまうと、ガシャポンの楽しみがなくなりますからね」(佐々木氏)
自分の手でハンドルを回してみるまでは、何が出てくるのかわからない。この体験までを含めて、カプセルトイカルチャーだということなのだろう。
自販機の進化はこれだけではない。4年ほど前から、キャッシュレス対応自販機が増えている。特に駅に置かれている自販機には、SuicaやPASMO対応のものが多いという。もう「百円玉がないから」と諦める必要はないのだ。
SDGsの流れにより、カプセルそのものの回収・再利用や、カプセル不要の商品の開発も進められている。
■最高2500円のプレミアムガシャポン
高単価商品の登場も、ここ数年のトレンドだ。先述の「ガシャポンのデパート 池袋総本店」には、「プレミアムガシャポン」という高単価商品専用の自販機が置かれている。
「現在のカプセルトイのボリュームゾーンは1回200~400円。ですが、『プレミアムガシャポン』では2500円までの商品が販売できる設計になっています。
実際には『仮面ライダー』シリーズで販売した1500円のフィギュアが最高額ですが、販売価格が上がれば、できることも増える。将来的には、店頭で販売するようなおもちゃが自販機で買えるといいですね」(佐々木氏)
商品に使える予算が増えれば、これまで予算オーバーとされてきた商品も企画できる。エコバッグや巾着など、「日常的にちゃんと使える商品」が増えているのも近年のトレンドだ。第4次ブームでは、商品展開のバリエーションにも期待できるだろう。
しかし、高単価商品はあくまで選択肢のひとつ。カプセルトイ業界は、決して高額化にかじを切ったわけではないという。実用的なクリップ仕様の「はさむんです。でらっくす」は、200円とは思えぬ高クオリティが人気を博し、ミッフィーやサンリオ、クレヨンしんちゃんなどさまざまなシリーズが展開されている。
「日本人なら、誰でも一度はカプセルトイを買ったことがあるはずです。子どもの頃、初めてお小遣いを使った経験がカプセルトイだ、という人も多いのではないでしょうか。
私たちは、カプセルトイをもっとも手軽で身近な体験型物販と位置付けています。宝探しのような感覚で自販機を見てまわり、横から一生懸命中身をのぞき込んで、ほしい商品が出てくるのを期待してハンドルを回す。これを日本のカルチャーとして大切にしていきたいんです」(佐々木氏)
カプセルトイは、確実に進化しながらも、その文化を守っているのだ。
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フリーライター
同志社大学経済学部卒業。ビジネス誌から女性誌、広告、ブックライティングなど幅広く手がける。
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(フリーライター 大高 志帆)
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