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貧乏人を排除する「スーパーシティ構想」のヤバさに気付かない日本人の脳天気さ【2020年BEST5】

プレジデントオンライン / 2021年12月9日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/HRAUN

2020年(1~12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。政治経済部門の第2位は――。(初公開日:2020年8月23日)
2020年5月、緊急事態宣言解除の直後の参院本会議で、「スーパーシティ法案」が可決された。生物学者で早稲田大学名誉教授の池田清彦氏は「狙いは経済合理性だけで都市づくりをすること。これから富裕層の思惑のみでいろいろなことが決まるようになり、経済格差はさらに拡大していくだろう。なぜ日本人はそれに怒らないのか」という——。

※本稿は、池田清彦『自粛バカ』(宝島社)の一部を再編集したものです。

■コロナでわかった「グローバリズム」の弱点

今回のコロナ騒ぎでわかったのは、経済合理性だけではコロナのような危機に対応できないってことだ。

実は、安倍政権はけっこう前から全国の公的医療機関の統廃合や病床数削減を進めている。2015年に厚生労働省が「2025年までに最大で15%減らす」という目標を掲げ、重症患者を集中治療する高度急性期の病床を13万床、通常の救急医療を担う急性期の病床を40万床、それぞれ3割ほど減らす方向で動いてきた。

この方針に沿って、地方自治体でも大阪なんかもすごく病院を減らしていた。診療実績が少なくて非効率な運営をしている病院は無駄だから潰してしまえというわけだよ。

パンデミックでは病院や病床数が少ないと医療崩壊が起こる。さらに、コロナの指定医療機関になると一般の患者を受け入れられなくなってしまうから、本来なら救急で処置して入院すればなんとかなった人を助けられなくなる。

ヨーロッパで英国に次いで死者が多いイタリアも病床数削減を進めていたことで医療崩壊を起こした。治療を受けられずに自宅で亡くなった人がかなりの数に上ったといわれる。やっぱり新自由主義的な経済合理性だけで医療を運用するのはダメってことだ。医療、そして教育はある程度余裕がある状態で回るようにシステムを最適化する必要がある。

■アフターコロナ、グローバルキャピタリズムは推進か廃れるか

だから世界は今、このままグローバルキャピタリズム(資本主義)を推し進めていくのか、それともグローバルキャピタリズムが廃れていく方向に進むのか、この2つで揺れていると思う。

たとえば、アメリカは医療費がケタ違いに高額で、医療保険に加入していない人が数千万人もいる。そうした保険証をもたない人がコロナに感染して治療を受けた場合、約470万円から約820万円の自己負担が発生すると試算されている。ちょっと病気になったらたちまち多額の借金を抱える羽目になり、そのまま下層から抜け出せなくなる。

その意味で国民皆保険制度のある日本人は恵まれているけれど、このままグローバルキャピタリズムが進んでいったら日本もアメリカのようになってしまう可能性がある。だから、今後はそれを阻みたい勢力とグローバルキャピタリズムを延命させたい勢力のせめぎ合いになるはずだ。

■「スーパーシティ法案」緊急事態宣言解除の直後にこっそり可決

そこで出てきたのが「スーパーシティ」構想(※)という法案だ。

※「スーパーシティ」構想とは、AIやビックデータなどの最先端技術を活用して、国民が住みたいと思うよりよい未来社会を先行実現する「まるごと未来都市」のショーケースを目指すもの。様々なデータを分野横断的に収集・整理し「データ連携基盤」を構築し、地域住民等にサービスを提供することで、住民福祉・利便向上を図る都市と定義されている。

遠隔医療とか完全キャッシュレスとか自動運転とかゴチャゴチャ言っているけれど、これは要するに、自治体ごとグローバルキャピタリズムに組み込み、人の意志なんか関係なく経済合理性だけで都市づくりをするというもの。

テキサス州オースティンのソーラーパネルコミュニティ
写真=iStock.com/RoschetzkyIstockPhoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RoschetzkyIstockPhoto

大阪あたりが真っ先に手を挙げそうだけれど、このスーパーシティ法案が緊急事態宣言解除の直後に、こっそりと参院本会議で可決されているのにはわけがある(2020年5月27日、「スーパーシティ」構想を含んだ国家戦略特別区域法等の改正法案=スーパーシティ法案が成立)。コロナ禍に遭って崩壊の危険性を察知したグローバルキャピタリズムの焦りの表れだ。

■富裕層の思惑のみでいろいろなことが決まり経済格差は拡大必至

コロナによってグローバルキャピタリズムの前提であるヒトとモノの移動がリスク要因になったので、一時期に比べればよくはなったけれど、中国からモノが来なくなり、いろいろなモノが値上がりしたり流通が滞ったりしている。

それは、これから世界的なヒトとモノの出入りが不自由になっていく可能性があるということだ。それで、リモートで儲けることを画策しているわけだ。

日本人の感性としては、国民全員が貧乏になるのはわりと平気なんだよね。すでに日本はグローバルキャピタリズムによってそうなっているわけだから。30年ほど前までの日本はまだ一億総中流で、金持ちのレベルもそこまでじゃなかったけれど、安倍晋三が首相に返り咲いて以降、トップクラスの金持ちの資産が約3倍から5倍に増えている。

池田清彦『自粛バカ』(宝島社)
池田清彦『自粛バカ』(宝島社)

たとえば、ソフトバンクグループ社長の孫正義とファーストリテイリング社長の柳井正の資産は第二次安倍政権が成立したころ(2012年12月)、孫は5700億円、柳井は8700億円だったが、今はどちらも約3兆円である。トップクラスの金持ちだけがむちゃくちゃ儲かっている。

コロナ後の世界ではさらにごく一部の金持ちとその他大勢の貧乏人というふうに階級が分かれていくかもしれない。スーパーシティ構想が進めば住民の声ではなく富裕層の思惑のみでいろんなことを決めるから、いま以上に階級間の格差が広がっていく。そういうシステムをつくろうとしているわけだ。

そうなったとき、日本人はいつものように自然現象とあきらめて富裕層の言いなりになるのか、それとも江戸時代の百姓一揆や打ち壊しのように反旗を翻し、社会をひっくり返そうとするのか。自分の家族、郷里、母校などに対する愛着から発した、本来の土着の攘夷思想は、はたして日本人の心にどれだけ残っているのだろうか。

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池田 清彦(いけだ・きよひこ)
生物学者、評論家
1947年、東京都生まれ。東京教育大学理学部生物学科卒。東京都立大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学。専門は、理論生物学と構造主義生物学。早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。フジテレビ系「ホンマでっか!?TV」への出演など、メディアでも活躍。『進化論の最前線』(集英社インターナショナル)、『本当のことを言ってはいけない』(角川新書)、『自粛バカ』(宝島社)など著書多数。

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(生物学者、評論家 池田 清彦)

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