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「このままでは国中停電してしまう」グレタさんから距離を置くドイツの"大人の事情"

プレジデントオンライン / 2021年11月19日 12時15分

2021年11月5日、イギリスのグラスゴーで開催された国連気候変動会議COP26の会場周辺で、世界のリーダーに行動を求める「Fridays for Future」のデモ行進を行い、参加者に語りかけるスウェーデンの気候活動家グレタ・トゥンベリさん - 写真=EPA/時事通信フォト

■「こんな流れになってしまった」と議長が涙の謝罪

11月13日夜(日本時間14日早朝)、会期が2日延長されたCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)がようやく閉会した。今回は英国が議長国のため、会議はスコットランドのグラスゴーで開かれていた。議長を務めた英国のシャーマ前ビジネス相は、最後の本会議で成果文書「グラスゴー気候協定」を採択するときのスピーチで、「こんな流れになってしまった」ことを謝罪し、無念の涙に声を詰まらせた。

すると、それに気づいた参加者の拍手が沸き起こり、満場の拍手は、しばらくしてシャーマ議長が気を取り直し、「先に進めなければなりません」と言うまで続いた。最近、そもそもCOP自体が茶番という評価をよく聞くだけに、シャーマ議長の真面目そうな風貌も相まって、私にはこのシーンが茶番の印象にダメ押しをしてしまったように見えた。

さて、翌日の独主要メディアは、このCOPの成果文書採択の話題で満載。Fridays for Futureのグレタ・トゥンベリ氏や、国際環境活動グループのコメントなどを用いて厳しい批判が展開された。一方、会議を議長国として成功に落とし込みたいジョンソン英首相は、「合意は大きな前進」と評価。また、EUの欧州委員会は「パリ協定は維持された」としてメンツを保つことに終始した。ただし、彼らにしてみても、「まだ十分でない」ことだけは認めている。

■石炭火力発電所の「段階的な廃止」にインドと中国が反発

では、いったいシャーマ議長の言った「こんな流れ」とは、どんな流れだったのか? 具体的に言うと、最初、採択されるはずだった石炭火力発電所の「段階的な廃止(phase out)」が、「段階的な削減(phase down)」にすり替わってしまったことを指す。議長国の英国が提出していた文書案の採択まであと数時間というところで、インド代表が猛烈に反発し、そのインドを中国が支持したため、結局、変えざるを得なくなったのである。そもそも、中国とインドはCO2の大量排出国だから、彼らが首を縦に振らないことを言っても意味がない。

やはり大量排出国である米国からはバイデン大統領が出席し、積極的な姿勢を見せたが、彼の場合、帰国してから何を批准できるのか心許(もと)ない。また、ロシアはというと、プーチン大統領が欠席した。ちなみに、世界のCO2排出は、この4国で全体の半分を超えている。

言うまでもないが、現在、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑えるため、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることが、世界共通の大目標となっている。ただ、この運動をよくよく見ると、「温暖化を止めなければならない」という目標は同じでも、主張や理由はさまざまだ。

■ガソリン車や飛行機に乗るな、肉は食べるな…

まず、グレタ・トゥンベリ氏が創立者であるFridays for Futureが言っているのは、温暖化を今すぐに止めないと、異常気象に歯止めがかからず、地球はまもなく人間の住めない惑星になってしまうというもの。だから、人間が地球から自然を収奪するのをやめなければならない。

そして、世界の多くの人々がこの考え方に啓発され、「惑星を救う」ために連帯し始めた。彼らの行動を具体的に言うと、ガソリン車とディーゼル車に乗るな、飛行機や豪華船に乗るな、メタンガス発生の温床は酪農であるから肉は食べるな、新品の服は買うな。あるいは、石炭火力発電を即刻停止させろ。要約すれば、豊かさはもう要らないということか。

渋滞している高速道路
写真=iStock.com/Rouzes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rouzes

地球上には、飛行機はもとより、ガソリン車にも乗れず、肉も食べられず、新品の服も買えず、火力発電所どころか電気なしで暮らしている人が、14億人もいるのだそうだ。また、まきなどで調理や暖をとらなければならない人が30億人。呼吸器に対する健康被害は膨大だ。豊かな国の子供たちとは別世界の話だ。

■過激派グループは刑務所行きも辞さない

一方、同じ環境団体でも、少し違った目標を掲げるグループもある。彼らに言わせれば、現在の気候危機は、人間が地球から自然や資源を搾取したのではなく、先進国がその他の国々から富を収奪してきた結果なのだ。つまり、それに対する対策は、先進国による発展途上国への援助。つまり、国連の理念と同じである。国連のグテレス事務総長が以前から気候危機を強く訴え、また、各種環境運動を高く評価し、今回のCOP26の成果文書に対しても「十分でない」という評価を下しているのは当然の結果だ。

また、環境改善よりも、システムチェンジという政治目標が前面に出ている極左グループも多い。例えば2018年に英国で設立されたエクスティンクション・レベリオンというグループの抗議活動は非暴力的という触れ込みだが、ロンドン市内の交通の要所を占拠して市民の交通を10日間にもわたって妨害したり、デモよりも効果のある方法として、「400人が刑務所に行くべき」などと主張したり、すこぶる過激だ。

実際に2019年の活動だけで、1000人以上が逮捕されたというが、刑務所に行くためには、当然のことながら、それなりの罪を犯さなければならないことは自明の理。ちなみに、抗議活動のパフォーマンス時に彼らが着る真紅の衣装がメチャクチャ怖い。

ドイツ・ベルリンで行進するExtinction rebellionのメンバーたち
写真=iStock.com/rushay booysen
※写真はイメージです(ドイツ・ベルリンで行進するExtinction rebellionのメンバーたち) - 写真=iStock.com/rushay booysen

■環境活動家を政治家がサポートし、その背後には…

ただ、これまでは、CO2削減が人類としての最大の目標とする欧米の主要国の政治家(最先鋒がEUの欧州委員会と米国の民主党の一角)が、活動家の主張を正論とし、その主張や行動をあまり精査せず、一括にサポートしてきた。その背後に、CO2削減で儲(もう)けようとする大資本がずらりと控えていることは疑うべくもない。

松田智ほか『SDGsの不都合な真実』(宝島社)
松田智ほか『SDGsの不都合な真実』(宝島社)

そして、国際環境活動家はいわば実働部隊であり、それにお墨付きを与えているのが国連の事務総長や一部の研究者という構造だ。そして、ここ数年、多くの国民がこの運動に賛同した結果、「気候危機説」はどんどん盛り上がった。この裏に潜む壮大なカラクリについては、12人の共著である『SDGsの不都合な真実 「脱炭素」が世界を救うの大嘘 「地球温暖化」でいったい誰が儲けているのか』(宝島社)に詳しい。ぜひとも参照されたい。

そのうち西ヨーロッパでは、「地球環境正義」のような雰囲気までもが形成されていった。COP26の期間中、グラスゴーでSUVなど大型ガソリン車のタイヤの空気が抜かれるなど嫌がらせが多発したと、複数のメディアが報道しているが、ドイツではそんな事件はたいして珍しいことではない。環境を思う気持ちに駆られた人たちが、環境を破壊していると思われる人に鉄拳を下すのは正義であるという思い込みが横行しているのだ。だから、SUVなどは夜中には路上駐車しない。

■なぜトゥンベリ氏はCOP26を欠席したのか

とはいえ、今回、何かが変わったと感じているのは私だけではないはずだ。「気候危機説」は今もなお燃え盛っているが、シャーマ議長が言ったのとは違った意味で、「流れ」が変わり始めている。まず、大きな違いは、トゥンベリ氏がCOP26に参加していなかったこと。

前回のCOP25は、2019年12月にスペインのマドリッドで開催された(2020年はコロナで中止)が、当時のトゥンベリ氏をめぐる大騒動を覚えている読者は多いと思う。その前年、米タイム誌に「世界で最も影響力のある未成年25人」の一人に選ばれていた彼女は、2019年9月、ニューヨークの国連本部で開かれた気候変動サミットに招かれた。

ただ、飛行機に乗ってCO2排出に加担することを潔しとせず、ソーラーパネルと水中タービン発電機を備えたヨットで英国からニューヨークへ渡ったことは、日本でも大きく報じられた。米国に到着後はヨットをヨーロッパへ戻すために数人の乗組員が飛行機でニューヨークへ飛び、船長は飛行機で帰国したという。この後、彼女の国連でのスピーチの強烈さ(“How dare you?”)が世界中で注目され、グレタ・トゥンベリという名前を一躍有名にした。

■「私たちの目を覚まさせてくれてありがとう」と絶賛

そして、その3カ月後のCOP25。ここにも招待されていたトゥンベリ氏だったが、開催地が突然、チリからマドリッドに変更になったため、移動が困難となった。世界に向かって救いを求めたトゥンベリ氏に、最初、スペイン環境保護相が援助を申し出た。スペイン政府は、COP25を成功させるためには、トゥンベリ氏の名前が効果的と見たのである。

ただ、実際には、オーストラリアのブロガー2人の計らいで再びヨットが用意され、トゥンベリ氏はヴァージニアからリスボンに渡った。航海には英国のプロの女性ヨット操縦士が同行し、その一部始終がYouTubeで流された。

この一連の成り行きには、さすがに顔を顰(しか)める人も多かったが、彼女は「飛行機に乗るのは恥」だと言い切った。ドイツメディアはというと、トゥンベリ氏への絶賛を惜しまなかった。彼女はさまざまな賞を受けたし、メルケル氏をはじめ、多くの政治家がその行動力を褒め称え、彼女の後に続いて地球の環境問題に取り組もうとする子供たちを力づけた。

いや、ドイツだけではない。欧米の何人もの政治家が、トゥンベリ氏のスピーチに「感動」し、「私たちの目を覚まさせてくれてありがとう」と感謝した。さらには、子供たちが金曜日に学校へ行かずにデモに参加するのを大目に見るどころか、親や教師までがそれを支援したのである。

緑の党も、トゥンベリ氏、およびドイツのFridays for Future運動を応援した。そのうち、応援すればするほど支持率が上がるという現象に感銘を受けたのか、最後には、「選挙権を現在の18歳より16歳に変えよう」と言い出したほどだ。

プラカードを高く掲げる気候変動デモ参加者たち
写真=iStock.com/shaunl
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shaunl

■環境政党「緑の党」が沈黙を続ける謎

ところが、である。今回のCOP26では、トゥンベリ氏は会場の外のデモには参加したが、会議の公式ゲストではなかった。そして、彼女の今回のCOP26に対する評価は手厳しく、「COP26には何の成果もない」「会合では、政治家や権力者が私たちの未来を真剣に考えるふりや気候変動で困っている人を心配するふりをしているだけ」「本当のリーダーシップは私たちにある」「搾取をやめろ、無意味なことをああだこうだ言うのはやめろ」等々。

かつてトランプ前大統領に「科学に耳を傾けよ」と警告した彼女(当時16歳)のこと、辛辣(しんらつ)な口調は相変わらずだが、しかし、この前まではそれを褒めそやしていた緑の党は、今回は私の知る限りトゥンベリ氏の言動には触れていない。何が変わったのか?

変わったことはいくつかある。ドイツは今、9月26日の総選挙で勝利した社民党(SPD)が次期政権樹立のため、緑の党と自民党を交えての連立協議の真っ最中だ。つまり、もし、この協議がまとまれば、緑の党は与党となる。

脱原発を押し通し、石炭火力発電所は2038年ではなく、すぐにでも止めろとか、すでに完成しているロシアのガスの海底輸送パイプラインの運開も中止しろなどと主張してきた緑の党だが、与党になって施政を担うとなると話は別だろう。

■現実的なエネルギー政策への転換を迫られている

折しも、現在、エネルギーの高騰で、すでにガソリン代や暖房の燃料費が天井知らずになっており、各電力会社も電気代の値上げを告知し始めた。ガス不足が原因だとしてプーチン大統領に罪を着せようとしているのが緑の党だが、真の原因は、原発を減らし、石炭火力を減らし、しかし、それを再エネで代替できず、エネルギー供給のバランスが崩れ始めていることだ。ドイツ政府は長い間、周辺国との連係線があるから安全供給は保証されていると主張してきたが、今やその理論が崩れかけている。

しかも、問題は値上げだけでなく、今年末で原発6基のうちの3基を止めれば、深刻な電力不足が起こるかもしれないことだ。最悪の場合は停電で、ドイツのような産業国にとっては由々しき事態だ。つまり、緑の党も、あるいはやはり脱原発と脱石炭を主張してきた社民党も、与党になった途端に停電など引き起こさないためには、現実的なエネルギー政策に転換しなければいけなくなった。

そして、実は、その現実的なエネルギー政策を前々から主張し、環境NGOに叩かれていたのが自民党だ。つまり、次期政権の政策では、自民党の主張が有力になってくるのではないかという予測が、協議内容は極秘にされているといえども、染み出してくるのである。

■「飼い犬に手を噛まれるかもしれない」ジレンマ

そうなると、緑の党にとってまずいのは、これまでスクラムを組んできた環境グループの存在だ。彼らの過激さは、はっきり言って穏和な日本人には想像できない。小泉進次郎前環境相が前回のCOPから帰ってきた途端、実現不可能と思われるような脱炭素政策に舵を切り替えたのも、おそらくCOPで激しい攻撃に晒(さら)され、大恥をかかされたのに懲りてしまったこともあるのではないか。日本の大企業は時たまそういう攻撃に晒されることもあるが、政治家は慣れていない。

ちなみに日本メディアが好んで取り上げる「化石賞」は、ドイツでは一度も聞いたこともない。これは、オブザーバーとしてCOPに出席しているNGOがフロアでやっている悪ふざけで、本気にすることはないのだが、ウブな小泉氏には大いなるショックを与えてしまったようだ。

いずれにせよ、緑の党にとっての最大の問題は、連立が固まり、共同施政方針が発表された時、そのエネルギー政策が、これまで地球環境のためという大義名分で主張してきた内容と違いすぎると、信用が地に落ちることだ。今でもすでに、「全国のアウトバーンの制限速度を130kmにする」という公約を死守できないらしいということで、非難に晒されているくらいだ。つまり、緑の党は現在、飼い犬に手を噛まれるかもしれないという大いなるジレンマに陥っていると予想される。

ドイツの高速道路・アウトバーン
写真=iStock.com/Lightstar59
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Lightstar59

しかし、さまざまな環境グループと手を組んで「気候危機説」を盛り上げたのは緑の党だけではない。多くの勢力が利用価値があると思って育てた子供たちが、今や力を持ち過ぎてしまった。人類滅亡に怯え、被害妄想にとらわれた彼らにブレーキをかけるのは至難の技だろう。

■産業先進国であるはずが…

なお、やはり気候危機を煽り続けてきたドイツの主要メディアは、まだ今後の方針を決めかねているように感じる。COP26の「成果文書採択」については、中国とインドの反対によって文書の内容が薄められたことについての憤りや落胆を表す書き方が多かった。また、プーチン大統領は悪者で、バイデン大統領は希望の星というのも今なお変わっていない。

ただ、彼らの喫緊の悩みは、新政権がこれまでのエネルギー政策を、自民党の意見に沿って転換した場合、それを支持したものか、叩いたものかというところだろう。独メディアは自民党が嫌いだ。ただ、それに固執して停電になるのは、もちろん困る。

それにしても、産業先進国ドイツが、なぜ、ここまで不完全なエネルギー政策を放置しておいたのか。責められるべきは16年も続いたメルケル政権のはずだが、それがなぜか一切論じられないのがドイツの不思議である。

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川口 マーン 惠美(かわぐち・マーン・えみ)
作家
日本大学芸術学部音楽学科卒業。1985年、ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ライプツィヒ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。2013年『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、2014年『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)がベストセラーに。『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)が、2016年、第36回エネルギーフォーラム賞の普及啓発賞、2018年、『復興の日本人論』(グッドブックス)が同賞特別賞を受賞。その他、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『移民・難民』(グッドブックス)、『世界「新」経済戦争 なぜ自動車の覇権争いを知れば未来がわかるのか』(KADOKAWA)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)など著書多数。新著に『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)がある。

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(作家 川口 マーン 惠美)

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