「家事分担58:42の法則」経済学が導き出した妻の幸福度が最大になる"黄金の比率"
プレジデントオンライン / 2022年1月27日 11時15分
■家事をする父の姿
家事をする父の姿と聞いて皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。
私がまず思いつくのは、「クッキングパパ」というテレビアニメです。主人公の荒岩一味が作る料理を毎回「おいしそうだな」と思いながらテレビを見ていた記憶があります。
さて、大人になってから改めてアニメを見ると、不思議なことに気がつきます。
それは、「父親」である一味が料理をしているという点です。
もちろん、世の中には料理好きの父親もいるかと思います。しかし、アニメが放映されたのはバブル経済の影響も残る1992年から1995年であり、男性の長時間労働が当たり前の時代でした。また、今の時代よりも性別役割分業意識が明確であったはずです。
それにもかかわらず、父親の一味が料理を作るシーンが物語のメインとなっていたわけです。一味の生い立ちや共働き世帯という物語の設定上、不思議ではないのですが、当時の状況を考えれば、やや異質だと言えるでしょう。
■家事・育児の大半を担う妻は幸せなのか
時代は変わり、現在の日本では共働き世帯が専業主婦世帯を上回るようになりました。結婚・出産後に働き続ける女性も増えています。
にもかかわらず、日本では家事・育児をするのは「夫ではなく、妻」という印象が依然として強くあり、実際に妻が多くの家事・育児を担っています。
この状況に対して妻たち、特に働く妻たちは満足しているのでしょうか。おそらく、満足していないでしょう。ネットでは妻の家事・育児に対する不満を簡単に見つけることができます。
それでは、どのように夫婦間で家事・育児を分担すれば、妻の満足度を高めることができるのでしょうか。
この問いに答えることは、夫婦の家事・育児分担のあり方を見つめ直す良いきっかけになるかと思います。
そこで、本稿では働く妻の満足度(=妻の幸福度)と夫婦の家事・育児分担の関係について分析していきたいと思います。
■夫に家事・育児を丸投げすれば妻が幸せになるわけではない
図表1は、家事・育児分担割合別に妻の幸福度の平均値を示したものです。分析対象は59歳以下の働く既婚女性であり、夫が就業している場合に限定しています。
妻の幸福度には「5=とても幸せ」から「1=とても不幸」の5段階の指標を使用しています。また、妻の家事・育児分担割合には、1週間における夫と妻の家事・育児時間の合計に占める妻の家事・育児時間の比率を使用しています。
この図は興味深い結果を示しています。
それは、「妻の家事・育児分担が少ないほど幸福度が高くなるわけではない」という点です。
図中では働く妻の家事・育児分担が25~49%の時に幸福度が最も高くなっています。
妻の家事・育児分担割合が24%以下や75%以上の場合だと、幸福度がやや低くなっているのです。
この結果から、家事・育児を夫に丸投げすれば妻が幸せになるわけではなく、夫婦間で一定割合ずつ負担しあうことが望ましいと考えられます。
■妻の幸福度が最大となるのは、分担割合が58%の時
さて、ここで次に気になってくるのが、より具体的に妻の家事・育児分担が何%の時に幸福度が最も大きくなるのか、という点です。
この点を算出するために、統計的手法を用いてシミュレーションを行いました。このシミュレーションでは、夫婦それぞれの年齢、学歴、所得水準といった個人属性の違いをコントロールしたうえで、妻の家事・育児分担割合と幸福度の関係を推計しています。
図表2のシミュレーション結果を見ると、働く妻の家事・育児分担割合が「58%」の時に幸福度が最大となっていました。
この結果から、「夫婦間でだいたい6対4の割合で家事・育児を分担すると働く妻が最も幸せになる」と言えるでしょう。
■理想と現実にはギャップがある
シミュレーション結果から明らかなとおり、夫婦間で均等に近い割合で家事・育児をシェアすると、妻の幸福度は高くなります。
夫婦のどちらかに家事・育児負担が偏るのは、望ましい状態だと言えません。
この点に関して、「夫婦で均等に家事・育児を負担するのは、絵空事でしかない。現実はもっと厳しく、わが家ではこんなことおこりっこない」と思われる方もいるでしょう。
そのとおりです。これはいわば、「理想の状態」です。
理想と現実には大きなギャップがあります。
その点を検証したのが図表3です。図表3では、①夫婦間の家事・育児負担の「現実」の値、②シミュレーションによって算出した「理想」の値、そして③「理想」と「現実」のギャップを示しています。
図表3が示すように、日本の家庭では、働いている妻の平均的な家事・育児負担割合は80%を超えています。つまり、家事・育児の大半を妻が行っている状態です。
家事・育児負担割合の理想と現実のギャップは約28%であり、時間に直すと、1週間あたり約16.2時間となります。これはだいたい1日あたり2.3時間です。
つまり、理想と現実のギャップを埋めるには、「夫の家事・育児時間を1日約2.3時間増やす必要がある」ということになります。
■夫の家事・育児時間は20年かけて45分増えた
この数字を見た際、読者の方はどのように思われたでしょうか。男性(夫)、女性(妻)といった立場によりますが、「難しい」と感じた方も多いのではないでしょうか。
総務省統計局の「社会生活基本調査」によれば、6歳未満の子どもを持つ夫の1日あたり家事・育児時間は、1996年で38分、2016年で1時間23分です。この結果は、20年間で、小さな子どもを持つ夫の家事・育児時間が45分増えたことを示しています。
20年間で45分ですので、2時間近く増やそうとすれば、かなりの期間が必要ということになります。
もちろん、実際にはさまざまな改善が今後なされ、急激に夫の家事・育児時間が増える可能性もあるわけですが、「社会生活基本調査」の数字は夫の家事・育児時間を引き上げることの難しさを示しています。
ただ、夫の家事・育児時間を増やすことには妻の幸福度の上昇だけでなく、少子化対策としても有効であるため、何かの方策を見つけることが望ましいでしょう。
厚生労働省の『21世紀成年者縦断調査』の調査結果から、夫の休日の家事・育児時間が長いほど、第2子の出産割合も高まることが指摘されています(※1)。夫の家事・育児時間の増加は、少子化の抑制にも一役買いそうです。
(※1)厚生労働省「第6回21世紀成年者縦断調査(国民の生活に関する継続調査)結果の概況」
■夫の家事・育児時間を増やすのにはどうすればよいのか
以上の点から、夫の家事・育児時間を増やすことを今まで以上に真剣に検討すべきでしょう。
「どうすれば夫の家事・育児時間を増やすことができるのか」という点は、近年「夫の家庭進出」という形で注目を集める論点だと言えます(※2)。
夫の家事・育児時間にはさまざまな要因が影響しているため、簡単な解決策はありませんが、少なくとも「長時間労働を前提とした硬直的な正社員の働き方」や「男性がより働かざるを得ない男女間賃金格差の存在」には対処していく必要があるでしょう。
これ以外にも「男性=仕事、女性=家事・育児」に代表される性別役割分業意識の解消も必要だと言えます(性別役割分業意識と夫の家事・育児時間については、「『俺より稼げたら家事やるよ』のウソ」妻の稼ぎが増えても夫の家事が全然増えない理由をご参照ください)。
(※2)「夫の家庭進出」に関する書籍として、前田晃平『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ! ママの社会進出と家族の幸せのために』(光文社、2021)があります。
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拓殖大学政経学部准教授
1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。
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(拓殖大学政経学部准教授 佐藤 一磨)
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