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「トヨタはテスラになり損ねた」日本の一流企業の可能性を奪い尽くした日本政府と日本銀行の大罪

プレジデントオンライン / 2022年2月28日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jetcityimage

グーグルやアマゾンといった海外のIT企業が勢いを増す一方、なぜ国内からはこうした産業が海外へ飛躍しないのか。資産コンサルタントの方波見寧さんは「日本政府や日本銀行が国内の雇用維持を重視しすぎた結果、国内企業は事業転換が容易にできず、成長の可能性を奪われてしまった」という――。

※本稿は、方波見寧『2030年すべてが加速する未来に備える投資法』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■コンピューターの誕生で科学技術の進歩が一気に加速した

「2030年すべてが加速する未来」について、ここで端的に説明するならば、私たち人類は、従来はY=2Xのような直線的なテクノロジーの進歩に慣れていたところ、1960年頃からコンピューターと半導体と集積回路の誕生によってY=2xという指数関数的なテクノロジーの進歩を徐々に迎えることになったということです。

1960年代の大型コンピューター、1990年代のPCとインターネット、2000年代のモバイルは、すべてが2030年への準備道具にすぎません。そして、2021年、COVID‐19を抑え込んだアメリカと中国を中心として「2030年すべてが加速する未来」へ向けて、エクスポネンシャル・テクノロジー産業(指数関数的に飛躍する産業)は一つ一つが加速を開始しました。

■科学技術の発展で2030年に起こること

GAFAMとBATでは、PCとモバイルのOS、検索サイトの膨大な閲覧数、数十億人に及ぶSNS登録者、Eコマースと電子マネーによる消費行動、さらに、低空人工衛星によるインターネット・インフラによる情報収集を行ってビッグデータを収集し、AIに学習させています。

※GAFAM:Google、Amazon、Facebook(現Meta)、Apple、Microsoftの頭文字
※BAT:百度(バイドゥ)、阿里巴巴集団(アリババ)、騰訊(テンセント)の頭文字

その成果として 2030年には、アレクサやシリに話しかけるだけで、IoTを通じてすべての家庭で食事、掃除、介護を数台のロボットが引き受け、料理は3Dプリンターが、買い物はドローンが行ってくれるはずです。電力は太陽光発電による自家発電になり、住居は3Dプリンターが格安で造り上げ、自動車を所有することもなくなります。

アフリカやインド、南米の30億人といわれる貧困層は、数万基の低空人工衛星によりブロードバンドの接続が利用できるようになり、スマートフォンによる銀行機能で送金、決済、貯蓄、住宅ローン、教育ローン、事業ローンが可能となります。

また、スマートフォンだけでアメリカの最先端の授業を無料で受けられるようになります。その結果、2030年には世界中の貧困が解消され、30億人が中流階級へと転身していきます。

「2030年すべてが加速する未来」では、先進国では、いままで手にしたことのない生活必需品が激増するため、あるいは、劣化した道路や橋や鉄道などの社会インフラを大幅に更新するため、経済成長の大躍進が始まります。発展途上国では、貧困層が中流化する過程で過去に経験がないような驚異の経済成長率を記録するようになるのです。

■日本がナンバーワンだったのは過去の話

「2030年すべてが加速する未来」では、日本経済も再生しています。ただし、先進国の中でも再生時期は遅れてしまいますし、そこへ行き着く旅では過酷な試練が待ち受けています。その理由は、過去25年間、日本政府と日本銀行がシンギュラリティ(特異点)への加速に抵抗してきたからです。

1960年代のコンピューターと半導体と集積回路は、デジタル化に始まるエクスポネンシャル・テクノロジーの典型ですが、このエクスポネンシャル・テクノロジーの流れを最大限活用したのは日本経済です。

1980年代には、日本のスーパーコンピューターは世界ナンバーワンであり、半導体や集積回路でも世界ナンバーワンでした。その結果、日本の電機産業は世界ナンバーワンで“ジャパン・アズ・ナンバーワン”と称されました。さらに、株式や土地の評価が上がり、皇居の土地だけでカリフォルニア州に匹敵するほどの価格となり、大学の研究費は膨大な予算を取れました。

ところが1990年、日本銀行総裁は“平成の鬼平”などと称して総量規制を行い土地と株価を大暴落させました。この日本経済の自爆に対して、1995年からはゼロ金利政策と円安誘導政策を始めました。これらはバブル崩壊で倒産危機にあった既存の企業の温存と、主力産業の電機と自動車の製品を円安誘導で安くして輸出を伸ばすというものでした。

■ゼロ金利と円安誘導によって日本企業は消滅の危機にある

あれから25年間も、ゼロ金利と円安誘導は継続されています。

バブルを自爆させた結果、日本企業も大学も新しいテクノロジー開発用の研究費を捻出しづらくなりました。ゼロ金利によって古いテクノロジーに基づく既存企業を温存したため、PC、インターネット、モバイルを利用したDX(デジタルトランスフォーメーション)や分散化システムを新規戦略として構築する機会が遅れ、円安誘導によって内需企業を犠牲にすることで、一層、次のテクノロジーへの転換が遅れました。

円安誘導によって輸出企業の電機と自動車を支えてばかりいたために、「2030年すべてが加速する未来」への潜伏期に行っておくべき、潜在的なエクスポネンシャル・テクノロジー産業への転換が大幅に遅れてしまったのです。その結果、日本の大企業の多くは、エクスポネンシャルの“6人の死神”に襲われてしまい、その多くが破壊されるどころか、消滅させられる可能性が高いのです。

エクスポネンシャルの6Dとは、digitization(デジタル化)、deception(潜伏)、disruption(破壊)、demonetization(非収益化)、dematerialization(非物質化)、democratization(大衆化)の6段階のDを示しています。

エクスポネンシャル・テクノロジー企業は6Dを通じて市場に君臨しますが、古いテクノロジーに基づく既存の企業は6Dという6つのDeath(死神)を通じて消滅してしまうという説です。過去25年間に及ぶ日本政府と日本銀行によるゼロ金利と円安誘導は、既得権益を温存し、消滅させられるような企業を大量生産してきてしまったということです。

■世界のトヨタが陥るかもしれない未来のシナリオ

以下ではトヨタ自動車に関係するフィクションで説明しましょう。自動運転でいえば、コンピューターとAIによるデジタル化の典型です。

グーグルから分社したウェイモが2021年6月から無人タクシーサービスを米アリゾナ州のフェニックスで開始しましたが、「当分の間は、有人タクシーのほうが安全だし、自動運転タクシーなんて夢物語である。危険である」と評価されて、誰もがトヨタのプリウスを購入しているのが潜伏期です。

ところが、グーグル&ウェイモ、テスラ、アップルなどの無人タクシーが普及して、安全であるとの評価がレビューを埋め尽くし、車内で会議も事務作業も睡眠も取れて、しかも到着時に乗り捨てられるとなれば、自動車を所有して自分で運転する人がいなくなります。トヨタの販売にとっては破壊的な影響があります。

現在の所有者は月の95%は駐車場にマイカーを寝かしているため、所有から利用への転換が合理的です。自動運転タクシーの時代になれば、24時間365日走り続けるため、台数は100分の1で十分です。自動運転車を製造しても100分の1の台数しか販売できないので、儲からなくなってしまう非収益化が起こります。

自動運転タクシーが普及していく中で、空飛ぶ自動運転車が登場します。当初はビルの屋上の発着場での離着陸ですが、自動運転タクシーと同様に地上走行で迎えに来てくれ、専用の発着場から空を飛ぶようになるかもしれません。この時点では、自動運転タクシーは消滅してしまい、非物質化が起こります。

空飛ぶ自動運転車は、エクスポネンシャル・テクノロジーの性質に従い、その利用料は、毎年半値のペースで値下がりします。気が付いてみれば、公共の交通手段として、以前のバスや電車並みの料金となって大衆化が進みます。

以上が、自動運転テクノロジーのデジタル化、潜伏、破壊、非収益化、非物質化、大衆化という、エクスポネンシャルの6Dといわれるプロセスです。

自動運転のマニュアル
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■政府や日銀が輸出産業を優遇し続けた結果

いま述べたことが日本最高企業のトヨタの運命であるとすれば、既存の自動車産業とその周辺に大打撃をもたらします。この元凶はすべて日本政府と日本銀行による政策の失敗にあるのです。ビジネスモデルを転換させれば、いくらでも突破口のあるトヨタに現状維持をさせてしまったということです。

日本国民に預金金利を与えず、無理やり円安誘導を続けた日本政府が守りたかったのは、日本の輸出企業です。100万円の日本製品は、1ドル=50円では2万ドルですが、1ドル=100円では1万ドルです。外国人にとっては円安になると、日本製品が安く買えるのです。日本製品の輸出に有利に働くのです。だから、日本政府と日本銀行は、25年間も、ゼロ金利と円安誘導を行ってきました。

リーマンショック時には、財政政策によって道路や橋や防波堤を整備してもよかったのに、エコポイントとエコカー補助金を出して、輸出産業である電機産業と自動車産業を守りました。東日本大震災では、原子力発電が利用できなくなり、製造電力コストが上がったため、輸出企業である電機産業や自動車産業では、国内生産では採算が合わないところまで追い込まれました。それでも、日本政府と日本銀行は、内需産業シフトを行うわけでなく、輸出産業を優遇し続けました。

■シャープは身売り、東芝は倒産寸前…

2012年度から2018年度までの売上の伸びは、非製造業では+13.5%でしたが、製造業では+7.2%でした。どちらも売上の伸びは低いものの、利益の伸びは+72.7%と+75.2%になっており、売上の伸びに対して、従業員の給料の伸びを抑え込んだ結果です。年収の低い非正規社員ばかりを雇用した結果です。これだけ日本国民の犠牲の上に成り立った輸出産業の優遇策はどうなったのでしょうか。

シャープは台湾企業に身売りし、東芝は倒産寸前です。ガソリン車・ハイブリッド車に固執するトヨタでは、2020年に中国輸出で業績が急回復しましたが、EV車の自動運転が潜伏期を終えたあと、ガソリン車廃止によりガソリンスタンドが消滅することから、ハイブリッドカーも造れなくなります。しかも、出遅れて参入する自動運転車では、販売台数は現在の100分の1になるでしょう。

トヨタに関しては、水素エンジンという画期的なエクスポネンシャル・テクノロジーを開発したものの、トヨタ、日産、ホンダの大連合にする計画を政府主導で行ったため、全員一致の手かせ足かせに縛られてしまい、水素ステーションも全国に30箇所に満たない状態でもたもたしている隙に、テスラのEV戦略に飲み込まれてしまいました。

■国内生産という十字架が事業転換の足かせに

ガソリン車・ハイブリッド車から水素エンジン車へ単独で舵を切れたでしょうし、ジョビー・アビエーションとの提携を強めて空飛ぶ自動車へ舵を切ることもできたでしょう。世界最高レベルのロボットオートメーションをシステム化して、ビジネスにすることもできたでしょう。

方波見寧『2030年すべてが加速する未来に備える投資法』(プレジデント社)
方波見寧『2030年すべてが加速する未来に備える投資法』(プレジデント社)

しかし、政府介入による国内生産という十字架により、容易に事業転換が図れません。「円安誘導をするし、困ったらエコカー補助金を出すから、ガソリン車やハイブリッド車の国内生産を続けて、就業者の雇用を守ってくれ」との政府の要請があるはずですが、それが手かせ足かせとなって“生まれ変わり”ができなくなっています。機織り機から自動車メーカーへと転換したDNAを生かしきれないでいるのです。

企業の独自判断で競争していれば、2021年からのエクスポネンシャルの6Dの「破壊」に対して、リーディング産業の転換により対応が可能であったところ、日本政府と日本銀行が抵抗勢力となってしまったということです。すべての元凶は日本政府と日本銀行による政策の失敗にあるのです。

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方波見 寧(かたばみ・やすし)
イーデルマン・ジャパン代表
一橋大学卒業後、大手証券会社を経て、2001年にイーデルマン・ジャパンを設立。リック・イーデルマン氏に師事し、ファイナンシャル・プランニング、投資運用法、エクスポネンシャル・テクノロジー、ブロックチェーンとデジタル資産について学ぶ。ブロックチェーンとデジタル資産の米国研究機関であるDigital Asset Council for Financial Professionals協会会員。著書に『21世紀最大のお金づくり』(徳間書店)、『家庭の金銭学』(リック・イーデルマンとの共著、金融財政事情研究会)など。

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(イーデルマン・ジャパン代表 方波見 寧)

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