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「SNSで知り合ったハリウッド俳優に7500万円を送金」74歳の女性がそんな詐欺に騙されたワケ

プレジデントオンライン / 2022年2月28日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/high-number

インターネットで詐欺被害に遭う高齢者が増えている。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「高齢者はネットに関する経験や知識が若い人より少なく、一見だまされそうにない詐欺にも簡単に引っかかってしまう。困ったときにすぐ相談できる家族や身近な人の存在が重要だ」という――。

■定期購入した高額サプリの解約方法がわからない

ある40代女性は最近、70代の両親に頭を抱えることが起きた。

「コロナ禍でしばらく会えなかった両親に会ったら、自宅に開封さえしていないサプリの箱がたくさん転がっていた。とんでもなく高額なサプリを定期購入していることになっていて、要らないのに解約方法がわからないからと放っておいたよう。もっと早く相談してくれれば……」

このように、初回のみ安価または無料だが、2回目以降は高額になったり、「半年間は解約できない」などとされているトラブルは増えている。このような注意書きは小さな文字であえてわかりづらく書かれていることも多く、「定期購入商法」と呼ばれる最近増えているトラブルの一つだ。

国民生活センターの資料によると、2020年度に寄せられた消費者相談のうち、契約当事者が60歳以上である相談件数は約34万件に。コロナ禍で感染リスクを避けるために高齢者の利用が増えたことで、通信販売に関する相談が増加し、過去最高の相談件数となったのだ。

国民生活センターにも、定期購入のサプリに関する相談が寄せられている。70代の女性は、スマートフォンのインターネット広告から初回500円のダイエットサプリメントを申し込んだが、その後2万円を超える請求を受けたという。電話では解約手続きができず、案内された無料メッセージアプリでは操作がうまくできないというものだ。

■SNS詐欺のターゲットは若い人だけではない

SNSでトラブルに巻き込まれる中高年は年々増えている。国民生活センターに2019年度に寄せられた50歳以上の相談件数は4745件で、2010年度の145件と比べて30倍以上と大きく増加した。

国民生活センターでは、<SNSをきっかけとした消費者トラブルにご注意! 中高「生」だけじゃなく中高「年」も>(2020年4月9日:公表)というタイトルの報告書で注意を呼びかけている。

たとえば報告書では、60代男性のこんな事例が紹介されている。

ある女性のSNSを見ていたところ、その女性から連絡が届き、SNSでやりとりをするようになった。その後、女性から「携帯が壊れたので今後はこのサイトで連絡を取りたい」と言われサイトへ誘導された。そのサイトは最初無料で利用できたが、途中から有料になった。女性からは「かかったお金は会った時に返す」と言われたため、女性とのやりとりに必要なポイントの購入を続けた。

その後も文字化け解除等と理由を付けられ、ポイントの購入を繰り返してしまった。同様の手口で別のサイトでもポイントの購入を繰り返してしまい、ポイントの購入代金は合計約370万円となってしまったが、まだその女性に会えない。だまされたと思うので、解約、返金を求めたい。

■70代の女性漫画家が7500万円をだまし取られた相手

また、マッチングアプリやSNSなどでの出会いをきっかけとした投資詐欺の相談件数も、コロナ禍で急増中だ。被害者の年齢層は、20代から70代までと幅広く、分別があるはずの大人も多いところが特徴だ。外国人による「国際ロマンス詐欺」は、メッセージのやりとりを重ねて恋愛感情を抱かせた上で荷物やお金を送りたいと提案し、その手数料の支払いを求めるケースが多いようだ。

こうした詐欺では、多くはパイロットや軍籍の弁護士、軍医などの肩書を持ち、外国人の写真を見せるなどして信じさせる。「コロナ禍で入国できない」と言えば信じてしまいやすく、ネット上でやり取りすることで外部からも気づきづらくなる。

レディースコミックの漫画家、井出智香恵さん(74)も被害に遭った一人だ。SNSを通じて出会ったハリウッド俳優のマーク・ラファロを名乗る男と親密になり、約4年間で約7500万円をだまし取られてしまった。

暗闇でパソコンを操作する人
写真=iStock.com/Lincoln Beddoe
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Lincoln Beddoe

■「友人、仕事仲間、家族をも詐欺被害者にしてしまった」

NHKが1月23日に放送したBS1スペシャルでは、Twitterのダイレクトメッセージをきっかけに、妻との離婚が成立するまでに自分の財産を渡したいと井出さんに持ちかけ、手数料などを要求する手口を報じている。相手はやりとりの中で結婚をちらつかせており、典型的な国際ロマンス詐欺だ。

金を持っていく大使館職員の移動費に税関の口利き料、交通事故の手術費用……男の要求はだんだんとエスカレートしていったが、送られてきたマーク・ラファロが話す動画や身分証明書の画像などを信じ込んだ井出さんは応じ続けたという。

井出さんは自身のFacebookで「詐欺にあい、心も生活も辛い状況にいます。でも、それ以上に苦しいのは大切な友人、仕事仲間、家族をも詐欺の被害者にしてしまったことです。私は、偽マークの話を信じ、お金を送り続け、足らなくなると、友人たちから、お金を借りてしまいました。ご迷惑をかけてしまい、心から申し訳ないと思っています」と悲痛な思いをつづっている。

シニアはもともと、「お金」「健康」「孤独」の3つの大きな不安を持っている。さらにコロナ禍で人と会う機会が減り、寂しさや孤独が募ったことで、自分を認めて必要としてくれる人を求めてしまうというわけだ。

やり取りする相手が本当に写真の人物なのか、ビデオ通話などをすると確認することもできる。そもそも、実際に会う前に結婚をちらつかせたり、お金の話を持ち出してくる時点で疑うべきだ。少しでも疑問を感じたら信頼できる家族や友人などに相談し、冷静に判断してもらうことが大切だ。

■インターネットに疎い高齢者が狙われる「サポート詐欺」

利用者が増えているとはいえ、シニア層は機器やネットワークに疎い人が多い。その点に付け込むのが「サポート詐欺」だ。

パソコンがウイルスに感染したように見せかけ、利用者の不安を煽った上で、ウイルスを駆除する名目で金銭をだまし取る手口で、被害者の8割が60代以上の高齢者という。

だまされると、クレジットカード情報が知られてしまうほか、パソコンの中の情報が見られて不正にコピーされたり、不正なソフトをインストールされたり、不正アクセスの踏み台にされることもある。

国民生活センターによると、サポート詐欺の被害は近年急増しており、2017年度の473件から、21年度は12月末現在で1002件まで増えた。被害額も17年度は約1100万円だったが、21年度は12月末時点で約2億2000万円と過去最悪となっている。

■ウイルス感染やハッキングの警告で数万円をだまし取る

今年1月には、このサポート詐欺で初の逮捕者も出ている。警視庁サイバー犯罪対策課は、サポート詐欺容疑でフィリピン国籍の容疑者ら3人を逮捕した。

都内の60代女性がパソコン画面を見ていると、「ウイルス、スパイウェアに感染しています!」という警告、音声が流れた。女性が表示された電話番号に電話すると、フィリピンのコールセンターに誘導され、遠隔で警告を解除後、サポート料として3万円をだまし取られていたのだ。

警視庁によると、この容疑者らは18年10月から19年7月の間に、400人以上から2000万円以上を詐取したとみられている。

2018年7月には、尾木ママこと尾木直樹さんもサポート詐欺に遭ったことをブログで告白している。被害の状況はこうだ。ワールドカップの決勝戦を見ようとして、アプリにアクセスしたところ、「このパソコンは、ハッキングされました。直ちに以下の電話番号に電話連絡して下さい!」と表示され、電話をかけた。

たどたどしい日本語の外国人女性が出て、セキュリティを入れるためにクレジットカード番号を教えるよう言ってきたが、これは危険と断った。しかし、Amazonカードを購入して裏面の番号を教えるという代替案を出され、2万8000円をだまし取られたというわけだ。警告が出てからAmazonカードの番号を教えるまで実に3時間ほど。後になって疑問に思った家族が電話番号を検索したところ、詐欺の番号だとわかったという。

■「今すぐ電話を」と不安を煽られたら詐欺の可能性

国民生活センターによると、このようにプリペイドカード式の電子マネーを購入させ、サポート契約を結ばせ金を支払わせる手口も目立っている。クレジットカード決済や現金振込よりも不正が発覚しにくくするためと考えられており、注意が必要だ。

そもそも表示された電話番号には連絡しないことが大切だ。警告画面が消せない場合は、ブラウザを強制終了するか、パソコンを再起動するといいだろう。

もちろん、遠隔サポートすべてが詐欺ではない。正規のサポートと詐欺を見分けるポイントは、「今すぐ電話をしてください」などと不安を煽っているかどうか。不安を煽られている場合は、電話番号などの連絡先を一度ネットで検索してみるといいだろう。

シニア層は、若年層と比べて情報リテラシー教育を受ける機会が少ない。経験や知識などが乏しいため、現役世代なら常識としてわかっているようなトラブルにも引っかかってしまいがちだ。一方で精神的には大人のため、被害を恥じて隠したり、周囲に相談できないことも少なくない。そうして周囲が気づいた時には被害額が大きくなってしまうのが注意すべき点だ。

■詐欺被害を遠ざけられるのは身近な人の存在

今のシニア層は精神的にとても若く、アクティブな傾向にある。被害傾向を見ると、アダルトサイトやマッチングアプリなどを利用して被害に遭う例も多い。SNSなどの利用も多く、ネットでの株取引やフリマアプリを使った取引をしている人もいる。

スマホを操作する高齢者
写真=iStock.com/Pornpak Khunatorn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pornpak Khunatorn

一方で認知機能が低下して、購入したことを忘れて何度も購入してしまう高齢者もいる。通信販売で決済後も何度も購入ボタンを押して買いすぎるとか、「ネット上でしかキャンセルできないから」という理由でキャンセルを諦めるといった例もある。国民生活センターには、そんな弱みに付け込まれた高齢者のケースが報告されている。

90歳代の曽祖父は、これまで音声通話のみのフィーチャーフォンを利用していたが、電池の調子が悪く、一人で携帯電話ショップに相談に行ったところ、詳細は不明だが、5Gの最新型スマートフォンの契約をさせられていたとわかった。

この地域ではまだ5G回線は使えないし、そもそも曽祖父がインターネットに接続して利用することもない。スマートフォンの機種代金は一括払いしてきたようだが、領収書もなく、契約書をみても詳細はよくわからない。本人は多少判断力に難があるようだが、認知症の診断は受けていない。

このような被害やトラブルを防ぐためには、困った時に家族や周囲の人に相談できる環境を用意しておくことが重要だ。普段から電話や家族のLINEグループでコミュニケーションをとることで、大きな被害になる前に察知することができるだろう。これからは、未成年の子どもだけでなく高齢の親世代も犯罪から守ることが求められる時代なのだ。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。

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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)

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