「賃貸に出す」を考えてはダメ…持ち家を処分するなら早ければ早いほうがいい理由
プレジデントオンライン / 2022年2月27日 10時15分
※本稿は、長嶋修『バブル再び 日経平均株価が4万円を超える日』(小学館新書)の一部を再編集したものです。
■家が下位15%のランクなら即座に処分
コロナ禍という社会の激変期や、やがて訪れる新しい社会を見据えて、筆者によくいただく典型的な質問は「何に投資したらよいか」というものです。
不動産の場合、以下の3極化の構図のうち、どこに当てはまるかで戦略は異なります。
まず下位15%の「無価値化・マイナス価値化不動産」については、不動産だけの相続放棄はできないので、基本的には即座に処分したほうがよいでしょう。身もふたもない話になりますが、カネばかりかかって将来性がないためです。
このような不動産のために、2023年には新制度「相続土地国庫帰属制度」が利用できる予定です。これは簡単に言えば「土地を手放せる制度」ですが、実はあまり使い勝手がよくありません。まずあくまで「土地を手放せる制度」ですから、建物が建っていれば自費で解体する必要があります。
木造2階建て・30坪程度の建物なら150~200万円。重機が入らないなど道路が狭いところなどではもっとかかります。土壌汚染や埋設物がないのも前提となり、例えば井戸や浄化槽があれば撤去しなければなりません。そのうえで審査手数料を支払い、10年分の土地管理費相当額も支払ってやっと手放せるのです。10年分の管理費は、市街地の200平方メートルの宅地で約80万円です。
■のんびりしているとますます処分できなくなる
簡単に言えば、固定資産税や維持費が負担であれば、価格がゼロでもマイナスでも即座に手放してしまったほうがいいでしょう。「もっとかんたんに土地・建物の放棄ができる」といった法案成立や改正に期待するなら、もう少しそのままでいいのかも知れません。いずれにしても、あまりに制度設計を緩和すると、国が引き取る制度がゴミ回収のようになってしまい、収集がつかなくなることを危惧している、といった前提は理解しておく必要があるでしょう。
中位70%の「ダラダラ下落する不動産」も、時間の経過とともにその価値は下落していくわけですし、建物が空き家の場合、そのままにしておくとどんどん傷み、ますます売る・貸すなどの処分が難しくなりますので、できれば1秒でも早く売却したほうがいいのです。のんびりしていると周辺にどんどん空き家のライバルが増え、ますます処分できないというスパイラルに。将来、そこに自分たちや親族の誰かが住むといった予定でもない限りは、早めの処分をおすすめします。
とはいっても「相続で揉める」「思い出が残っている」といった感情的・情緒的理由が多分に含まれるのが不動産だという側面はよく理解しながら、あくまで経済合理性にのみフォーカスしてお伝えしていますことをご了承ください。
■「賃貸に出す」にはハードルがとても高い
売ったり貸したりせずそのままにしておく場合でも「管理」は適切にしておく必要があります。「雑草の刈り取り」「ポスト周りなどの整理」「換気」「建物不具合の発見と対応」など。休日のたびに時間を割いてこうしたことを行うのが負担に感じる場合には、エリア内に「空き家管理サービス」を提供する事業者があれば、月々5000円~1万円程度で管理を依頼できます。
その場合でも固定資産税は当然支払う義務がありますし、建物に不具合があれば修繕費用がかかります。それでも空き家は、不法侵入によるいたずらや放火など、犯罪の温床になり得ることに留意です。
「賃貸に出す」という手もなくはありません。ただしこれは、ある程度の水準の賃料がとれないと採算が合わないことも多いのです。大抵の場合、貸す前に、一定の修繕やリフォームが必要になりますが、例えば30坪の4LDKだと、床壁天井を一通りやるだけでも150万円ほどかかります。さらにキッチンや洗面台など設備系一式で150万円くらいです。
リフォームに300万円かけて貸し出すとしても、それを何年で回収できるのか。仮に月5万円で貸し出せば、年間60万円。そうすると300万円回収するのに5年はかかります。実際は経費もあるから6~7年かかるでしょう。さらに固定資産税も払って……などと考えると結構な賃料を取れる立地でないと成立しないはずです。
■「今がバブルかどうか」なんてだれも分からない
人に貸す場合は、従来通りの「普通借家契約」にすると「正当事由」がなければ退去を強制できませんので注意が必要です。これを嫌うなら「定期借家契約」として、2年・3年などの「期限の定めのある契約」としておきましょう。これなら決まった年数で退去してもらえますし、双方が合意すれば更新も可能です。
定期借家契約に関する諸注意点を述べるのは本稿の趣旨ではありませんので省きますが、ググればあらかた出てきますので、そうしたことを理解の上、不動産屋さんに相談してみてください。
上位15%の「価値維持・上昇する不動産」は、極端に言うとどんな方策案をとっても大丈夫。まだ上がると思えばそのままにしておくか、人に貸しておけばいいですし、そろそろ天井かなと判断すれば、売却してもいいと思います。不動産を大天井で売るというのはなかなか難しい判断で、上昇基調にあるなかで、ちょっと高めの価格で売りに出して様子をみる、くらいでいいのではないでしょうか?
そもそも今がバブルかとか、いやこれからバブル? みたいな話は禅問答で、いつも事後に振り返るしかできないのです。300年前、ロンドン株式市場の投機ブームに乗って「南海会社」の株を資産のほとんどを費やして購入した万有引力のアイザック・ニュートンは、その3週間後に株が暴落し、すべてを失いました。俗に言う南海泡沫事件で大損し「天体の動きは計算できるが、人々の狂気は計算できなかった」と述懐したのは有名な話です。
■「大手仲介会社だから安心」の落とし穴
不動産を売却する場合、お願いする不動産仲介会社について、大手か中小かといった議論にはあまり意味がありません。売却の成否は直接担当してくれる不動産エージェントのスキルや人柄に大きく依存するためです。
昨今は多くの買主がスマホやPCを通じて物件検索を行います。「宣伝力がありそう」といったイメージで大手に依頼しても実際は「アットホーム」「ホームズ」「Yahoo!不動産」の3つ程度に物件掲載されていれば、世間一般に情報は広く行き渡っていると言ってよく、その意味では大手も中小も関係ないと言えます。
中古住宅市場では新築と違って「ブランド力がある」といった理由で物件検索を行うこともありませんから「なんとなく安心」といったイメージだけで大手に依頼しても、物件情報を囲い込まれ、幅広く買主を募ってくれるのでなければむしろマイナス。名だたる大手でもいまだにこんなことをやっていることも多いのが実情です。
「物件情報の囲い込み」とは、売り主・買主双方から仲介手数料をもらいたいがために、他社から問い合わせがあっても図面を送らない・案内させないなどの妨害行為を行い遮断すること。これは不動産業界でも長年問題視されてきましたが、残念ながらいまだにこの悪習が絶えません。
一方中小の不動産仲介会社は人や書類などの品質にばらつきが多く、当たり外れが多い、バラつきが大きいと言えるでしょう。つまり不動産仲介会社を選ぶというよりは、不動産エージェント選びが大事だということです。
■優良なエージェントを見抜く質問とは
その上で、どんなエージェントがいいのか。ポイントをざっくりとご説明します。
「2つの相性」をチェック
まずは「知識やスキルに関する相性」。端的に言って、こちらの望むレベルに達していないと感じられる担当はお付き合いできないでしょう。次に「人間的な相性」。これは人間ですから如何ともし難いところですが、信頼はしきれないけれども、なんとなく前に進むといったことは避けましょう。査定依頼をした際に、売却価格やその戦略の説明を受ける場面があるはずですが、その際のやり取りで判断すればよいでしょう。数社に査定依頼をすれば相対比較が可能です。
不動産立地に「本当に」精通しているか
売却する不動産の立地特性について、どの程度詳しいのか。どの不動産仲介業者もそれなりのプロですから、通り一遍のことは皆わかっています。買い物などの利便性や治安、水害可能性、地盤の特性、交通量や、小中学区及びその評判など子育てのしやすさといったことは当たり前。
ポイントになるのは例えば、当該立地の「昨今の売買動向」。マンションが強いのか、それとも一戸建てが強いのか。シングルタイプ・ファミリータイプなど属性ごとにどのような需給状態にあるのか。そして競合物件としてどのようなものがあるか、といった具体的なことです。
■提示する金額で売れるとは限らない
売却をする際には、まず、不動産仲介会社に今の住まいがいくらで売れそうか査定をしてもらいます。その際、依頼は1社ではなく複数社に。仲介会社によって査定額は違いますが、おおよその相場観はつかめます。このとき注意したいのは、仲介会社が提示する金額で売れるとは限らないということ。高い金額で査定してくれた仲介会社だから、という理由で売却依頼をするのは意味がありません。
実際にいくらで売れたかという成約価格を知るには、不動産の購入者を対象としたアンケートを調査に基づく情報を公開している国土交通省の「不動産取引価格情報検索」や、不動産仲介会社以外の一般の人も閲覧できる不動産流通機構の「レインズマーケットインフォメーション」が参考になります。
自分の家の周辺で、どんな物件がいくらで売り出し、成約されているか確認してみましょう。大規模なタワーマンションは住戸数が多いため、同時期に複数住戸が売り出されていることが多くあります。他の住戸の売り出し価格を確認して、わが家をいくらで売り出すかという作戦を立てるのも大切です。
■売れないからと価格を下げてはいけない
一般論としては、中古マンションの売り出し価格と成約価格には7~10%程度の開きがあります。ところが、2021年6月には新規売り出し価格と成約価格がほとんど同じになりました。これは売り出されている戸数が少なく、在庫不足のため売り手市場になっていることが要因です。ですから、今は、同じマンションや周辺のライバルになりそうなマンションで、自分の物件と似たようなものが出ている場合でも、他の物件の売り出し価格から下げずに売却したほうがいいでしょう。
売却する住まいから退去していても、まだ居住中でも、購入希望者が現れれば家の中を見てもらう「内覧」が行われます。その際、購入希望者に良い印象を持ってもらうことが、早く、そして少しでも高く売るためには必要です。
ところが実際には、生活をそのまま見せてしまっている物件が多いのです。例えば、アメリカでは居住中の物件でもモデルルーム並みにデコレーションをして物件をより魅力的に見せます。この手法を指す「ホームステージング」という言葉もあるほどです。
必要のない荷物はトランクルームに預けたり処分したり、なかには家具や絵をレンタルするケースも。壁に絵が飾られているだけでも、売却のための大きな差別化になります。早く、高く売却するためには、モデルルーム並みにとまではいかなくても、住まいをキレイに、明るく、魅力的に見せるための努力は必須です。
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不動産コンサルタント
さくら事務所会長。1967年生まれ。業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立し、現在に至る。著書・メディア出演多数。YouTubeでも情報発信中。
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(不動産コンサルタント 長嶋 修)
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