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「北京五輪でメダル量産のスケートとスキー」限界集落ならぬ"限界種目"と言えるこれだけの理由

プレジデントオンライン / 2022年3月1日 11時15分

ノルディックスキー・ジャンプ男子個人で金メダルと銀メダルを獲得し、ポーズを取る小林陵侑=2022年2月15日、中国・張家口(写真=時事通信フォト)

北京五輪での日本のメダル獲得数は冬季五輪史上最多の「18」。立役者の種目はスケートやスキーだが、スポーツライターの酒井政人さんは「スケートやスキーの競技人口は、サッカーやバスケットボール、柔道など夏季五輪の種目に比べ、競技人口は極端に少ない。限界集落ならぬ“限界スポーツ種目”に近づいていると言えるかもしれない」という――。

■冬季五輪史上最多の18個のメダルを獲得した日本だが…

北京五輪での日本選手団のメダル獲得数は冬季五輪史上最多となる「18」(金3、銀6、銅8)。国別ランキングでいうと12位だった。大会前はさほど盛り上がりを見せていなかったが、いざ開幕すると日本勢の活躍もあり、多くの話題をさらった。

しかし、そうした選手の奮闘ぶりと裏腹に、ウインタースポーツは今、厳しい現実に直面している。メダル効果で活況を呈する種目がある一方で、「限界集落」ならぬ、「限界スポーツ」に近づいている種目があるからだ。

今大会を契機に国内で盛り上がりを見せている種目の筆頭はスノーボードだ。ハーフパイプで平野歩夢が金メダル、冨田せなが銅メダルを獲得。ビッグエアでも村瀬心椛が銅メダルに輝いた。

スノボ人口は2020年時で160万人(日本生産性本部「レジャー白書」)。ピークだった2002年の540万人から大幅に減少しているものの、今冬、日本人選手の活躍で注目度が急増している。読売新聞(2022年2月19日付)によると、50以上のメーカーの板やウエアなどが並ぶ専門店「Liberty(リバティ)」(東京都千代田区)では、昨年同時期より客足が3割ほど増加。平野歩夢モデルの板などに予約が相次いでいるという。また各地のスノボ教室の参加者も増えているようだ。

■冬季五輪は「限界スポーツ」に近づいている種目が多い

こうした五輪特需が出ることはいいことだが、実際はそううまくはいかない。各種目をクローズアップしていくと非常に“危うい種目”が潜んでいる。

日本では過疎化や少子・高齢化が進み、共同体の機能を維持するのが困難になりつつあるある集落は「限界集落」と呼ばれている。冬季五輪にも“限界点”に近づきつつある「限界スポーツ」があるのだ。

例えば、国内の注目種目であるスピードスケートとスキージャンプだ。ウインタースポーツとしての歴史は長く、存在感もあるが、両種目とも競技人口が非常に少ない。日本代表の未来を担う高校生アスリートの状況はどうなのか。令和3年度の全国高等学校体育連盟の加盟登録状況を見ると、その数字は“危険水準”に到達している。

スケート:男子847人(113校)、女子377人(157校)
スキー:男子1232人(274校)、女子707人(210校)

たったこれだけしか登録人数がいないのだ。しかも、スケートのなかにはアイスホッケー、スピードスケート、フィギュアスケート。スキーにはアルペン、クロスカントリー、スペシャルジャンプ、ノルディックが含まれた数になる。

平成15年度(2003年度)の加盟登録状況と比較すると、女子のスケートは231人(117校)から1.6倍ほどに増加しているが、男子のスケートは1200人(127校)から7割ほどに減少。スキーは男子が2676人(518校)から半分以下に、女子も1008人(347校)から7割ほどになっている。

■スケート(高校生)の競技人口はサッカーの0.5%しかいない

参考まで、他競技の数字(令和3年度)は以下の通り(左が男子で右が女子)。

陸上競技:6万2720人(4112校)、3万5428人(3693校)
水泳(競泳):1万8500人(2008校)、1万1019人(1820校)
バスケ:8万5358人(4261校)、5万4844人(3740校)
バレー:4万9384人(2765校)、5万7264人(3806校)
卓球:5万104人(3999校)、2万2016人(3350校)
サッカー:14万9619人(3937校)、1万714人(671校)
バドミントン:6万8618人(3594校)、5万6681人(3701校)
柔道:1万2045人(1659校)、3579人(991校)

夏季五輪でおなじみの競技と比べて、スケートやスキーの競技人口の少なさは一目瞭然だ。スケートは約15万人のサッカーの0.5%、スキーは同0.8%でしかない。マイナーな印象の強い男子ソフトボールの3714人(250校)と比べても、圧倒的に少ない。

では、高校生以外ではどうか。日本スケート連盟(JFS)の調査によると、2019年時点でJSF競技登録者数は約7600人(スピードスケート、フィギュアスケート、ショートトラックの男女総数)。2029年には2万人を目指している。

ちなみに、スピードスケートの強豪国・オランダは3万6000人の競技人口がいるという。オランダの人口(約1700万人)は日本の約13%だが、競技人口は約4.7倍もいるのだ。またアメリカはフィギュアスケートだけで18万4000人(スピードスケートは2100人)もの競技人口がいる。

スピードスケート選手の足元と影
写真=iStock.com/Bene_A
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bene_A

今回、北京五輪の女子スピードスケートで27歳の高木美帆が5つのメダル(金1、銀3、銅1)を獲得できたのは、少ない競技人口ながら大健闘したといえるだろう。だが逆に言うと、日本代表として出場したスピードスケートの8選手中6人が前回経験者で、世代交代がうまくいっていない可能性も否定できない。

スキージャンプはどうかというと、こちらも寂しい状況だ。2014年のソチ大会から始まった女子の五輪スキージャンプの競技人口もかなり少ない。SAJ(全日本スキー連盟)登録者数は中高生を含めても90人ほど。そのなかで国際スキー連盟(FIS)登録者数は40人ほどしかいないのだ。

ウインタースポーツの先細りに関連しているのは施設の問題だ。スピードスケートやスキージャンプをする場所はその規模の大きさや維持コストなどもあり、全国あちこちに作ることは困難で、競技人口の急増は望み薄だ。

■競技用スーツのメーカーもできるサポートには“限界”が

また両種目の競技用スーツはミズノがオフィシャルサプライヤー契約を結んでおり、最新のテクノロジーが詰め込まれている。しかし、競技人口が少ないうえに、1着10万円以上もする高額スーツに市場はない。さらにルール改正などもあり、年々進化が求められることになる。コストに見合う収益を確保するのが難しいため、メーカーとしてできるサポートには“限界”があるのだ。

風の抵抗が結果に大きく作用する種目だけにメーカーによる競技用スーツのアシストがなくなると、世界で戦うのは難しくなるだろう。

スキージャンプ
写真=iStock.com/technotr
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/technotr

スノーボードのハーフパイプやビッグエアも競技者としての人口は多くないが、世界最高峰の「X Games」が大きな盛り上がりを見せるなど、世界中に熱狂的なファンがいる。そして、Doスポーツとして楽しんでいる“競技人口”は国内だけで200万人近くもいる。日本代表と同じウエア(スノーボードはデサントがオフィシャルサプライヤー契約を結んでいる)を着たいというファンも多い。メーカー側も十分にペイできると考えているはずだ。

■ウインタースポーツの環境はますます厳しくなる

冬季五輪はノルウェーやスウェーデンなどウインタースポーツが盛んな国にとっては国を挙げてのビッグイベントかもしれない。しかし、世界的に見ればサッカーのワールドカップや夏季五輪ほど熱狂しているわけではない。

夏季であれ冬季であれ、代表選手に選ばれることの“価値”は競技人口の数に比例すると言ってもいい。国の代表として100人中から3人選ばれるのと、10万人中3人では“難易度”が大きく違ってくるからだ。

冬季五輪には競技人口が少なく、五輪中継でない限り、テレビ放映をしても高い視聴率を望むことができない種目が少なくないのが現実だ。加えて、少子化や地球の温暖化が進むなか、ウインタースポーツが置かれた環境はますます厳しくなることが予想される。日本のレベルが落ちないよう国や競技団体は何らかのテコ入れが必要だろう。今回の盛り上がりが、明るい未来につながることを期待したい。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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