パーパス、エビデンス、DX…外資系コンサルの使う「ビジネス流行り言葉」にダマされてはいけない
プレジデントオンライン / 2022年3月24日 11時15分
■論破だけでは会社の現状を変えられない
突然ですが、あなたは他人を「論破」することにロマンを感じるタイプでしょうか?
SNSなどでは、2ちゃんねるの創設者であるひろゆきさんの影響もあってか、「論破してやった」「論破された」ということにこだわる文化が広がっています。しかし個人的には、こうした「論破」ブームが、日本の会社を前向きな改革から遠ざけてしまっているのではないか? と感じる事がよくあります。
たとえば、経営コンサルタントとして「よくない状態の会社」と向き合うと、いろいろな部署や個人同士が、「全部あいつ(ら)が悪い」と責任をなすりつけあっている様子を目にすることがあります。
「ウチは経営陣がダメだから、薄給なのにいつも俺たちだけが苦労している」
「ウチの社員は言われたことしかしないから、会社が全然発展しないんですよ」
私はこういう「自分の立場だけから見える世界」のことを、「ベタな正義感」と呼んでいます。
いまの世の中にはそれぞれ個人の「ベタ」なレベルで「こうあるべきなのにそうなっていないのが問題だ」という問題意識があふれています。ですが、会社や組織の状態をよくするためにはそうした状況を「メタ」なレベルで整理し、「結局全体として本来どうなっていればよいのか」という作業が必要です。
大事なのはバラバラに存在する「ベタ」な正義感を、「メタ」な正義感に統合していくことだと、様々な企業に関わっていくなかで実感しています。
■「いままでとは違うスゴイこと」では会社は変えられない
しかし、「ベタな正義感」だけが放置され、全部他人のせいにしていがみあっているとどうなるでしょうか?
非常によくあるのは、なんだか話題の「ビジネス流行り言葉」とか、外国の事例を持ってきて、「隣にいるアイツ」を完全に否定したくなることです。たとえば、
「うちの上司はアジェンダが明確じゃない会議ばかりで疲れる」
「主張があるんだったらエビデンスをそろえてからにしてほしいよ」
「部下たちが会社のパーパスを意識してくれなくて困る」
「部長の仕事の進め方は古すぎる。もっとDXを推進していかないと」
「この会社はSDGsに対する意識が低すぎる。もっと未来について真剣に考えないと」
といったことです。こういう争いが放置されていると、「その組織をよくするためでなく、ライバルのアイツを否定するために新しいプロジェクトが始まる」といったような本末転倒の極みのような状況になっていってしまう。
次々と浮かんでは消えていく「ビジネス流行り言葉」を本当に自分たちの会社に根付かせるには、その言葉が自分たちの会社にとってどういう意味があるのか? どう取り入れれば自分たちの会社にとって効果のある施策になるのかを真剣に考えなくてはいけません。
そのためには、ビジネス書や外部のコンサルタントの言うことだけでなく、「自分たちの会社の仲間」や「自分たちの顧客」が言っていることに自らしっかりと耳を傾けて、そこから情報を吸い上げて変えていくことが必要です。
■「それエビデンスあるの?」からアイデアは生まれない
とはいえ、そういう「自分たちの仲間が言っている生の意見」をなんとか無視してやろうと、「それエビデンスあるの?」などと「論破」してしまう人もいるでしょう。
いまの日本でありがちな問題は、「ビジネス流行り言葉」を自社に応用するときに、自分たちの会社にとってどういう意味があるのか? どの点に集中して応用すれば自己満足でないプラスの効果を得られるのか? といった点を深く考えずに形だけマネしようとしてしまうことです。
ただ実は、そういう「ビジネス流行り言葉」を無理やり導入しようとした時に出てくる違和感の中には、その発想を本当にその会社だけの課題にブラッシュアップするためのヒントがあるはずです。
本当にその新しい労力をかけただけ顧客にとって「意味」を感じてもらえることなのか? 単に自己満足になっていないか? 削ってはいけない部分のコストを削ることになっていないか? 一時の売り上げのために顧客の信頼をドブに捨てるような行動になっていないか? その新しい業務をこなせるだけの人員配置や育成の算段は立てられているのか?
このように「抵抗勢力さんの言い分」には、どこにでもあるよくある話を「自分の会社だけのオリジナルな例」に転換するための大事なヒントがたくさん詰まっています。
そうやって対話の「最初の三歩」くらいまでに出てくる反対意見と真摯に向き合うことは、単に思考停止のまま流行り言葉をなぞってみるのとはまったく違います。こういった対話こそが、ちゃんと自分の会社の事情に向き合った「本当にオリジナルなアイデア」を生み出します。
■外資系コンサルタント会社は日本企業によい影響を与えているのか
そこに「エビデンス」がない段階でも「論破」して排除するのではなく、明確な違和感が現場にあるなら「そこには何かあるな」と感じ取り、その後「一緒にエビデンスを確認」して議論を深めていくことが、生産性のある「エビデンス」の活用法ではないでしょうか。
そこで「自分たちで考える」ことを放棄して流行り言葉に飛びついてしまう姿勢が蔓延している結果として、今の日本では、外資系コンサルティング会社が大盛況になっています。
日本中の上場会社から次々と「ビジネス流行り言葉」への対応が彼らに“丸投げ”され、次々と案件が立ち上がるので受けきれず、普段なら考えられない料金を人材紹介会社に払って即席のコンサル人員をかき集めて対処しているような現状にまでなっている。しかし考えてみてください。そこまで「外資系コンサルタント会社が大儲け」している中で、日本企業は「よく」なっているのでしょうか?
それは、いまの日本経済の不況ぶりを見れば一目瞭然です。
■「なにかわからないけど、スゴイことをやらないと」は危険
あなたの会社でも、「これからは○○の時代だ」などと流行り言葉を聞いてきて、「ウチでも流行りの○○ってやつをやるべきときだ!」とよくわからない思いつきのプロジェクトがはじまり、通常業務も減らないのに余計な仕事を増やしやがって! と不満タラタラに一応流行りっぽいものをやりはじめてみるけど、そのうちなんとなく立ち消えになってしまう……というような状況を見かけたことがありませんか?
そして、そういう思いつきのような散発的な「改革」が泡沫のように浮かんでは消えていくなかで何も変わらないままジリジリと船が沈んでいくような焦燥感から、「自分の隣にいるアイツ」をさらに強く「論破」して、「なにかわからないけど、なにかいままでとは違うスゴイこと」をやらなければ! という焦りだけが募っていく。
「あなたの会社」の話だけでなく、「ここ20年の日本国」もなんだかこうした状況になってきている気がしてなりません。このような「なにか変えなくちゃいけないとは思うけど、なにを変えたらいいかもわからない」という閉塞感が、「論破」ブームを支えているのではないでしょうか。
そこで「よい対話」が行われ、立場が違う人たちの事情が吸い上げられ、他でもないその会社に合ったオリジナルな方向性が動き出したなら、そのことによって抵抗勢力さんとの信頼関係が生まれ、そこから先は無理に力を入れずとも押し切ることが可能になるのです。
■大きな改革にドラマは必要ない
新刊である『日本人のための議論と対話の教科書』のなかで、10年間で150万円平均年収を引き上げることができた私のクライアント企業の話をしています。執筆していたときに担当編集者から「そこまでの変革が起きたなら大きなドラマがあったでしょう。それを書いて下さい」というリクエストを受けたのですが、そこで考え込んでしまいました。
なぜなら、実際にはそんな「ドラマ」はなかったからです。実際には、「敵と味方」に別れた罵り合いがヒートアップする遥か手前のところで、自分たちにとって大事な課題が何かを常に意識共有し、毎日起きる課題を潰し続けていただけでした。
そして当たり前の変化を10年間続けていたら、「そういえば、10年前に比べて平均賃金が150万円ほど上がってたな」とふと気づいたのです。
今の時代の私たち日本人は、「論敵を強烈に論破して方向性の変化を無理やり納得させること」なしには「改革」ができないと思い込みすぎているように思います。
実際に行われる「戦略」の大筋の中身は、すでに世の中に転がっているものを取り入れる程度でいいことが多いです。なんだか奇想天外な秘策がなければ成功できないということはあまりない。
今の日本には「本当にしっかり実行できたらすごくよいアイデアのヒント」ぐらいなら探せばいくらでも転がっています。
大事なのはそのアイデアを、「その会社」の事情に合わせてしっかりカスタマイズし、そこに参加者のやる気を引き込んで、フラフラせずに10年単位でやり続けることです。
たとえば大学受験のときに、「次々と書店で新しい参考書を買ってきては勉強した気分になる」のが最悪で、これと決めた教材を徹底的にやり込むことが成功への道だったのと同じですね。
次々と流行りものに手を出すよりも、ひとつのアイデアを「自分(たち)の場合」にどこまでピッタリ合わせていけるかの方が大事なのだ……という発想の転換が、今の日本には必要なのだと私は考えています。
そういう「自分たちにとって何が大事なのか」という軸を先に見出す事ができさえすれば、そこからは外資コンサル的なスキルで引っ張っていくことも急激に有意義なものになっていくでしょう。
■「論破」よりも「価値のある議論と対話」
ここまで書いたようなことは、いま全力で「ベタな正義」同士の争いが起きている組織で暮らしている方には経営コンサルタントが考えた単なる正論に聞こえるかもしれません。
しかし、「よい状態にある組織」で働いている人からみれば、「いやいや、働くって当然そういう事でしょ? 何言ってるの」というレベルの話でもあります。
「論破」にこだわる人は、一緒に働いているまわりの人よりも物事を言語的に捉え返して理解する能力が高い人なのかもしれません。
その「能力」を自分のためだけに使い、「まわりの仲間」を威圧するだけで何も変わらないだけで終わるのか、それとも「彼らの分の事情」もさかのぼって理解し言語化し、一緒に自分たちのオリジナルな解決策を生み出していけるのか。
そこが、10年単位で物事を見た時に大きな分かれ道になります。
「論破」よりも、日本中に「価値のある議論と対話」ができる環境を押し広げていきたいものです。
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経営コンサルタント
1978年生まれ。神戸市出身。兵庫県立神戸高校、京都大学経済学部卒業後、マッキンゼーに入社。「グローバリズム的思考法」と「日本社会の現実」との大きな矛盾に直面し、両者をシナジーする一貫した新しい戦略の探求を開始。社会のリアルを体験するため、ホストクラブやカルト宗教団体等にまで潜入するフィールドワークを実行後、船井総研を経て独立。著書に『日本人のための議論と対話の教科書』(ワニブックスPLUS新書)、『「みんなで豊かになる社会」はどうすれば実現するのか?』(amazon Kindleダイレクト・パブリッシング)など多数。
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(経営コンサルタント 倉本 圭造)
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