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「離婚男性の自殺率が異常に高い」なぜ日本の男性は妻から捨てられると死を選んでしまうのか

プレジデントオンライン / 2022年3月24日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Masafumi_Nakanishi

■離婚が増えると男性の自殺も増える

3月は離婚が多い月です。年間離婚数の月別構成比では1980年代以降ずっと3月がトップです。決算のように年度末で結婚生活も清算したいというのもあるかもしれませんが、離婚に伴う子どもの転校などの事情を考慮した影響もあるでしょう。

離婚が多いと心配になるのは男性の自殺です。意外に知られていませんが、実は「離婚が増えると男の自殺も増える」という相関があります。

「男の自殺数と相関があるのは失業率ではないか」というご指摘もあるかもしれません。それはその通りで、男性の自殺率と失業率もまた相関します。自殺統計と労働力調査に基づき、1968年から2019年までの男性の自殺率と完全失業率との相関係数は約0.94であり、最大値の1に限りなく近い強い正の相関があります。男性の失業率が上がれば男性の自殺率も高くなるというわけです。

同様に、男性の自殺率も離婚率と相関しています。失業率と同様、1968年から2019年の推移でみると、男性の相関係数は0.91と高い。対して、女性は0.03とまったく相関がありません。つまり、男性は離婚が増えると自殺も増えるのですが、女性の自殺は離婚とは無関係ということです。

離婚率と男女自殺率相関

■自殺者の中でも離婚男性は突出して多い

自殺ではありませんが、前回の記事<「一人だと短命になる男、一人だと長生きする女」年金すら受け取れない独身男性の虚しい人生>でも書いた通り、独身男性の死亡年齢中央値は女性と比較して圧倒的に早い。未婚男性は67.2歳ですが、離別して独身に戻った男性も72.9歳と男性全体の平均寿命81.6歳より早く死んでしまいます(全年齢対象計算の場合)。

自殺に関するデータでは、令和3年版自殺対策白書に配偶関係別自殺率というのがあります。それを見ても、男性全体の自殺率が25.7なのに対し、離婚男性は101.0と突出して高いことが分かります。

そもそも自殺率そのものが恒常的に男>女となっており、ほぼ女性の2倍男性は自殺しています。これは日本に限らずほぼ全世界的に共通する傾向です。ここには、明らかに男性特有の要因が隠れていると思わざるを得ません。

そうした男女の違いがなぜ起きるのでしょう。なぜ男性の自殺が多いのでしょう、なぜ離婚した男性ほど自殺へと向かってしまうのでしょう。

■「失業+離婚+一人ぼっち=孤独感」だけが理由なのか

自殺の動機を紐解けば、男女ともに一番多い健康問題による自殺を別にして、男性は圧倒的に経済・勤務問題で自殺しています。つまり、借金や生活苦などお金の問題と会社などにおける勤務環境の問題です。これも女性はほぼ経済・勤務問題では自殺しません。一方で、<この20年で「離婚したい理由ベスト3」が激変…男たちが夫婦関係で悩んでいること>で書いた通り、妻からの離婚理由の第1位は夫の経済問題です。

何らかの事情で夫が失業して無職になると、経済的理由による離婚を妻から突きつけられることになる。妻も子も失い、場合によっては自宅も失い、夫は1人でアパート生活を始める羽目になる。そうして、職場もない、家庭もない状態で誰とも接点がなくなった元夫は、孤独感に苛まれ、精神的変調をきたし自殺の道へ突き進む……という仮説も考えられます。

思わず納得してしまいそうな物語ですが、それぞれの相関があるからといってそこに因果があるとは限りません。失業や離婚した男性が全員自殺するわけではないですし、有職者でも有配偶者でも自殺はありえます。結婚して家庭を持ち、妻や子どもに囲まれた光輝く温かい家庭に幸せを感じていた男性が、失業+離婚+一人ぼっちが一緒に来ることで耐えがたい孤独に苦しむ姿も想像できますが、だからといってそうした感情的な「孤独感」だけが離婚男性を自殺へと向かわせるのでしょうか?

■「離婚と自殺」に強い相関がみられるのは日本だけ

ここで比較のために、日本以外の欧米諸国の状況も見てみたいと思います。自殺率と失業率と離婚率の3つの指標のそれぞれの相関を、日本に加え、米国、ドイツ、スウェーデン、イタリアと比較しました。

失業・自殺・離婚相関各国比較(男性)
※各国比較のため各数値は国際統計を使用。離婚率と自殺率はOECD統計より。自殺率はOECD統計の各国間の年齢構成差異による影響を除去した年齢調整値を使用。失業率はILOのモデル推計を使用。期間は1990~2019年、不明値がある年は除去して相関係数を算出。

日本だけが「失業と離婚」「失業と自殺」「離婚と自殺」の3つのすべてで強い相関がみられます。他の欧米諸国は、「失業と離婚」ではドイツが日本並みに強い相関がありますが、他国はそれほどでもありません。「失業と自殺」も日本以外はほぼ無相関です。「離婚と自殺」に至っては、欧米4カ国すべて負の相関であり、イタリアに関してはむしろ「離婚が多いほうが男の自殺が少ない」という状況です。

■男性に潜む「稼がなければ捨てられる」強迫観念

ここから分かるのは、日本の男性は、欧米の男性と比べて、離婚と自殺の相関が異常に高すぎるということです。日本の男性に対して、よく「家族のために仕事をする大黒柱バイアスがある」として、それを「男らしさの呪縛」などといって非難する論説も見かけます。「男らしさから降りればいい」という人もいますが、「家族のために仕事をする大黒柱」であることを男らしさのひとつととらえるなら、男らしさから降りてしまうことは働かないということでもあり、それは離婚で家族を失うことにもつながりかねません。

つまり「男らしさから降りる」ということは「生きることをやめる」ということと等しいことかもしれず、安易に言うべき言葉ではないでしょう。

家族の大黒柱であることに生きがいを感じ、頑張る姿は別に否定されるものではありません。問題は、「金を稼いで家族を養うことだけが自分の社会的役割である」という歪んだ達成観念に陥ることです。言い換えれば「稼がなければ捨てられる」という強迫観念です。自分では「俺が家族を支えている」と認識しているかもしれませんが、実は「家族によって支えられているのはお父さん自身のほうだった」になっていないでしょうか。

問題を抱えたカップル
写真=iStock.com/imtmphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imtmphoto

■「離婚して寂しい」などというレベルではない

日本の男性だけが離婚と自殺の相関が高いことを裏付けるデータがもうひとつあります。男性が自殺する動機のトップは健康問題に次いで、経済・勤務問題が多いのは前述した通りですが、大分類ではなく、より詳細な動機別自殺理由を比較してみると(件数の多い健康問題と20代以上に関係の薄い学校問題を除く)、興味深いことが分かります。

生活苦や負債が多いのは予想できますが、実は「夫婦関係の不和」による自殺が、健康問題を除けば現役世代でも高齢世代でも2番目に多い理由になっています。妻との不和で夫は自殺してしまうのです。女性にはその傾向はありません。これはあまりメディアでも報道されない事実です。離婚率と自殺率の相関の高さはこんなところにも見てとれますし、日本の既婚男性がいかに妻唯一依存症にかかっているかが分かります。

男の自殺は「夫婦関係の不和」が多い

誰か(この場合は妻や家族)を支えている自分という存在しか、自己の社会的役割や存在理由を感じられない男性は、その支える対象を失った瞬間に、自分自身も喪失してしまいます。離婚して寂しいなどというレベルの話ではなく、自己の存在そのものが消えてしまうのです。唯一依存の危険なところは、自分が依存している相手の評価でしか自分自身を感じられなくなることです。

■「これしか役割がない」という思考は不幸のはじまり

幼い子どもは親に見捨てられると生きてはいけません。親が世界の全てであり唯一依存先だからです。しかし、子も長じれば、友達や仕事や配偶者や家族など次々と親とは別の依存先を見いだし、それぞれの相手との間に自己の社会的役割を生みだしていくものです。つまり、「社会的役割の多層化」です。多層化することでまた新たな役割も自然と生まれてきます。

夫に限りませんが、これしか役割がない。ここにしか居場所がない、という唯一依存からは脱却したほうがいいでしょう。ひとつの役割の剝奪を自己の全否定につなげてしまう思考の癖こそ不幸のもとです。

とはいえ、ご存じの通り、日本の婚姻数は年々減少し続けています。しかし、初婚数が減るのとは裏腹に夫の再婚数は増えています。1970年代まで1割未満だった婚姻数に占める夫再婚の割合は、もはや20%に達しようとしています。何度も離婚再婚を繰り返す「時間差一夫多妻男」がいることからしても、夫や父親という社会的役割にすがらなければ生きていけない男性というのが一定数存在するのかもしれません。

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。新著に荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)

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