「年収400万円、ポイント集めの努力は惜しまない」そんな超倹約家の30代独身女性の貯金が増えないワケ
プレジデントオンライン / 2022年3月29日 10時15分
※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんのもとに寄せられた相談内容をもとに、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。
会社員(年収400万円)
住まい 賃貸マンション(6万5000万円)
貯金額 300万円
■10年間節約生活を続けているのに貯金は300万円
毎日お弁当を作って、マイ水筒を持参。洋服はファストファッションブランドで済ませ、クーポンのチェックも欠かさない……。お金に気を使っている方は多いですが、中には、どんなに頑張って節約しても一向にお金が増えない方が存在します。
今回は、“節約家”が陥った「ある罠」についてお伝えします。
大手メーカーの事務職・加藤晴美さん(仮名/32歳)は、自他ともに認める倹約家。買い物に行くと、棚にあるお目当ての商品を必ずスマホで検索し、店頭での価格が一番安いことを確認してからでないとレジに行きません。フリマアプリや電子クーポンもフル活用し、スーパーでは見切り品から献立を組み立てると言います。本はここ10年、図書館で借りたものだけ。ポイント交換サイトで日々、溜まったポイントを最大化する努力も惜しみません。先日も、靴とノベルティグッズがフリマアプリで売れたらしく、「2万円ゲットしました!」と嬉しそうに見せてくれました。
就職してから10年、こんな調子で節約を頑張っている……のですが、加藤さんの貯金は現金の100万円と、投資信託に預けている200万円。400万円の年収と彼女の頑張りからすると物足りない気がしたのでヒアリングをしてみると、その謎がとけてきたのです。
■窓口の銀行員に言われるがまま契約してしまった
実は加藤さん、外貨預金と投資信託がセットになった商品と、新興国への株式投資信託に総額約400万円を投資していました。しかし、投資した時期が悪く、半分以上値下がりしてしまったのです。どちらも、貯蓄がまとまった金額になったタイミングで買っており、外貨預金のセット商品については、大手銀行の窓口で「今だけ金利3%つけちゃいます」とおすすめされたと言います。
加藤さんはまずここで、3つの間違いをしました。
ひとつめは、大手銀行の外貨預金は為替手数料が高く、いい商品とは言えないこと。また、投資信託も手数料が高い商品で投資先もとても中長期的に安定的にお金を増やしていけるような投資先ではありませんでした。
2つめは、「今だけ金利3%」の罠。一見、お得に思えますが、3%の金利がずっと適用されるわけでなく、「最初の1カ月だけ」3%の商品だったのです。これはどういうことかというと、例えば、1万米ドル預けた場合、受け取れる利息は、「1万米ドル×3%=300米ドル(税引前)」ではないということです。この3%という金利は年利率のことですが、3%の金利が適用になるのは1カ月だけですから、実際に受け取れる利息は「1万米ドル×3%×12分の1=25ドル(税引前)」となります。1カ月を過ぎると、低い金利が適用になります。つまり、まったくおいしくないキャンペーンに乗ってしまっていました。
そして最後は、窓口の銀行員に言われるがまま契約を決めてしまったこと。加藤さんの節約ぶりが貯金額となって現れない理由は、この「素直さ」にあったのです。
■金融リテラシーが低いと“いいカモ”にされてしまう
少し話はそれるのですが、先日、とある保険会社の方が何度も口にしていた単語は「金融リテラシー」でした。その人は営業の方だったのですが、「お金のリテラシーは大切だけど、リテラシーが高くなればなるほど、うちの商品が売れなくって困るんですよねえ」とぼやいていました。つまり、銀行の窓口で「今だけ金利3%」の商品を買ってしまった加藤さんにお金のリテラシーがもう少しだけあれば、この商品を掴まされることはなかったのです。
ネット銀行の台頭で誰でも手軽に投資が始められるようになった現在では、時間と手数料のかかる金融機関の窓口を利用しない方が、お得な場合が多いです。ゆえに、ノルマのある銀行員は生き残りをかけ、「今だけ金利3%」のキャッチコピーに素直に反応してくれる加藤さんのような客をどんどん取り込んでいこうとしています。そう、金融リテラシーが低いと、“いいカモ”にされてしまう危険性があるのです。
ちなみに、私が常日頃おすすめしている「つみたてNISA」は、窓口では手数料が安すぎて、銀行の儲けがほとんどありません。当然、彼から積極的に勧められることもないので、加藤さんはなけなしのボーナスを手数料が高く仕組みが複雑な投資信託につぎ込むことになったのです。
■「誰のアドバイスか」に気をつけた方がいい
先日、とあるタレントさんとお話する機会があったのですが、彼はつみたてNISAもiDeCoも小規模企業共済もやっていて、コツコツとお金を育てていました。20代前半でさほど投資に興味もないという彼に、その知識をどこから得たのか聞いてみると、「投資で結果を出している友人」というアンサーがありました。
加藤さんもタレントの彼も、「周りのアドバイスを聞いた」という点では同じかもしれません。しかし、そのアドバイスをした人が自分にとってどういう相手であるかは、非常に大切です。利害関係の絡む人からの提案は、よくよく検討すべきでしょう。
また、お客さんで大手外資系企業に勤めている人は、同僚のほぼ全員が当たり前のように投資をしていると言っていました。飲み会の席で、「え、投資してないの⁉ 絶対しなきゃダメ!」と先輩から勧められたことから私のお客さんもつみたてNISAや株を始めたのですが、自分の所属している環境によっても、金融リテラシーの格差がありそうです。もっと言うなら、どの業界に身を置いているかによって、今後は資産形成のスピードが変わってきそうだと感じました。
■死亡保険を解約、携帯は格安スマホに、サプリ代も節約…
加藤さんの場合は老舗の大手メーカーということもあって、デスクに保険会社の営業が回ってくるらしく、そこでも言われるがままにいくつも契約。まだ30代前半で独り身にもかかわらず、医療保険、がん保険、所得補償保険、死亡保険に入っており、よくわからない特約もびっしりついていました。
また、細かな節約をするわりに通信費の高いキャリア携帯を使っていたり、旅先ではお土産代に歯止めがかからなくなることも。加藤さんを見ていると、小さな節約には敏感でも、大局的なところでお金を増やす機会を見逃していてもったいないように感じました。
そこで、お金の使い方と資産の整理に着手。儲かっていないとはいえ、投資信託で200万円もあれば独り身なので問題ないと判断し、死亡保険など、いくつかの保険を解約してもらうことにしました。加えて、キャリア携帯も格安スマホに切り替え、サプリなどのお金も抑えてもらったところ、これだけで月3万円の削減につながりました。加藤さん自身、財テクに興味はある方なので、アドバイスを受ける相手次第だったのだと思います。
今もまだ運用を続けている投資信託については、時期を見て売却し、他の商品に乗り換えすることをおすすめしました。それこそ、つみたてNISAもiDeCoもやっていないので、そこからでいいのかなと思います。
■お金への知識は「信頼できるソース」をたくさん持って備える
加藤さんはお話していても逐一、「はいっ、はいっ」と返事を返してくれるような、真面目で素直な方。将来への不安も大きかったので、今後に備えたい一心で保険や投資にお金をつぎ込んでいたのでしょう。
ただ、どうしても保険会社や銀行からの提案は利益がらみのことが多いので、それだけを鵜呑みにするのはおすすめできません。かといって、銀行同士で商品を比較してもあまり大きな差はないので、ネット銀行と比較するなど、対面販売ではないパターンも検討してみるといいでしょう。
金融商品はリスクもありますから、ネットの取引に抵抗を感じる人もいると思います。窓口とネット、それぞれメリットデメリットがあるのも事実です。その一方で、今はインターネットでも金融庁や東京証券取引所といった、信頼のおける公的機関などが初心者向けの情報をたくさん発信しています。東京証券取引所が運営する『東証マネ部!』にはビギナーにおすすめの投資情報も載っているので、参考にしてみるといいと思います。
ひとつの意見を鵜呑みにすることなく、信頼できるソースをたくさん持つこと。それこそが、金融リテラシーの向上、ひいては資産形成につながっていくのではないでしょうか。
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Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。
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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)
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