1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

「こうなれば世界経済も道連れに」プーチン大統領はエネルギー市場を大混乱させる恐れがある

プレジデントオンライン / 2022年3月28日 9時15分

ロシアのプーチン大統領(=2022年3月23日、ロシア・モスクワ) - 写真=AFP/時事通信フォト

■いったんデフォルトは回避したが…

3月中旬、ロシア政府が米ドル建て国債の利払いを実施した。その背景には、自由資本主義陣営に属する米国やEU加盟各国と、ロシアが“首の皮一枚”の関係をなんとか保っていることが大きく影響している。特に、“ノルドストリーム1”が稼働し続けていることは大きいだろう。それが現時点でのロシアと西側諸国の関係をどうにかつなぎ留めている。ロシアは国際資本市場からの完全な締め出しを回避するために、ノルドストリーム1から得た外貨を用いて利払いを実施したと考えられる。

その一方で、ドイツなどの欧州各国はパイプライン遮断リスクへの備えを強化しつつも、今すぐにロシアからの天然ガス供給が途絶える展開は避けなければならない。そのために米欧はロシア最大手のズベルバンクとガスプロムバンクをSWIFT除外の対象外とし、完全に米ドルなどの資金繰りが途絶えないようにした。

今後の展開として、いずれロシアの外貨は枯渇しデフォルト(債務の不履行)は避けられないだろう。重要なのは、そのタイミングだ。一つのシナリオとして、停戦協定がまとまらない状況下で外貨建て国債の元利金の支払いが実施できなければ、プーチン大統領がさらなる暴挙に打って出る恐れがある。そのリスクは軽視できない。制裁の厳しさが増す中、ロシアが外貨での債務返済を行う意思を持ち続けるか否かは、ウクライナ危機の今後の展開を考える重要な視座になるだろう。

■「ルーブル払い」から一転したロシアの危機感

米欧が発動した中銀などへの金融制裁はロシアの金融システムと実体経済に大打撃を与えた。マクドナルドなどの外資企業が相次いで撤退したことも社会心理に無視できないマイナスの影響を与えただろう。クレムリン(ロシア大統領府)はその状況に危機感を強めているはずだ。

3月中旬に差し掛かると、外貨建て国債の利払いをルーブルで行うとしていたロシアの姿勢は変化した。シルアノフ財務相はルーブル決済の可能性を残しつつも、16日の利払いを米ドルで行う準備をしていると表明した。17日にロシア財務省は前日に期日を迎えたドル建て国債の利払いを実施し、一部の債権者は資金を受け取ったと報じられた。ロシア政府は必死になって米ドルをかき集めて利払いに対応したとみられる。

利払いを支えた要因の一つとして、“ノルドストリーム1”の稼働継続が大きい。中銀制裁や国際資金決済システムである“国際銀行間通信協会=SWIFT”から主要銀行が締め出されたロシアにとって、ノルドストリーム1は外貨調達の最後の砦に位置づけられる。その一方で、ノルドストリーム1はロシアが欧州へのガス供給を止め西側諸国の経済と社会に大打撃を与える切り札でもある。1~2月の間にロシアから欧州に供給された天然ガスの6割がノルドストリーム1経由と報じられている。

■ロシアと欧州各国の関係は“首の皮一枚”

EUは天然ガスの4割をロシアから調達してきた。ドイツのショルツ首相は、市民生活に必要なエネルギーを供給するために「ロシア産の天然ガスを代替するものを持っていない」と述べた。欧州各国はロシアに依存することの危険性を認識しつつも、今すぐにノルドストリーム1が遮断される展開は防がなければならない。そのためにロシア最大手のズベルバンクとノルドストリーム1の大株主であるガスプロム傘下のガスプロムバンクはSWIFT除外の対象外とされた。

それによって西側諸国は目先の欧州のガス需要を満たしつつ、ロシアの米ドル資金が枯渇し、追い込まれたプーチン政権がさらなる暴挙に打って出る展開を防ごうとしていると考えられる。現時点でロシアと西側諸国は、ノルドストリーム1の稼働継続などによって極めて不安定かつ脆弱な関係を維持している。それは首の皮一枚の関係といえる。

■“脱ロシア”に向け動き出すEU各国

言い換えれば、EU各国がエネルギー面でのロシア依存から脱却するには時間がかかる。足許では気温上昇によって暖房向けの天然ガス需要が減少し始め、EU加盟国で天然ガス在庫が枯渇する恐れはひとまず低下したようだ。その状況下、欧州委員会は来冬の電力需要を満たすために米国からの天然ガスの共同購入などを協議する。夏場にはノルウェーから天然ガス供給が増える見込みだ。

また、ドイツは2年以内に液化天然ガス(LNG)の輸入ターミナルの稼働を目指し、カタールと長期供給契約に関する交渉を開始した。脱炭素への取り組みを背景に減少してきた石炭火力発電が延長される可能性もある。洋上風力発電など再エネ由来の電力供給も強化されるだろう。このように、西側諸国はノルドストリーム1の遮断リスクへの備えを急ぎつつ、ロシアへの制裁を実施している。

ブリュッセル・EU本部ビル
写真=iStock.com/bloodua
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bloodua

■国際資本市場からの締め出しを防ぎたいロシア

以上の関係をおさえた上で、今後の展開を考えよう。まず、ロシアとしては国際資本市場から完全に締め出されることは防がなければならないはずだ。米ドルでの利払い実施は、国際資本市場との関係を何とかして維持しなければならないというロシアの意思表明と考えられる。ある意味では、米ドルでの決済によって、ロシアの弱さが露呈されたと言っても良い。ルーブルの信用力に不安のあるロシアにとって、外貨の確保は社会と経済の運営、さらには安全保障体制の強化に欠かせない。

また、ロシアの若者はマクドナルド、スターバックスやイケアなど欧米のブランドやSNSを用いたライフスタイルに慣れ親しんでいる。欧米はロシアへの制裁を強化している。それによって、外資企業の撤退は増え、ロシアは世界からさらに孤立する。欲しいもの、さらには生活に必要なものが手に入らなくなることによって、プーチン大統領への批判や不満が増えるだろう。

■デフォルトはもう目先に迫っている

その展開を防ぐために、ロシアは外貨建て国債の元利金支払いを履行し、西側との関係をつなぎ留める必要がある。それができなければ、ロシアは世界の投資家や企業、自国民などの信用を失う。目先、ロシアはあの手この手を使って外貨の確保に奔走しなければならない。そのためにノルドストリーム1の稼働継続はロシアにとって不可欠だ。

ただし、中央銀行が海外に持つ外貨準備資産が凍結された状況下でロシアの外貨資金繰りには限界がある。3月2日に米外国資産管理局(OFAC)は、ロシア中銀が輸出業者を代理人にして外貨の調達を試み、制裁逃れを企図したと発表した。ノルドストリーム1が稼働しているとはいえ、中銀制裁などの威力は絶大だ。

いずれロシアが保有する米ドル資金は途絶え、国債はデフォルトするだろう。その見方に基づき、欧米の主要な信用格付業者はロシア国債を格下げした。3月17日にはS&Pグローバル・レーティングが“CC(ダブル・シー)”への格下げを発表した。デフォルトに陥ったとみなされるD格まであと2段階だ。

■ロシアが一線を越えることはない?

今後の注目点は、いつ、外貨建て国債がデフォルトするかだ。複数のシナリオが想定されるが、ここでは2つを比較したい。まず、デフォルトの発生以前に、ウクライナとロシアの間で停戦協定などが成立する展開だ。

その場合、西側諸国がロシア制裁を緩和する可能性はゼロではないだろう。部分的にロシアの金融機関の国際資金決済システムへの復帰が認められ、コストはかかるにしてもロシアは米ドル資金を調達することができるようになるかもしれない。ノルドストリーム1の遮断リスクも低下するだろう。3月中旬、ウクライナ危機に大きく影響される欧州株が上昇する場面があった。主要投資家は米ドルでの利払い準備をロシアが一線を越えることはないサインと解釈してリスクを取ったと考えられる。

青空と球形のガスホルダー
写真=iStock.com/tunart
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tunart

■世界経済を大混乱させる最悪のシナリオは

2つ目は、戦闘が激化しロシアとウクライナの交渉がまとまらない中でデフォルトが発生するケースだ。その場合、プーチン大統領はさらなる暴挙に打って出る恐れがある。ウクライナへの攻撃は一段と苛烈化するだろう。制裁への報復としてロシアがノルドストリーム1を本当に止める可能性も高まる。

それが現実となれば、欧州を中心にエネルギーの需給バランスは大きく崩れ、世界経済と金融市場は大きく混乱するだろう。2月24日以降のプーチン大統領の発言や、いまだにウクライナで激しい戦闘が続いていることを踏まえると、前者よりも後者の発生確率は高いと考えられる。

ロシアがデフォルト回避の意思を示し続けるか否かは、クレムリンの考えを読み解く重要な視座といえる。今後、ロシア政府関係者が米ドルやユーロ建て国債のデフォルトが近いと警告したり、制裁の報復措置としてノルドストリーム1を止めると述べたりするようなことがあれば、主要投資家はロシアの強硬姿勢が高まる展開に身構え、リスクを取ることができなくなるだろう。急速にリスクの削減を余儀なくされる投資家も増える。

それによって、世界の経済と金融市場は急速に不安定化する。世界経済のブロック化懸念も急上昇する。エネルギー資源などの価格は急騰し、今以上に世界各国の物価上昇と経済成長率の低下懸念は高まるだろう。ロシアが外貨建て国債のデフォルトを回避しようとし続けるか否かは今後の世界情勢に決定的な影響を与える。

----------

真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

----------

(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください