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「なぜ、危険人物を放置し続けるのか」市場規模が8年で380億→1600億円の"マッチングアプリ"の怖さ

プレジデントオンライン / 2022年3月30日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

春は出会いの季節。マッチングアプリを利用して彼氏彼女、結婚相手を探そうとする人も多いだろう。だが、ルポライターの多田文明さんは「マッチングアプリ運営会社はユーザーの本人確認をしているが、方法が杜撰(ずさん)なところが多く、偽造証明書が審査を通過してしまい、詐欺被害が発生している」と警鐘を鳴らす――。

■2018年386億円→2026年1657億円「市場拡大」の中で

スマホのマッチングアプリで出会い、一度も対面しない人と交流をするといった行動が日常的になってきています。しかし、ネットでは何者にもなりすませるために、悪事をたくらむ者たちによるトラブルや事件が絶えません。

恋活・婚活マッチングサービスの市場は、2018年に386億円の規模でしたが、2021年は768億円、そして2026年には1657億円(21年比2.2倍)になると見込まれています(タップル、デジタルインファクト調べ)。18年からたった8年で4倍に拡大するのです。

心配なのはマッチングアプリにおける詐欺被害の増大です。現在すでに、外国人になりすました異性にお金を騙し取られる国際ロマンス詐欺や、出会った日本人相手から結婚をにおわせられての詐欺被害などがしばしば報じられています。一部には、マッチングアプリ=「犯罪者との出会いの場」と見る人さえいます。

被害を防ぐ方法はないのでしょうか。

マッチングアプリはインターネット異性紹介事業で、出会い系サイト規制法の適用を受けます。運転免許証などの身分証で利用者が18歳以上であるかの年齢確認が必須です。

多くのマッチングアプリではHPで「年齢確認とともに提出された身分証などで、本人確認を行っている」と書いています。しかし、一部には審査がザル状態のものもあります。

例えば、登録する際に偽造されたパスポートなどの身元確認の書類を送り、それがすんなりと審査を通ってしまう事案が多数発生しています。それにより、アプリ上で堂々と詐欺のアプローチが行われています。厳格ではない本人確認のアプリは悪だくみをする人にとって「詐欺天国」に見えるかもしれません。審査はしっかりしているアプリと、しっかりしていないアプリ。ユーザーには見分けがつきません。

■安全な本人確認、アブない本人確認の実態

ユーザーの安全を守るために最も大事なのは、厳格な「本人確認」です。

身元証明の専業会社として官公庁や数多くの企業でデジタルによる本人確認(eKYC)などを行っているTRUSTDOCK(東京都千代田区)の代表取締役・千葉孝浩さんはこう言います。

「本人確認には、『身元確認』と『当人認証』の2つの概念が含まれています。似たような言葉ですが、これらは別のものです」(同上)

「身元確認」とは、公的な証明書や資格証などで、その人の氏名・生年月日・住所などの身元や属性情報を確認し、その人の存在確認をするものです。「当人認証」とは、今、やりとりをしている人物が、本当にその人と同一人物であるかどうかを確認するということです。この2つが合わさって、本人確認となります。

当人認証の方法はこうです。オンラインの場合、本人しか知り得ないIDやパスワードなどで認証する。リアル(対面)の場合、部屋への入退出時に、本人だけが持っているカードなどをかざして認証する。

「当人認証では、当人性の確認をするだけですので、その人の年齢や住所についてはわかりません。そこで、一点だけしか発行されていない、運転免許証やマイナンバーカードなどの公的身分証を通じての身元確認が必要になります」(同上)

特に金融取引などでは、この2つがあって、初めて、デジタルによる本人確認(eKYC)が完了します。筆者も同社が提供するデジタル身分証アプリの登録(オンライン)をしてみました。その際、手のひらに身分証を置き、指定された枠内にあてはめて撮影する過程がありました。

「運転免許証の厚みなどの特徴も確かめて、それが偽造ではないかをチェックしたり、その場で撮影した証明のために動かしてもらったりします。一方では画像認識技術による機械的なチェック、さらに人による目視確認のオペレーションも行っています」(同上)

本人確認の際、ユーザーが提示することが多い運転免許証などの身分証明証。実は、これには複数の種類があり、その確認は簡単ではありません。パスポートも2020年3月にデザインが変更になり、見た目の変更だけでなく、住所記入欄がなくなるなどの内容に変わりました。こうした変化をうっかり見落として偽造など不正を検知できない、といったことがあるのです。

つまり、デジタル上の本人確認とは、多くのマッチングアプリが行っているような、本人を称する人物から送られた身分証を厳格な基準もないままに目視などをして「はい、身元確認できました」という単純なものではないのです。

スマートフォンからハートが発信されている
写真=iStock.com/Olga Kurdyukova
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Olga Kurdyukova

■入口審査をかいくぐる者を排除できない運営者も

上記で紹介したような厳格な本人確認を取り入れて運営しているマッチングアプリもありますが、まだ数が少ない状況です。それだけに詐欺に遭いやすいアプリが数多く存在しているということになります。

「本人確認において大事なことは、『名乗る側』の情報を一方的に『点』で信じるのではなく『名乗る側』(個人)と『確かめる側』(企業)が“対の関係性”でしっかりと確認することです。これはコインの表裏のようなもので、両面で取り組むことが、なりすましによる犯罪のリスクを回避できることになります」(同上)

現在、一部のマッチングアプリでは、虚偽の身分証を出しながらも、それを確かめる運営会社側の緩さがあって、簡単に登録できてしまっているのが現状です。これでは「対の関係性」になっての本人確認ができていない状況といえるでしょう。

夜の街でスマートフォンを操作する女性
写真=iStock.com/staticnak1983
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/staticnak1983

ここで、もうひとつ考えなければいけないことがあります。それは詐欺というものは、常に対策の裏をついてやってくることです。それゆえ、知能犯による手口を100%防ぐことは極めて難しいのです。2021年のオレオレ詐欺などの特殊詐欺被害総額は278億円。警察がいくら対策を施しても、なかなか減らすことができません。

そこで大事なことは、詐欺に遭わない確率を80%、90%と高くして、被害を減らしていくという考えです。これは、ネット上のなりすましによる犯罪も同じで、騙されない確率を上げて、リスクヘッジをしていかなければなりません。

今、多くの詐欺がマッチングアプリをきっかけに起きている理由には、入口の審査の甘さに加えて、入会後の対策にも不備があるためだとも思われます。

多くのマッチングアプリはどうしても登録者数を増やすことばかりに目がいってしまい、本人確認という手間のかかることを疎かにしてしまいがちです。

そこで、入会審査を巧みにくぐり抜けた不正利用者をいかに早く排除できるかの対策も必要になります。それは、利用者と運営者側の相互通行が迅速になされているかにもかかわってきます。

■不正登録者を野放しにする運営者の「言い訳」

筆者はマッチングアプリの詐欺被害者の取材を通じて、被害者が騙された時に使われた「美男美女の写真」や「自己紹介文」が、ほぼ同じ形で何度も出てくることを確認しています。被害者はそのことを運営者へ通報することもありますが、「(不正登録者が)退会されることもなく、いつまでも登録され続けていることが多い。なぜ、危険人物を放置し続けるのか」と憤る被害者もたくさんいます。

もっともなことです。野放しになっていれば、その人物による詐欺がこの瞬間にも行われているかもしれないからです。

もしかするとアプリの運営者側は次のような弁明をするかもしれません。

「おびただしい数の不正登録があり、すべての通報に対して即座に対応できない」
「詐欺行為がなされていないグレーな状況なので、そのまま放置するしかない」

これでは、だめです。怪しいものに対して、確かめる術なしでの放置。これこそがマッチングアプリを介した詐欺が横行する一因です。利用者から寄せられた情報をすぐにチェックできる態勢とノウハウを持つことこそが大事です。「グレー」な情報がもたらされた時こそ、それをいち早く確認する術をどれだけ持っているのかが被害を防ぐ鍵になります。

もし通報を受けた人物が日本に住む外国人を自称していれば、在留資格を持っているかを調べる。詐欺や性犯罪者も、同じ行為を繰り返す傾向があるので、例えば、反社会的な人物でないか過去の報道やネットで調査するなど、確認のための厳格なフォロー態勢が必要になります。こうすることで詐欺に遭う確率を下げることができるはずです。

タブレットでソーシャルメディアを使用する女性
写真=iStock.com/Vladimir Vladimirov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vladimir Vladimirov

多くのマッチングアプリでは、ユーザーがお互いに「イイネ」をかわしてマッチングしてから、メッセージのやりとりをして、相手と会うことになります。しかし、結婚詐欺などの騙しを行う者たちの危険が常に隣り合わせになっているとの認識を持ち、厳格な対応をしている、あるマッチングアプリ運営会社では、その逆のスタイルをとっているそうです。

例えば、最初にビデオ通話をしてお互いに顔を合わせた会話をして、双方のイメージが良いとなった場合に、マッチングとなり、メッセージのやりとりができるようになっているといいます。つまり、厳格な本人確認で登録をパスして、さらにビデオ会話を通じて当人同士が、相手がなりすましでないかの確認ができる二重の対策をとった形の出会いともいえるわけです。

■被害者の自己責任で片づけていては被害はなくならない

一方、本人確認の厳格化のコストは運営会社にとっては悩みの種かもしれません。

前出・千葉さんによれば、導入する本人確認の手法にもよりますが、「固定費(初期導入費)+1件数百円~」の従量課金モデルだといいます。規模にもよりますが毎月数十万~百万円以上のコストがかかります。それでも、きちんとした会社は大きく増える会員登録に合わせて自社で本人確認のリソース(固定費)を用意するより専門の会社に依頼する判断をしており、そのことをHPなどで告知しているでしょう。

現在、恋活関連だけでなく、趣味・ビジネスなどの多くのマッチング事業者が本人確認の重要性を認識しつつありますが、本人確認を厳格にして登録の手間を増やしすぎると、ユーザーがしびれをきらして離れてしまう事情もあり、確認強度の高さ設定は難しい部分のようです。

ソーシャルメディアの反応
写真=iStock.com/Aramyan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Aramyan

これまでは、マッチングアプリを利用しての詐欺被害は、利用者の自己責任。そう思う方も多かったかもしれません。しかしその考えでは、被害をなくせません。

詐欺被害者の側も最初は相手が悪事をもくろんでいるのではないか、疑っています。しかし、しょせん、詐欺への知識は素人です。巧妙な騙しの手口を見極める目など充分に持っていません。その結果、騙される人が一定数出てきます。利用者の判断や責任だけに任せるのは、酷な話です。

今後は、本人確認の基準が厳しいアプリを詐欺犯らは避けることになるでしょう。そうなれば、甘い審査基準のところに殺到する流れとなり、不正登録者が多いところは犯罪者の巣窟のような状況に。その結果、淘汰(とうた)されていくことになると考えています。

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多田 文明(ただ・ふみあき)
ルポライター
1965年生まれ。北海道旭川生まれ、仙台市出身。日本大学法学部卒業。雑誌『ダ・カーポ』にて「誘われてフラフラ」の連載を担当。2週間に一度は勧誘されるという経験を生かしてキャッチセールス評論家になる。これまでに街頭からのキャッチセールス、アポイントメントセールスなどへの潜入は100カ所以上。キャッチセールスのみならず、詐欺・悪質商法、ネットを通じたサイドビジネスに精通する。著書に『サギ師が使う交渉に絶対負けない悪魔のロジック術』、『迷惑メール、返事をしたらこうなった。』、『マンガ ついていったらこうなった』(いずれもイースト・プレス)などがある。

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(ルポライター 多田 文明)

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