東大合格者数41年間1位…開成が今「家でこれだけはやらせてほしい」と力説する"家庭教育"の中身
プレジデントオンライン / 2022年4月8日 11時15分
※本稿は、『プレジデントFamily2022年春号』の一部を再編集したものです。
■開成の生徒が運動会に全身全霊をかけるワケ
開成高校は41年間、東大合格者数で全国トップですが、私は本校の本当のよさは、生徒の個性と自主性を重んじる校風にあると思っています。
たとえば運動会、文化祭から修学旅行に至るまで、学校行事は基本的に生徒たちが自主的に、自由に運営しています。
運動会は中1から高3までが縦割りで8色の組に分かれ、各学年の団体競技中心で行いますが、競技指導や応援(応援歌の作曲、応援席の壁絵制作も)は高3、運動会準備委員会の実務(会場設営、競技用具の作成、衛生・救護など)は高2中心と、役割分担をして大会を運営していきます。運動会を終えた直後から次の高3学年が各クラスで1年かけて侃々諤々(かんかんがくがく)と議論している姿は、私が在学していた頃と少しも変わりません。
こういう校風を継承してくれていることを嬉しく思うと同時に、こうした議論や活動が協調性、リーダーシップなどのソーシャルスキルを学ぶ、とてもいい機会になっていると感じています。
ちなみに私は、高1の秋から高2の春まで修学旅行委員を務め、九州という行き先は決まっていましたが、1週間の宿泊先、旅程などをすべて決めました。また同じ時期に、運動会準備委員会議長を担い、上級生からの厳しい批判を浴びる経験もしました。
こうした活動に責任を持って向き合い試行錯誤する中で、仲間のことも深く知り、互いの個性や才能が磨かれていくのです。
■開成の校長が生徒と親に「家庭で家事を」と言う理由
一方で、開成の生徒は、どうしても似た家庭環境の出身で、同じような大学に進んでいく。多様性が少ないという側面があります。
そこで私は、海外大学への直接進学や大学進学後の海外留学を生徒たちに強く勧めています。一歩、海外に出ると、いきなり自分がマイノリティーになります。言語も文化もまったく異なる環境に身を置くことで、多様性とは何かということが、一番よく理解できます。
そのときのために、家庭でぜひやらせてほしいのが、「家事」です。海外で1人暮らしをするなら、家事はすべて自分で行わなければならない。家事は大人として必須のスキルです。
まずは料理。海外で誰も自分のことを知らない、守ってくれる親もいない環境では、心身ともに健康でなければあっという間にくじけてしまう。掃除もしかり。清潔な空間を保つことで、気持ちの健全性が維持できます。家事を自分でするようになれば、親の立場になってものを考えることもできるようになります。
大人のスキルとしての家事全般は、一朝一夕で身に付くものではありません。小学生のうちから、どんどんお手伝いをさせてほしいと思います。
よく言われることですが、料理や掃除は、科学実験やプログラミング的思考を育む大事な体験です。結果を見通しながらプロセスを考え、次の手順のために優先すべきことは何かを常に思考する必要がありますからね。
家事に限らず、小学生時代には、いろいろな体験をしてほしいと思います。まずは大好きなことを見つけてほしい。興味のあることを一つでいいから見つけてほしい。
開成の生徒には、様々な個性や才能のある子が多いですが、受験勉強だけしてきた子は、のびのびと飛躍できないケースが少なくありません。「勉強はできるけど、ほかには何もない」という子は、仲間づくりにも苦労します。
ですから、小学生時代はいろいろな物事に興味を持ってほしい。好奇心を持って何かを調べることは楽しいことですし、本を読んだり勉強をしたりすることも苦ではなくなります。趣味でもいいし、歴史でも自然現象でもいい。いろいろなことに興味を持って、自分なりの考えを持って、その考えを友人や親、教師にぶつけてきてほしい。
親御さんには、そんなお子さんを応援してやってほしいですね。たとえ受験期であっても「今は勉強優先」ではなく、興味関心を最優先させてやってください。
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開成中学校・高等学校校長
1954年福岡県生まれ。73年開成高校卒業。77年東京大学工学部卒業、同大学大学院工学系研究科工業化学専攻修士課程を修了後、79年動力炉・核燃料開発事業団研究員に。84年名古屋大学工学部助手、89年金属工学専攻で工学博士号取得。90~91年ハーバード大学医学部客員研究員、96年名古屋大学教授等を経て、2020年4月より現職。
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(開成中学校・高等学校校長 野水 勉 構成=田中義厚)
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