読み手の脳にダメージを与えている…仕事ができない人の文章に「カタカナ言葉」が頻出するワケ
プレジデントオンライン / 2022年4月16日 17時15分
※本稿は、奥野宣之『心をつかむ文章術 無敵の法則』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■「読む価値がありそうだ」と思わせる文章のポイント
「人の心をつかめない文章」、もっといえば「読んで損したと思われる文章」に共通するものはなんでしょうか?
それは、「文章にツヤがないこと」だと私は考えています。ぱっと見て誤字脱字だらけといった明らかな欠陥がない場合、もっとも重要なのが、テキストそのものの魅力だからです。
文豪の小説のような繊細さも、記事のようなわかりやすさも必要ありません。「ツヤのある文章」は、いわば両者のあいだです。さらりと読めて、すっと頭に入って、少し唸らされる。「人の心をつかむ文章」には、この「ツヤ」が備わっているのです。
文章を書くとき、まず考えなければならないのは、「どのように読みはじめてもらうか」です。メールであれ企画書であれ、読み始めてすぐ「なんか面倒くさそうな文章だな」と思われたら、初っぱなから仕事に差し障りが生じてしまいます。
文章の冒頭で、「これは読む価値がありそうだ」と思わせるような“ツヤ”を出すことが、書き手にとっての第一目標となります。
難しそうに思えますが、実は誰でも簡単にできるコツがあります。
それは、「とにかく断言して書く」方法です。
たとえば、あなたが消費者の行動について「近ごろ、焼鳥屋に女性客が増えているような気がする」と書きたいとします。このとき、「気がする」なんて曖昧な言い方をグッとこらえて、「近ごろ、焼鳥屋に女性客が増えている」と書いてみる。そんなやり方です。
「え、何の根拠があってそんなこと言えるの?」と思ったとしても、とりあえず、機械的に強く断定してみる。そのうえで、「強引な断定」から、続く文章を考えていきます。
最初に断定したのだから、続く文章も遠回しな言い方や語尾を曖昧にボカしにくくなる。そこから自然と展開していくうち、だんだん文章が勢いづいていきます。文章にも「慣性の法則」があるのです。
思い切って、断定的な言い切り表現を使ってみると、一つひとつの文章が自然と短くなり、テンポもよくなっていきます。
■「ほう」「という」「など」…ボカシ言葉は排除する
文章を「断言調」にするために大切なことがあります。ついつい文章に入れたくなる「ボカシ言葉」を排除していくことです。
よくある「ボカシ言葉」とその使用パターンの例は以下の通り。
・ほう:鈴木のほうが失礼しました/御社のほうでご用意いただけますか
・という:○○という意味で/△△ではないのかという気がした
・など:○○や△△などの行為/「□□」などというユーザーがいる
・ある意味:ある意味、立派なものだと思います/ある意味で困難だ
・受け身形:思われる/思わされる/考えられる/見られる/見受けられる
こうした言葉は、使い勝手がよく、文章を書き慣れている人でも意味なく使ってしまいがちな要注意ワードです。
「ボカシ言葉」を使うと、その名の通り、何が言いたいのかボンヤリした文章になっていきます。いってみれば「味」が薄くなるのです。
文章の薄味化を避けるには、断定できるところを、意識的に断定表現に変えていくしかありません。その積み重ねによって、メッセージが明確に伝わる「濃い味の文章」ができるのです。
電話では「弊社のほうでは、お引き取りいたしかねます」と言ったりします。でも、文章では、「弊社では、お引き取りできません」と書けば確実に伝わるし、読み手にとっても親切です。
もっとも、「ボカシ言葉」を絶対に使ってはいけないというわけではありません(←たとえば、この「という」は不要)。
使うなら「この言葉を使わなければ意味が伝わらない」「使わなければ語調がヘンになる」といったケースでなければならない。
つまり、「必然性があるときに使いましょう」ということです(←この「という」はOK)。
■「小学生でもわかる文章」が最適解だと言える
日本は、総人口の約3割が65歳以上となりました。65歳以上になると、老眼をはじめ、文字を読むと疲れる、座る姿勢が辛いなど、文字を読むのに何かしら難がでてきます。
残りの7割近い「非・高齢者」でも、40代後半になると、老眼の症状が出始めるといいます。だから、この年代の人たちも読むことに軽い障害をもっている。
もっと若い人はどうでしょう。私は40代ですが、強い近視なので、メガネなしでは本が読めません。そのうえ年々目が疲れやすくなっている。視力1.5の人でも寝不足、花粉症、ドライアイ、体調不良などで読むのが辛い状態とは言えないかもしれません。
さらに若い人になると、目は良くても、知らない漢字や言い回しが多い……など考えると「日本人の大半は読むことに何らかの障害を抱えている」というのもまんざら嘘ではないことがわかります。
だから読んでもらうためには、何らかの障害を抱えている人に向けて「負荷の小さい文章」を作る必要があります。自分の作った企画書や履歴書を、何の傷害もない人が、心身ともにベスト・コンディションのときに読んでくれるなんてことは、なずない、と思っていた方がいいのです。
文章のレベルは、趣旨を損なわないギリギリのところまで下げれば、安心です。
どこまで「負荷」を下げるべきなのか?
思い切って「小学生でもわかる」を目標にしてみてください。そこまで下げようとしない限り、なかなか優しい文章は書けないものだからです。
■「まるで呪文」…カタカナ言葉は読み手の負荷が大きい
人間には、覚えたての難しい言葉や、専門的な言葉、業界や近い趣味の人にだけ伝わる符丁めいた言葉を使いたがる、という困った癖があります。
例えばビジネスマンの中には、エビデンス、プライオリティ、ペンディングといった輸入言葉を使いまくる人がいます。結果、「その仕事はプライオリティが低いのでエビデンスがそろうまでペンディングにしておいてください」と呪文めいた文を書いてしまう。
こんなの、日本語じゃありません。ぱっと見ただけでも脳にダメージを受けます。
文章がうまくなりたいなら、こういった言葉は、けっして使わないようにしてください。ある言葉を使っていいか迷ったときは、「この言葉は、小学生に通じるだろうか?」と考えてみるといいでしょう。この意識を持つと、無駄にややこしいヘンテコな言葉が世の中にあふれていることに気づくはずです。
「脆弱性」と書きたいなら、立ち止まって「もろさ」「弱点」にする。
「散見される」は、「たまに目につく」と書く。
こんな意識をもつだけで、文章の負荷をどんどん軽くできます。
「小学生でもわかる文章」の感覚を身につけるには、児童書を読むといいでしょう。簡単すぎて読みにくいのでは? と思うかもしれませんが、とんでもない。細かい配慮をもって書かれた文章の読みやすさに、驚くはずです。
図書館の児童書コーナーへ行くと、小学生向けの「経済の仕組み」「お金とは何か」「裁判所って何?」といった本がたくさん並んでいます。このたぐいの本を読むと、「小学生にもわかる文章」に触れることができます。興味のある本を選べば、自分の知識の穴を埋めることができて一石二鳥です。拙著『心をつかむ文章術 無敵の法則』を参考に、読み手の心を一瞬でつかむ文章を書き、仕事に役立ててください。
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作家・ライター
1981(昭和56)年、大阪府生まれ。同志社大学でジャーナリズムを専攻後、出版社、新聞社勤務を経て作家・ライターとして活動。読書や情報整理などを主なテーマとして、執筆、講演活動などを行っている。著書に『情報は1 冊のノートにまとめなさい[ 完全版]』『読書は1 冊のノートにまとめなさい[完全版]』(以上、ダイヤモンド社)、『学問のすすめ』『論語と算盤(上)自己修養篇』『論語と算盤(下)人生活学篇』(以上、致知出版社「いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ」現代語訳)などがある。
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(作家・ライター 奥野 宣之)
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