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「茶室付き市役所に159億円」京都市の財政破綻危機が日本に及ぼすシャレにならない影響

プレジデントオンライン / 2022年4月15日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Grant Thomas

古都・京都市が数年後に企業の倒産と同様の「財政再生団体」に陥る可能性がある。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「財政悪化の原因は、市役所を159億円もかけて改修するなど市政の放漫借金。市民から、寺院や神社から税金を徴収するべきとの声もあるが、景観をよりよくするため街中の無電柱化を進めるなど地域の付加価値を上げる取り組みを急ぐべきではないか」という――。

■“倒産危機”の京都市、借金の総額は8600億円

古都・京都市が財政破綻の危機にある。このままでは2028(令和10)年度にも、企業の倒産と同様の「財政再生団体」に陥る可能性がある。そんななか、「寺院や神社から税金を徴収するべき」との声が市民から上がり始めた。

京都市では、37年前に「古都税」と呼ばれる拝観料への課税を巡って、行政と仏教界が激しく対立。京都の政治・経済が大混乱した。古都税紛争が再燃することはあるのか――。

人口147万人の京都市が財政再生団体転落への可能性を明らかにしたのは、昨春のこと。借金の総額は8600億円にも及んでいる。財政悪化の背景には、市政の放漫がある。地下鉄東西線の建設やさまざまな公共事業がバブル期と重なって、予想以上に膨み、その建設費を多額の市債で賄おうとした結果、毎年の返済負担がのしかかってきていること。さらに、交通機関の敬老パスや子育て支援などの独自の事業を、身の丈に合わない状況の中で継続してきたことなど、さまざまである。失政と言わざるを得ない。

市は2025年度まででおよそ1600億円の収支改善を実施することを表明した。3月25日には、9204億円規模の来年度予算案が可決。二条城や動物園などの施設の値上げや、70歳以上の高齢者に交付している公共交通の敬老パスの条件を厳しくしたりするなど、行財政改革を進めている。だが、まだまだ不十分なのが実情である。

にもかかわらず、昨年秋には京都市役所の改修工事が終了し、その華美なしつらいに批判が集まった。京都市役所は工期4年、予算159億円をかけて耐震、バリアフリー化などの改修工事を実施。市役所は1927(昭和2)年に建てられた歴史的建造物である。

ところが、地下鉄から直接市庁舎につながる地下道が造られたり、昭和の建設当時の「正庁の間」の復元にあたって壁面に高価な「緞子張り」を施されたり、エントランスや議場にはステンドグラスがはめこまれたり、来賓用の茶室まで設置されたり……。京都市内には、来賓をもてなせる茶室などは山ほどあり、市役所内に造る必要は全くない。財政再生団体転落の危機の渦中にある市役所とは思えない贅沢なしつらいに、市民からの批判が高まっている。

■京都の無電柱化は東京23区よりも遅れている

京都市の財政悪化は、国際的観光都市としての競争力を失墜させる危険性がある。京都市は景観整備など、街の価値を高める施策を打ってきた。

清水寺と京都市内
撮影=鵜飼秀徳
清水寺と京都市内 - 撮影=鵜飼秀徳

たとえば、電柱をなくして景観をよくする「無電柱化事業」を1986(昭和61)年から進めている。すでに京都のメインストリートである四条通や河原町通、観光地にある清水寺の産寧坂、嵯峨の鳥居本、お茶屋街の祇園花見小路や上七軒通など111路線、約62kmで整備を完了(計6期)している。寺社仏閣が伝統的景観を造る京都にあって、電柱や電線のない街づくりは、京都の人々にとって悲願である。

京都市は第7期計画として2019(平成31)年以降、およそ10年、約90億円をかけて、金閣寺や銀閣寺に通じる市道・府道や嵐山に通じる府道計10.1kmの無電柱化に着工する予定であった。ところが、財政再生団体に転落する恐れがあるとして、計画は白紙に戻されてしまった。

無電柱化率はパリやロンドンが100%、ニューヨークが84%などに比べ、日本は立ち遅れている。しかも、京都市に限っていえば東京23区や大阪市よりも低い2%となっている。

コロナ収束後のインバウンド需要回復を狙う京都にとって、無電柱化の計画中断は痛恨だ。景観の維持にはコストがかかる。財政難が原因で景観が毀損されてしまうと国際的な競争力を失いかねず、観光需要にも影響する。悪循環に入っている。世界遺産・京都の存在感が損なわれることは、すなわち日本のブランド力低下を意味し、訪日外国人観光客の減少にもつながる。そうなれば、話は京都だけでなく、東京や2025年に万博を開催する大阪や奈良、広島といった観光地の地盤沈下も招きかねない。

兎にも角にも財源が必要だ。京都市では昨年、向こう5年間にわたる行財政改革計画をとりまとめるにあたって、パブリックコメント(市民意見の募集)を実施した。市民からはおよそ9000件の意見が寄せられ、危機感の高さを窺わせた。

京都市はその内訳を公表。保育園や保育・学童費など、子育て支援に関する意見が最も多かった。他にも市役所のスリム化や人件費の削減を求める意見や、「洛中への自動車乗り入れに料金を取ることはどうか」「北陸新幹線延伸計画を中止すべき」「地下鉄は民営化すべき」などの具体的な案も寄せられた。

■「寺社の拝観料に対する課税を求める意見」が多かった

意見の中に、京都ならではの内容があった。「寺社への拝観料に対する課税等を求める意見」で、242件もあった。

かつての古都税騒動で拝観停止を決行した南禅寺
撮影=鵜飼秀徳
かつての古都税騒動で拝観停止を決行した南禅寺 - 撮影=鵜飼秀徳

「古都税の議論をもう一度しっかりすべき」「拝観料駐車料金は税金として納めるべき」「参拝料を取っている寺については、1人あたりの寄付をお願いしてはどうか」「神社仏閣、宗教法人への課税を実行すべき」「寺や神社から固定資産税等を徴収できないか」など。京都市民と寺社仏閣とはもちつもたれつの関係であるが、市民の寺社にたいする目線は厳しい。

古都税(古都保存協力税)とはどういうものだったのか。1983(昭和58)年のことだ。京都市は財政状況の悪化にともなう文化財保護の財源を確保するため、拝観寺社や観光施設計40施設(うち寺社は36施設)に課税する古都税条例案を可決した。これは拝観料から、大人1人あたり50円を徴収するものだった。

宗教施設の拝観料は原則、非課税と決められている。古都税導入に、地元京都仏教会は「信教の自由の侵害」などとして、猛反発した。条例の無効化を求めて提訴するとともに、条例施行にあわせて1985(昭和60)年、清水寺や金閣寺、銀閣寺、南禅寺などの有力寺院が山門を閉め、拝観を停止にした。

拝観停止によって、門前の土産物店や旅客業など観光業に多大なる影響がでた。仏教とも深い関わりのある京都の夏の風物詩、五山送り火の開催も危ぶまれる事態になった。

京都市と仏教会との古都税紛争は5年にも及ぶ。1988(昭和63)年に条例は廃止に追い込まれた。結果的に京都市が京都仏教会に屈するという、異例の事態となった。京都経済が、寺院に依存していることを証明することにもなった。

この、40年前の古都税紛争でのトラウマを抱える京都市は、市民の意見に対して、「古都税については導入すべきでないとの意見があり、本市では具体的な検討までは行っていない。拝観料や宗教法人が所有する固定資産については、地方税法による原則課税できない」との見解を示している。それでなくともコロナ禍で観光需要が落ち込んでおり、寺社仏閣ともめている場合ではないのだ。

■どうすれば世界遺産・京都を守ることができるか

そもそも京都の財政悪化は、仏教側の責任ではない。財政改善の策として、寺社に課税する議論は筋違いというものだろう。仮に古都税を復活させても、寺社や門前町が活性化することはないのは、過去に証明済である。むしろ先の無電柱化のように、地域の付加価値を上げる取り組みを急ぐべきではないか。

他方、寺社側も非課税という「聖域」を守り通せる時代ではないのも確かだ。宗教法人の固定資産税の免除は致し方ない。寺院や神社の固定資産に対して課税されると、多くの寺社は崩壊してしまうことは自明だからだ。しかし、拝観料課税については、致し方ない面はありそうだ。

そもそも拝観料が非課税なのは、拝観が宗教的な行為であり、賽銭と同じ「喜捨(布施)」扱いとされているため。宗教的行為とは祈りや弔いなどを通じて、人々に寄り添い、ひろく社会の安寧に寄与すること。ただ、拝観寺院の中には、人々のための祈りの場という要素は全く感じられず、商業施設となんら変わらないようなところも少なくない。拝観寺院のあり方も、考え直す時機にきていると思う。

ある京都市内の住職は、「一般社会からは、寺や神社がやっていることが見えづらいことで、不満が鬱積している面はある。寺社が社会の役に立っていることを伝える方策として、京都の財政改善に一役買うべき」と話す。

また、別の拝観寺院の住職は「重要文化財などを抱える寺院は宝物の管理、維持には膨大なコストがかかり、補助金は一部のみ。税金を払うことを惜しむつもりはないが、寺社を後世に受け継いでいけるような施策を整えてほしい」とも語る。

寺院の庭園
写真=iStock.com/Yue_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yue_

近年の京都の拝観寺院は、観光客ばかりに目を向けているが、それでは地元の心が離れてしまう。市民が「地域の寺や神社は必要な存在。地元京都の人間が護持し、盛り上げていきたい」といえるような、関係性を築いていくことが肝心だと思う。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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