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「何もしていない岸田政権」の支持率が上がるばかり…元政治部記者が日本の野党に抱く"強烈な違和感"

プレジデントオンライン / 2022年6月6日 19時15分

交流施設「葛尾村復興交流館あぜりあ」で行われたイベントでアイスクリームを試食する岸田文雄首相(左)=2022年6月5日、福島県葛尾村[代表撮影] - 写真=時事通信フォト

岸田文雄内閣の支持率が絶好調だ。ジャーナリストの鮫島浩さんは「これほど波風の立たない予算審議は異例だ。批判をやめた野党の存在感は霞むばかりで、『自民一強』をお膳立てした。野党は参院選を前に自滅したといっていい」という――。

■岸田政権は支持率6割超で絶好調

岸田文雄内閣の支持率が絶好調で、参院選を目前に「自民一強」の様相である。内閣支持率は、5月9日発表のNHKの世論調査では55%、5月23日発表の朝日新聞の世論調査では59%、6月5日発表の読売新聞の世論調査では64%だった。しかも、いずれも前回調査より支持率が上がっている。

ロシアがウクライナへ軍事侵攻した後、自民党は日本の安全保障への不安を煽り、憲法9条への自衛隊明記や緊急事態条項の創設を柱とする改憲論、さらには防衛費の大幅増額を声高に訴えた。今のところ世論はそれに賛同している。

野党(れいわ新選組をのぞく)は自公与党が主導した「ウクライナと共にある」という国会決議に同調し、米国から巨大な軍事支援を受けて国民を総動員しながら戦争を遂行するゼレンスキー大統領の国会演説をスタンディングオベーションで称賛し、対露制裁を支持した。この結果、自民党内で勢いづく改憲論や国防増強論に押し込まれ、対立軸を作れず、防戦一方だ。

本来はアベノミクスがもたらした貧富の格差拡大やウクライナ戦争が引き起こした物価高が参院選最大の争点となるはず。そこへ光を当てれば野党は互角に闘えるに違いない。

ところが野党は自民党が仕掛ける改憲論や国防論の土俵に上がり、格差拡大や物価高を招いた自公政権の失政を覆い隠すのに一役買ってしまっている。上級国民に対する庶民の怒りを結集した「上下対決」を避けるため、憲法や安全保障といったイデオロギー的な「左右対決」に持ち込み、無党派層を白けさせて逃げ切るのは自民党の常套手段である。

このままでは国民の間に政治への無関心が広がり、参院選は投票率が伸び悩んで自民党圧勝である。岸田内閣は盤石の体制となり、2025年までは衆参の国政選挙が予定されない「空白の3年間」に突入する。自公政権はこの間、消費税増税や企業優遇税制など「庶民に厳しく、大企業に甘い」経済政策をやりたい放題になるだろう。

■立憲民主党は衆院選に続き、参院選でも惨敗か

野党がこの流れを変えるには、参院選にむけて主要争点をイデオロギー先行の安全保障から国民生活に直結した経済政策に取り戻すしかない。そのためには格差拡大や物価高に対する自公政権の無為無策を徹底的に批判し、国民の怒りに火をつけなければならない。

ところが野党第1党の立憲民主党の腰が定まらない。

昨秋の衆院選で惨敗し創始者の枝野幸男代表が辞任。後継の泉健太代表は「野党は批判ばかり」との批判を恐れて「提案型野党」を掲げた。これが不発に終わった。

今年1月に開幕した通常国会は格差拡大や物価高が国民生活を直撃しているにもかかわらず与党ペースで淡々と進み、内閣支持率は上昇の一途をたどった。立憲民主党は最大の対決法案とみられた経済安全保障推進法案にも安全保障論の高まりのなかであっさりと賛成したのである。

私は1999年に朝日新聞政治部に着任して以来、20年以上にわたって通常国会をウオッチしてきたが、野党が当初予算審議で政権の失政やスキャンダルを激しく追及し、上半期の内閣支持率は下落傾向をたどるのが常だった。

今年ほど疑惑追及も対決法案もなく波静かに予算審議が終わり、内閣支持率が上昇していくのは極めて異例だ。泉代表が掲げた「提案型野党」は自公政権を利し、野党の存在感は霞むばかりで、「自民一強」をお膳立てしてしまった。参院選を前に自滅したといってよい。

立憲民主党の参院選2022特設サイトより
画像=立憲民主党の参院選2022特設サイトより

立憲民主党は昨秋の衆院選に続いて今夏の参院選でも惨敗し、四分五裂して野党再編に発展するという見方が強まっている。参院選前から戦線崩壊している野党各党の厳しい現況を整理しつつ、参院選後の野党再編の行方を展望したい。

■後ろ盾を失った維新への逆風

日本維新の会は昨秋の衆院選で41議席を獲得し第3党に躍進した。コロナ対策でマスコミ露出度を上げた吉村洋文・大阪府知事が創始者の橋下徹氏に代わる「党の顔」として定着し、「若さ」を全面に掲げるイメージ戦略で立憲民主党に代わって政権批判票の受け皿となることに成功したといえる。マスコミ各社の世論調査の政党支持率では一時、立憲民主党を上回った。

維新は今夏の参院選の目標として立憲から野党第1党の座を奪うことを最優先に掲げた。「打倒・自民」よりも「打倒・立憲」を全面に打ち出す戦略である。野党第1党に真っ向から挑戦する第三極・維新の登場で、立憲は自民党と政権を競い合う野党リーダーの座から滑り落ち、政権交代のリアリズムは消失。立憲はますます求心力を失い、野党分断が加速するという悪循環に陥っている。

維新を下支えして野党を分断する政界工作を主導してきたのが自民党の菅義偉前首相だ。菅氏は橋下氏を大阪府知事に担いだ時から松井一郎・維新代表と濃密な関係を維持してきた。自民党内に自前の派閥を持たない政治基盤の弱さを維新という外部勢力とのパイプで補い、政局の主導権を握ってきた。

菅氏が安倍内閣の官房長官として権勢を誇り、さらに首相へ上り詰めて退陣する昨秋まで、維新は首相官邸の威光を背景に党勢を拡大してきた。まさに「菅氏の補完勢力」だったのだ。

■見直しを迫られる「菅頼み」の維新の戦略

岸田政権が誕生して菅氏が非主流派に転落すると、維新は首相官邸という強力な後ろ盾を失った。昨年の衆院選で躍進したものの、岸田内閣の支持率が上昇するのとは裏腹に、維新の支持率は下降し始めた。

松井氏や吉村氏を過剰に報道する在阪テレビ局への批判、人口あたりのコロナ死者数が突出する大阪府政への批判、税金を投入しないと明言してきたカジノ構想への公金投入の発覚、所属議員の経歴詐称疑惑など相次ぐスキャンダルなどが次々に追い討ちをかけた。

岸田政権下で吹き荒れる維新への逆風は、この第三極政党の勢いが菅氏が牛耳る官邸権力に支えられてきたことを浮き彫りにしている。

岸田政権のキングメーカーである麻生太郎副総裁は財務省を軸とした政権運営を進め、規制緩和や民営化を重視する菅氏や維新とは政敵関係にある。麻生氏を後ろ盾とする茂木敏充幹事長は大型連休中に大阪を訪問し、維新について「昨年の衆院選では圧倒的な勢いが見られたが、今回は率直に言ってそういうものは感じなかった」と自信をみせた。

岸田政権の「菅外し」「維新冷遇」は明白だ。維新は「菅頼み」の戦略の見直しを迫られている。

■「自民・麻生氏の補完勢力」になった連合と国民民主党

維新を味方につける菅氏に対抗し、麻生氏や岸田首相が取り込もうとしているのが連合と国民民主党だ。

連合の芳野友子会長は昨秋の就任以降、立憲民主党が共産党と共闘したことを激しく批判して野党と一線を画し、麻生氏ら自民党幹部との会食を重ね急接近した。今夏の参院選では立憲・国民の両党を支援してきた従来の方針を転換し、候補者ごとに判断する方針を決定。野党を見切り、与党ににじり寄る姿勢を隠さない。

国民民主党は連合に歩調をあわせ、岸田内閣が提出した新年度予算案に賛成。玉木雄一郎代表は財務省出身のうえ、宏池会(岸田派)の大平正芳元首相と遠戚であり、岸田―麻生ラインにシンパシーを抱く。いずれ自民党入りし、麻生氏が目指す宏池会再結集(大宏池会)に加わるとも憶測される。連合と国民民主党は今や「麻生氏の補完勢力」だ。

このように野党第2党の維新と野党第3党の国民はそれぞれ自民党の非主流派(菅氏)と主流派(麻生氏)にすり寄り、自民党内闘争を後方支援する政局カードとして位置づけられ、「野党」と呼ぶに値しない存在になった。

これでは野党共闘など成り立つはずがなく、政権交代のリアリズムは消失し、政界は弛緩しきっている。野党第1党の凋落が招いた悲惨な政治状況といえよう。

■力不足が否めない共産、れいわ

このなかで自公政権との対決姿勢を鮮明にしているのは共産党とれいわ新選組だが、自公への対抗軸として力不足は否めない。

共産党は昨秋の衆院選で、立憲民主党政権を「限定的な閣外からの協力」で支えることで合意し野党共闘に踏み込んだ。志位執行部はこれを「歴史的な一歩」と自画自賛し、自衛隊など安全保障体制にも柔軟な態度をとった。

ところが野党は惨敗して立憲内では共産との共闘が失敗だったという声が噴出し、泉代表は共産との合意を白紙に戻した。それでも歴史的な一歩を踏み出してしまった志位執行部は後戻りすることができず、凋落する立憲の背中にしがみつくという皮肉な状況に陥っている。

ウクライナ戦争が勃発した後も共産党の柔軟路線は続いた。自公や立憲とともに「ウクライナと共にある」という国会決議に賛成し、米国から巨大な軍事支援を受けて戦争を遂行するゼレンスキー政権を全面支持。志位氏は日本が他国から侵攻された場合は「自衛隊を含めてあらゆる手段を行使する」と明言し、「自衛隊は違憲と主張しながら活用するのか」と批判を浴びた。立憲との共闘を進めて「確かな野党」のイメージを薄めたことの成否はまだ見通せない。

これに対し、れいわは中立的な立場から即時停戦に向けた外交努力を尽くすべきだとして対露制裁や国会決議に反対し「確かな野党」の立場を明確にしている。山本太郎代表は立憲民主党が政権追及に及び腰だとして「本気で政権取る気があるのか」と批判し、衆院議員を辞職して参院選に出馬表明した。

れいわ新選組オフィシャルページより
画像=れいわ新選組オフィシャルページより

立憲や共産との共闘と一線を画し、消費税廃止や積極財政を前面に掲げて独自色を強めている。米民主党のサンダースや英労働党のコービンら欧米政界で台頭した左派ポピュリズム勢力のポジションを占める狙いがにじむ。立憲民主党内の若手にも「隠れ山本太郎ファン」は少なくなく、野党再編の「台風の目」になりつつある。

一方で、自公与党も立憲や維新など他の野党も敵に回して独自の戦いを展開する体力はない。現時点で衆院3人、参院2人の少世帯。参院選でもすべての複数区への候補者擁立を目指したものの断念し、今回の参院選で議席を大幅に積み増して主要政党の一角に躍り出るのは難しそうだ。

■野党総崩れの根本原因

野党総崩れの状態を招いたのは、ひとえに野党第1党の立憲民主党が自公政権との対決姿勢を鮮明にせず、党勢が凋落して求心力を失った結果、各党が野党共闘による政権交代に活路を見いだすことができず、独自の党勢拡大に走るしかなくなったからである。

鮫島 浩『朝日新聞政治部』(講談社)
鮫島 浩『朝日新聞政治部』(講談社)

かつて民主党は「自民党に対抗する野党第1党」という旗印のみで、さまざまな勢力を束ねて政権を奪取した。民主党政権崩壊後、彼らは離合集散を繰り返し、その多くはいま立憲民主党に身を寄せているが、もはや野党第1党という看板以外に何を実現するための政党なのか、存在意義を失いつつある。

民主党政権下で自公と消費税増税で合意した野田佳彦元首相ら党重鎮たちに遠慮し、財政規律を重視する岸田政権に対抗して「消費税廃止」を打ち出せず、「時限的に消費税率を5%に減税」という中途半端な政策にとどまっているのは、立憲民主党の影の薄さを象徴している。

立憲民主党の衆院議員の多くは、すでに参院選惨敗を織り込み、次の衆院選で立憲のまま勝ち残れるとは考えていない。参院選後の野党再編をにらみ、連合に依存しなければ選挙を戦えない連合派、立憲に代わって野党第1党の座を目指す維新に近づく維新派、れいわを軸に野党再編をめざすれいわ派に三分裂しつつある。

■立憲は野党第1党としてすでに敗北した

このうち連合派と維新派は自公政権との対決姿勢を鮮明に打ち出すことにためらいがあり、立憲の存在感をいっそうぼやけさせている。

紆余(うよ)曲折を経ながら、消費税廃止や積極財政に共感する立憲若手がれいわと合流し、自公と真っ向対決を挑む新たな野党が誕生するというシナリオが野党再建への最短距離ではないか。

自民圧勝が動かし難い今夏の参院選。立憲民主党は野党第1党としてすでに敗北したといっていい。今後の野党再編を主導するのは、維新か、連合か、れいわか。参院選は野党の主役の座を競うレースとなろう。

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鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト
1994年京都大学を卒業し朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部や特別報道部でデスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2021年5月に49歳で新聞社を退社し、ウェブメディア『SAMEJIMA TIMES』創刊。2022年5月、福島原発事故「吉田調書報道」取り消し事件で巨大新聞社中枢が崩壊する過程を克明に描いた『朝日新聞政治部』(講談社)を上梓。YouTubeで政治解説も配信している。

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(ジャーナリスト 鮫島 浩)

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