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「消費税35%」でも借金返済に122年かかる…政治家が口にしない"現金バラマキ"の恐ろしいツケ

プレジデントオンライン / 2022年9月2日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shirosuna-m

なぜ日本の政治家はバラマキを止められないのか。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「日本円が暴落しても国にはダメージがない。国民にとって地獄でも、ハイパーインフレは究極の財政再建になるからだ」という――。

※本稿は、藤巻健史『Xデイ到来 資産はこう守れ!』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

■ハイパーインフレの「Xデイ」が到来する条件

「日銀が倒産する」と本書『Xデイ到来 資産はこう守れ!』で何度も述べていますが、日銀は紙幣を刷れるので、資金繰り倒産はしません。しかし、債務超過で日銀の信用が失われれば、その通貨の信用も失墜し、ハイパーインフレが起きてしまいます。

前述したように雨宮副総裁が日本金融学会2018年度秋季大会(2018年10月20日)で、「(マネーの信用は)ソブリン通貨の場合は、中央銀行の独立性を担保する制度的枠組みや、信頼に足る業務や政策のトラックレコードなどが必要となります。もちろん、中央銀行への信用が一たび失われれば、ソブリン通貨といえども受け入れられなくなることは、ハイパーインフレの事例が示す通りです」と述べています。

そのハイパーインフレを抑えるためには日銀を廃し、新中央銀行を作らざるを得なくなるだろうと思っています。それを「倒産」という言葉を使っているのですが、正確には「廃せざるを得ない」ということです。

もちろん中央銀行は社会にとって必要不可欠なインフラですから、新しい中央銀行は早急に作らねばなりません。しかし日銀は廃せざるを得ない。その場合は、日銀の負債である現在の円は無価値になり、新中央銀行の負債である新しい通貨が法定通貨になるということなのです。

■日本株、円、日本国債すべてが売られる…

日銀が債務超過になったら政府が資本投入をし、債務超過を解消すればよいではないかと簡単に言う人がいますが、政府は現在大幅赤字です。したがって、資本投入する原資がありません。

まさか「政府が国債を発行して、その国債を日銀が買い取って、そのお金を日銀に投入する」などと言い出さないでください。それは、まさに「エーエーエー? の世界」です。

タコが自分の足を食っているような話であって、そんなことを世界に発信したら、その瞬間に日本株、円、日本国債すべてが売られると思います。まさにXデイ開始のゴングが鳴り始めるのです。

■タクシー初乗りが100万円になる

ハイパーインフレではパンや牛乳の値段は1時間ごとに上がっていく一方、給料や年金は1カ月ごとにしか上がらないので、もらった給料や年金は2〜3日でなくなり、4日目から食うに困るという状況にもなりかねません。

1923年のドイツのハイパーインフレ時には、コーヒーショップに入ってメニューを見たらコーヒー1杯4000マルクだったのに、飲み終わって勘定を払う段階になったら1杯6000マルクになっていたとか、皆タクシーには乗らずバスばかりに乗り、その理由はバスは料金前払いだが、タクシーは後払いで、乗っている間にマルクの下落で値段がどんどん上がってしまうから、といった笑えないジョークがはやっていたそうです。

乗客待ちで列をなす、東京の駐車タクシー
写真=iStock.com/mbbirdy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mbbirdy

1月に250マルクだったパン1個が12月末には3990億マルクになったそうですから、前述のジョークは、冗談ではなかったのかもしれません。

インフレとは、債権者(お金を貸している人)から債務者(お金を借りている人)への実質的な富の移行です。たとえば1000万円を銀行から借りている個人タクシーの運転手さん(債務者)はインフレが来れば大助かりです。タクシー初乗りが100万円になれば、お客さん10人を乗せれば1000万円の収入になり、1日で銀行に借金を返せます。

一方、汗水たらして10年間で1000万円貯めた人(債権者)は10回タクシーに乗ると預金がパー。悲惨です。その意味でインフレとは債権者から債務者への富の実質的移行なのです。この国において債権者とは国民、日本最大の債務者は国。その意味でハイパーインフレは国民から国への実質的な富の移行で、税金と同じなのです。

■ハイパーインフレは究極の財政再建

税金ではないものの、民間から政府への所得移転のことをインフレ税と呼ぶ人もいます。物価は暴騰するし、貯めた預金はパーですからハイパーインフレは国民にとって地獄です。その一方、究極の財政再建となります。

わかりやすくするために極端な例を使いますが、タクシー初乗り1兆円時代の1218兆円など取るに足らない金額です。なにせタクシー初乗り1兆円時代には初乗り1回で1000億円もの消費税が入るのですから。名目は変わらなくても実質的に借金が軽減されるわけです。

国は、最初からインフレで、この膨大な借金を減らそうと考えているのではないかと思います。なんにもわかっていない政治家はともかく、財務省や日銀のエリートたちは、それなりに穏やか(?)なインフレで、借金を実質軽減しようと考えているはずです。

ここまで借金が大きくなると、インフレでの借金返済しか手法はないというのがエラい人たちのコンセンサスだと思います。

7%のインフレを10年継続すれば、借金は実質半分になります。その程度を目指したのでしょうが、財政ファイナンスを行ってしまった以上、日銀はインフレをコントロールするブレーキを失ってしまいました。

サイドブレーキもフットブレーキもない車では、減速はできません。そのうえ、アクセルを踏みっぱなしにせざるを得ない状態なのですから、7%のインフレで終わるわけがなく、どんどんインフレは加速していくと思うのです。

なお、国民にとって地獄でも、ハイパーインフレは究極の財政再建ですから、十分にハイパーインフレが進んでからでないと、政府はハイパーインフレ退治を始めないと思います。

■大増税、年金カット、健康保険制度廃止が待っている

「IMFその他は日本を助けてくれるか?」と聞かれれば、「助けてくれる確率は低いだろう」と答えます。2014年頃に財政破綻していたならば、まだダメージが小さく、多少はIMFが援助してくれていたかもしれません。

ただし援助するといっても、大増税、年金カット、健康保険制度廃止、生活保護規定の厳格化など、大きな国民負担が前提となっていたと思います。

重すぎる税負担に腰が曲がってしまうビジネスパーソン
写真=iStock.com/photoschmidt
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/photoschmidt

しかし、ここまで事態が深刻化すると、もはやIMFの援助だけでは不十分でしょう。それに日本の危機は税収以上にばらまいた結果です。本来、日本国民が得られるはず以上のサービス(=歳出)を政府から享受した結果です。政府が無駄遣いしていたとしても、です。

世界にはウクライナのように戦争に苦しんでいる国もあれば、ハイチのように国民の大半が1日1ドル以下の生活を強いられている国もあるのですから、それらの国よりも優先して自業自得の国・日本を、彼らの税金(IMFの援助金の原資も、もともとは他国民の税金)で助ける理由は見つかりません。

日本がこけても、かつてのように世界経済に対する影響はさほど大きくなく、また日本国債を持っている外国機関投資家もさほど多くはないので、金融機関の連鎖倒産の心配もありません。

それにハイパーインフレという方法で、日本国民の財産を政府が実質没収すれば、日本は独自に財政再建ができるのです。わざわざIMF参加国の国民からの税収を使う必要などないのです。日本人は何でも政府等の公に期待しがちですが、厳しい国際社会では、それは常識ではないと思うのです。

■「明日から消費税率35%」でも完済に122年かかる

2020年度第三次補正予算後の予算は、コロナ禍のせいで112.5兆円の赤字です。これは、とんでもない額です。翌2021年度の予算補正後は、65.7兆円の赤字です。

税収が史上最高でも60兆円強であることを考えると、これでも、とんでもないほどの異常な額です。日本は、コロナ禍のような異常時だけでなく、30兆〜40兆円の赤字をバブル崩壊以降、30年以上も毎年続けてきたのです。

それを消費税で穴埋めしようとすると、どの程度の増税が必要か、見てみましょう。

消費税率は現状10%で、2020年度で19.2兆円の税収。1%あたり約2兆円の税収です。毎年30兆〜40兆円の赤字を穴埋めしようとすると、40兆円の赤字を埋めるためには40兆円÷2兆円で、消費税率を20%にしなくてはいけない計算になります。

さらに2021年12月末で1218兆円の借金がありますが、これを10兆円ずつ返すとすれば、122年近くかかる計算です。もし10兆円ずつ122年間で返そうとすると、10兆円÷2兆円でさらに5%、「今の消費税率10%+単年度の赤字解消で20%+122年での返済で5%」で明日から消費税率35%が必要です。

こうすれば、なんとか122年で1218兆円の借金が返せます。しかし、ここまで借金総額が大きくなると、支払金利も馬鹿になりません。すぐにではないものの、1%上がると12兆円の支払金利が増えます(1218兆円×1%)。計算するのも嫌になります。

消費増税で借金を返済するのは、もはや不可能だと思います。計算上はできますが、この国でそこまで消費税率を上げるのは政治的に無理だからです。

■「借金の踏み倒し=ハイパーインフレ」が最も現実的

2022年度の政府の税収見込みは、所得税20.3兆円、法人税13.3兆円、相続税2.6兆円、消費税21.5兆円です。法人税約30%を2倍にしても、13.3兆円の増収にしかなりません。多くの大企業は海外に逃げるでしょうし、そうなれば下請けはつぶれ、多くの日本人は職を失うでしょう。

よく金持ちから税金を取ればいいと主張する人がいますが、日本には金持ちなどほとんどいません。いたとしても大金持ちではなく、小金持ちにすぎません。

少し古い資料で恐縮ですが、私が2015年5月21日の参議院財政金融委員会で国税当局に聞いた数字があります。

日本の人口1億2550万人のうち、総合課税の適用を受けているのは4900万人程度。そのうち所得税の限界税率(所得税の税額計算の際に適用される税率)40%、45%(それに住民税10%が乗っかる)を払っているのは、たった30万人しかいないのです。

藤巻健史『Xデイ到来 資産はこう守れ!』(幻冬舎)
藤巻健史『Xデイ到来 資産はこう守れ!』(幻冬舎)

この税率を1%上げても、1%あたり400億円の増収にしかならないのです。900万円で適用される33%の税率を払っている人も、たったの50万人。33%の税率を1%上げても、たった500億円の増収です。毎年30兆~40兆円の赤字の穴埋めにはなりません。

所得税を上げるとしたら、課税最低限の引き下げか、5%の限界税率の引き上げしかないのです。5%の限界税率は1%あたり6700億円ですから、5%の限界税率を15%にすれば、6.7兆円の増収です。それでも全く足りません。ですから税収を増やすとするなら、消費増税しかないのです。

でも、政治的に無理だと思うのです。ですから私は「借金の踏み倒し=ハイパーインフレ」しか日本に選択の余地はないと言っているのです。

■新しい中央銀行、新しいお札で再スタートするしかない

ハイパーインフレが進み、財政再建が行われたら、その時点で、政府はハイパーインフレの鎮静化に取りかかるでしょう。方法は3つ考えられます。

① ドルを法定通貨にする、
② 1946年のように日銀を残して預金封鎖し新券を発行する、
③ 終戦後のドイツのように、古い中央銀行を廃し、新中央銀行を設立する、

の3つです。

ドルの法定通貨化はハイパーインフレ以降、盛んに決済に使われるようになるであろうドルを、そのまま法定通貨として採用し、円を法定通貨から外す方法ですが、さすがにこれは国の威信にかかわりますから、しないと思います。

採用されるのは、おそらく②か③だと思っています。資本注入ができない以上、いずれの案も、ばらまいたお金の価値を減らすことにより中央銀行の負債を縮小させ、資産サイドとバランスをとるという考えです。

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藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。

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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)

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