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失敗談を語るなら、ここまでやるべき…作家・百田尚樹の「和式トイレの便器でズボンを洗うことになった話」

プレジデントオンライン / 2023年6月23日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

雑談ではなにを話せばいいのか。作家の百田尚樹さんは「失敗談が一番いい。ただし、失敗談を話す時には、変に言い訳をしたり、恨み言を言ったりするのは避けたほうがいい。失敗談はあくまで明るくなくてはいけない」という――。

※本稿は、百田尚樹『雑談力』(PHP文庫)の一部を再編集したものです。

■他人の「自慢話」には心から笑えない

自分の失敗談やドジった話は、ある意味で最高の雑談ネタです。大勢が集まる中で、愉快な失敗談を話すと、皆大喜びします。人はいかに面白い話でも自慢話には心から楽しめませんが、失敗した話は素直に笑えます。

でも、恥ずかしい過去や失敗を他人に話すというのは、なかなか度胸のいるものです。だからこそ、それを笑いに変えて話すと、人は喜んで聞いてくれますし、またそういう話を堂々とするあなたに好意と敬意を抱いてくれるものなのです。

異性に派手にふられた話、就職の面接でやってしまった失敗、その他、日常でやらかした恥ずかしい行為など、なんでもいいのです。ただ、大事なのは、聞いている人が思わず、くすっと笑ってしまうおかしさがなくてはいけない、ということです。笑えない失敗話は逆に全然面白くありません。

ですから、失敗談といっても、本当の悲劇はダメです。いかに不思議な話でも、そういう話は楽しい雑談には向きません。

■言い訳・恨み言は抜かして話す

また、失敗談を話す時には、変に言い訳をしたり、恨み言を言ったりするのは避けた方がいいでしょう。それを入れると愚痴になってしまい、明るい話になりません。失敗談はあくまで明るくなくてはいけません。

私は間抜けな人間なので、失敗話などは山のようにあります。思いつくままにいくつか書いてみましょう。

若い時、好きな女性に一晩かかってラブレターを書き、ポストに投函したあとに、封筒に入れたのは下書きだったことに気付いたことがあります。実はその下書きの裏に、彼女の似顔絵をいたずら書きしていたのですが、余計なことにそこにおっぱいまで描いていたのです。手紙を出した翌日に、机の上にラブレターの清書を見つけた時は、舌噛んで死のうかと思いました。

大人になってからも失敗は山のようにあります。ただ、私の失敗の多くは暴言、失言の類いで、これはこれで面白いのですが、明るい笑いにはなりません。

■「ウンコを漏らした話」

現在、私はニコ生(ニコニコ生放送)の「百田尚樹チャンネル」という番組で、生放送で喋っているのですが、そこでやたらと受けた話がありました。それは私が大人になってウンコを漏らしたという話です。最初はそんな話をするつもりはなかったのですが、ニコ生というのは、見ている人がリアルにコメントを送ることができます。たまたま「探偵! ナイトスクープ」という番組(私が構成を担当)の中で「男はウンコを漏らしたことがある?」という街頭インタビューをしたことがあるという話をした時、視聴者から「百田さんはあるの?」と訊かれたので、「何度もある」と答えると、「その話をして」と言われ、してしまったというわけです。

それはこういう話です。

私が40歳の時です。たまたま親戚に不幸があって、葬式に出席しました。その頃、私はいつもだらしない服装をしていました。ズボンは腰のところにゴムが入ったもので、ベルトなんかしたことがありませんでした。足もともサンダルです。そんな私がその日は礼服を着ていたわけですが、そんな日は1年に1、2度あるかどうかです。

■腰に引っ掛かってズボンが下ろせない…

夕方、葬式の帰りに車を運転していると、急激に腹の調子が悪くなりました。このままでは漏らしてしまうと焦りましたが、しばらく走ると、大型ショッピングモールが見つかりました。私は駐車場に車を入れると、必死で店の中に入りました。もうその時は、いつ漏れてもおかしくないという状態でした。

1階のトイレに入ろうとすると、そこには女性トイレしかありませんでした。今にして思えば、そこに入るべきでした。緊急避難ですから許されたと思います。

私は死ぬような思いで階段をゆっくりと上り、2階のトイレに行きました。運のいいことに個室が1つ空いていました。ところが、私の嫌いな和式です。でも不満を言っている場合ではありません。便意はもう限界です。

私はすぐさま個室に入り、ズボンを脱ごうとしましたが、腰の部分で引っかかってしまいました。あまりにも焦っていたため、普段穿いているゴムのズボンと勘違いしていたのです。

ズボンを脱ぎかけたと同時に緩めていた肛門に、もう1度渾こん身の力を込め、大急ぎでベルトを外しました。そして今度こそ、と思い切ってズボンを脱ごうとすると、またしても腰のところに引っかかったのです。思わず、「わー!」と叫んだ気もします。

■和式便器の水でズボンと靴を洗うしかなかった

ズボンはボタンで留められていたのです。私はあらん限りの力を肛門に集中し、震える指でボタンを外しました。間一髪、間に合ったと思って、肛門の力を抜くと同時に、しゃがみ込みながらズボンを下ろそうとしました――が、ズボンは下りません。なんとボタンはもう1つあったのです。

終わった――と思いました。同時に私は完全に緩んだ肛門から温かいものが出てくるのを呆然と感じていました。

あの絶望感と解放感が入り混じった気持ちはどう表現すればいいのでしょう。なすすべもなく、ただただ私の体に起こっている現象を受け止めているしかなかったのです。

余談ながら、あれは1度出ると、途中で止められません。要するに全部出てしまうのです。パンツの中からはみ出たものがズボンを通して足に流れていきますが、どうすることもできません。

さて、すべてが終わると、あらためて自分の置かれている状況に絶望せずにはおれませんでした。パンツもズボンも大変なことになっています。おまけに革靴の中にまで入っています。

私は個室の中で下を全部脱ぎ、便器の中でズボンと靴を洗いました。まさか自分の人生で和式トイレの便器でズボンを洗う日が来るとは思ってもいませんでした。人生にはこういうこともあるのだなと妙な達観を得たのもたしかです。パンツと靴下はさすがに捨てました。

男性と女性のトイレへの入り口。空港にサインインします。
写真=iStock.com/IrKiev
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/IrKiev

■失敗を笑えるのは成長の証し

その後、びしょびしょのズボンを穿いたまま、紳士服の売り場で下着と替えのズボンを買い、もう1度トイレで着替え、ショッピングモールをあとにしましたが、あたりはもうすっかり暗くなっていました。あの時は、不幸というものは、日常生活のすぐ隣にあるのだなあと不思議な感慨を覚えました。

こんな尾籠(びろう)な話を書いて、読者の皆さんには大変申し訳ありませんでした。失敗談の例として挙げたのですが、さすがにこれは書きすぎたかもしれません。

百田尚樹『雑談力』(PHP文庫)
百田尚樹『雑談力』(PHP文庫)

まあ、ここまでの失敗は極端ですが、皆さんも過去の人生を振り返れば、面白い失敗はあると思います。当時は恥ずかしくてとても人に喋れるような心境ではなかったけれど、時が経つにつれて、それを笑いにできるようになった話もあると思います。

実は失敗を笑いに変えることができるのは、人間の成長の証しなのではないかと私は思っています。人が失敗話を楽しんで聞くのは、そういう心の余裕を見て楽しんでいるのではないかという気もします。

ですから皆さん、自分の人生を振り返って、面白い失敗を探してみましょう。

何、そんな失敗は1つもない? うーん、そういう人生は味気ないですね。人生は多くの失敗を重ねて、人としての幅ができ、人の痛みや心がわかる人間になっていくのだと思います。

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百田 尚樹(ひゃくた・なおき)
作家
1956年、大阪府生まれ。同志社大学中退。放送作家として人気番組「探偵! ナイトスクープ」などを構成する。2006年『永遠の0』で作家デビュー。13年『海賊とよばれた男』で第10回本屋大賞を受賞。

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(作家 百田 尚樹)

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