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イェール大学名誉教授「アメリカで相次ぐ銀行破綻は、日本にも波及するのか」

プレジデントオンライン / 2023年5月2日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sundry Photography

■金利上昇で銀行の経営が悪化する理由

2023年3月、アメリカで相次いで銀行破綻が起きた。ITスタートアップ企業との取引を主とするシリコンバレー銀行(以下・SVB)、暗号資産関連企業との取引が多かったシルバーゲート銀行とシグネチャー銀行の3行である。SVBの倒産規模はアメリカ史上2番目、シグネチャー銀行は3番目だったという。

08年、大手投資銀行リーマン・ブラザーズが倒産したのは、サブプライムローンの破綻がきっかけだった。今回の破綻の背景には何があったのだろうか。

トランプ(共和党)前政権は、主に富裕層を対象とした大幅減税を行った。その消費刺激効果が功を奏したのか、私が19年末にニューヨークを訪れたとき、街全体が活気づいて躍っているように見えたものだ。富が富裕層から低所得層に徐々に滴(したた)り落ちる理論「トリクルダウン」は、通常、下層まで恩恵が及ぶことは少ない。しかし減税の規模が大きいと、景気刺激の効果が社会全体に行き渡るのだなと感じた。

そこで世界は新型コロナウイルスに襲われ、商業活動を行うと疫病に感染するという状況が起こった。そのまま放っておくと失業が生じて、どちらかというと中流以下の階級に負担が及んでしまう。バイデン(民主党)政権は財政支出と減税によって、これを防ごうとした。

減税とコロナ禍に対する政府支出で需要がつくり出され、それが物価上昇につながった。さらにロシアのウクライナ侵攻に対する経済制裁のため、エネルギーおよび原材料の供給が減少し、コストプッシュが物価上昇に追い打ちをかけた。

インフレを抑制するためには、金融引き締めを行わざるをえない。その手段が、FRB(連邦準備制度理事会)が22年3月から継続している金利引き上げである。当初0.25〜0.5%だった短期金利は徐々に上がり、1年後の23年3月には4.75〜5%となっている。

近年、低金利政策が続いたことで、銀行は資金運用による利益獲得が困難になり、ビジネスモデルが債券・証券保有へシフトしてきた。長期金利と債券価格は逆に動くシーソーの関係になっており、長期金利が下がれば長期債券の価格は上昇する。「今後、低金利水準が続くのであれば、債券を所有することで安定した収益が得られ、金利が一層下がれば債券価格まで上がって儲かる」と考えるのも無理な話ではない。

しかし、FRBによる政策に応じて金利が急上昇したあおりを受けて、22年から債券の価格は下落傾向が続いていた。債券を買いすぎた銀行が債券価格の下落により経営困難に陥るのは必至だ。金利上昇による保有債券評価損の累計額が約80兆円という新聞報道もある。

また、伝統的な商業銀行の収益モデルは「短期資金を調達し、貸し出しなど長期で運用して金利差を稼ぐ」というものだった。長期のほうが将来への不確定要素が多いので、通常は金利は短期よりも長期のほうが高かった。銀行は預金者からの短期借りを利回りのいい長期債や貸し出しで運用できる。

しかし、アメリカでは22年の3月に、2年国債利回りが10年国債利回りを上回る、つまり短期金利が長期金利の水準を上回る「逆イールド(利回り)」が起きていた。これでは長短金利差で利鞘を稼いできた銀行は収益が悪化する。

金利が上がったことでスタートアップ企業は資金繰りが苦しくなり、預金を引き出した。その資金の手当のため、SVBは値下がりした債券の売却を迫られ、結果、保有債券の一部売却による損失を18億ドル(約2400億円)計上すると発表した。

■日本への影響は限定的になる?

その評価損を見て「現預金が引き出せなくなるのではないか」と不安が拡大。バンクラン(取り付け騒ぎ)に発展した。SVBの貸し出しや取引がIT関係に集中していたり、大口預金者が多かった影響もあり、発表の翌日だけで、SVBが預かる預金全体の24%にあたる420億ドル(約5兆6000億円)が引き出されたという。

信用不安には心理的な側面も大きく、国境を超えていく。SVBが破綻してから5日後の23年3月15日、かねてより不祥事から経営不安が囁(ささや)かれていたクレディ・スイスに飛び火した。株価は一時31%下落。社債も売り込まれ、スイス国立銀行(中央銀行)から最大500億スイスフラン(約540億ドル)を借り入れることになった。

23年3月12日、SVB破綻の報を受けたFRBは、財務省、連邦預金保険公社(FDIC)とともに預金の全額保証をはじめとする、異例の対応策を発表した。銀行破綻に対しては、「間違った経営をした銀行と株主が、自己責任を負うのは当然」という考え方と「国民経済全体が預金の安全性と信頼性の上に立つので保護しよう」という考え方が対立する。共和党政権なら従来の保護上限、1口座につき25万ドルにとどめたかもしれない。私自身の生活感覚からすれば25万ドルでもかなり手厚い保護に思えるが、FRBは国民全体の安全性を優先したに違いない。

■インフレにブレーキをかけなければ、国民生活に深刻な影響が

そして、23年3月21〜22日に行われた定例会合で、FRBは政策金利を0.25ポイント引き上げると発表。このまま利上げを続ければ、銀行の経営はますます苦しくなるが、インフレにブレーキをかけなければ、国民生活に深刻な影響が出る。そのジレンマの中で、FRBはインフレ阻止のほうに重点を置いたのであろう。

金融資産の半分以上を証券運用するアメリカ

これは日本の金融政策問題とも深くかかわっている。欧米と異なり、日本はイールドカーブ・コントロール(YCC)で長期、短期の各金利を低く維持しているので、さしあたっての影響は限定的と考えられる。アメリカの銀行の保有債券評価損の累計額は約80兆円と前述したが、それに対して日本の銀行は1.5兆円と少ない。

しかし、資金循環統計で日本の「預金取扱機関」を見ると、総資産の2割弱を証券運用している。また、貸し出しを中心としたビジネスモデルに従って行動し、苦戦をしている日本従来の銀行ほど債券投資に依存する傾向が強いと考えられるので、注意深く見守らなければならない。さらに今、欧州の顧客企業がエネルギー危機でひどく苦しんでおり、企業や銀行の安全性も万全ではない。

アメリカが短期利上げに向かうとき、日本の金利を低く保つと円安が進行する。そのため、これから「日本の短期金利を上げろ」という要請が植田日銀総裁のもとに内外から集まる可能性は高い。そこで短期金利が長期金利を上回ることになれば、日本の金融市場もアメリカと同じ問題を抱えることになるはずだ。

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浜田 宏一(はまだ・こういち)
イェール大学名誉教授
1936年、東京都生まれ。東京大学法学部入学後、同大学経済学部に学士入学。イェール大学でPh.D.を取得。81年東京大学経済学部教授。86年イェール大学経済学部教授。専門は国際金融論、ゲーム理論。2012~20年内閣官房参与。現在、アメリカ・コネチカット州在住。近著に『21世紀の経済政策』(講談社)。

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(イェール大学名誉教授 浜田 宏一 構成=渡辺一朗)

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