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常連には余った食材で焼き鳥5本提供…そんな身勝手なルールの焼き鳥屋が熱狂的なファンを獲得できたワケ

プレジデントオンライン / 2023年5月22日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

ビジネスを成功させるためのポイントは何か。吉祥寺の焼き鳥屋を経営する大将の息子で不動産プロデューサーの玉岡一央さんは「商売にはバランス感覚が求められる。大将のお店では常連さんが席に着くと、食材の無駄をなくすため、店側が選んだ焼き鳥を5本出していた。そんな身勝手なルールを設けていたが、お客様の好みを把握していたから、文句が出るようなことはなかった」という――。

※本稿は、玉岡一央『ビジネスで大切なことはみんな吉祥寺の焼き鳥屋で教わった』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

■はじめてのお客様が驚くお出迎え「ドンドンドンドン」

大将のお店の入り口には、小さいでんでん太鼓が置かれていました。

これをどう使うのかというと、お客様がガラッとドアを開けて入店をしたと同時に、大将が「ドンドンドンドン、ドンドンドンドン」と、そのでんでん太鼓を叩くのです。

お店に入っていきなり太鼓が鳴らされるのですから、はじめてのお客様は、きっと度肝を抜かれたのではないでしょうか。

この小さい太鼓は、玄関近くにあった焼き鳥の焼き台の横につるしてあり、ドラムのスティックを短くしたようなバチで勢いよく叩きます。

そして、その横には小さいプラスチックのランプのようなものが置いてあり、最後にそのランプの傘の部分をチンと叩いて〆るのです。

ドンドンドンドン、ドンドンドンドン、ドン、ドン、チン! ……といった具合です。

「いらっしゃいませ」といいながら叩く時もあれば、他に作業をしている時には、手を止めてわざわざ鳴らすこともありました(もちろん、状況によっては鳴らせない場合もありましたが)。

■でんでん太鼓に隠された裏の意味

これには、元気良くお客様をお迎えするという「表の意味」があります。

ただ、当然ですがお店に初めてくるお客様は、このでんでん太鼓の音にびっくりします。ノリのいい人は、「うわ、何だ、何だ」などと反応しますが、時には扉を閉めて、帰ってしまうお客様もいました。

それでもでんでん太鼓を鳴らしていたのは、実は、お客様に対して「裏の意味」があったからです。

それは、お客様が酔っているのか、酔っていないのかを見分けるため、という意味です。でんでん太鼓と鐘の音に対するお客様の反応を見て、大将は、お客様の酔っぱらい具合を判断していたのでした。

極度に酔ったお客様を入店させると、かなりの確率でトラブルが起こります。隣のテーブルの客と喧嘩になってしまったり、店のものを壊してしまったり……。もちろん、そうなるとお酒や食べものも進まず、売上にもなりません。

そこで、大将はお客様がかなり酔っていると判断した場合は、「予約が入っているので」と断るのです。また、一見さんのお客様の場合は、他店で飲んできているお客様はお断り、入れたとしても30分程度で帰ってもらうというルールもありました。

居酒屋の野外席で飲み物を楽しむ若い友人たち
写真=iStock.com/AzmanL
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AzmanL

■インパクトのある儀式で熱狂的なファンを作る

さらには、このでんでん太鼓には、もう1つの意味もあったと思います。

このでんでん太鼓は、お客様が帰る時も〆に鳴らします。常連さん達は、この「でんでん太鼓と鐘の音」を聞かないと、お店に来た気がしないといっていました。いわば、儀式のようなものだったのです。

このでんでん太鼓と鐘の音は、必要がないといえば必要ないものですが、お店ならではの「儀式」を作ることで、お店の個性が出ます。

飲食店では、どんなジャンルでもライバル店が多いですし、特に吉祥寺のような人気エリアでは長く続けることができている店舗というのはわずかです。

そういった中で焼き鳥屋を続けることができた理由の1つが、この最初のインパクトであり、これによってその他大勢のお店から抜け出すことで、熱狂的なファン(常連さん)を作ることができたからだと思っています。

■1日に飲めるお酒の量にリミットを設けた理由

大将のお店では、1日に飲めるお酒の量の上限が決まっていました。

こういった商売をしていると、その日の売上のために飲むのを薦めることはあっても、止めるなんてことは普通はしないので、本当に「変」なお店です。

飲める量は点数制で、1日で1人あたり合計10点までしか飲めません。

例えばビールは1本2点。生ビールも瓶ビール(大瓶)も点数が一緒でしたが、その理由は今となっては分かりません。たぶん考えるのが面倒くさかったのでしょう(笑)。

他には日本酒1合が2点、焼酎の梅割りが3点、各種サワーは1点でした(ついでに細かいことをお話しますと、お店が狭くて氷を置くスペースがなかったために、サワーには氷が入っていませんでした)。

レモンの入った酒
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

このように、それぞれ点数が決まっていて、平均すると最初の1杯プラス3杯程度が飲める仕組みになっていたのです。

とはいえ厳密に点数計算をしていたというよりも、アバウトな目安ではありました。お酒が強い人は15点ぐらい飲んでもいいですし、弱い人であれば5点も飲まないうちに大将からストップがかかることもあったようです。

このルールには、もちろん飲める量を制限することで、酔っぱらって暴れるのを防止したり、お客様同士のトラブルを防止するという意味もありましたが、同時に「飲みすぎて明日来られなくなるより、程よく飲んで明日もまた来てね」というメッセージが込められていました。

つまり大将は、お客様には一度来て終わりではなく、何度も来て、常連さんになっていってもらいたい、という思いが強かったのです。

■常連さんにとって居心地のいい店を作るために

ただし、常連さんになってもらいたいのは、気心が知れてきた人だけ。どんなに愛想が良くても、自分とは馬が合わないと感じたら、サラッと遠ざけていました。

例えば、お店ではAMラジオ放送をかけていることがありましたが、嫌な人が来ると大将はラジオを切っていました。なぜなら、その人を早く帰したいからです。

お店がシーンとしているとお客様もさすがに居心地が悪くなり、1杯飲んで帰っていきます。今思うと、かなりのパワープレイです。

ちなみに、そういう空気の中に常連さんが入ってくると、大将は「今、ラジオでプロ野球速報をやっているから聞く?」と、ラジオを入れていました。

お客様を取捨選択するとは、とんでもないと思う方もいるのではないでしょうか。大手企業やチェーン店などではあり得ないことです。

しかし、対象の焼き鳥屋のような個人経営のお店では、常連さんにとって居心地のいいお店を作ることが、お店を長続きさせるコツなのだと思います。

常連さんが多ければ多いほど、安定した売上が見込めるようになります。そして、お客様に飲む量にリミットを設けることで、お客様は身体を壊さず長く通うことができ、お店側は酒癖の良い常連さんのいるお店を続けることができるというわけです。

■飲み物を注文すると、一緒に焼き鳥が5本出てくる

大将のお店では、1杯目の飲み物の注文時に焼き鳥を5本、一緒に注文するというルールがありました。また、追加の焼き鳥は2本からでした。

それだけなら他のお店でも珍しくないかもしれませんが、相手が常連さんの場合、1杯目に飲む飲み物だけではなく、焼き鳥も好みを把握していて、その常連さんのお約束を出します(同意は取りますが)。お約束が売り切れの場合には、こちらが選んだ種類のものを5本出すのです。

つまり、お店に来てまず飲み物を注文したら、黙っていても一緒に焼き鳥が5本出てくるという塩梅です。日によっては焼き鳥だけではなく、レバ刺しや煮込みを押し売りして出す時もありました。

これはなぜかというと、食材の無駄を出さないためです。例えば極端な話、レバーの串が余っていたとしたら、常連さんにはこちらの都合でレバーを出していたわけです。

こういうやり方をすれば、常連さんのメンバーもある程度決まっていて、週に何日来るのかがだいたい分かっていますから、無駄な仕込みは必要ありません。今風にいえば、フードロスが最小限で済みます。

私が中学生の頃、大将はよく「売上とは客単価×客数×リピート率だ」とか「小さい飲食店は、仕入れにどれだけ無駄を出さないかが大切だ」といった話をしてくれましたが、これはまさにその実践例といえます。

ちなみに、店の名物に「独特レバ刺し」という、豚レバーのスライスに、しょうがと輪切りのねぎをのせ、しょう油とごま油と、味の素少々を振ったメニューがありましたが、これも新鮮なレバーはレバ刺しで出し、日付が経つと串に刺し、それでも残るようであれば煮込みに入れる、という具合に徹底的に無駄を出さない工夫をしていました。

■お客様に嫌な思いをさせない絶妙なバランス感覚

この話だけ聞くと「なんてセコくて勝手なんだ」と思うかもしれません。

しかし、それでもお客様から文句が出ることはありませんでした。なぜなら、大将は常連さんの好みを把握していて、それを外すようなものは出さなかったからです。

例えばいくらレバーの串が余っていても、レバーが苦手な相手には決して出しませんでした。塩かタレか、というところまで相手の好みを知っていたので、おまかせでも問題がなかったのです。

玉岡一央『ビジネスで大切なことはみんな吉祥寺の焼き鳥屋で教わった』(秀和システム)
玉岡一央『ビジネスで大切なことはみんな吉祥寺の焼き鳥屋で教わった』(秀和システム)

「最初に焼き鳥を5本注文する」というルールにしても、多くの若いお客様は焼き鳥5本だけでおさまるわけもなく、最初の5本を食べると、何かしら追加で頼んでいました。勝手なルールのようでいて、お客様に無理をさせるようなものではなかったのです。

ビジネスをしていると「お客様にいい顔をしようとすると採算が悪くなってしまう」というパターンと「自分の都合を押しつけてお客様が離れてしまう」というパターンの狭間で悩みごとは多いと思いますが、大将はそのあたりのバランス感覚がとても優れていたのでしょう。

商売として押さえるところはきっちり押さえつつ、お客様に嫌な思いはさせない。これもお店が長続きした秘訣(ひけつ)の1つだったと思います。

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玉岡 一央(たまおか・かずふみ)
不動産プロデューサー、ユニバーサル・リアルティ株式会社代表取締役社長
1976年東京都生まれ。宅地建物取引士。東京の吉祥寺ハーモニカ横丁で焼き鳥屋を経営する父親の下で、小学生から家業を手伝い、目上の人と接する経験を多く積む。文化服装学院中退。様々なアルバイトを経て、結婚をきっかけに一念発起し、給与水準の高い不動産業界への転換を決意。中堅の不動産会社を経て三井不動産リアルティ株式会社へ転職。営業奨励賞5年連続受賞などの功績が認められ営業リーダーへ最短で抜擢、年収1000万円超えを実現する。

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(不動産プロデューサー、ユニバーサル・リアルティ株式会社代表取締役社長 玉岡 一央)

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