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これからは漢字も英語も計算もできなくてよくなる…AI時代に本当に学ぶ価値があること

プレジデントオンライン / 2023年5月31日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stockcam

ジェネレーティブAIが急速に広まりつつある中、「学び」の形はどのように変わっていくのか。ベンチャーキャピタリストである伊藤穰一さんは「各々が伸ばしたい領域を学ぶ時間を増やすため、苦手、あるいは不要と考える領域はAIの助けを借りて時間短縮・効率化するという考え方もあります」という――。

※本稿は、伊藤穰一『AI DRIVEN AIで進化する人類の働き方』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■ジェネレーティブAIを用いて学ぶ

テクノロジーは、今までにも様々なかたちで社会を変えてきました。

テクノロジーが生んだ新しいツールが普及するたびに仕事が変わり、働き方が変わり、そして教育や子育て、学びそのもののかたちも変わってきた。今、急速に広まりつつあるジェネレーティブAIも、その延長線上にあります。

この新しいツールを得たことで、仕事は「ゼロから自分で生み出すもの」から「AIが出した答えを検討し、練り上げるもの」へと変わっていきます。

これと同様、「学び」のかたちも、「自分でゼロから学ぶもの」から「ジェネレーティブAIが提案したデータや知識を活用しながら、課題や問いに答えていくもの」へと変わっていくでしょう。

この部分については、異論はあると思います。

「知識は、自分でゼロから学んでこそ身につく」という考え方もあるでしょうし、僕自身、賛成できる部分もあります。ジェネレーティブAIを用いて学ぶか、用いずに学ぶかは「是非」の問題ではなく、「選択」の問題なのではないでしょうか。学ぶジャンル、学ぶ目的に応じて、個々が選択していけばいいと思います。

■翻訳はChatGPTに任せればよい

長い間、英語環境で育った僕にとって、得意な言語は英語だといえます。そんな僕にとって、日本語で文書作成しなくてはいけないというときに、「漢字の予測変換」は欠かすことのできないツールですし、今はジェネレーティブAIにもかなり助けてもらっています。

特に日本に戻ってきてからは、仕事相手のほとんどが、日常生活で英語を使う機会が少ない日本語ネイティブの方たちです。

そのため、皆がメッセージアプリなどで日本語を使って盛んにやりとりしているなかで自分の意見をいわなくてはいけないとか、きちんとした日本語でメールを送らなくてはいけない、などといった局面がたくさんあります。

そこで僕がどうしているかというと、「これを英語に直して」というプロンプトとともに日本語ネイティブのテキストのやりとりをChatGPTに入力します。あるいは、「これを日本語に直して」というオーダーとともに、考えたことを英語でChatGPTに入力します。すると、たちどころに英訳、和訳されたテキストが生成されます。

見ての通り、僕自身は、いっさい「翻訳」という作業をしていません。

■自分の得意分野に集中するのがベスト

もし、「こうしたツールを使ってはいけない。まず基本的な漢字の知識を身につけるべし」となったら、途方もない時間を漢字の勉強に費やさなくてはいけません。しかし時間は有限ですから、「漢字を勉強する時間」と「仕事をしたり、考えたりする時間」がトレードオフになってしまいます。

ならば、苦手とする漢字はAIに助けてもらって、自分が得意なこと、たとえばテクノロジーに関連した研究、投資、教育などに集中できたほうがいい。それが自分にとって、もっといえば社会にとってもベストな選択といえるのではないか、と思います。

しかし、もし日本語ネイティブでない人が、日本の書に魅せられて「書家になりたい」と思い立ったら、たとえ膨大な時間がかかろうとも漢字を勉強しなくてはいけないでしょう。

パソコンで翻訳の作業をする人
写真=iStock.com/gesrey
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gesrey

もう1つ例を挙げます。日本の多くの学校では、授業で、計算機を使ってはいけないようですが、社会に出てから、複雑な計算を自分の手で筆算しなくてはいけない局面など、おそらく一般的には皆無です。

だったら、最初から計算はテクノロジーにやってもらったうえで、別のところを伸ばしたほうがいい。でも、もし数学者を目指すのなら、ホワイトボードが数式でいっぱいになるくらい、自分の手で筆算ができなくてはいけません。

その他、僕が最近習っている茶道の作法や、インストラクターを務めているスキューバダイビングなどは、自分の体で体得することに意味があるものです。しかし、世の中に存在する学びのすべてが自分で体得する必要があるわけではありません。

ならば、学びに関する様々な「作業」にツールを用いるのは非常に有効だと僕は思います。

■「苦手なこと」はAIに任せる、という選択肢

AIというツールを用いることで、プロフェッショナルのクリエイティビティがより発揮されやすくなるように、自分でやると時間がかかることや苦手な部分をツールに任せられたら、個々人の特技や才能、個性は、もっと自由に伸ばしていけるでしょう。

ツールを禁じることで、そこに無用な足かせをはめてしまうのはもったいないと考えます。

先ほども述べたように、時間がかかっても自分で体得すべきか、ツールを使う効率性を取るべきかは、個々の目的によって異なります。

したがって、「ジェネレーティブAIを使って、すべての学びを効率化すべし」というのも、「そんなものは使わず、すべてをゼロから学ぶべし」というのも極端な見方だと思います。

従来は自分でゼロから学ぶしかなかったところへ、「ジェネレーティブAIを使う」という選択肢が加わった。この点が重要で、特に社会人の学び直しには大変革をもたらすだろうというのが僕の見方なのです。自分の脳というメモリーも、学びに使える時間も有限ですから、何に脳と時間を使うのかは各々で決めればいいと思います。

ツールの使用を前提として、いろんな作業の体得に必要な脳と時間を、プロンプトエンジニアリングを学ぶことに費やしたほうが、将来的に、より自分の能力や才能が拡張される可能性もあります。

AIを活用するイメージ
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■ChatGPTへのアクセスを禁止したニューヨーク市教育局

一方、ニューヨーク市では2023年1月には、学校の端末からChatGPTにアクセスすることはできなくなりました。実質上の禁止措置です。

ChatGPTを使うか否かは、個人の選択であると同時に、学校教育のことを考えれば、社会の選択であるともいえます。

AIを使った学びを学校の授業に導入するのかどうか。AIがあれば漢字も計算も自分で手を動かす必要がないなかで、これからも従来と同じように漢字ドリルや計算ドリルを必須とするのか。

あまりにも個人の能力に共通項がなさすぎると、社会分断の元になるという見方もありますが、ニューロダイバーシティ(脳や神経の多様性による個性を尊重し、それらを社会のなかで活かすことが大切だという考え方)の観点からいえば、個人的には、何を体得し、何をAIに任せるのかは十人十色でいいと思います。

「平均的であること」や「まずは基礎的な型を覚えること」を重んじる日本社会では、難しい部分もあるかもしれませんが、このことについて、皆さんはどのように考えるでしょうか。

■検索エンジンやウィキペディアを使う価値

思えば、インターネットや検索エンジンが普及したころにも、これを勉強に用いることの是非が議論の的になっていました。

たとえば大学のレポート課題で、「ウィキペディア」を使って調べることを学生に許すかどうか。ウェブ上でどこかに掲載されている情報を、表現を変えずにそのまま流用するいわゆる「コピペ」は論外としても、ネット検索を建設的に学びに活かせる方法はあるのか。

検索エンジンやウィキペディアが提示している「答え」や「キーワード」を自分なりに精査し、考察をまとめるという学びのかたちは大いにありうると思います。

それと同様、「まずジェネレーティブAIに『答え』を出させることから始まる学び」もあっていいのではないでしょうか。

こちらの問いに対して、ジェネレーティブAIが、ある答えを示してきた。その答えは本当だろうかとキーワードを検索してみる、文献を調べて裏を取る、その答えを元に仮説を立てて検証する、あるいは、その答えを逆から考えてみる……などを試みた結果、「よくわからない」「引き続き調べたい」でもいいのです。

人とAIロボットの指先が触れるイメージ
写真=iStock.com/David Gyung
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/David Gyung

■「自分なりの答え」を探すためのパートナー

現代社会は(特に日本社会は、かもしれませんが)、何事も「正解ありき」に偏っていると思います。正解にいち早くたどり着くことだけに自分を最適化することばかりが重んじられ、それを他の人よりも上手にできる人こそが成功すると信じられているところがある。

伊藤穰一『AI DRIVEN AIで進化する人類の働き方』(SBクリエイティブ)
伊藤穰一『AI DRIVEN AIで進化する人類の働き方』(SBクリエイティブ)

しかし世の中の大半の問題には、実は「不変・不動の正解」がありません。

だとしたら、子どもであろうと大人であろうと、絶対不変の正解がないなかで「自分なりの答え」を探すために、さまようという経験も「生きる力」を育むうえでは必要でしょう。

この広大な社会の情報の森をさまよい、探検しながら、自分なりに考えていく。答えを見つけるためではなく、探索そのものを続けるためのパートナーとしても、「とりあえずの答え」を示すことで「学びのきっかけ」をつくってくれるジェネレーティブAIは、価値あるツールだと思います。

POINT
●各々が伸ばしたい領域を学ぶ時間を増やすため、苦手、あるいは不要と考える領域はAIの助けを借りて時間短縮・効率化するという考え方もある。これは、個人の選択であると同時に、社会(学校教育)の選択でもある。
●「絶対的な解」の存在しないなかで、「自分なりの答え」を探す力は、生きる力を身につけるうえで重要。ジェネレーティブAIはそうした独学の素晴らしい「相棒」になる。
●AIに答え(と思しき選択肢)を出させ、その内容を検証する、という主体的・能動的な学びは有効なアプローチの1つである。

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伊藤 穰一(いとう・じょういち)
デジタルガレージ取締役
デジタルガレージ取締役・共同創業者・チーフアーキテクト、千葉工業大学変革センター所長。デジタルアーキテクト、ベンチャーキャピタリスト、起業家、作家、学者として主に社会とテクノロジーの変革に取り組む。民主主義とガバナンス、気候変動、学問と科学のシステムの再設計などさまざまな課題解決に向けて活動中。2011年から2019年までは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの所長を務め、2015年のデジタル通貨イニシアチブ(DCI)の設立を主導。また、非営利団体クリエイティブコモンズの取締役会長兼最高経営責任者も務めた。ニューヨーク・タイムズ社、ソニー株式会社、Mozilla財団、OSI(The Open Source Initiative)、ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)、電子プライバシー情報センター(EPIC)などの取締役を歴任。2016年から2019年までは、金融庁参与を務める。

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(デジタルガレージ取締役 伊藤 穰一)

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