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「毎週100枚の書類が教育委員会から届く」藤原和博が見たベテラン教員を忙殺する"いらない書類仕事"の実態

プレジデントオンライン / 2023年6月21日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Artem Cherednik

教員の長時間労働が問題になっている。教育活動実践家の藤原和博さんは「教育委員会がリスクを取って、書類仕事ゼロを目指すしかない。書類仕事がなくなれば、全国で約10万人が教員本来の仕事に戻れる」という――。

※本稿は、藤原和博『学校がウソくさい』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■教育委員会が「書類仕事ゼロ」を目指すしかない

学校現場が書類仕事にまみれ、教員たちが事務処理に喘いでいることはもはや常識だ。

それゆえ、できる先生、熱心な先生ほど、児童生徒の学習や生活に寄り添えないことを苦にして行き詰まってしまう。精神的なバランスを崩したり、先生なのに不登校になってしまったり。おまけに保護者からの無体なクレームも増えるばかりだ。

2022年度に実施した公立校教員の勤務実態調査の速報値が4月に公表されたが、1カ月あたりの残業時間は、中学校で8割弱、小学校で6割強の教員が文科省の定める上限基準(45時間)に達していた。長時間労働が常態化しているのだ。

この状況を根本的に変えることなしに、どんな前向きな教育改革も意味をなさない。

教員志望の大学生が減っている現状は、この問題の解決が急務であることを教えてくれている。

では、どこから変えるべきだろうか?

まず、教育委員会がリスクを取って、「書類仕事ゼロ」を目指すことから始めるしかない。もちろん、ゼロを目指して半減すれば上出来だ。

■書類仕事がなければ約10万人が教員本来の仕事に戻れる

私が、民間校長になってまず驚いたのは、教育委員会から届く書類の膨大さだった。

2003年当時で、週に100枚近くはあったと思う。この話を最近ある現役校長にしたら、「それ、1日に届く数の間違いじゃあないですか?」と返され、絶句した。

しかも、学校現場のマネジメント側のICT化が遅れたせいで、現在はその移行期であるためか、紙の書類とネットでのデジタルファイルが二重に届く自治体もあるらしい。それが実態だ。

こんなものをまともに読んでいたら、それ自体が仕事になってしまう。実際、教頭はそうした文書業務で忙殺される。しかも、その文書のほとんどを作っているのは「指導主事」という名の教員だ。“教育委員会側の教員”なのだ。

実にもったいないと思う。この膨大な書類仕事をゼロにできれば、書類を作って出す方の指導主事と、学校現場で受ける方の教頭を合わせて、全国で約10万人が教員本来の仕事に戻れるのだから。

はっきり言おう。教員が足りないというのはウソだ。

文書仕事が多過ぎて、指導主事と教頭が“死んでる”からそうなってしまう。

■要らない書類の代表「アンケート」

まず、要らない書類は何か。

何よりも筆頭に挙げたいのは、「アンケート」だ。

例えば、いじめ自殺問題がマスコミで大きく報道されると、国会議員が国会で文科省に「どうなってるんだ!」と質問する。文科省はデータを持っていないから、アンケートを作って都道府県の教育委員会に降ろす。「学校では、日常的にいじめに目を光らせていますか?」「いじめの発見のためのアンケートを毎学期とっていますか?」「発見した場合、どのように対処していますか?」と多数の項目が並ぶ。

チェックリスト, 赤ペン, チェック マーク
写真=iStock.com/Roman Valiev
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Roman Valiev

都道府県でも都道府県議会議員が同じような質問をするから、都道府県教委も独自にアンケートを作って降ろしてくる。さらに、小中学校の場合は市区町村が設置者だから、市区町村議会議員が議会で質問すると、ここでも、もっと詳細なアンケートが作られる。

つまり、一つ課題が生じると、国と都道府県と市区町村が三重にアンケートを作って学校に降ろしてくるというわけだ。

■児童生徒を守り育てるのが教員の仕事

もちろん、いじめや自殺は大事件だから大騒ぎも当然だし、対処しないのは言語道断だ。

しかし、食育についてとか、尖閣諸島や北方領土の地理での扱いについてとか、「こころの教育」についてとか、リモート教育についてとか、マスクについてとか……アンケートが多岐にわたって際限がない場合は何とかするべきだろう。

究極的な結論から言えば、データがあれば、アンケートは要らない。

であれば、データを“持てばいい”。

学校現場のDX化を進めて日々のデータが常にアップデイトされるようにしておけば、究極は、学校現場のすべてが上位者である教育委員会や文科省にも共有され、いちいちアンケートなどをその都度とる必要はなくなるはずだ。

個人情報保護条例から懸念があるかもしれないが、そもそもこれは児童生徒の利益に関わることなのだ。本来ならば、児童生徒を守り育てるのが教員の仕事である。その教員の時間がデータ収集作業に邪魔されているのだから、アンケート業務は当然見直されるべきだと思う。

どうしても必要な「学校基本調査」を含めて、アンケートは1学期に1本くらいに絞ればいい。

■「税金の作文」を小中学生が書きたいだろうか

もう一つ、保護者は気づかないだろうが、現場を不必要に忙しくさせている「学校を通じた作品や児童生徒の募集」という悪弊がある。

例えば、国税庁からの依頼だと思うが、小中学生に「税金の作文」を書かせ、それなりの審査員を立てて、受賞者を表彰することが行なわれている。省庁からすれば一種のPR活動であり、国民に関心を持たせる広報行為だ。しかし、小中学生は本当に「税金の作文」を書きたいだろうか……私は疑問だ。税金を納めることは国民の義務だし、その教育を行なうことは否定はしない。しかしもっと知恵を絞れば、ゲームを使って広報するようなやり方もあるのに、とつくづく思う。

作文用紙
写真=iStock.com/kudou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kudou

ことほど左様に、児童生徒の募集や作品の募集が無数に学校を通じて行なわれるのだ。ポスターや募集要項が送られてくると、その都度、教頭が下駄箱の横の掲示板にポスターを画びょうでとめ、案内を各クラスの担任に配布する。

恐縮だが、私は校長として、学校を流通網として使う行為はほどほどにすべきと感じたので、ほとんどのポスターは貼らないで良いと教頭に命じた。もちろん、拉致問題のキャンペーンポスターなどは例外だ。

■役所に勤める人なら知っている「収受文書」という曲者

役所に勤める人なら誰もが知っている「収受文書」というものがある。

はっきり言うと、教育委員会の官僚がこの件については学校現場に降ろしましたよと証拠を残し、何か問題が起こったときに自分たちが責任を問われないようにするための通達文だ。

教育委員会の「免責文書」と私は呼んでいる。

いじめについてはもちろんだし、「給食にこういう材料は使ってないよね」とか「図書室のこういう本は書庫にしまっちゃってね」とか「夏のプール指導はやり過ぎないでね」などという指導がごまんとくる。これらが教頭、生活指導主任、教務主任などを通じて各担当の教員に降ろされるから、忙しくなるのだ。

逆に、免責のための収受文書を教育委員会がゼロにすれば、学校の事務は相当軽くなる。結果、指導主事と教頭の教員魂をも蘇らせることができるだろう。

実はこれは、現法律下でも可能だ。

■「この書類を半減させるのがあなたたちの仕事じゃないんですか」

杉並区立和田中学校の校長時代、池坊保子文部科学副大臣の配下に銭谷眞美初等中等教育局長(のちの文部科学事務次官)がおられた頃、池坊さんが主宰した審議会に、学校に届く書類を1週間分束にして持ち込んだことがある。

「こんなに書類を学校現場に押し付けておいて、教員にもっと児童生徒に寄り添った指導をなんてよく言えますね。いじめの対応を丁寧にせよと命じるなら、まず、この書類を半減させるのがあなたたちの仕事じゃないんですか」

と直談判したのだ。実際には、和田中の校長宛に届いた書類2週間分を2つの束にして、池坊さんと銭谷さんの2人に渡した。

PTA会長も経験されて、けっこう現場をご存じだった池坊さんが偉かったのは、事の重大さにすぐ気づき、銭谷氏に即時対処を要望したことだ。直後に文科省内に文書削減プロジェクトチームができた。ただしこれが残念ながら、功を奏するまでミッションを全うできなかったことは、今日の現場が再び文書だらけになっていることからも見てとれる。

■文書の大幅削減は教育長の判断でできる

一方、私は杉並区教育委員会にも、同じ要求をした。

藤原和博『学校がウソくさい』(朝日新書)
藤原和博『学校がウソくさい』(朝日新書)

当時の井出隆安教育長は素早く対処された。しばらく、飛び交う文書が減ったのは誰の目にも明らかだった。まあ、井出さんの退任後は元に戻っちゃっているのだろうが。

このエピソードの顛末は笑い話になる。実は、私が文科省に持ち込んだ100枚×2束(2週間分)の文書は、ほぼ収受文書と現場に降りてきたアンケートの束だった。しかも、コピーする時間がなかったので、原本を持っていったのだ。今もって、それらは返却されていない。

要は、それでも学校経営にとって、何の支障もなかったわけだ。つまり、ほとんど無意味な文書だったという証拠なのである。

強調したいのは、文書の大幅削減は、法改正することなく教育長の決断でできるということ。問題は、教育長がこのリスクを負うかどうかだけだ。

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藤原 和博(ふじはら・かずひろ)
「朝礼だけの学校」校長
1955年、東京都生まれ。教育改革実践家。78年東京大学経済学部卒業後、リクルート入社。96年同社フェローとなる。2003~08年杉並区和田中学校校長、16~18年奈良市立一条高等学校校長を務める。21年オンライン寺子屋「朝礼だけの学校」開校。主著に『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』『10年後、君に仕事はあるのか?』など。

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(「朝礼だけの学校」校長 藤原 和博)

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