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「こんなええもん、もろてもよろしの?」はどんな意味か…京都人がよく使う"イケズな疑問形"の見極め方

プレジデントオンライン / 2023年6月21日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

京都人は独特の言葉づかいをすることがある。脳科学者の中野信子さんは「京都には疑問形を使うことで、遠まわしに意図を伝える文化がある。すべての疑問形に裏の意味があるわけではないが、注意が必要だ」という――。(第1回)

※本稿は、中野信子『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(日経BP)の一部を再編集したものです。

■コロナ禍での「マスク足りてる?」はどういう意味か

レッスン1 「(遠まわしな)質問」で、相手自身に答えを出させる

京都人は、相手に何かを察してもらいたいときに、そのことを直接言うのではなく、疑問形にして、本当に伝えたいことを考えさせるように言うことがあるそうです。

たとえば、家の中でふすまやドアを開けっ放しにしていると、「誰か来るの?」と言われる、というのはもう定番の形だそうです。この場合「誰かこのあとから来はるの?」と聞かれたって、「あとから来はる人」なんかいるわけがない。それをどちらも承知しているわけです。真意は「開けっ放しはやめようね」という意味だということを、お互いに分かっている。

ほかには、「これは風水か何かですか?」というバリエーションもあるそうです。疑問文に込められたメッセージ、あなたは気づけますか?

新型コロナウイルスのパンデミックが起きた当初、Twitterで話題になったエピソードも好例です。「(コロナ禍に)京都に帰省していいか」という子どもからの問いに対する「東京大変らしいけど、そっちマスクとティッシュ足りてる?」という返信(※1)。これは一見、東京在住者を心配するふりを装いながら、「感染者が多い東京からこっちに帰ってくるな」とクギを刺している、「イケズ」なのだといいます。

慣れていないとなかなか分かりづらいかもしれませんね。会話の流れによっては普通の言い方です。

(※1)みやびん.[@miyabine].(2020年7月15日).[ツイート]地元の京都に来週帰っていい? ってLINEしたら「東京大変らしいけど、そっちマスクとティッシュ足りてる?」っていう意訳すると京都に来るなっていう返信が秒で来た。

■疑問形かどうかで意味は大きく変わってくる

たしかに、帰ってもいいかどうかに対する返答でなく、東京で一時的にマスクやティッシュが品薄になっているという報道が話題になっていて、その流れでそっちにはマスクとティッシュが足りているのかと聞かれているとしたら、単なる日常会話でしょう。

しかし、「京都人が言った」ということ、そして問いかけの言葉に「実家に帰りたいなぁ」という意思を見せているのにこう言われたということならば、ここは、なるほど、と察して納得しなければならないのが、京都式なのだそうです。この会話をよく見てみると、実家に帰っていいかを聞いているのに、東京はどう? と何となく噛み合わない問いかけが返ってきています。この違和感が重要で、それを感じたらもうこれは別の意図があると察しなければならないわけですね。

また、「差し上げます」と申し出たときに、「こんなええもん、もろてもよろしの?」と返されたなら、これも気をつけなければならないのだとか。本当は、あまりほしくない、もらってうれしくないものを差し出されている、という意味を含むかもしれないからです。質問で返してこられたら、とにかく、あれっと思わなければならない。

これが「こんないいものもらえませんよ~」とはっきりとした否定になるのであれば、逆に、あと二回は押して、相手がうんと言うまで、もらってくださいという意思を示し続ける必要がある可能性があります。

疑問形か、疑問形でないか。それが、重要なサインになっている場合が多いとのこと。分かりにくいかもしれませんね。でも、遠回しで少し考えないと真意がつかめない言い回しをあえて使うのが、戦略的あいまいさというものでしょう。

白い空白の画面のラップトップとノートを手にして立っている若いデザイナーチームのシルエット
写真=iStock.com/PrathanChorruangsak
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PrathanChorruangsak

■「実家に帰省して欲しい」と言われたらどう返すか

ほかにもこんな例があります。今度は、たまには実家に帰省してきてほしい、という要請があったとしましょう。そんなとき「何かこっちから送って欲しいものある?」と答える。これは、「私はそんなことを言われても帰りませんが」という意思表示として受け止められる返し方なのだそうです。とても精妙ですよね。慣れていなければスルーしてしまいそうです。

これに対して実家側は「仕事、そんなに忙しいの?」という返答をすることがあり得るとのことで、やわらかな言葉の選び方の中に、ちらりと見え隠れするほんのりとした悪意がとてもエレガントですね。直接ストレートな表現で応酬するのではなく、やんわりとした疑問で、その人が隠している真意を少しだけつつくという、コミュニケーション巧者同士でなくてはできない洗練されたやり取りが、こうした言葉の端々に感じられ、たいへん勉強になります。

また、仕事のクオリティーがもうひとつだな、という人に遭遇してしまったとき。「このお仕事、長いんですか?」と聞くのは、盛大なイケズになり得るようです。

■わざわざ疑問形で確認されたら要注意

何度も使われる例ではありますが、「お代わりいかがですか?」「お茶、お取り換えしましょうか?」。それまでは何も言わずに入れてくだすっていたのを、「いかがですか?」とわざわざ問いかけられ始めたとしたら、それは「ご飯を食べ終わったあともぺちゃくちゃ長いことしゃべっていないで、そろそろお帰りくださいな」という気持ちを感じ取ったほうがよろしいでしょう、とのこと。京都式に慣れていなくとも、安全な対策は、まずこれを言われたら、とにかくさっさと帰ることです。

グリーンティー
写真=iStock.com/kazoka30
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazoka30

さらに、まだお茶は飲みごろの温度のものが入っているのに、疑問文が発動されて、しかも取り換えられてしまったら、もうこれは要注意です。いい加減にせえよというニュアンスを感じ取らねばなりません。こうした「?」は、遠回しにイケズが盛り込まれていることが多いそうなので、覚えておいて損はなさそうです。

ただ、疑問形がポイントといっても、すべての疑問文がイケズになるわけではありません。「赤と白どっちにする?」とか「お砂糖いくつ入れます?」とか「明日の会合には出る?」とか、答えが即座にはっきり出る問いは、これには該当しないそうです。この、微妙なニュアンスの「?」を理解し、使いこなすのは、慣れていないとかなり難しいかもしれません。

それでも、これは京都人の遠回しなやさしさでもあるのだそうで、「?」の形にすることで、ストレートに「こうしてください」と言葉にするよりも、コミュニケーションがやわらかくなるのを分かってほしいとのこと。少なくとも相手を傷つけたいとは思っていないのだ、という意思表示と思ってもらえたら、と訴える本人方からの声があったことは、書き添えておきたいと思います。

あとは使い続ける中で、「?」の使い方の腕を上げていきましょう。

■「アホやから」はマイルドな断り文句

レッスン2 自分を下げる「枕詞」を入れて、断る

次にご紹介するのは、自分を少し下げる言葉をクッションにして、続けて本当に言いたいことを言う方法です。

枕詞的に自分を下げてはいるのですが、本心としてはどちらが上とか下とかいう気持ちはさらさらなく、単なる衝撃をやわらげるためのクッション的な表現として、自分を下げているそうです。

心にもなくとも、とりあえずクッションを入れることによってコミュニケーションを一見マイルドにして、相手が受け入れやすくするという効果を狙っているんだ、とおっしゃる方もいました。

たとえば、何かのお誘いを受けたときなどに、「アホやから、分からへん」と言う言い方があります。端的にいえば「お断りします」ということなのですが、「アホ」という、どことなくユーモラスな言葉を使うことによって、否定や断りをマイルドにすることができる。ごり押しの回避にも使えるマジックワードだと教えていただきました。

■「不勉強やから」と自分を下げてやんわり否定する

ただ、東京ではアホという単語自体をあまり使いませんし、関西とはニュアンスも違ってしまいますから、別の表現がいいかもしれませんね。

候補を考えてみますと、下町で使われるような「僕はおっちょこちょいで困ってるんですよ」というような言い回しは使えるかもしれません。

中野信子『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(日経BP)
中野信子『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(日経BP)

「わたし、バカだから」というのも人によって、シチュエーションによっては使えるかもしれませんが、アホという単語の持つ、そこはかとないおかしみと比べると響きが強く、やや使い方が難しくなるでしょう。

アホやから、のバリエーションとしては、こんな言い方もあるそうです。

「私ら不勉強やから、そんな難しいこと、よう分かりませんわ」

しょうもない上に、得にもならずおもしろくもない話をされたとき、この表現は使われることがあるそうです。

「うちはややこしこと分かりませんし、主人に聞かんとお返事できませんねん」

など、(一見)卑下しておいて、目上の人やその場にいない人を立てつつ、その人の意思であるかのようにして断る表現は、さっそく使えそうですね。なお、この言い回しのさらに上級編としては、レッスン1と組み合わせた、「枕詞+(遠回しな)質問」もあるそうです。

「こんな狭いとこに、わざわざ遠いとこからすんませんなぁ。何もおかまいできませんけど、お入りやす?」

これは、アポなしで何の連絡もなく急に来られても迷惑ですよ、歓迎しないけど、まさか家に入るんですか? という意味になるとのことです。

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中野 信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者
東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)、『脳の闇』(新潮新書)などがある。

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(脳科学者、医学博士、認知科学者 中野 信子)

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