1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

あまりにクズだから葬儀にも行かなかった…母親と妹に「死んでよかった」と言われる三男の借金まみれの人生

プレジデントオンライン / 2023年6月18日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BBuilder

「ふがいないきょうだい」とはどのように接すればいいのか。59歳の女性は、「長男はワル、次男はバカ、三男はクズ」という3人の兄に長年苦しめられてきた。このうち訃報を聞いた母親が「死んでよかった」と話すほどだった三男とはどんな人物をだったのか。ライターの吉田潮さんの『ふがいないきょうだいに困ってる』(光文社)より紹介する――。(後編/全2回)

※本稿では、プライバシー保護の観点から、すべての人物を仮名にしています。

■あまりに馬鹿でちょっと気の毒な次兄

さて、お次は次兄。秀さんの話をしているとき、美華さんの口から出た「馬鹿だから」という言葉は30回を超えた。

「秀は単純、成績がオール1の中学生だと思ってください。だけど会社で役職に就いちゃって、お金だけもらって博打三昧。あまりに馬鹿でちょっと気の毒に思うくらい」

物静かな秀さんは「学校に行きたくない、父の会社で働きたい」と言い、中学を卒業後すぐに父の会社に入った。真面目で酒も飲まないがヘビースモーカー。現場仕事も経験しているきょうだい唯一の職人肌と言ってもいい。

働いてはいたが、書類仕事ができず、管理職には向かない。パチンコと競馬のために消費者金融から借りる。給料のほとんどを返済に費やす、純粋なギャンブル依存症だという。

浮いた話はなく、現在も独身。

「父は『使えないけどしょうがない』とは言ってました。圧をかけてくる長兄、調子のいい三兄に挟まれて、いつも貧乏くじを引かされてるんですよね。可哀想だなと思ったことも何度かありますが、馬鹿だからしょうがない。びびりのくせにプライドだけは高いんですよ。自分が馬鹿だとわかってもいるから、銀行員とか大学を出たホワイトカラーの人としゃべるのが嫌なんです。馬鹿にされるのが嫌なんです。

だから、3人の中で一番私にマウントしてくる。要するに、自分は兄からも弟からも馬鹿にされてるから、妹にしか言えないんでしょう。でも私の言うことなんか絶対に聞かない。何かトラブルが起こると、すべて私のせいにするか、私に尻拭いさせる。そういうやつです」

秀さんは年齢のわりに社会常識がない。現場の職人として勤め上げていればよかったものの、謙さんにそそのかされたこともあって、うっかり関西支社の取締役に就任したところから歯車が狂った。

■「妹が金を勝手に使い込んだ」と吹聴

長兄に比べれば、扱いやすそうな気もするのだが、秀さんの常識のなさとプライドの高さが災いした事件が起きたという。

取締役どころか管理職に向かない母を社長に据え(実質は美華さんが八面六臂(ろっぴ)の暗躍)、長兄の借金も返し、会社を立て直す段階で、どうしても社員の給料を削減せざるを得ない状況になった。

「なんと秀は『妹が金を勝手に使い込んだ』と社員に話したらしいんです。支社の専務から電話があって、『なんか全部美華さんのせいにされていますよ』って。冗談じゃない。自宅を担保にされないために、会社を立て直す事業計画も出したし、私は自分のために会社のお金を使ったりしません」

女性と男性の激しいけんか
写真=iStock.com/junce
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/junce

秀さんは事業計画書も読めないが、給料は120万もらっていたという。

「秀と充の給料を減らせば、社員の給料をカットしなくても済むのに、ふたりとも借金まみれだから頑として受け入れないわけ。しかも会社に来ないという。それで給料1割カットなんて言われたら社員は不満をためこみますよね」

■兄の生殺与奪の権を妹が握る

秀さんはなぜ会社に来ていなかったのか。

「秀は馬鹿のくせに、権力だけは振りかざすんですよ。ベテランのスタッフにブチ切れて勝手にクビにしたもんだから逆に訴えられてしまって。労働組合も出てきて大ごとになったんです。秀が金目当ての弁護士を無料法律相談かなんかで見つけてきて、煽られて裁判やっちゃって。結局負けました。裁判費用や示談金やらで2000万ですよ! この不手際が恥ずかしいのか出社しなくなったみたいで」

結局、秀さんはぶんむくれて会社をやめると言い出した。定年まであと1年。秀さんが抱えていた借金1000万近くは美華さんと母が払い、退職金も小分けに出すことですんなり身を引いた。

「家の賃貸契約はおろか、携帯電話の機種変更、年金や保険の手続きもひとりでできないから、とにかく生活できるようにしてやりました。家賃や保険、税金などはすべて私が支払い、生活費を補塡(ほてん)してあげて、クレジットカードも渡してあります。だってこれ以上サラ金から借りられても困るから」

秀さんの生殺与奪の権は、今、完全に美華さんが握っている。

■お客さんから預かったお金を使い込む末弟

さて、トリをつとめるのは充さん。美華さんいわく、3人の中でも「最も犯罪者に近い男」。充さんは「車の免許を取る」と言って、母にお金を出してもらっていたが、その全額を競輪につぎ込んでいた。

母は何度もお金を渡していたが、免許は一向に取れないまま、お金が消えていったという。それは充さんが高校生のときの話だ。

「唯一、大学を出たのが充です。といっても、1浪して、コネで入学し、留年もしていましたから、ほめられたもんじゃない。父も充に興味がないというか。そもそも母が大学に多額の寄付金を払って、裏口入学させたことすら知らなかったと思います。そして、唯一父から勘当されたのも充です」

無免許運転で電柱をなぎ倒した長兄の上をいく蛮行とは……?

「なんとか大学を卒業して、生命保険会社に入ったのに、そこで充はお客さんから預かったお金を全部使い込んだんです。母が平身低頭お詫びして、全額弁償しました。『どうか訴えないでください』と。もちろん父には内緒ですよ。

その後、別の生命保険会社に入って、また同じことを繰り返したんです。横領を。会社をやめた後は、方々で借金三昧。父は激怒して『一歩でも家に入ってくるなー!』って。勘当されて当然ですよね」

札束を着服している男性
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■まさかの「犯人は身内」

家を追い出された充さんは、パチンコ屋に住み込みで働き始めたという。ギャンブルはオールラウンド。秀さんはパチンコと競馬のみだったが、充さんは加えて競艇、競輪、地方競馬までも手を出していた。

「充は謙と仲がいいんですよ。父に勘当されたときも、謙の家に頻繁に顔を出して、ごはん食べさせてもらったりしていたんです。でもね、謙の妻の弟さんが地方から遊びに来たとき、事件は起きたんです」

元来、調子のいい充さんは、知らない人が大勢いる中でも場を盛り上げて人気者になるような、まるで寅さんのようなタイプだという。弟さんとも意気投合して、一緒にパチンコに行ったりしていたのだが、弟さんが東京に滞在中にキャッシュカードを紛失。お金を使い込まれたため、警察に届け出た。

「警察から連絡があって、『引き出した犯人が捕まりました』と。弟さんが確認しに行ったら、充だったっていう……もう終わってるでしょ? でも謙が箝口令を敷いて、父には知らせなかったんです。弟さんには詫びて、お金は母に払わせたんですよ! 私は『警察に突き出せばよかったのに!』って言いましたけど」

その借りもあって、充さんは謙さんに対して下手に出るようになる。謙さんも自分の手下がほしかったようで、父が亡くなった後、充さんを会社に呼び寄せ、九州支社を任せた。

■いろいろな人を殺し、いろいろな人を結婚させる

ここまでくると、もう福永家の息子たちの行動が少しずつ予測できるようになる。お前の金は俺の金というジャイアンが家に3人もいたら、いくらお金があっても足りない。

東京では謙さんが、関西支社では秀さんが、そして九州支社では充さんが高給取りでありながら、方々で借金をして、経費を湯水のごとく使うようになっていた。

「充は、経費をせしめるために本当にいろいろな人を殺して、いろいろな人を結婚させてましたね。要するに、お葬式や結婚式に参列するといっては、お香典やご祝儀として会社のお金を使ってきたわけです。冠婚葬祭は嘘で、せしめた経費を競艇か競馬に突っ込んでいたんですよ」

当時、関西支社の社員たちが頑張って、新たな業態も展開し、売上を倍増までさせた。ところが、九州支社が足を引っ張る。九州支社の役員たちも充さんの経費使い込みを見て見ぬふりだった。

「もうホントにクズなんですが、充には経費の使い込み以外にも5000万の借金があったんですよ。何に使ったのかは知りませんが。さらには、自律神経失調症だと言い張って、わざわざ九州から東京の病院に通っていたんです。どうやらそこの女医さんに熱を上げていたばかりか、池袋の風俗店にも通っていたらしく。ちなみに充は既婚者です。連れ子がいる女性と結婚しましたからね」

あるときは大阪出張と言って出ていったはずが、なぜか京都の競馬場から会社に連絡が入った。聞けば、『落とし物で、福永充さんのお財布を預かっています』という。名刺が入っていたようで、わざわざ連絡をくれたのだとか。何とも間の抜けた話だ。

怒り心頭に発し、顔を覆っている女性
写真=iStock.com/RyanKing999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RyanKing999

■血圧は200オーバー、夜も寝られない

「長兄も勝手にクルーザーを不法係留したり、駐車場料金を踏み倒したり、と金に関してのエピソードは尽きません。それに比べれば、充が財布を落とした間抜けな話はまだかわいいもんです。でも、長兄とは縁が切れた一方で、充の問題はまだ残っていましたから、私もこの頃、本当に眠れなくなって。

常に頭の上にやかんをのせているかのように熱くなっていたんですよ。医者に『血圧が測定不能です、すぐ薬を飲んでください』と言われるくらい。私が40代前半の頃でしたね、常に血圧が軽く200超えだったのは」

借金に困って、「父が亡くなった後の相続でもらえる800万をもらっていない、妹が800万の外車を買って使い込んだ」と主張してきたこともあったとか。実は充さんの相続分は母が積立の保険にして、現金を渡さなかったという。

現金を渡したらすぐに使ってしまう充さんを心配しての親心だった。最終的に、使い込みと借金は、充さんの株の持ち分を取り上げることで、合意した。本来なら即刻退任だが、温情をかけてしばらくは傷病手当で暮らせるように整理したという。

家のローンの残金は美華さんが立て替え、退職金も分割で払うことに。株はすべて取り上げたが、実家の土地の名義には充さんも入っている。もし闇金にでも手を出して、実家を担保にされては困る。

「充は平気で闇金に手を出すから。クズは躊躇なくそれをやるんですよ。でもね、最後に300万貸したときに言ってやったんです。『返さなかったら、あんたの借金、ヤクザに債権売ってくるからな! 800万でいつでも買ってくれるヤクザがいるって。私も500万儲かるし。躊躇しねーぞ!』って。本当にそういう人がいて、『九州まで取り立てに行ってくれる?』って聞いたら『最後の最後にな』って。充もさすがにビビってましたよ」

■きょうだい仲よしなんて嘘臭い

実は、充さんは数年前にがんを患った。もともと九州支社の人間から、充さんが長くないことを聞いていた美華さん。最期、もう呂律が回らなくなっていたときに「妹に感謝してる」と言っていたことも聞いた。一応、余命僅かであることは秀さんにも伝えたが、「知らねえ」の一言で終わり。

「交通費を出すから、面会に行ったほうがいいと言ったんですが、秀は行かなかった。ところが、亡くなった後で『なんで充が死んだことを伝えなかったんだ!』と激怒していて。もうよくわかりません」

充さんの妻から連絡がきたが、美華さんも葬儀には行かないと伝えた。

「これでもう私に借金をすることはないのよね、と確認しました。母は一応、赤ちゃんの頃から育てた息子だからか、『私も葬儀に行ったほうがいいかしら?』とか言ってましたけど、充の死については、『よかったわね、これでもうお金借りてくることはないじゃん。成仏してくれればいいね』って明るく言ってましたね。決して悲しいとかではない」

美華さんにはやっと平穏が訪れるはずだったが、もうひと波乱あったそう。

「充は生前の借金を『俺が死んだらこのマンションを美華にやるから、それで返してくれ。お前しか身内はいないから』とか言っていたんです。ローンの残債もすべて私が払いましたからね。

ところが、充の娘(嫁の連れ子)がいつの間にか養子になっていたため、マンションはそっちに渡ってしまった。嫁も『充さんが勝手にやったことですから』って。充の負債を私が処理したことも嫁は知っているのに、私に返済するどころか感謝の一言もない。頭にくるけど、もう仕方ない。忘れました」

■冷蔵庫の飲み物が冷たいだけで幸せ

そして昨年から母は施設に入った。軽度の認知症もあって、夜中に冷蔵庫を開けっぱなしにしたり、美華さんの姿を探して、真夏の日中に家の前でずっと立ち尽くして熱中症になったこともある。住まいが変わることに抵抗があると思いきや……。

「若いイケメンの介護福祉士が優しくかまってくれるので、母もご機嫌ですよ。私が家で優しくしないからね。オンラインで対話したんだけど、もうニッコニコしてて」

美華さんの血圧は下がり、夜はぐっすり眠れるようになったという。母が開けっぱなしにした冷蔵庫にウンザリすることももうない。冷蔵庫の中の飲み物が当たり前に冷たいことに美華さんは大きな喜びを感じているそうだ。

■敵は他の誰でもない、家族だった

父が築いた会社。父が建てた家。父の努力と苦労の結晶を必死で守ろうと頑張ってきた美華さん。本来なら、家族が力を合わせて守るのが定石だが、敵は他の誰でもない、家族だった。

無責任にお金を貪り、嘘をついては資産を食いつぶす兄たち。

吉田潮『ふがいないきょうだいに困ってる』(光文社)
吉田潮『ふがいないきょうだいに困ってる』(光文社)

「私、家族仲よし、きょうだい仲よし、とか言ってる人が、まあまあ嘘臭く感じるんですよね。だいたい私の周りでもそんなこと言ってる人は、利害が絡んだり、事件が起きたりという経験をしていないからですよ。きょうだいにクズがいたら、そんなのんきじゃいられませんからね。

私は兄たちがこんな状態でしたから、20代の頃に結婚をあきらめました。婚姻関係を結んだら最後、相手のおうちにも絶対に迷惑をかけることが目に見えてましたから。だって、平気で家や土地を抵当に入れたり、消費者金融で借りまくるんですよ。結婚相手に借りを作るのも嫌だし、兄の尻拭いに巻き込みたくなかったから」

美華さんが費やしてきた膨大な時間と莫大な出費、そして封印してきた思いを目の当たりにすると、3人の兄たちの罪はとてつもなく重く感じる。

----------

吉田 潮(よしだ・うしお)
ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

----------

(ライター 吉田 潮)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください