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死亡率を26%も高めてしまう…ハーバードの研究でわかった「孤独が人間を死に至らしめる」本当の理由

プレジデントオンライン / 2023年6月20日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Edwin Tan

健康で長生きするためには何が必要なのか。ハーバード大学医学大学院精神医学教授のロバート・ウォールディンガー氏とブリンマー大学心理学教授のマーク・シュルツ氏は「慢性的な孤独感は、1年あたりの死亡率を26%高める。幸福に暮らすためには人間関係の洗い直しが重要だ」という――。

※本稿は、ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(&books/辰巳出版)の一部を再編集したものです。

■慢性的な孤独感は1年あたりの死亡率を26%高める

孤独で寂しいときは、痛みを感じるものだ。単なる比喩ではない。孤独は身体的に物理的な影響を与える。孤独感があると痛みに敏感になり、免疫系の働きが抑制され、脳機能が低下し、睡眠の質が悪くなり、すでに孤独にさいなまれていることによる疲労感や苛立ちがさらに増す。最近の研究によれば、高齢者にとって孤独感は肥満の2倍健康に悪く、慢性的な孤独感は1年あたりの死亡率を26%も高める。

英国の「環境リスクに関する縦断的双生児研究」は最近、成人期初期における孤独感と、体調不良やセルフケアの関連を報告した。今も継続中のこの研究の被験者は、1994年と1995年にイングランドとウェールズで生まれた2200人超だ。彼らが18歳のとき、どのくらい孤独だと感じているかを尋ねた。

孤独感が強い被験者ほど、メンタルヘルスの問題を抱えたり、健康リスクの高い行動をしたり、ストレスに対して良くない対処法をとったりする傾向が見られた。加えて、現代社会には孤独がはびこっており、問題はさらに深刻化している。

■孤独がもたらす経済的損失は推定34億ドルを超える

近年の統計データも、注目すべき事実を示している。

世界各地の5万5000人を対象にしたオンライン調査によれば、全年齢層の3人に1人が頻繁に孤独を感じている。最も孤独を感じているのは16~24歳で、40%が「頻繁、または非常に頻繁」に孤独を感じている。孤独を感じている人は生産性が低く、離職しやすいため、英国では孤独がもたらす経済的損失が年間25億ポンド(約34億ドル)以上になっていると推定され、これが孤独担当大臣の設置につながった。

日本では、2019年の調査において、成人の32%が「来年はほとんどの時期を孤独に過ごす1年になる」と予想していた。

米国の2018年の研究によれば、成人の4人に3人が中程度から高程度の孤独感を抱いている。新型コロナウイルスのパンデミックは人々の間に大規模な分断をもたらし、多くの人がかつてないほど強い孤独を味わったが、その長期的な影響については本稿の執筆時点でも研究中の段階だ。2020年には、社会的孤立が原因と見られる死者の数が16万2000人と推定されている。

■人類に埋め込まれた「孤立=危険」と感じる仕組み

孤独感の蔓延を食い止めるのは難しい。孤独感が生まれる要因は、人によって異なるからだ。また、孤独感は主観的な体験なので、一人暮らしかどうかといった単純な指標では測れない。配偶者やパートナーがいて、友人もたくさんいるのに孤独を感じている人もいれば、一人暮らしをしていて親しい人が数人しかいなくても、深いつながりを感じている人もいる。

客観的な事実を並べても、孤独感の理由は説明できない。人種や階級、性別に関係なく、孤独感は人間関係の理想と現実のギャップの間に存在する。しかし、孤独感が主観的な体験ならば、身体にとってそれほど有害なのはなぜだろうか?

ヒントは、人類の生物学的ルーツにある。人類は集団行動を前提として進化してきた。社会的行動を促す生物学的プロセスは、人を守るためのものであって、害を与えるものではない。孤立していると感じると、身体と脳は孤立状況を生き残るためのしくみを発動させる。

5万年前、単独行動は危険だった。川のほとりの部族の集落を1人で離れると、ホモ・サピエンスの身体と脳は一時的にサバイバルモードになる。1人きりで危険を察知しなければならないため、ストレスホルモンの分泌量が増え、警戒心が高まる。家族や部族と離れて1人で眠るときは、睡眠が浅くなる。肉食動物が近づいてきたら、気配にすばやく気づいて飛び起きなければならないから、夜も覚醒している時間が多かったはずだ。

■帰属感を求める原初の欲求をどう満たすか

例えば、ホモ・サピエンスが何らかの理由で1カ月間1人きりで過ごすことになった場合、体内では前述のプロセスが継続的に作用し、それが絶え間ない不安へと変わり、心身にダメージを与え始める。現代人が言うところのストレスでヘトヘトの状態になる。このとき、このホモ・サピエンスは孤独感を抱いていたはずだ。

今日でも、孤独感は同じように作用する。孤独感とは身体の中で鳴り響く警報のようなものだ。初めのうちは、警報が役に立つ面もある。問題を知らせてくれるしくみは必要だ。だが、来る日も来る日も火災報知機が1日中鳴り続ける家で暮らすことを想像すれば、慢性的な孤独が密かにどんな影響を与えているかがわかるはずだ。

孤独感は、心身バランスに影響を与える人間関係のあり方の1つにすぎない。人間関係という氷山の一角であり、水面下にははるかに多くのピースが存在している。今では、健康と社会的つながりの関係を明らかにする研究が盛んに行われている。

健康と社会的つながりの関係は、物事がもっと単純だった時代、ヒトという生物種の起源までさかのぼる。人が求める基本的な人間関係は複雑ではない。人は、愛、つながり、それから帰属感を必要とする。だが、現代人は複雑な社会の中で生きており、だからこそ、この基本的欲求をどう満たすかが課題になる。

■一緒にいると元気になれる人と会った頻度を計算してみる

少し時間をとり、大切に思っているのに十分に会えていない人との関係を思い返してみよう。相手は、恋人や配偶者でなくてもかまわない。一緒にいると元気になれる人、もっと頻繁に会いたいと思っている人なら誰でもいい。候補になりそうな人たちをひととおり思い出し、1人だけを選び、その人物を心に思い浮かべてみる。

次に、その人と最後に過ごしたときのことを思い出し、そのときに感じた気持ちを心の中でできる限り再現してみよう。とことん楽観的な気分がしただろうか? 理解されていると思えただろうか? 笑いが絶えず、自分や世の中の問題がいつもより軽く感じられたりしただろうか?

では次に、その人と会う頻度を考えよう。毎日? 月に1回? 年に1回? 1年間に一緒に過ごす時間を計算し、その数字を書き留めよう。

■年1回しか会わない相手と、残りの人生で過ごす時間はどのくらいか

筆者の2人(ボブとマーク)の場合、毎週電話かビデオ通話で話をしているが、直接会うのは年に合計で2日(48時間)程度だ。

今後数年間の見通しはどうだろうか。現在、ボブは71歳、マークは60歳になる。(かなり)甘めに見積もって、ボブの100歳の誕生日を一緒に祝えるまで2人とも長生きするとしよう。これから29年間、年に2日ということは、私たちが生きている間に一緒に過ごせるのは残り58日間ということになる。

1万585日のうち、たった58日だ。

もちろん、これは2人とも長生きする幸運に恵まれるという前提での計算であり、実際の数字はこれよりも少なくなるだろう。

あなたの大切な人についても、この計算をしてみてほしい。おおまかな概算でもかまわない。あなたが40歳で、その相手とコーヒーを飲みながら週に1回、1時間会っているとすると、80歳になるまでに一緒にいられるのは87日間だ。月に1回なら約20日、年に1回なら約2日になる。

■活かしきれていない関係が人生の中に潜んでいる

十分だと思える数字かもしれない。だが、米国人は2018年にテレビ、ラジオ、スマートフォンなどのメディアに1日11時間も費やしていたという驚きの事実と比べてみてほしい。40歳から80歳までの間に、起きている時間の18年分を使っていることになる。18歳から80歳までの間なら、28年分になる。

このシミュレーションの目的は、あなたを驚かせることではない。好きな人や愛する人と実際に過ごしている時間の長さは、見過ごされることが多いという事実を明確に示すのが目的だ。

いくら仲がいい友人でも、四六時中一緒にいる必要はない。実際には、たまにしか会わないからこそ、会うと元気になれるのかもしれない。それに、何ごとにもバランスが肝心だ。たまに会うのがちょうどいい相手というのもいて、その場合はたまに会えば十分なのだ。

しかし、たいていの場合、会えば元気になれるのに、十分に会えていない友人や親戚がいるものだ。あなたは、いちばん大切な人とともに十分な時間を過ごしているだろうか? もっと一緒に過ごせたら、お互いにとってプラスになるような人はいるだろうか?

夕暮れの眺めを楽しむ良い友達
写真=iStock.com/Finn Hafemann
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Finn Hafemann

活かしきれていない関係が私たちの人生の中にすでに存在していて、じっとあなたを待っている。最も大切にすべき人との関係にほんの少し気を配るだけで、気分や生き方に大きな変化が起きる可能性がある。スマートフォンやテレビのほうが魅惑的に見えたり、仕事に追われて手が回らなかったりするせいで、うっかり宝の持ち腐れになっている人間関係があるかもしれない。

■身体が痛い日でも幸福に過ごしている老夫婦の条件

2008年、筆者たちの研究チームは被験者のうちの80代の夫婦に8夜連続で電話をかけた。夫と妻に個別の対面調査を行い、日常生活に関するさまざまな質問をした。調査の目的は、その日の体調や、活動内容、心の支えが必要だと感じたり、そうした支えを得たりする機会があったかどうか、配偶者や他の人々と過ごす時間の長さを知ることだった。

ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(&books/辰巳出版)
ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(&books/辰巳出版)

他者と過ごす時間という単純な尺度が非常に重要であることがわかった。というのも、この尺度は日々の幸福とはっきり結びついていたからだ。誰かと一緒に過ごす時間が多かった日のほうが幸福度も高かった。とくに、パートナーと過ごす時間が長いほど、幸福度が高かった。これはすべての夫婦にも当てはまっていたが、とりわけ仲睦まじい夫婦に顕著だった。

高齢者はたいていそうだが、被験者の男女も身体の痛みや健康問題に日々悩まされていた。当然ながら、身体の痛みが強い日は気分も落ち込んでいた。だが、仲睦まじい夫婦は、気分の浮き沈みがいくぶん緩やかだった。身体の痛みが強い日でも、幸福度があまり下がっていなかったのだ。幸福な結婚生活のおかげで、痛みの強い日も彼らの心は守られていた。

直感でも理解できることかもしれないが、この研究結果から、非常に強力でシンプルなメッセージが見いだせる。他者との交流の頻度と質こそ、幸福の二大予測因子である。

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ロバート・ウォールディンガー ハーバード大学医学大学院・精神医学教授
マサチューセッツ総合病院を拠点とするハーバード成人発達研究の現責任者であり、ライフスパン研究財団の共同創立者でもある。ハーバード大学で学士号取得後、ハーバード大学医学大学院で医学博士号を取得。臨床精神科医・精神分析医としても活動しつつ、ハーバード大学精神医学科心理療法プログラムの責任者を務める。

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マーク・シュルツ ブリンマー大学心理学教授
ハーバード成人発達研究の副責任者。ブリンマー大学のデータサイエンスプログラムの責任者であり、以前は心理学科の学科長を務め、臨床発達心理学博士課程の責任者でもあった。アマースト大学で学士号取得後、カリフォルニア大学バークレー校で臨床心理学の博士号を取得。ハーバード大学医学大学院で博士研究員として健康心理学および臨床心理学の研鑽を積んだ後、現在は臨床心理士としても活動している。

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(ハーバード大学医学大学院・精神医学教授 ロバート・ウォールディンガー、ブリンマー大学心理学教授 マーク・シュルツ)

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