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「どうか神木に受難を!」の願いが届いた…NHK朝ドラ「らんまん」の視聴率が右肩上がりになっているワケ

プレジデントオンライン / 2023年6月19日 7時15分

2020年2月6日、第44回エランドール賞の新人賞を受賞し、授賞式に出席した俳優の神木隆之介さん(東京都新宿区の京王プラザ) - 写真=時事通信フォト

NHKの朝ドラ「らんまん」の視聴率が5月上旬から上向きつつある。ライターの吉田潮さんは「苦労知らずの主人公が上京し、苦難の道を歩み始めた時期と一致する。視聴者は、順風満帆な物語よりも主人公が艱難辛苦に遭う姿を求めているのだろう」という――。

■ようやく「らんまん」が面白くなってきた

草花に囲まれ、空を飛ぶ神木隆之介に「メルヘンかーい!」とツッコみながら、どこかで「朝ドラらしさ」を求めていた皆さん、お待たせ。ようやっとエンジンかかってきた気がする「らんまん」。

頭脳明晰(めいせき)だが虚弱体質かつ天真爛漫な酒蔵のボンボンがそこそこたくましくなってきたところで、今後期待するヤマ場も懸念材料も含めて、まとめておこう。

■私が奥歯をぐっと噛み締めたシーン

正直、高知・佐川の子供時代は、祖母・タキ役の松坂慶子劇場というか、姉・綾役の佐久間由衣物語という印象。

タキは夫も息子も亡くし、幼い子ふたりと体の弱い嫁を抱え、杜氏(とうじ)や蔵人(くろうど)ら職人たちを仕切る酒蔵「峰屋」の当主。跡継ぎの万太郎(神木)を厳しく育てようにも、体が弱いわ、賢すぎるわ、予測不能の行動パターンに植物オタク道まっしぐらだわで、悩みのタネに。厳しさだけでなく、優しさと貫禄も見せた松坂はある意味、高知編の「主」だった。

そして、ヒロインは姉の綾だった気もする。誰よりも酒造りに興味と情熱を抱いているものの、跡継ぎは当然のごとく弟と決められている。「女は汚れている」という理由で蔵の中は女人禁制など、完全に男社会の酒蔵で忸怩(じくじ)たる思いを抱く綾。

初恋は筋骨隆々の蔵人(笠松将)だったが、密かに失恋。「女にも政治参加・選択の自由を」と謳う自由民権運動に惹かれたりもしてね。

しかも弟と血が繋がっていないから「結婚しろ」と祖母にムチャブリされて。ふがいない弟よりも、不憫な姉の理不尽な状態に女性視聴者が奥歯をぐっと噛みしめたのが、高知編だった。

■視聴率が上向きになった要因

とにかく万太郎はふわっとしとんのよ。気が付けば、地べたに這いつくばって植物と会話。東京の博覧会に参加して豪遊した際には、和菓子屋の娘・寿恵子(浜辺美波)に一目ぼれ&初恋までしちゃって!

ひと悶着あって東京へ行くまでは、まあ、苦労知らずの「甘えんボン」なわけよ。ところが、人生そううまくはいかない。ってところで、神の子・神木の艱難(かんなん)辛苦が始まったので、私は本腰を入れ始めた。

どうやら視聴率も第6週のドクダミあたりから上がったようで。みんな主人公の苦労と苦悩が観たいんだよね。

【図表】これまでの視聴率
出典=ビデオリサーチ調べ、関東地区、世帯視聴率

■朝ドラが盛り上がる王道の要素とは

昨今の朝ドラには定期的に「ヒロインが上京して、都合よく善人に囲まれて根を張る」スタイルがある。

「なつぞら」の広瀬すずは陽気でおしゃれなおでん屋女将(山口智子)にすっかり気に入られて世話になるし、「ちむどんどん」の黒島結菜は路頭に迷ったものの沖縄県人会長(片岡鶴太郎)に拾われたし。

絵がうまいとか料理がうまいとか、秀でた才能があるにしても、あまりに幸運と善人に恵まれていると、鼻白んでしまう。上京はしていなくても、生活困難や性差別、嫉妬や嫌がらせなど、艱難辛苦をがっつり背負わされて歯を食いしばった作品には敵わない。

例えば、「カーネーション」の尾野真千子(そもそも父親との確執&下働きやムチャブリ大量受注、親しい人からの嫉妬)、「スカーレット」の戸田恵梨香(内定取り消し&女中奉公、社食の下働きから陶芸の道へ)、「おちょやん」の杉咲花(そもそも口減らしで売り飛ばされる&クズ父にたかられる)、「カムカムエヴリバディ」の上白石萌音(戦争で夫や母を失い、極貧&おはぎ手売り、おまけにふがいない兄が資金持ち逃げ)。

やっぱり朝ドラには「生活基盤の崩壊」や「ふがいない家族」「裏切りや嫉妬」「感情の乱高下」が欲しいと思ってしまうのよね……。

■「らんまん」も昨今の朝ドラと同じかと思ったが

万太郎も昨今のスタイル、ご多分に漏れず幸運なほうである。偏執的な植物学の知識と賢さと紹介状だけで東京大学の植物学研究室に乗り込むっつう無理筋なわけで、万太郎はいわば「人脈わらしべ長者」。

博物館の野田(田辺誠一)から植物学の権威・田邊教授(要潤)に繋がっているし、自由民権運動の活動家(宮野真守)に救われて、偉人・ジョン万次郎(宇崎竜童)に会ったことも功を奏している。あ、そういえば坂本龍馬(ディーン・フジオカ)とも会っているわけで。

夢に向かって突進する万太郎、順風満帆と思いきや、である。

■苦難の道が開けて、ちょっとホッとした

東京編で始まったのは、まず家がないこと。植物標本も常人から見ればただのゴミ。幼馴染(中村蒼)の口利きがあったものの、軒並み入居を断られ、おまけに大切な植物標本を盗まれる。盗んだのは貧乏長屋の住人で元彰義隊の倉木(大東駿介)。ま、それがご縁で長屋に入居できたので、災い転じて福となしたわけだが。

そして、東京大学植物学教室では、植物学の基礎があるだけでなく英語も理解できる万太郎は田邊教授のお気に入りに。雑用係として教室に入ることを許されるものの、そりゃあ教室の皆さんは面白くないわけよ。すべてを捨てて死に物狂いで勉強してきたのだから、突如現れた調子のいい天才・万太郎を快く思うはずもなく、ヨソモノ扱いするのも至極当然。

本当は日本文学が大好きな助教授(田中哲司)や講師(今野浩喜)はわかりやすく権威主義。初見では悪役に見えたが、のちに万太郎を助けるかもしれないと思うとワクワクする。

上級生(渋谷謙人)は調子のいい万太郎のパターンを見抜いているし、元教員の画工(亀田佳明)も、権威に逆らわないと諦めモード。気の弱そうな2年生2人組(前原滉&前原瑞樹のW前原)は次第に打ちとけて味方になってくれたものの、万太郎の野望(植物図鑑の礎となる学会誌の創刊)は前途多難。今は石版印刷の工場へ通い、学会誌のために植物絵の印刷技術を習得しようと奮闘中。

万太郎はヨソモノ扱いされることに落ち込むだけでなく、日本における植物分類学の基礎作りが遅々として進まないことに不安を覚えている。田邊教授は国の西洋文化普及にいっちょかみしていて(四字熟語が嫌いでいけ好かない西洋かぶれを要潤が好演)、植物分類学の構築は二の次という姿勢が透けて見えてきたからだ。田邊教授、ヤバイよ。万太郎を利用しているだけかもよ!

そう、ようやく「壁」が見えてきたのである。寝食削って汗水たらしても、目標に近づけない焦りと不安。万太郎の苦難の道が開けて、ちょっとホッとした。トントン拍子よりも、コツコツと積み上げるも花開かない悔しさが観たいんだよね。

■神木は七転八倒がよく似合う

思えば、神木は宮藤官九郎作品における「なんだかうまくいかない男子」役が抜群だった。

「11人もいる!」(テレ朝・2011年)では貧乏大家族で空回りする長男役、映画「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」(2016年)では事故で落命、地獄に落ちた男子高校生が輪廻(りんね)転生に挑むという役どころ。インコやザリガニにしか転生できないもどかしさとおかしさったら。

七転八倒が似合うので、「どうか神木に受難を!」と思っちゃう。それが東京編で徐々に叶ってきたわけだ。

■これから私が楽しみにしているシーン

万太郎には二つの希望がある。正確には、ふたりの愛する人がいる。

まずは、運命の女性で後に妻となる寿恵子である。浜辺美波が「明治のオタク女子(滝沢馬琴マニア)」として好演。しかも、ことあるごとに「女の選択肢」が突き付けられる、第2のヒロインでもある。

母親(牧瀬里穂)は元芸者で、妾だった設定。日の当たらない道を潔く選んだ母親に愛されて幸せに育ったが、うっかり自分も富裕層の実業家・高遠(伊礼彼方)にみそめられ、妾オファー(その前に戸籍ロンダリングで金持ちと養子縁組を打診)されてしまう。学会誌の創刊に必死な万太郎とはすれ違っていく。でもこれは序の口ね。相思相愛だから。たぶん結婚してからの困難や絶望のほうが期待できそうだ(困窮に苦しむのは寿恵子のほうかもしれないけれど)。

「らんまん」の主人公・牧野富太郎の晩年の姿
「らんまん」の主人公・牧野富太郎の晩年の姿(写真=牧野植物学全集 第1巻より/PD-Japan-oldphoto/Wikimedia Commons)

もうひとり、万太郎が愛してやまないのが竹雄(志尊淳)だ。酒蔵峰屋の番頭の息子で、問題の多い万太郎を幼い頃から「若」と呼んでお供してきた竹馬の友でもある。竹雄も万太郎が好きすぎて、そらもう大変。

生活能力と常識のない万太郎のために、手となり足となる竹雄。給仕として働き、万太郎の寝食すべてを心配し、面倒をみる。姉の綾を慕う恋心を抑え、心身ともに万太郎に捧げている。過去に2度ほど、万太郎との関係を絶つ宣言をしているのだが、結果、離れない・離れたくない・離れられない。ソウルメイトと呼ぶべきか、パートナーと呼ぶべきか。

竹雄が万太郎に絶望を与えたり、裏切るとは今のところ到底考えられないが、どんな形であれ、いずれ別れはやってくるわけで。体の一部をちぎられるような悲しみかもしれないと思うと、心の準備をしておかねば。

作品のモデル・牧野富太郎の人生はかなり長い。神木が何歳までを演じるのかわからないが、それなりの衝撃や慟哭、苦悩や絶望など、万太郎の心模様に見せ場が欲しいかな。神木隆之介だからこそ託せる心情描写のヤマ場を、ぜひよろしく。

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吉田 潮(よしだ・うしお)
ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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(ライター 吉田 潮)

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