だからファミリー層からの圧倒的支持がある…業界トップになった「焼肉きんぐ」にあって「牛角」にないもの
プレジデントオンライン / 2023年7月24日 11時15分
■なぜ焼肉きんぐは快進撃を続けているのか
「お席で注文 食べ放題」「小学生半額 幼児無料」を看板に掲げた、「焼肉きんぐ」(運営会社:物語コーポレーション、本社は愛知県豊橋市)が快進撃を続けている。全国各地に展開し、国内店舗数は305店(2023年6月30日時点)となった。
1号店は石川県野々市市(ののいちし)(「焼肉きんぐ 御経塚店」)で、2007年3月のオープンだった。それ以来、16年かけて300店に到達した。焼肉チェーンで最も多いのは「牛角」(運営会社:レインズインターナショナル)の561店(2023年6月1日時点)だが、近年は「焼肉きんぐ」が猛追。1店舗あたりの売上高も、チェーンとしての売上高も大きく上回る。
なぜ、消費者が支持するのか。焼肉事業の責任者に取材しながら考えた。
■4人家族で1万円程度で食べられる
店の看板に「食べ放題」を掲げるように、3つのコース(制限時間100分)が用意されている。最も注文が多いのは「きんぐコース」で、ひとり3498円。3月29日から220円値上げしたが、お客は離れない。各コースを注文すれば多くの料理が金額内で楽しめ、「小学生半額、幼児無料」も家族連れにはありがたい。別料金で飲み放題もある(図表2)。
「7月19日より、四大名物を“五大名物”にリニューアルしました。東日本と西日本で一部内容を変えていますが、価格改定に伴う価値をより感じていただきたいと思います」
焼肉事業を統括する山口学さん(物語コーポレーション 執行役員 焼肉事業部 事業部長)はこう説明する。同事業部歴12年の山口さんは、事業の拡大を陣頭指揮してきた。
■お客に支持される2つの理由
利用客に支持されてきた理由を、山口さんはこう話す。
「まずは手頃な価格です。ご注文内容にもよりますが『1家族1万円』を想定した価格設定にしています。肉の品質にもこだわり、今回、きんぐコースに国産牛を導入しました」
ちなみに家族4人(大人2人、小学生2人)で、全員が図表2の(2)「きんぐコース」(3498円×2+1749円×2)を注文すると「1万494円」になる。
ドリンク代は別で、大人が「ソフトドリンク+アルコール飲み放題」(1529円×2)、小学生が「ソフトドリンク飲み放題(半額)」(214.5円×2)を頼むと「合計1万3981円」だ。
大食漢で酒好きの大人でも、支払時に〈いくらかかったか?〉ドキドキしなくてすむのだ。この安心価格も支持されている。
さらに、お客の支持が高いのは、「テーブルオーダーバイキング」だ。
「全商品を席まで運んでいます。食事、飲み物、網交換などをタッチパネルで頼めば、座席でお待ちいただけます」(山口さん)
看板にある「お席で注文」がこれにあたる。食べ放題店の多くは、自分で飲食を取りに行く。家族連れの場合、多くは母親の役目になりがちで、特に小さな子どもと一緒だと落ち着かない。焼肉きんぐにはドリンクバーもなく、タッチパネルで頼めば持ってきてくれる。
■ロボットと従業員の役割分担
全国各地に展開するが、利用客の注文内容に、地域的な特徴はあるのだろうか。
「カルビ、ハラミ、ロースを好まれるのは全国共通で、五大名物でもこだわっています。それ以外は総じていえば、関西はハラミ好きで、九州は豚肉や鶏肉文化なのを感じます」
全体で一番人気はカルビで、中でも「炙りすき焼カルビ」は薄くて食べやすいため、注文数が多いそうだ。店では、卵にくぐらせて食べるのを推奨する。
制限時間100分なので、以前は時に「飲食を持ってくるのが遅い」という不満も受けた。その改善の一因となっているのが配膳ロボット「Servi(愛称みーと)」(ソフトバンクロボティクス社製)の導入だ。
最近、飲食チェーン店で見ることが増えた配膳ロボットが、ここでも活躍している。従業員とロボットは、どう役割分担をしているのか。
「ロボットには、従業員でなくてもできることを委ねています。一方で、従業員の役割はお客さまが満足いただくサポートです。当店独自の『焼肉ポリス』もそれにあたります」(同)
■あえて、おせっかいをする「焼肉ポリス」
「焼肉ポリス」とは、腕章をつけた従業員が店内を見回り、お客に焼き方や食べ方を伝える役割だ。競合店ではあまり見かけない。
「食材によっては、どの程度焼けばいいか、わからない時もあるでしょう。また、会話に夢中になって、せっかくの肉を焦がすことがあるかもしれません。そこで焼肉ポリスが“おせっかい”をすることで、美味しい状態で食べ、食事時間を楽しんでいただきたいのです」
焼肉ポリスには学生アルバイトも多い。以前の取材時に話を聞くと、この仕事で対人経験を積み、卒業後は医療関係の進路を目指す人もいた。
また、2016年頃から「減卓」として、厨房スペックを見直し、テーブル数を適正化させた。混雑時に、注文からメニュー提供まで時間がかかるのを防ぐ取り組みだ。落ち着いて食事できるよう座席の間も広げた。一気に行うのではなく、新店や店舗改装時に実施した。
これがコロナ禍で座席と座席の空間、間仕切りなどが評価され、一段と人気が高まる。「不満あるところにビジネスあり」というが、その解消に力を入れたのだ(図表3参照)。
■他店よりも高い原価率
定番メニューを充実させる一方で、時にエッジを効かせた訴求も行う。
「食べ放題だからこそできる新提案は、期間限定でやっています。そんなに親しみがないけど、ちょっと食べてみたいと思うようなメニューは、この時に訴求します」(山口さん)
今年は春限定で、“ポチャ”(屋台)をイメージした「韓国フェア」を開催(現在は終了)。6月21日からは夏限定で「JAPANフェア」が開催中(8月下旬ごろまでの予定)だ。「焼しゃぶカルビ(ポーク)」や「西京焼(ポーク)」なども投入している。
こうしたこだわりを続けた結果、食材原価率は4割を超える。一般的な外食は約3割といわれるので、来店客はコスパがいいと感じ、満足するのだろう。
■焼肉きんぐのこれからの課題
では、「焼肉きんぐ」に死角はないのか。
高級店のように客単価の高さで勝負しない業態ゆえ、客数増で成長してきたが、最近は混雑への不満も聞く。
筆者の仕事仲間でも「自宅から近いので行ってみたいと思いながら、いつも行列。しかも予約システムが独特なので行けていない」という声もあった。
店側にとっての課題は、原材料の高騰と人材の確保だ。「特に優秀な人材確保は、この数カ月で厳しくなった」と同社も本音をもらす。コロナ禍から通常の生活モードに戻り、多くの飲食店が積極採用に転じたのもあるだろう。
■行ってみたくなる仕掛けの数々
いくつか課題は残るが、それでも人気は高い。最後に「なぜ焼肉きんぐは、300店を超えるまで支持されたと思うか?」と聞いたところ、山口さんはこう説明した。
「いろんな対応を積み重ねてきた結果だと思います。実は、メニューの味つけも微妙によく変えています。最近ではカルビスープを、もう少しコクが出るようにしました。看板メニュー、炙りすき焼カルビの肉の厚さも変えています。『これぐらいの厚さのほうが卵にくぐらせて食べる時、美味しいよね』をスタッフで議論した結果です」
店の外装もこまめに変える。冒頭で紹介したように「食べ放題」や「小学生半額 幼児無料」などを看板で際立たせた。ロードサイド店が多いので、その道をよく通る人なら、行ったことがなくても目につく。中型や大型店舗が多いのも視認されやすいだろう。
同社の加藤央之社長(2020年、34歳で就任)は、「日曜の夜、みんなで焼肉を食べに行くとなった時、パッと思い浮かぶブランドであることが重要」と考え、業界1位を目指したという。その施策として数年前、テレビCMなどの広告費を3倍に増やした。「店舗数も増えたのでマス広告にシフトさせていった」(関係者)結果だという。
このようにさまざまな視点から「行ってみたくなる仕掛け」を訴求したのだ。
運営する物語コーポレーションには、「一度はじめた商売はやめない」という哲学がある。そのためにメニューも外装も、消費者ニーズや時代の変化に合わせて変えていく。
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経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)
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