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実は1位「特になし」2位「今住んでいるところ」…住みたい街ランキングを鵜呑みにして家を買ってはいけない

プレジデントオンライン / 2023年7月26日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PhotoNetwork

「住みたい街」を聞いたランキングは、住む街を選ぶときにどのくらい参考になるのか。リクルート住まい研究所長や大東建託賃貸未来研究所所長として長年「住みたい街ランキング」に携わってきた、麗澤大学教授の宗健さんは「ランキングの順位は調査方法によって変わる。大切なのはさまざまな角度から街を見ること、実際に訪れることだ」という――。

■「住みたい街」のランキングはたくさんある

街に関するランキングは人気があるようだ。なかでも有名なのはすっかり世の中に定着している感のある「住みたい街ランキング」だが、筆者の企画した実際に住んでいる人たちの評価を集計した「いい部屋ネット街の住みここちランキング」とは顔ぶれが必ずしも一致しない。それはなぜなのだろうか。

「住みたい街ランキング」を最初に企画したのは、1998年の東京ウォーカーのようだが、最も古くからインターネットを使った継続的な調査を行っているのは2003年に調査を開始した長谷工アーベストだ。最も有名なSUUMOは2010年が最初の調査で2012年から毎年発表されるようになった(ただし2019年から調査方法が変更されている)。

筆者が大東建託賃貸未来研究所で企画した住みたい街ランキングは2019年から調査を開始し、今では全国版を含め47都道府県すべてで発表しており、同時に47都道府県すべての市区町村を対象に居住者の街の住み心地をランキングにした「街の住みここちランキング」も発表している。

こうしたアンケート調査を基にした街ランキング以外にも、不動産ポータルサイトでの問い合わせ件数をベースとした「買って住みたい街」「借りて住みたい街」ランキングを2017年からLIFULLが発表している。また、アットホームもポータルサイト上での検索数をベースにしたランキングを発表している。

これらのランキングは、同じような名前であっても調査方法が異なるためランキングの結果そのものが一致しない。

■同じ「住みたい街」のランキングなのに結果が異なる

「住みたい街ランキング」と検索すると、SUUMOやLIFULL、いい部屋ネットのランキングが上位に表示されるが、結果は異なる。

例えば、2023年の首都圏版(駅ランキング)を見てみると、SUUMOでは1位:横浜、2位:吉祥寺、3位:大宮だが、LIFULLの買って住みたいでは1位:勝ちどき、2位:横浜、3位:平塚、借りて住みたいでは1位:本厚木、2位:大宮、3位:八王子となっており、いい部屋ネットでは、1位:吉祥寺、2位:横浜、3位:みなとみらいとなっている。

【図表】「住みたい街」ランキング
筆者作成

LIFULLは物件への問い合わせ数の順位なので、アンケート調査による投票数をベースとしているSUUMO・いい部屋ネットと順位が違うのは当たり前だが、同じアンケート調査であってもSUUMOといい部屋ネットで結果が異なる。

■調査方法の違いで結果は変わる

この原因は調査方法の違いにある。SUUMOは住みたい駅への投票を都道府県→沿線→駅と絞り込んでいく方法だが、いい部屋ネットの場合には、フリーワードで住みたい駅を入力し、さらに「横浜」と入力された場合には横浜駅の周辺駅である「桜木町」「みなとみらい」「関内」といった駅を表示して選択してもらうフリーワードサジェスト方式を採用している。

いい部屋ネットでは2位の横浜がSUUMOでは1位になっているのは、横浜駅への投票だけではなく、イメージとしてかなり広い範囲の「横浜」への投票が含まれているためだろう。

横浜みなとみらい
写真=iStock.com/okimo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/okimo

実際、いい部屋ネットの2022年版では投票方式によって住みたい街ランキングの結果が異なることを検証している〔詳細は宗健(2022)「調査方法の違いによる住みたい街ランキングの順位変動」 2022年度統計関連学会連合大会(2022.9.6)を参照〕。

また回答者の居住地分布によってもランキングの結果は当然異なる。例えば全国2万人を対象に調査して全国住みたい街ランキングを作成したとしても、その回答者分布が首都圏に偏っていれば、横浜が1位になるのは当然で、回答者の偏りができるだけ少ないように調査は設計されなければならない。そうしたきちんとした調査設計が行われていない住みたい街ランキングには注意が必要だ。

■「住んで良かった街」は調査コストがかかる

「住みたい街ランキング」ではなく、住んでみてよかった街のランキングを知りたいという声は以前からあったが、「いい部屋ネット街の住みここちランキング」以外に、全国を対象とした居住者の評価を基にしたランキングはないようだ。

その理由は単純で、住んでいる人たちの評価を基にランキングを作ろうとすれば、住みたい街ランキングの数倍以上の回答者を確保する必要があり、それだけのコストを調査に投入することが一般的には難しいからだ。

実際、「いい部屋ネット街の住みここちランキング」では、全国の全自治体を対象に各自治体人口の0.1~0.2%を目安に年度ごとに18万人(日本の全人口約1億2452万人の0.145%)もの回答者を確保しているが、そのコストは数千万円になる。

しかも全国を対象に調査を行うには、調査主体にもそれなりの事業的なメリットが求められる。多くの企業では人口の少ない地方の事業シェアが低く、調査対象とすることが難しいが、大東建託は全国約1900の市区町村のうち1500以上の市区町村で賃貸住宅を供給しているため、全国を調査することに事業としての意味がある。

住みここちの評価は、今住んでいる街に対して、「大変満足」「満足」「どちらでもない」「不満」「大変不満」の5段階で回答してもらい、その回答を点数に変換して平均を集計し、50名以上の回答者が得られた自治体(駅は回答者30名以上)についてランキングを作成している。

こうして初めて、「住みたい街」と「住み心地が良い街」の比較ができるようになったが、その結果はもちろん一致しない。

■「住みたい街」と「住み心地が良い街」は全然違う

「住みたい街」と「住み心地の良い街」の両方を全国で調査しているのは、いい部屋ネットだけなので、その結果の違いを見てみよう。

【図表】「住みたい街」と「住み心地が良い街」
筆者作成

首都圏、関西の駅ランキングと自治体ランキングをそれぞれ「住みたい」「住みここち」で比べてみると、あまり一致しない。

首都圏の駅ランキングで住みたい・住みここちの1~5位の両方にランクインしているのはみなとみらいだけで、そのほかの顔ぶれは全然違う。

首都圏の自治体ランキングでは、住みたい・住みここちが多少一致しており、1~5位には東京都港区、武蔵野市、東京都目黒区がランクインしている。

一方関西版を見ると、住みたいと住みここちの両方のランキングの1~5位はバラバラで全く共通性がない。

「住みたい街」と「住み心地が良い街」が違うのは、そもそも住みたい街とは、単なる人気投票だからだ。人気投票である以上、知名度が勝負になる。そして知名度と同時に「住みたい街は?」と聞かれたときに、すっと思い浮かぶ街である必要がある。このすっと思い浮かぶことを「純粋想起」と言い、結局、いつも遊びに行っている街が思い浮かび、つい投票してしまう、という訳である。このことは、「よく遊びに行く街」という設問があるいい部屋ネットのデータでも裏付けられている。

■「住みたい街」とは「よく遊びに行く街」

さらに、いい部屋ネットの住みたい街ランキングはフリーワード入力なので、純粋想起だが、SUUMOのように都道府県→沿線→駅と住みたい街を選んでいく方式では、とりあえず自分が住んでいる都道府県を選び、次の沿線リストでは、つい上のほうの沿線を選んでしまう、ということが起きる。これは「純粋想起」とはいえず、手がかりとなる要素が設問に含まれている「助成想起」の傾向が強くなる。

SUUMOの住みたい街ランキングの5位に住む場所などあまりなさそうな東京が入っているのは、東京駅には、山手線、東海道線、京浜東北線など多数の路線が乗り入れており、沿線を選んだあとの駅選択の最初に出てくることが多いことが影響している可能性がある。

また、いい部屋ネットの2022年版の住みたい街ランキング首都圏版では、住みたい理由、住んでいない理由の分析も行っており、住みたい理由の7位には「よく遊びに行く街だから」が、8位には「住みたい街として有名だから」があげられている。

そして住んでいない理由の1位は「家賃が高くて払えそうにないから」であり、2位は「不動産の価格が高くて買えそうにないから」、3位は「物価が高そうだから」となっている。

さらに、街との関係の1位は「よく遊びに行く」であり、7割前後の回答者は住みたい街での居住経験はなく、可能性としても、4割前後が「現実的には一生住まないと思う」と回答している。

夕暮れ時の東京タワーが見える景色
写真=iStock.com/somchaij
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/somchaij

■実は住みたい街1位は「特にない」、2位は「今住んでいる街」

そもそも論で言えば、誰にでも「住みたい街」がある、ということを前提にできるかという問題がある。そのためいい部屋ネットの住みたい街ランキングでは、フリーワードで「特にない」「今住んでいる街」といった回答が入力可能であり、投票先の駅、自治体が本人の居住地であった場合もそれは「今住んでいる街」として集計している。

その結果、いい部屋ネットの住みたい街ランキングの首都圏版では、「住みたい街は特にない」が駅ランキングで43.1%、自治体ランキングで49.8%と半数近くを占めている。さらに「今住んでいる街」は駅ランキングで15.4%、自治体ランキングで17.9%を占めている。そして首都圏以外の地域でも同様の傾向となっている。

実は、住みたい街の1位は「特にない」であり、2位は「今住んでいる街」なのだ。このことは、住みたい街ランキングと自治体の人口増加率の相関関係が非常に弱いことの背景にもなっている。

上空から撮影した住宅街
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

これは住みここちランキングの住みここち評価の偏差値と人口増加率の相関係数は0.7程度とかなり高いことと対象的だ(詳細は、街の住みここちランキング2019<総評レポート>を参照)。

■住み心地が良い街は「誰にとっても同じ」とは限らない

当たり前の話だが、街の評価とは「住みたい街」かどうかだけではない。自治体の一部では「住みたい街ランキング」の順位を行政政策のKPIに使っているところもあるようだが、あまり適切だとは思えない。

住みここちランキングのデータを使った因子分析の結果でも、生活利便性、交通利便性、行政サービス、静かさ治安、親しみやすさ、物価家賃、自然観光、防災といった8個の要素が抽出されている。

いい部屋ネットのランキングでは「住みたい街ランキング」「街の住みここちランキング」だけではなく、「住み続けたい街」「街の幸福度」といったランキングも発表している。

こうしたさまざまな角度から街を見ることが大切で、もっと大切なのは実際にその街を訪れることだろう。そして、住み心地が良い街とは、誰にとっても同じとは限らない。

それでも、知名度が高くなくとも、あなたに合った街はきっと見つかるだろう。

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宗 健(そう・たけし)
麗澤大学未来工学研究センター教授
博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より現職。麗澤大学では2024年開設準備中の工学部設置準備委員会委員も務めている。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。

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(麗澤大学未来工学研究センター教授 宗 健)

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